『Midnight Pizza Club』について語る朝 haru.×miya×阿部裕介×上出遼平

月曜、朝のさかだち

『月曜、朝のさかだち』、今回は特別編で番組のパーソナリティのharu.さんとフォトグラファーのmiyaさん、そしてシーズン1でゲストにお越しいただいた写真家の阿部裕介さんと、現在Podcast『月曜、朝のさかだち』にゲストでお越しいただいているTVディレクターの上出遼平さんによる座談会をお送りいたします! 阿部さんと上出さんは、2024年12月12日に俳優の仲野太賀さんとともにネパール・ランタン谷を旅した記録を写真と文章で綴った本『Midnight Pizza Club 1st BLAZE Langtang Valley』*①をリリース。本作の協賛としてORBISも参加していて、実際に旅にはORBISのプロダクトも持っていってくれているのです。

そんな繋がりもあり、今回は全力で遊ぶ大人を魅せる本作を振り返りながら、阿部さんと上出さんの出会いのきっかけや『Midnight Pizza Club』のこれからの展望についてお話しいただきました。今回のお話にも登場する『Midnight Pizza Club』第一弾であるネパールはランタン谷の旅で、阿部さんが撮影された写真とともにお届けします。
過去の阿部さんとの朝活Podcastと記事、そして現在配信中の上出さんとの朝活Podcastと前編記事もあわせてチェックしてみてくださいね!『Midnight Pizza Club』に繋がる話が盛りだくさんです!

旅の始まりはニューヨークではなく、雪山だった
阿部裕介(以下:阿部)_『Midnight Pizza Club』を発売してからいろんな取材を受けたんだけど、実はこのインタビューを一番楽しみにしてた。だって俺と上出さんを繋げてくれたのはharu.とmiyaだからね。その話ってここでしかできないから!みんな俺と上出さんはずっと前から繋がってたって想像してると思うけど、実は二人がきっかけなんだよね。
haru._『EA magazine』*②っていう、私たちにとっても始めてのクライアントワークで阿部ちゃんに撮影で入ってもらって、上出さんと一緒に雪山に行ったんだよね。
阿部_そのときの写真を見ると、まだ俺と上出さんに距離感がある(笑)。でも俺と上出さんっていう組み合わせを見つけてくれた二人って天才だなって思う。
上出遼平(以下:上出)_確かに、あれがなかったらこうはなっていないからね。
阿部_なんであのときここを繋いでくれたのか聞きたい!
miya_この二人を巡り合わせようと思ったわけではないんですよ。いろんなゲストの方がいて、みんなにスノーボードを体験してもらったうえで、取材するという企画で。自分がどういうふうに進んで、どういうラインを作って滑るのかっていうのが結構大事なメッセージだったんです。ブランドのメッセージも「Find your line」で、実際にスノーボードをしたうえでその人の人生のお話しを聞きたかったから、そもそも雪山に慣れている人じゃないといけない。
haru._阿部ちゃんはそういうフィールドを得意としてたからね。
阿部_確かに当時やってた仕事のフィールドは雪山だったね。でもゲレンデだったから余裕じゃない?
haru._余裕じゃない人も絶対にいるよ。そもそも滑れないとか。
miya_そもそも雪山に行きたくないっていう人もいるし、スキーかスノーボードができないと一緒に行動ができない。そんななかで、写真も素敵な阿部さんに依頼してみようってなったんです。ちょうど上出さんが書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』*③を出すタイミングだったから、ゲストに出てもらいましょうってなって。だから二人を巡り合わせようと思ったというよりかは、結果こうなったっていう感じです。
上出_そうだよね。偶然だけど、偶然でもないんだろうね。あそこで出会って、こうなることは自然なことだった。
haru._阿部ちゃんのプロポーズのときも私たち一緒にいたしね(笑)。
阿部_僕にとってharu.とmiyaはすごくキーパーソンなんです。
友達と旅に出ることの楽しさを伝えたかった
haru._今回ORBIS ISでお二人とお話をすることになったのも、お二人と仲野太賀さんがネパールに行ったときに、ORBISが提供したアイテムを持っていってくれたんですよね。『Midnight Pizza Club』については上出さんがゲストで来てくれた回でもたくさん話してくれているんですけど、旅を通して三人が伝えたかったことを教えてください。
阿部_偶然の大事さなんじゃないかな。山のポイントごとにいろんな山小屋があるんだけど、どの山小屋を選ぶかによってそこで対応してくれる山小屋のママみたいな人が変わるじゃない。泊まった宿のママが必ず名刺を渡してくるんだけど、その名刺は次のポイントにある宿の名刺で、「ここまで行ったら、こっちの宿に泊まりなさい」って言うんだよ。そうやってどんどん偶然と選択の重なりでルートが決められていく。なんかそれって、二人が俺と上出さんを繋げてくれて、現在に至っていることと似てるなと思う。
上出_確かにね。この本で何が伝えたかったのかな。何かを伝えたいと思って書いたわけではなくて。正直、旅自体も行き当たりばったりだったし、こういうことを伝えたくてこの旅をしようなんていうのは当然なかった。でも、阿部ちゃんが写真を撮る理由とたぶん一緒。阿部ちゃんは「写真を撮ることはロケハンだ」ってよく言ってるんだけど、素敵な場所を探して、それを人に共有したり、あわよくば連れて行きたいっていうのが阿部ちゃんの写真を撮るモチベーションなんだよね。それって三人みんなに共通していること。
とにかく俺たちは仲間や友達と旅をすることってこんなに楽しいんだっていうことを再確認することができた。大人になってからこういうことを出来ずにいたし、本当はみんなもこういうことをしたいけどやっていないんじゃないかなって思ったんだよね。だから、そういう人の背中を押して、「俺たちも旅に出ようぜ」って思う人が出てきたら嬉しい。あるいは、いろんな事情で旅に出られない人も大勢いるから、そんな人がこの本を読んで、俺たちと一緒に旅をしている4人目、5人目のメンバーみたいな感覚で読んでくれたら一番嬉しいなと思って書いた。
阿部_インスタで見てだと思うけど、既にネパールに行った人がいるの!それを知って嬉しかったな。少なからずランタン谷にいく人はすごく増えるだろうね。
haru._増えそう。「この草があの本に書いてあった草か」ってなるよね。上出さんのゲスト回の収録でも話してるんだけど、人が楽しそうに活動してる姿って、やっぱりすごく魅力的に映ると思う。
阿部_俺から見たら、上出さんって『ハイパーハードボイルドグルメリポート』でめっちゃ活躍してて、すごくかっこよく写真を撮られてたりする人なのに、一緒に山を登ると「うわ!やべえ!」って言ってて、あんなすごい上出さんでも俺が紹介したところで喜んでくれるんだって嬉しくなった。
上出_楽しくなっちゃってね(笑)。
阿部_俺がいつも飯屋とかを提案すると却下されることが多い(笑)。自分のエネルギーがあまり出ていないようなセレクトすると、通らないことが多いんだけど、ランタン谷に行きたいっていうことも通ったし、あれやりたい、これやりたいっていうのが結構通って、乗ってくれたのは嬉しいなって思ってた。
上出_それはやっぱり阿部ちゃんの熱量があるからね。その熱量に乗っかるっていうことが一番おもしろいから。
「一人旅こそ自分探し」を覆した三人旅
haru._阿部ちゃんは前に『月曜、朝のさかだち』にゲストで来てくれたときに、一人で旅に出て人の写真を撮らせてもらうときの話をしてくれたよね。撮らせてもらうまでに何度も通ったり、一緒に時間を過ごすことが大事っていう。今回は一人じゃなくて、三人で旅をしてたと思うんだけど、写真を撮る態度やそこにいる人たちとの距離に何か変化はあった?
阿部_今までだったら、パン屋さんでの写真とか撮れなかったなって思う。二人が「こいついい写真家だよ」って言ってくれたから、相手も撮られていいんだって思えるし、俺も撮っていいんだなって思えてすごく楽だった。
haru._そこにすごく変化があったんだろうなって思った。パン屋さんでのポートレートがすごく素敵だった。
阿部_普段だったら、ああいう写真を撮るには2、3回そこに行かないと撮れないんだよね。一人で強制的に撮るっていう行為が、すごく暴力的に感じちゃうから、一人では撮れない。
上出_あと、俺たちが楽しそうにしてたのが大きいんじゃないかな。一人で楽しそうにって出来ないじゃん。だけど、三人で楽しそうにしてるから、みんな安心するんじゃないかな。
haru._それはすごくありそう。
阿部_「三人で旅をしてたら写真は撮れない」っていう考えを覆せた。多くの人が「三人=旅行」「一人じゃないと旅じゃない」って考えてる人が多いと思うし、俺もそう思ってたけど、そんなことなかった。
haru._一人旅こそ自分探しみたいなね。
阿部_むしろ三人の方が自分探しになるかもしれない。これ二人じゃダメで、三人っていうのが大事。
上出_三人っていうバランスはいいよね。
阿部_二人で旅してると、意見が食い違ったときに、俺が絶対合ってるって思っちゃうんだけど、三人だと、2対1になるから、自分の間違いに気付ける。今回の旅では、俺が1で、上出さんと太賀が2になることが多くて、自分を考え直すいいきっかけになった。
haru._今後の旅も全部山なんですか?
上出_そうは思っていなくて、もう少し趣旨をシフトさせていこうかなって思ってる。それこそ『ハイパーハードボイルドグルメリポート』じゃないけど、何かしらの社会的な課題がある場所を勉強させてもらいに行くとか、そういうことを考えてて。太賀くんが結構そうしていきたいって言ってる。
阿部_今回のネパールの山でも学べるところがすごくあった。チベットの人たちがかつてネパールの山地域に住み始めて、今ではネパール人なんだけど、性質的な違いがあったり、地震で全滅しちゃった地域や民族があったりとか、そういういろんな歴史があるんだよね。
上出_逆に言うと、そういった歴史がない場所っていうのはほとんどないからね。どこへ行っても、そういう目線さえ持っていればいろんなことが学べる。
阿部_既に『Midnight Pizza Club』の2号目となる舞台アパラチア山脈には行ってて、そこもかなり歴史のある場所。
上出_ただ、あの旅では誰とも会わなかった……。三人が雪の中で地獄を見続けただけで。
haru._上出さんに以前取材したときに、「社会的なメッセージを自分ごと化してもらうためにエンタメの力を借りている」っていう話をしてくれたと思うんですけど、今後『Midnight Pizza Club』を通しても、そうしていきたいですか?
上出_そうだね。さっきの話と近くなっちゃうけど、「こういうことを伝えたいからこういうことをやるんだ」っていうのは後回しで、「自分たちがどういうことを知りたいのか、どんなものを見たいのか」っていうモチベーションが九割九分。そこがないとやっぱり嘘になっちゃう。俺たちがちゃんと楽しめたり、学べれば、あとはそれを素直にアウトプットするだけで伝えられるものになるから、それでいいと思ってる。もうちょっと社会と接続したものを見たいと思ってるから、単純に山ばっかり行っても意味ないなっていう感覚。
haru._基本的には人がいる場所に行くんですね。
上出_そういうことになるんじゃないかな。いろんな人の話を聞くことになる。
阿部_でも意外と、山に登る前後でもいろんなことが起きたり、出会いはあるんだよね。例えば、第二弾になるアメリカ編アパラチアントレールでは、山に入ってから約7日間ぐらい誰とも会えなかったの。タクシーを呼んでた終着地点があるんだけど、雪がすごくて入れないから自力で降りてこいって言われて、めちゃくちゃ歩いて。肉離れもしちゃって結構限界で、もう無理かもって思ってたら、学校の先生がマウンテンバイクで通り過ぎて、そこで人を初めて見たの。でも助けてくれるわけじゃないかって思ってたら、車を取ってきて俺らを街まで乗せてくれたの。あったかいBMWだった。
上出_水筒にお茶まで入れてきてくれてね。熱すぎて火傷したけど。
阿部_車から降りたらそこにピザ屋があって、奇跡みたいだなって思った。もしかしたら普通のことかもしれないけど、そういうことにも奇跡だって感じちゃう三人なんだよね。
上出_しかも山って追い込まれるからね。「自然怖いけど、人間あったけ〜」みたいなことをめっちゃ感じる。
『Midnight Pizza Club』第二弾 過酷なアパラチアントレール
阿部_『Midnight Pizza Club』では「頑張らなくていい」が俺のコンセプトなんだよ。もちろん頑張ってはいるんだけど、仕事モードになったらどこまでも出来ちゃう気がしていて。あんまり仕事っぽくしたくないっていうのは始めから話していたよね。
上出_ネパールの旅は頑張らなくてもいい旅だったけど、その次のアパラチアントレールは頑張らないと死ぬ状況だった。次の寝る場所までにどうにか辿り着かないといけないけど、辿り着けないとか。
阿部_初日、歩き始めて2時間くらいで雪が積もってて地面が見えなくなってた。
上出_雪が積もると歩く速度がガクンと落ちるんですよ。だから訳のわからないところで、「今日はここで寝るか」って決めないといけない。
haru._雪の上で野宿するの?
阿部_そうそう。もちろんそれはキツイからバス停みたいな小屋まで行こうって決めてるんだけど、状況によってはやめておこうっていう判断を途中でしなくちゃいけないんだよ。
上出_山って平らな場所がとにかくない。だけど平らな場所じゃないと人間は眠れないんですよ。だから平らな場所を見つけると、ここで寝るか、もう少し先まで行くかの判断をしないといけない。あとは水場が近くにないといけないしね。
miya_雪山って何をはいて歩くんですか?
阿部_それがね、俺らはスニーカーだったの。そもそもニューヨークは半袖半ズボンぐらいの気温だったんだけど、山に近づくに連れてドカ雪が降ってきて。
miya_雪が降るような季節じゃなかったんだ。
上出_その時期に2回ドカ雪が降っていたらしいんだけど、俺がその情報を全然キャッチアップしてなくて……青ざめたね。
阿部_初日の大雪のなか寝なきゃいけないっていうときに、上出さんがテントを持っていなくて、ミノムシみたいな寝袋しか持ってきてなかったの。
上出_俺は基本そうなんですよ。荷物が増えるのが嫌なので、寝袋カバーみたいなのしか持っていかないんです。
阿部_上出さんと太賀に水の濾過とご飯の準備をお願いして、俺は上出さんが寝る近くに大きいキャンプファイヤーを焚いて、寝るときのために温めておこうと思って必死に焚き火をしたのを覚えてる。あの時が一番仲間意識を感じた。
上出_それを見てたから、寝ながら、えもいわれぬ気持ちになったのと、明日みんな不機嫌だろうなとか考えてた。
阿部_上出さんがパスタを作ったら失敗してさ(笑)。太賀がブチギレてた(笑)。
上出_あの人は食べ物にすごくうるさいの。全部のご飯が美味しくないと嫌なんだよ。
haru._美味しくないものを食べたくないんだ(笑)。
上出_そうそう。俺は全くどうでもいいの。その日は追い込まれまくっていたから、とにかく食べられるものが生まれればいいと思ってて。水も限られてるし、火も全然焚けない。だから鍋にパスタと少ない水を入れて、ギリギリ火が通ったくらいでオリーブオイルとニンニクをぶっ込んで、ガーってかき混ぜたら団子が出来ちゃったの(笑)。
阿部_俺は火を焚き終わってから食事場に向かったんだけど、太賀が石の上に足を乗っけながら静かにキレてた(笑)。俺は山の中ではポジティブに過ごすっていうのを決めてるから、全然美味しいと思ったよ。極限状態でここまで作っていただいているんだから美味しいよ。
上出_概念を変換していかないといけないんですよ。パスタはこうあるべきだっていうのがあると、あれは確かにまずい。
阿部_でもちゃんとブイヨンっぽい味はした。練りパスタだね(笑)。喉を通ってお腹がいっぱいになれば、なんとなく一緒じゃん。だから俺が「美味しいよ」って言ったら、太賀が「クソまずいよ!!!」って言ってた(笑)。だから二日目からは俺がご飯担当になった(笑)。
miya_三人のなかでは阿部ちゃんがご飯を作るのが一番上手なんですか?
阿部_わからないけど、料理を作るのはめっちゃ好き!
上出_そう考えると、太賀くんは何もやってない。
阿部_太賀って料理まじで下手なの!ぐるなびで美味しい料理屋さんを見つけるのは得意なんだけどね。でも太賀は最初の勢いとゴールが近づいたときの勢いはすごい。太賀の「行こうぜ!」から始まって、中間は俺のテンションが上がってずっと喋ってて、最後の1時間くらい太賀のテンションがずっと上がった状態になる。
上出_太賀くんはすぐに飽きて「退屈だ」って言うんだよ。だけど、そのわがままさも込みでスターなんだよね。
haru._スターってなるものじゃなくて、ずっとスターなんだよね。
阿部_でも、haru.だったらアパラチアの環境でどうなっちゃうんだろうね。
miya_haru.さんは結構大丈夫だと思います。
haru._結構忍耐強いので。
上出_阿部ちゃんが一番耐えられないんじゃないかな。
阿部_俺も楽しかったけどね!
上出_ある30分を除いてね。阿部ちゃんにとって本当に最低な30分っていうのがあったらしくて、それは申し訳なかった。俺たちも全員追い込まれてたから、悪いところが露呈したっていう感じなんだけど、俺と太賀くんが大雪のなか阿部ちゃんを置いてバーって先に行っちゃったの。
阿部_小さい頃にいじめられてて、そのときのことを思い出しちゃったの。しかも足を攣ってて、上出さんに「痛いから1時間ゆっくり歩いていい?」って言ってたのに、誰もいない雪の森の中で一人にされて、めっちゃ辛かった。
上出_俺たちもとにかく早くその森から抜けたかったの。悪夢のように鬱蒼とした木々、真っ白の雪、先行者の気配もなくて、俺たちが足跡を初めてつけていくっていう状況が1週間続いてて。走りやすいって思った地点を見つけた瞬間、バーって走って行ったら、追いついた阿部ちゃんが「この旅で一番つまんなかった」ってへこんでた。申し訳ない。
阿部_そこだけ本を出すときに、黒いページにしようよ。
miya_でも、「一番つまんなかった」って言えたのは偉かったですね。
上出_言ってくれるからおもしろいよね。
「自分を見直し、仲間を頼ること」 やりたいことをするうえでの大切なこと
阿部_この本を読んでくれた人から「私も山に行きます!」っていう声をたくさん聞くんだけど、俺たちもある程度調べてから行くようにはしてる。行くのはノリだけど、みんな怪我しないでほしいなって思う。例えば、エマージェンシーキットを持っていくとか、そういうのはベースとしてある。
haru._必要な準備はもちろんあるよね。
阿部_本のリリースイベントにも、会社を辞めたいですっていう人が何人も来てて、この本を読んだら余計に会社を辞めようと思う人が増えると思う。だけど、つまんないから辞めるっていう選択を簡単にとることを俺はおすすめしない。それなりにちゃんと道具や情報を揃えて次に挑んだ方がよくない?
上出_まあベターなのは当然そうだよね。俺も入社してから3年目まではめちゃくちゃ辞めたい時期で、そこを耐えてある程度一人でも生きていけるっていう知見を身につけてから辞めた。だけどそれって難しいよ。人それぞれ耐え難い環境っていうのはあるし、場合によってはそこから抜け出した方がいいと思う。Podcastでも話したけど、何かをする前に、自分の幸せにとって何が必要かっていうことをある程度理解することがまずは必要だと思う。その幸せが年収1000万円の暮らしをすることなら、まず頑張って稼ぎ方を学ばないといけない。年収200万円でも絵を描いて生きていけたらいいっていうことなら、すぐにその環境を出て、その生活をしたらいい。今やっていることと別のことを本当にやりたいなら、すぐにやったらいいけど、そのやりたい度合いにもよると思うんだよね。ちょっと残酷なことを言うと、迷ってるっていうことはそこまでじゃないのかなって思う。
haru._やりたかったら、会社にいながらでもたぶんやってますもんね。
上出_一度何かを言い訳にしていないだろうかって自分を点検した方がいいよね。
阿部_この本を読んで「カメラマンになりたいんですけど、どうやったらなれるんですか?」って質問がめっちゃ来る。旅をして写真を撮ってお金を稼ぐって、一番みんながやりたいことじゃん。だけど、俺からしたら「どうしたらいいかわからない」っていう考えがわからなくて。俺はブレーキを持っていないから、やりたいと思ったらやっちゃうタイプなんだよね。だけど世の中にはちゃんとブレーキを踏みながら走ってる人もいるんだなっていうことを学びました。みんな貯金がなくなったら怖いって思うでしょ?それは正常だよ。
haru._阿部ちゃんはお金がなかったらカメラを売るんでしょ?
阿部_どんどん売るよ。だけど、五島列島に『范冰冰(ファンビンビン)』*③を作って、ビーチのゴミ拾い活動をやりたいと思ったときに、600人呼んじゃったの。やりたいと思って、実際にすぐに行動してやるところまではいけるんだけど、まとめる能力がなかったの。そのとき人に「自分ができるようになるんじゃなくて、できる人を横に置け」って言われてから、それをすごく意識してるんだけど、haru.にはmiyaがいていいなって思った。だから今回上出さんと太賀と旅をするってなったときに、このメンバーはすごくいいなって思ったの。俺が出来ないことを上出さんができて、上出さんが出来ないことを太賀ができて、太賀が出来ないことを俺ができる。なんか任せられるなって思ったんだよね。自分で全部賄おうとすると絶対にストレスになるけど、旅の中であれだけ追い込まれたのにあまりストレスにならなかった。
上出_いざとなったらそれぞれに頼れたよね。
阿部_太賀に何を頼った?
上出_どう考えても広告。あと、あの人たまに場に緊張感をもたらすときあるじゃん。あれもいいよね。
haru._三人でいるときに?
阿部_協賛のお願いをする打ち合わせのときが多いかな。今のクリエイターさんってみんな自分で全部できるじゃん。だけどそれを割り切って、任せられるところは人に任せようと思っています。
haru._仲間がいるっていいよね。
上出_いいよね。でも一緒じゃない?マガジンを作ってた仲間と独立して、その旅が5年も続いてるんでしょ?それってすごいよ。
阿部_すごいよね。俺らもまだ1年だし。5年なんて続かないかもね。連絡も取り合ってないかも(笑)。
俳優・仲野太賀、TVディレクター・上出遼平、写真家・阿部裕介による旅本シリーズ第一弾。「ミッドナイト・ピッツァ・クラブ(MPC)」――真冬のニューヨークで天啓がごとく授かった名に導かれるようにして旅立った3人。ネパールはランタン谷を歩く一週間がはじまった。カトマンズを爆走する四輪駆動車、激痛を生む毒の葉、標高2440mにあるホットシャワー、地震で一度壊滅した村で韻を踏み続ける青年、ヒマラヤの甘露「アップルモモ」、回転するマニ車、見え隠れする陰謀の影(!?)数々の危機を乗り越え、出会いと別れを繰り返した先、3人を待ち受けていた光景とは――?これは、食って歩いて歌って寝て、泣いて笑って怒り狂う男たちの、汗と泥と愛にまみれた旅物語。(講談社)
*②『EA magazine』
俳優・モデルとして活躍する山本奈衣瑠が編集長を務めるフリーマガジン。第一弾はNIKE、第二弾ではESTIVOを協賛に発行された。
*③『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
テレビ東京で不定期放送されるカルト的な人気番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」。“他じゃありえない”内容が話題の同番組を作り上げた上出遼平氏の初著書。番組内に収まりきらない世界の現実を「人が食う」姿を通じて描く。(朝日新聞出版)
*④『范冰冰(ファンビンビン)』
阿部裕介さんが2021年2月にオープンした五島列島・福江島にある一棟貸しの宿泊施設。
fanbingbing.studio.site
Profile
上出遼平
1989年東京都生まれ。テレビディレクター、プロデューサー、作家。2011年にテレビ東京に入社。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画・演出から撮影、編集と、制作の全工程を手掛ける。2019年に同番組7月15日放送分が第57回ギャラクシー賞優秀賞を受賞。幅広いジャンルで才能を発揮している。著書に『ハイパーハードボイルドグルメリポート』『歩山録』『ありえない仕事術正しい“正義”の使い方』がある。
▼『月曜、朝のさかだち』上出遼平さん出演回の記事はこちら
https://corp.orbis.co.jp/article/gas36/
阿部裕介
1989年東京生まれ。写真家。青山学院大学経営学部修了。大学在学中より、アジア、ヨーロッパを旅する。在学中、旅で得た情報を頼りに、ネパール大地震による被災地支援(15年)や、女性強制労働問題「ライ麦畑に囲まれて」や、パキスタンの辺境に住む人々の普遍的な生活「清く美しく、そして強く」を対象に撮影している。日本での活動としては家族写真のシリーズ「ある家族」がある。 YARD 所属(http://yardtokyo.com/news/)
▼『月曜、朝のさかだち』阿部裕介さん出演回の記事はこちら
https://corp.orbis.co.jp/article/gas05/
https://corp.orbis.co.jp/article/gas06/