かぎ針で編み物をする朝 haru.×上出遼平【後編】

月曜、朝のさかだち

『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第4回目のゲストはテレビディレクター・プロデューサー・作家の上出遼平さんをお迎えしています。記事の前編では朝活で行った編み物を振り返り、上出さんが2024年12月に俳優の仲野太賀*①さんと写真家の阿部裕介*②さんとの旅を記録した本『MIDNIGHT PIZZA CLUB 1st BLAZE LANGTANG VALLEY』*③についてや旅の裏話をお話しいただきました。後編では、パートナーとともに拠点をニューヨークに移した経緯や二人に共通する「空虚さ」について、「好きなことを仕事にするにはどうしたらいいのか?」という問いに対する思いについてお話しいただきました。

本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

上出遼平さんに聞きたいコト
Q.大事にしていることは言葉はなんですか?
A.「おはよう」
Q.上出さんの文章は写実的で美しく読む手を止められないのですが何故こんな文章が生まれるのですか
A.ダイヤモンド付きの万年筆で原稿を書いているからではないでしょうか。
Q.今までで1番キツかった登山はどんな山行ですか?
A.ある国で警察から逃げているうちに入り込んでしまった山。
Q.よく着用されているアイウェアはどこのブランドですか?
A.流石にお答えできません!なんてこと聞くんですか!もう!

めんどくさいこともあるけど、型にハマるのもいいこと
haru._上出さんは現在ニューヨークに拠点を移されていますよね。もう一年ぐらい経ちましたか?
上出遼平(以下:上出)_引っ越したのが夏だったから、一年半ぐらい経ったかな。あっという間です。
haru._パートナーさんと一緒に移住だったと思うんですけど、どうですか?
上出_妻と二人暮らしで、妻も楽しんでます。
haru._未歩さん、めっちゃエンジョイしてますよね(笑)。
上出_ご存じだと思うけど、無茶苦茶な人ではあるんですよ。
haru._お二人ともですよね(笑)。
上出_いやいや、勘弁してくださいよ。覚えてるでしょ?引っ越しの日、僕と妻を空港に送ってくれたじゃん。お見送りもしてくれて、「じゃあ、行ってくるね!」って大量のスーツケースを持って向かった直後に何があったか覚えてる?
haru._確か未歩さんだけ行けなかったんですよね?
上出_ESTAを申請していなくて行けなかったんです。だから妻は羽田で一泊して、僕がスーツケース7つを一人で持っていったっていう地獄のような引っ越しをしたんですよ。そのぐらいすごい人なんですけど、だからニューヨークの方があってるんだと思う。僕も妻もニューヨークでは仕事を全然していないんです。ビザをわざわざ取ったけど、日本の仕事ばっかりだからニューヨークにはほぼ住んでいるだけ。住んでいるだけだから楽しいんです。
haru._じゃあ仕事は日本に戻ってきてしている感じですか?
上出_そうそう。それに僕がやっているのって、撮影を除けば、文章を書いたり、企画を作ったり、映像の編集とかはどこでもできるので。だから日本の仕事をずっとやってるっていう感じなんだけど、それもあってまだニューヨークで仕事はあまりしていないから、グロテスクなところは見てない。いい部分ばかり見えてるから、楽しいって言えるんです。
haru._私は10代の頃に、自分の意思ではなく急にドイツに住むことが決まったんですけど、自分の意思でどこかに移り住むという経験をしたことがないんです。しかもその選択をパートナーと一緒にするみたいなことのイメージが全然できないんですけど、どんな感じなのかを上出さんに聞きたいなと思っていました。
上出_僕もそういう意味では初めてのことですね。でも、家族会議をしたとかはないんです。
haru._そうなんですか(笑)?ニューヨークに移住するのに?
上出_僕より妻の方が先に会社を辞めてフリーランスで活動していて、その後に僕も辞めたんです。僕が会社を辞めてから、なんとなく「アメリカにでも移り住もうかな」ということをよく言っていたんです。それをずっと聞いていたからなのか、「僕はニューヨークに行こうと思っている」って言ったら、向こうも「私も行こうと思っています」って言ってきたんです。だから、行き先選定に迷いも議論もありませんでした。
haru._合致したんですね。
上出_というより、たぶん僕が向こうの意見を全く聞き入れようとしていないからだと思います。
haru._じゃあ反対されても上出さんは一人で行こうとしていたんですか?
上出_そうそう。僕の人生なので、僕がやりたいと思ったことには何があろうと制限されたくないんですよ。そういう意味では確かに僕もイカれてますね。でも、妻もよくニューヨークに行きたいと言っていたので。
haru._じゃあ未歩さんがタイに行きたいって言ってたら、二人はバラバラの国に住んでいたんですかね。
上出_そうですね。でもそれも楽しそうじゃない?たまに行ったりできるし。
haru._いいですよね。二人の人生が同じ方向を向いていることの方がきっと少ないじゃないですか。やっていることとか、やりたいこととか。そのなかで拠点を変えることって可能なんだっていう驚きみたいなものを感じました。しかも移動した先で、未歩さんもめっちゃ楽しそうだし。
上出_僕の数倍楽しんでますよ。まあ、お互い無茶苦茶なので。どっちかがまともだと大変だと思うんですけど、お互い変だし、自分勝手だし、やりたいことをやるので。
haru._今上出さんは日本にいますけど、未歩さんはニューヨークですか?
上出_いや、日本に来てるみたいです。まだ会ってないですけど、年末にちょっとだけ会うことになってます。
haru._お互いの人生ですね。
上出_でも、もちろん一緒にいる時間は楽しいし、一緒に散歩したりするのも楽しい。日本にいたときよりも、そういう時間はあるかもしれない。僕も妻もほとんど家にいるので、週に一回二人でバックパックを背負って、安いスーパーまで20分歩いて買い出しに行くんです。そういうルーティンとかもおもしろいですよ。
haru._自分の人生を邪魔されたくない二人なのに、どうして結婚することを決めたんですか?
上出_なんでなんでしょうね。流れかな。結婚っておもしろいじゃないですか。めんどくさいこともたくさんあるけど、型にはまるっていうのもいいことだなって思ったんです。記事の前編でも話しましたけど、本来の自分だったら選ばないことを、半強制的にやらされるみたいなことって人間としておもしろい瞬間だと思うんです。自分の知らない自分の反応を知れるので、そういうのもありだと思っています。
haru._巻き込まれにいく人生ですね。
上出_それが冒険ですからね。自分の意思だけで動いてたら、想像の範囲内の人生になっちゃうし、それは退屈。人と一緒に暮らすということも、人と旅に出ることも、それが理由です。阿部ちゃんも「今までは一人でネパールに行ってたから、いつも同じものしか食べてなかった」って言ってました。僕は新しいものに興味があるから、毎回違うものを食べるので、その度に阿部ちゃんも新しい料理を食べることになっていましたね。それが発端にトラブルも起こりましたけど…。阿部ちゃんが人の料理を食べすぎるという。
haru._本読んでたら、阿部ちゃんが必ず人の料理の一口目を食べてて、よくみんな許してるなと思ってたら、やっぱり太賀さんが怒ってましたね。
上出_怒ってたね。阿部ちゃんのことを「あいつ」って言ってた。
haru._食べ物の恨みは大きいですからね(笑)。
上出_「一口目って大事じゃないですか。あいつ絶対にいくんすよ」って言ってた(笑)。そういうことも旅では起きるからおもしろいですよね。
空虚だからこそ、人の話を聞くことがおもしろい
haru._上出さんは、「自分の輪郭がこれで保たれている」みたいなことや、そこに対する意思ってあるんですか?
上出_無いね。僕は自分が空っぽっていう自覚がすごく強いんですよ。ある意味、いろんなことを受け入れやすいんだけどね。元々は自覚的じゃなかったんですけど、前にやっていた『ハイパーハードボイルドグルメリポート』*④も、基本的には人の話を聞く番組なんですよ。そういう、インタビューイングが自然と生業になっていったのは、自分が空っぽだからなんだろうなってなんとなく思っています。常にいろんなことに対して、おもしろいとか、すげえなって思っちゃうから、それが相手にも伝わっていろんなことを話してくれるんだろうなと。僕が空虚だから、そこにいろいろ投げ込んでくれるような感覚があるんです。そういう意味では、輪郭だけはあるんだろうと思います。
haru._穴みたいな?
上出_そう。穴みたいな存在としての自認があるかな。
haru._でも、取材をする立場だったり、人の話を聞くのが好きな人ってそうなるのかもしれないですね。私も空虚です。
上出_そうなの?じゃあ逆にharu.は輪郭をどう自認してどう保っているの?
haru._それが自分では分からないから、いつも人に聞いているんです。一緒にいる人によってすごく変わっているんだろうなと思います。でも、なるべく空気みたいになろうとしています。記事の前編で、みんなそれぞれの役を演じているっていう話をしたと思うんですけど、そのなかで私は学芸会で風の役をやったって話したじゃないですか。ああいう感じで、風みたいにそこにいれたらいいなって思っています。心地いい風がいいですよね。サウナみたいなジリジリとした熱波ではなく。
上出_それこそharu.がルーティンを大事にしてるのとかも関わりがありそうですね。
haru._そうですね。ルーティンって呪いですよね。
上出_呪いですね。やっぱりルーティンを持つっていうことが本当に怖いから、なるべく持たないようにしてる。でも、輪郭っていう意味でいうと、僕は人の話を聞くこともだけど、旅ばっかりしてるのも、きっと自分が心地よくない環境に行くことで、自分の輪郭を確かめている感覚もあるのかも。
haru._身体に対してすごく敏感になりそうですしね。
上出_山なんかは特にそうだね。外からの刺激が無いと輪郭って分からないから。
haru._確かに。しかも、「これだ!」っていうのがなかったら、ただただ空虚であることを認識しますもんね。でも、上出さんは旅に出て、空虚さみたいなものが肥大化して、それ自体が上出さんなんだろうなって思います。上出さんはブラックホールなんですね。
上出_そうなんです。ありがとうございます。全てを飲み込んでいきます。
haru._ブラックホールだけど、飲み込んだ先に、それを素敵なものにしてまた吐き出すんですよね。
上出_そうありたいと思っています。
haru._私の目にはそう映っています。
逃げ道があることを知る。 それが心の大きなお守りになる
haru._コロナ以降、リモートワークが普及した影響で、毎日会社に行かなくても成立するんだということに気づいた人や、好きなことを仕事にしたいと思って会社を辞めましたっていう人がイベントに来てくれることが多いんです。いろんな働き方が増えているんだなと感じるんですけど、よく「好きなことを仕事にするにはどうしたらいいですか?」「そのために会社を辞めるべきですか?」といったお悩み相談を受けることも多くて。上出さんは長くテレビ局で会社員として働かれてたと思うんですけど、そういう相談に上出さんだったらなんて答えますか?
上出_「しゃらくせー」って言いますね。
haru._上出さんは会社員だったとき、質問者のような気持ちでしたか?
上出_全然同じような気持ちではなかったです。というのも、別に好きなことがないから。もちろん、旅するのも好きだし、人の話を聞くのも好きだけど、好きなことを仕事にしたいみたいな感覚でいう好きなことっていうのは、あまりイメージとしては持ってなかったです。自分にできることや今の環境、やりたいことや求められていることっていう円を重ね合わせたベン図で合わさっているところを選んだら、自然と世界のいろんなところに行って、いろんな人の話を聞くっていうものが出来上がって、今に至るっていう感じ。だから明確にこれをやりたいっていうようなものは今も別にない。それがあるなら、やる以外に選択肢はないだろうって思います。
haru._上出さんが『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を制作していたときは、まだ会社にいましたよね?
上出_もちろん。入社6、7年目だったかな。それまでは何もやっていなかったんです。人様の番組の一部員としてひたすらにVTRを作り続けていました。ようやく6、7年目で自分の企画が通って、それがうまいこと運んでいったっていう、かなり幸運なパターンだったと思います。そういう意味では、与えられた環境のなかでなんとなく自分の好きなことを見つけられたっていうのが僕の事実。だから、好きなことをやりたいから会社を辞めたいって思いはなかったです。ただシンプルにこの空間にいたくないから仕事辞めたいなって思うことは何度もありましたよ。一回、入社半年で飛んでるんです。で、戻りました。
haru._戻れるんだ!
上出_同期が四人いたんですけど、そのうちの二人がすぐに倒れて辞めちゃって。僕も本当に無理だなってなっちゃったことがあったんです。家に全然帰れないし、全然寝れないし。御成門の編集所から東京タワーの下まで歩いて行って、辛すぎて泣いてたりしました。そのまま「もうここにはいちゃいけない」と思って、編集所のスリッパを履いたまま新幹線に乗って京都に行っちゃったんです。京都の石畳を歩いてるときに、踵が痛いなと思ってやっとスリッパで来ちゃってたことに気がついて。しかも夏なのに革ジャンを着てたりと、色々おかしくなってたんです。だからそのときに、親父に「もう無理なので会社辞めます」って言ったんですよ。そしたら「辞めてこい」ってあっさり言われて、なんか肩透かしくらった気分になったんです。
haru._もうちょっと頑張れよって言われると思ってたんですね。
上出_そしたら、「辞めなくていいか!」って思ったんですよね。そのときは、その自分の気持ちがよく分からなかったけど、最近その気持ちの理由がなんとなく分かってきて。いろんな取材をするなかで、安楽死をしようとしている人の話を聞いたんです。難病を患ってしまい、絶対に改善することはない状況で、苦しいから死にたいけど身体も動かなくて自殺することもできない。日本では安楽死が認められていないから、スイスに行ったんですよ。いざ薬を入れようとしたときに、「やっぱり辞めます」となったそうなんです。彼女はそのときに、いつでも死ねるということを確かめられたんですよね。今まで出口がないと思っていたけど、出口はあるということが分かったから、今後更に辛くなったらそこに行けばいいという切符を手に入れた感じ。逃げ道がちゃんとあるということは、心の大きなお守りになるんだなっていうのを思いました。もちろん、今の話と僕が会社を辞めるっていう話はあまりにも状況が違うけど、近いものを感じたんです。だから、今会社がしんどいなとか、そういうことで悩んでいる人たちも、「いつ辞めてもいい」と思える何かがあるといいなと思います。
haru._なかなかそういう風に思うことって難しいですよね……。
上出_まあね。本当に不安ですからね。会社辞めたいと思うときある?あ、会社入ってないのか。
haru._会社には入ってないですけど、会社を立ち上げちゃったじゃないですか。
上出_すごいよね。なんで始めたの?
haru._大学を気づいたら卒業してて、大学院も落ちちゃったんです。就活もしてなかったんですけど、マガジンを当時から作っていたので、作ることで仲間とご飯を食べたいなと思って会社化したんです。上出さんと以前一緒にお仕事をしたときは、会社を立ち上げて一年とかのときだったと思います。
上出_不安だった?
haru._不安はそんなになかったですね。あの頃はとにかくガムシャラでした。
上出_でも、そういうもんじゃない?
haru._そういうもんですよね。むしろ今の方が不安かもしれない。今会社を立ち上げて5年が経つし、私自身ももうすぐ30歳になるんですよ。私たちは、若者が考えていることを形にするみたいなことをずっと仕事でやってきたんです。だけど若い人たちなんていっぱい出てくるじゃないですか。30歳になったらそんなに若くもないし、今の10代20代の子たちがリアルに考えていることに触れる機会も減ってくる。そうなったときに、「若さ」みたいな軸はなくなるわけじゃないですか。だから、当初から大事にしていた自分たちの軸を取り戻すために、下着ブランドを始めたんです。
上出_軸っていうのは何ですか?
haru._私も空虚だって話をしたけど、何かを良くしたいっていう気持ちだけはずっとあるんですよ。例えば、若い子たちが負わなくていいはずの傷を負わないようにしたいとか。それって性教育のことなんですけど、そこの気持ちは強くずっと持っているんです。そのモチベーションだけが、活動を続けることの後押しをしてくれている感じがあります。でも、根拠のないことでもあるから、すごく不安になったりしますね。
上出_それは経済的な不安なの?
haru._それがやっぱり大きいと思います。
上出_みんなやっぱりそこだよね。お金の不安ってすごく大きいもんね。
haru._上出さんはその辺の不安ってありますか?
上出_あるけど、自分にとって幸福だったなと思うのは、やっぱり昔から山登りをしていたということなんです。全然繋がっていないように感じるかもしれないけど、繋がっていて。というのも、僕はハイブランドの服がどうしても必要とか全く思わないし、山を歩いているだけでいろんな幸せを感じることができるということを知っているんですよ。自分にとっての幸福な生活をするのに、そこまでのお金は本来いらないということを知っている。そのことが僕にとってすごく重要なんです。そういう意味では、山に触れていなかったら、多分今でも会社を辞めていないと思います。会社員を辞めたら、六本木で美味しいカレーを食べる暮らしはできないかもしれないけど、別にそれでも全然構わない。自分にとっての「足るを知る」ことが大事だと思っています。自分にとって何が必要かということがちゃんと分かれば、必要以上のお金は必要ないんですよ。今いる会社に居続けなければいけないと思ってしまうのは、必要以上のものを必要だと思ってしまっているが故の感覚。だからみんな山に行ったらいいんじゃないかな。
haru._本当にそう思います。私はそれでいいんだけど、会社のメンバーは「山に行こう」で解決するのかなっていう不安はあります(笑)。
上出_まさにそうだよね。だから会社はすごいなと思うよ。
haru._その考えが浸透して、みんなでそうなったらいいんですけど、みんながそう思うかは分からない。組織という規模で考えたときに、すごく不安になっちゃうんですよね。銀行からお金を融資してもらってるんですよ。
上出_逃げられないじゃん。山とか言ってらんないよ、働こう。
haru._お金を返し終わったら山に行こうかな。
上出_でも、『MIDNIGHT PIZZA CLUB』もそうだけど、やりたいことをちゃんとやっている人が一番強いと思ったよ。さっきみたいに、haru.がワクワクしてくれたり、「こんな規模で遊んでるのいいな」って言ってくれたりとかっていうのは、やっぱり楽しんでる人間のエネルギーはすごく強いということだと思うんだよね。
haru._そう思います。いろんなものを飛び越えて、多分そこが一番魅力的に映るんだろうな。
上出_人に魅力的に映るっていうことは、お金になるっていうことだと思うんだよ。
haru._それを『MIDNIGHT PIZZA CLUB』を読んで本当に感じました。上出さんはそれが本当に上手だなって思う。
上出_嬉しい。本当に楽しいから真似してほしい。「人生をかけてこれがやりたいんだ!」みたいなレベルである必要はなくて、ちょっと好きなことをやって、それをみんなと共有して、それがお金になって生活ができるみたいなことを、それぞれができたら一番いいよね。
haru._まさにそういう話を私も昨日仲間としていました。私たちは旅をすることではないかもしれないけど、好きなことを楽しんで、それを独り占めしたり、隠したりしなくていいよねって。
上出_ニューヨークに引っ越してる僕が「日本ってこうだ」とか言うとキモいと思うんだけど、日本って苦労崇拝がすごいじゃない。苦労していればしているほど素晴らしいっていう。苦労することもきっと素晴らしいんだろうけど、楽しんでいることの方が素晴らしいじゃん。もっと「楽しんでいる」ということを言える世界になったらいいよね。
haru._そうですね。上出さん、阿部ちゃん、太賀さんも、みんな仕事はしながらも人生の楽しみに夢中になっている。その姿がいろんな人のモチベーションや、人生の目標や選択肢に繋がっていくんでしょうね。
上出_そういう役割を担っている気もしています。「そうじゃなくて、こっちもありだよ」ということを提示することってすごく大事だし、絶対に世の中を豊かにすると思うんです。こうじゃなきゃダメっていう考えって、油断しているとどんどん凝り固まって、人を苦しめるから。「ずらしてもいいんだよ」っていうことを、しきりに言っていく。そのうちの一つとして『MIDNIGHT PIZZA CLUB』があるんだろうなという気がしています。
それでは今週も、行ってらっしゃい。
1993年東京都生まれ。俳優。2006年デビュー。連続テレビ小説「虎に翼」でヒロインの夫・佐田優三役を演じて大きな注目を浴び、その後「新宿野戦病院」で主演の高峰亨役を演じて話題に。近年の主な出演作に、ドラマ「いちばんすきな花」、「初恋の悪魔」、「拾われた男」、映画『十一人の賊軍』、『すばらしき世界』、『あの頃。』など。待機作に映画『本心』、『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』がある。2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」では主演を務める。
*②阿部裕介
1989年東京都生まれ。写真家。青山学院大学経営学部卒業。大学在学中よりアジア、ヨーロッパを旅する。旅で得た情報を頼りに、ネパール大地震の被災地支援(2015年)、女性強制労働問題「ライ麦畑にかこまれて」や、パキスタンの辺境に住む人々の普遍的な生活「清く美しく、そして強く」を対象に撮影している。日本での活動に、家族写真のシリーズ「ある家族」がある。
*③『MIDNIGHT PIZZA CLUB 1st BLAZE LANGTANG VALLEY』
俳優・仲野太賀、TVディレクター・上出遼平、写真家・阿部裕介による旅本シリーズ第一弾。「ミッドナイト・ピッツァ・クラブ(MPC)」――真冬のニューヨークで天啓がごとく授かった名に導かれるようにして旅立った3人。ネパールはランタン谷を歩く一週間がはじまった。カトマンズを爆走する四輪駆動車、激痛を生む毒の葉、標高2440mにあるホットシャワー、地震で一度壊滅した村で韻を踏み続ける青年、ヒマラヤの甘露「アップルモモ」、回転するマニ車、見え隠れする陰謀の影(!?)数々の危機を乗り越え、出会いと別れを繰り返した先、3人を待ち受けていた光景とは――?これは、食って歩いて歌って寝て、泣いて笑って怒り狂う男たちの、汗と泥と愛にまみれた旅物語。(講談社)
*④『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
ゲストの上出さんがプロデューサーを務める、テレビ東京系列で2017年から不定期特番として放送しているドキュメンタリー番組・グルメ番組。「食べる=生きる」をコンセプトに、ギャング・兵士・難民・出所者・貧困層などの世界各地の危険な場所・危険な仕事をして生きる人物のもとへディレクターが赴いて密着取材を行い、彼らがどんな食事をして生きているかを伝えている。
Profile
上出遼平
1989年東京都生まれ。テレビディレクター、プロデューサー、作家。2011年にテレビ東京に入社。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画・演出から撮影、編集と、制作の全工程を手掛ける。2019年に同番組7月15日放送分が第57回ギャラクシー賞優秀賞を受賞。幅広いジャンルで才能を発揮している。著書に『ハイパーハードボイルドグルメリポート』『歩山録』『ありえない仕事術正しい“正義”の使い方』がある。