釣り堀で魚釣りをする朝 haru.×たなかみさき【前編】

月曜、朝のさかだち

『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第8回目のゲストはイラストレーターのたなかみさきさんをお迎えしています。この日の朝活では、杉並区にある和田堀公園内の釣り堀「武蔵野園」にて、魚釣りをしました。直前まで雨が降っていたにもかかわらず、釣り堀に到着するなり快晴。暑い日差しを浴びながら、オールドスタイルな竿に餌をつけ堀に針を落とす二人でしたが、なかなか釣れず…。しかし、諦めずに何度も挑戦するうちに「食べた瞬間が分かった!」とharu.さん。たなかさんも「だんだんコツを掴んできたかも!」と喜んでいたものの、結果スタッフ含め1匹も釣れず終了。その後併設されている食事処で焼きそばとオムライスを食べ、なんだか初夏を先取りしたような時間を過ごしました。

朝活を終えた二人は、釣り堀での時間を振り返りながら、たなかさんがイラストを通して見つめる今について、今年2月に発売された初の漫画単行本『大なり小なり』*①の制作秘話、ライフステージの変化とともに変わる自己についてお話しいただきました。
本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

たなかみさきさんに聞きたいコト
Q.みさきさんが影響を受けた漫画はなんですか?
A.丸尾末広さんです。私が布の描写にやたら執着してるのは、 完全に丸尾さんの影響かと思います。
Q.東京と熊本、それぞれひとつだけ好きなお店をあげるとしたらどこですか?
A.熊本:廣島屋(お蕎麦屋さん) 東京:ムンド富士 (レストラン)

釣り堀の楽しみ方は「釣ること」ではない
haru._今日の朝活はたなかさんが選んでくださったんですけど、どうして釣りだったんですか?
たなかみさき(以下:たなか)昔、永福町に住んでいた時期があったんです。なので和田堀公園も近くて、ずっと気になっていたんですけど、釣り堀には結局行けていなかったんです。もう永福町を離れてしまったので、行く機会もないかなと思っていたんですけど、朝9時からやっているということだったので、今回無理矢理朝活とくっつけて行きたい場所に行かせてもらったという(笑)。
haru._この釣り堀も、公園の中に突如として現れる、不思議な佇まいの場所でしたね。側から見たら、大きな小屋みたいな店内を抜けると釣り堀があるんです。1匹も釣れなかった…。
たなか_釣れなかったねー(笑)。
haru._本当に難しくて。餌をつけて、堀に針を垂らすんですけど、気づいたら餌がなくなっているというのをずっと繰り返していましたね。
たなか_しかも私は初めて触る餌でした。練りタイプの餌。
haru._私は触ったことはあったんですけど、いまだに手が臭いです(笑)。
たなか_取れないよね。くっさいです(笑)!
haru._あんなに難しいとは思っていなかったです。スタッフもみんなで体験しましたが、誰一人として釣れず。横に食堂もあって、そこでみんなでご飯を食べたんですけど、食堂があってよかったですね。
たなか_食堂の存在も知っていて、実はそっちをメインに考えていたんです(笑)。釣りを頑張るというよりかは、昼からお酒を飲んだり、ご飯を食べたいなという気持ちがありました。
haru._今回の朝活で少し距離が近づいたので、釣りをしながら「みさきさん」って呼んでみたんです。なのでここからはみさきさんと呼ばせていただきたいです…。
たなか_それ挑戦な感じだったんだ(笑)。
haru._一歩として…(笑)。釣りをしている途中で、みさきさんから「もう十分です」みたいな雰囲気を感じて、私もそろそろ諦めようと思って、食堂でオムライスと焼きそばを食べました。
たなか_実は最後に、すごく手応えがあったの。
haru._そう!最後にみさきさん、釣るかも?と思ったんです。
たなか_いきそうだったけど、釣った魚を食べる場所じゃなかったから、半殺しというか、故意に口内炎を負わせるのもちょっとかわいそうじゃないですか。
haru._そうなんですよね。正直、あの場所で何を喜びのマックス値に持っていくかって結構難しかったんです。
たなか_キャッチ&リリースだったからね。
haru._釣った魚を私たちが食べさせていただけるなら、また違うかもしれないんですけどね。なので、釣ることよりも、あの時間を楽しんで、みんなでご飯を食べたり、ゆったり過ごすというのがあの場所の楽しみ方なんだろうなと思いました。
たなか_食事のメニューにも、お魚料理がなかったじゃない。大体が居酒屋メニューで、砂肝とか枝豆とかだったので、あそこはお魚を食べる場所ではないんだろうなと思った。釣り堀の用途って様々なんだなってすごく思いましたね。
「作品の中で嘘をつきたくない」リアルな今を映し出すイラスト
haru._記事を読んでいる皆さんも、みさきさんのイラストをみたことがある方もたくさんいらっしゃると思います。みさきさんのイラストの特徴は、ちょっとエロティックで、ちょっと気だるい女の子というイメージがすごく強いです。私は下着ブランドをやっているので、インスピレーションを引き出すために、みさきさんのイラストに出てくる女の子たちを見たりします。
たなか_えー!嬉しい!
haru._こんなふうに家で過ごしている子に、どんな下着があったらいいかなとか考えています。私のなかで、イラストレーターって、その時代をすごく反映しているイメージがあるんです。それって、人物を描く人のイラストに特徴として現れるのかなと思っていて。その時代にいる人たちの空気感や、所作をすごく感じています。みさきさんは、人物を描くときに、現代を生きる人たちを切り取ろうっていう意識はあるんですか?
たなか_そうですね。でも、流行りとかは全然追えないです。基本的に普遍的なものを追っていこうみたいな意識があるんですけど、気がづいたら流行りに乗っていたりもする。自分自身が時代によって結構変わったりするんです。今、襟足を伸ばしているんですけど、ショートカットだけど襟足を伸ばすみたいなことも、今までしたことがなかった。
haru._金髪の時代もありましたよね。
たなか_たぶん、自分が社会と一緒に変わっている感じはしていて。みんなももっと変わっていっていいと思っているんですけど、それがイラストの人物に出ているのかなとも思います。ただ、私は結構流されやすいので、それを意識的にするっていうのはどうしてもできなくて。
haru._そうなんですか?イメージは全然逆で、確固たる自分の「好き」や、方向性がある人なのかなと思ってました。
たなか_全然ないですね。
haru._じゃあみさきさんの生活が変わったら、イラストも変わっていくんですか?
たなか_そうですね。この前、家から全然出ないから、人との出会いがなくて書くものが何もなくなってしまったんです。なので、そのとき私がバナナを食べていたので、バナナを食べている絵を描いたりしていました(笑)。
haru._自分がモデルになることも多いんですか?
たなか_モデルのつもりはないんですけど、行動に関しては完全に自分かも。なので、文章の依頼もたまにいただいて書いたりするんですけど、大体エッセイが多いんです。見抜かれてるなって思います。「こいつの制作、自分のことばっかりだから、エッセイなら書けそうだな」って思われて依頼してくれているのかなって(笑)。
haru._でも確かに、イラストの題材も、家の中や生活の延長線上の場面が多いイメージがあります。
たなか_本当に家から出ないので。それに作品の中であまり嘘をつきたくないんです。家から出ないときは、家の中での絵になる。でも、たまに外に出ると、山の美しさとかにすごく感動するんですよね。そういうときは、山を描きます。
haru._じゃあ、みさきさんがおばあさんになったら、イラストの人物もおばあさんになるんですかね?
たなか_たぶん、一緒に歳をとっていくと思います。今、お仕事でおばあさんを描いたりもするんですけど、やっぱり実感が持てなくて、広告案件でしか描いてないんです。
haru._でも、今その話を聞いて、それでいいんだなって思って、元気が出ました。やっぱり、ものづくりをするとなったら、自分や自分の周りだけじゃなくて、いろんな年代の人にどうやって届けていくかとか、広く遠くまで届けることを重要視することがお仕事をしていると多い気がしていて。そうなると、本当に自分の好きなことや考えていること、言いたいことから離れていったりすることもある。どっちの良さもあるので、どっちも大事なんですけど、そういう自分の作りたいと思う気持ちの側面も大事にしたいなと、今のお話を聞いて思いました。
たなか_もちろん、人の気持ちを想像したり、受け手のことを考えることってめっちゃ大事だし、私もなるべくそうするようにしています。でも、色々考えるプロセスを経て、最終的には自分がやりたいことや、考えていることに辿り着いてしまうということに、活動をしていて後から気づいていきました。
初の漫画単行本『大なり小なり』を通して伝えた「変化と家族」
haru._嘘がないというのは、みさきさんの作品を見ていて、本当なんだろうなと感じます。特に、今年の2月に出された漫画作品『大なり小なり』を読んですごく感じました。出版おめでとうございます。
たなか_ありがとうございます。
haru._この漫画は、30代の女性二人が同じ屋根の下に住んでいて、ルームメイトとしていろんな人生の出来事を共有している物語ですよね。これはみさきさんご自身の生活がベースとなった物語なんですか?
たなか_そうですね。東京でも実際にお友達と一緒に暮らしていて、その子との暮らしがすごくおもしろいので、漫画にしたいなと思って作り始めたんです。
haru._最初からその生活を題材に漫画を描くことは決まっていたんですか?
たなか_そうなんです。編集部の方から「一冊描いてみませんか?」というお話しをもらって、何をテーマにしようかとなったときに、最初の単行本だから、身近なテーマにしないと無理だろうなと思っていて。一番身近で、おもしろい同居人さんとの生活をと決めました。
haru._みさきさんのイラストは生活の中で感じたことや見たことがイラストに直接的に現れるというお話しもされていましたけど、それは漫画でも変わらずなんですね。
たなか_ただ、私が漫画を出すとなって、もしかしたら多くの人が、恋愛についてや性愛についての漫画かと思ったんじゃないかな。
haru._確かに。私は一度みさきさんと、同居人の方とお祭りで会ったことがあって、二人の会話が出来上がりすぎていて、すごく楽しそうで、本当に羨ましい関係性だなと思ったことがあったので、しっくりきていました。なので、本の内容をみたときに、きっと二人の世界が広がっていくんだなというのが、すぐに想像できました。でも、確かにみさきさんのイラストしか見ていない人からしたら、恋愛の要素が入ってくると思う方も多そう。
たなか_そうですよね。でも恋愛の要素は一切なく、二人の友情で始まり、友情で終わるんです。
haru._イラストと漫画って全く違うと思うんですけど、描いてみてどうでしたか?
たなか_本当に使ってる脳みそが全然違う!かなり大変で、4年かかったんです。
haru._え!?そんなにかかっていたんですね。
たなか_2年かけて描いたネームを一回ゼロにして、またイチから2年かけて清書したんです。キャラクター作りがすごく重要だと思っていて。最初は、ほぼドキュメンタリーで起こったことを描くので、キャラクターとかは別にそこまで重要じゃないのかなって考えていたんです。でも、キャラ設定をちゃんと書き起こしたときに初めて、漫画の中で登場人物がコミュニケーションを取り始めるみたいなことが起きて。一応フィクションとして描いているので、キャラ設定が漫画においてはすごく大事なんだなと思いました。
haru._みさきさんや同居人の方がモデルになってはいるけど、その二人とは少し切り離して、もう少しキャラクターとして詰めていったということですか?
たなか_そうですね。あえてエッセイ漫画にしなかったのは、やっぱり実生活のおもしろさを越えられないというか。実際にあった空気感を漫画で完全に再現はできなくて、現実とは少し違うよという意味で、エッセイ漫画ではなくしたんです。そうなったときに、キャラクターがすごく重要なんだと、描いていて思いました。
haru._同居人の方は、漫画を読んでなんておっしゃっていましたか?
たなか_ペン入れが全部終わるまでは、最後まで読ませていなかったんです。でも、一応彼女のことを描いているから、どこまで描いていいのか確認しないといけないじゃないですか。だから、聞いてみたんですけど、「どこまででも描いていいよ」と大股を開いて言ってくれたんです(笑)。なので、コソコソ描いて、最終テスト前ぐらいに彼女に読んでもらったら、横でゲラゲラ笑いながら読んでくれて、すごく安心しました。トークショーにも一緒に出てくれて、助かっています。
haru._同居人の方は、みさきさんにとってどういう存在なんですか?
たなか_どういう存在なんでしょうね。大学時代からの仲で、もう10年ぐらいになるんです。でも、エッセイにしなかった理由にもなるんですけど、10年も一緒にいたら、もちろん楽しいことばかりじゃなかったんです。近すぎて嫌になっちゃったり、すごく複雑だなと思うんですけど、私が彼女に与えられるものが自分の中では明確にあって。それは、彼女を笑わせたいと思っていること。そこだけははっきりしているんです。なので、自分にとってどういう存在かっていうよりかは、彼女に笑顔が足りないときに、笑わせてあげられるかもしれないということだけは感じています。どうでもいい話をし続けられる存在でありたいなと思っています。
haru._漫画の中でも、二人がたわいもないところから、すごく話し込む姿が描かれていますよね。
たなか_深く関わっているんですけど、ちょっとどうでもいいというか。すごく難しいんですけど…。でも、あくまで自分の主観なので、自分が優しさと思って行動したことでも、相手にとっては優しさではないことがあったりもする。その塩梅を漫画で描くのも難しかったです。
haru._確かに、描くことでニュアンスが変わったりもしそうですもんね。二人にしかわからないちょっとした緊張感とか、使う言葉とかってあるじゃないですか。
たなか_そうなんですよね。漫画の中で、小田さんと大原さんというキャラクターが出てくるんですけど、大原さんという大きいメガネをかけている人が一人で散歩に出かけて、深夜に真っ黒な影になって帰ってくるというエピソードがあるんです。あれはすごくピリピリしながら描いていました。10年来の友達で同居人だけど、やっぱり得体の知れない部分はあるし、落ち込むことがあると、人って化け物みたいになって帰ってくることがきっとあるじゃないですか。自分も人も傷つけてしまいそう、みたいなとき。そんなときに、どうやって接するかなっていうのを、自分なりの接し方として描いたんですけど、あれが冷たいなと感じる人もいると思うんです。他人との距離の取り方みたいなものは、自分の生活の中でもすごく意識しているし、漫画内でもすごく大事に描きました。
haru._漫画だからこそ、真っ黒になって帰ってくるという描写ができたりするのかも知れないですね。そういう日もありますよね。この漫画は、変化と家族がテーマになっているということなんですけど、このテーマ設定にした理由はあったんですか?
たなか_これは、最初から決めていたわけではなくて、後からそうだなと思ったんです。制作に4年かかったのもあって、その間にも自分もすごく成長したし、周りの人も人生の変化がたくさんありました。自分の言葉だと思って喋っていたことが、実は家族由来の言葉だったという、人生の地層みたいなものが明らかになってくるんですよね。今私は32歳なんですけど、だんだんそういうことにゾッとして来ちゃって(笑)。「良くも悪くも」とか、自分の性質のあやふやさだったり、自分をどんどん信じられなくなったりという経験が、年齢を重ねて多くなってきたなと思い、そういう意味で変化というテーマがあると感じています。
あと、家族に対しても、離れられない血縁関係みたいなものと、自分が大人になってから自分と他人で作る家族みたいなものの二つのかたちがあるなと感じるようになってきて。なので、こうしようと思ってできたテーマではなく、イラストも同様ですけど、生活とめちゃめちゃ地続きで、正直に描いていったら今は「変化と家族」というテーマなのかもと終着したという感じです。
haru._じゃあ次に描く漫画も、そのときの人生で感じていることが反映されるんでしょうね。私も、20代後半から30にかけて変化が大きかった気がしていて。20代前半って、自分でもよくわからないまま駆け抜ける感じがあったんですけど、後半になるとだんだん冷静になってきて、「今の自分ってなんなんだろう」と立ち返る瞬間が増えた気がします。
たなか_冷静にならざるを得ない状況になってくるんですよね。年齢が高い人からいなくなっていっちゃうとか、病気になっちゃうとか、そういうことが自然と起こるので。たぶん、共感性が強いものを描かなくても、自然とみんな共感してくれるものがあるんじゃないかな。
haru._抗えない自然の摂理じゃないけど、順番なんだなということに気づいていく感じはありますよね。次は自分の親で、その次は自分や友達、パートナーになっていくんだなと思うと、すごい冷静になっちゃいますよね。
たなか_やっぱり、健康が大事!ってなる(笑)。
haru._何か告知事項はありますか?
たなか_6月の中旬頃に、新しく作品集が出ることになっています!漫画も出したばかりなんですけど、ありがたいことに出せることになっているので、頑張って制作中です。
haru._現在制作中なんですね。楽しみにしています。
対談記事は後編に続きます。後編では、東京と熊本で二拠点生活をするたなかさんが、それぞれの土地で感じること、30代の二人が見つめるこれからの暮らしの不安、人との関係性の変化などについてお話しいただきました。そちらも是非楽しみにしていてくださいね。
それでは今週も、行ってらっしゃい。
ゲストのたなかみさきさんによる、初の漫画単行本。小柄な小田さん(30歳)。高身長の大原さん(30歳)。大学の同級生として出会って10年、東京で一人暮らしをしていた二人が同居を始めて、お互いの知らなかった部分をどんどん発見していく。
得意料理を披露したり、仕事の疲れを発散しようとカラオケで歌いまくったり、時には一人の時間が必要だったり……。そして、通常は公にされることのない「同居する友人同士のオナラ事情」にも切り込んでいく!
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Profile
たなかみさき
1992年生まれ。人物画を中心に生活を描くイラストレーター。時々エッセイも執筆。 作品集に「ずっと一緒にいられない」「あ〜んスケベスケベスケベ!!」(共にPARCO出版)、漫画作品に「大なり小なり」(文藝春秋)がある。