2025.6.10

公園でバドミントンをする朝 haru.×伊藤亜和【前編】

PROJECT

月曜、朝のさかだち

 haru.

『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第9回目のゲストは文筆家の伊藤亜和さんをお迎えしています。この日の朝活は、公園でバドミントンをしました。普段あまり運動をしないというharu.さんと伊藤さん。開始時はなかなかラリーが続かず苦戦していましたが、やっていくうちにみるみる上達し、最終的には10回ラリーが続くまでに成長していました。今回は、ネットを張らずに行ったので、力加減や風の影響で羽が遠くまで飛ばされてしまったら、その分走って追いかけなくてはいけなく、息切れしながらもバドミントンを楽しみました。

朝活を終えた二人は、多岐に渡る活動のなかでも、メインとなる文筆業とモデル業を続けられている理由、いくつもの肩書きを持つことの葛藤、伊藤さんの新刊『わたしの言っていること、わかりますか。』*①について、二人が考える言語と言葉についてお話しいただきました。

本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

伊藤亜和さんに聞きたいコト



Q.書くための準備体操があるとしたら、どんなものですか?

A.ありません。「これから仕事をする」ということを体に気づかれると眠くなってしまうので、日常から仕事へはそれとなく移行するようにしています。

Q.大切な人に絶対に届けたい気持ちがあるとき、亜和さんだったら手紙と直接話すことのどちらを選びますか?

A.絶対に手紙。話すと話があちこちに飛んでしまうので、普段から大切なことは手紙に書いて相手に伝えています。便箋を選ぶ時間も楽しいので好きです。

Q.クライアントワークで執筆するテーマに難しさを感じたとき、亜和さんならその仕事を受けますか? また、その場合どのように書き進めますか?

A.受けると思います。そういう仕事に頭を悩ませ続けていると、ギリギリのところで自分でも驚くようなアイデアが湧いてくることがあって「自分も捨てたもんじゃないかも」という気持ちにさせてくれます。自分ができる範囲だけでやっていると、できない体験だと思います。

 

文筆業とモデル業を続けていられる理由

haru._亜和さんは、私が一方的に本を読んだり、亜和さんがやってらっしゃるPodcast『伊藤亜和のお手上げラジオ』を聞いたりしていたんです。

伊藤亜和 (以下:伊藤 )毒にも薬にもならないPodcastをやっています。人には「寝酒代わりに」とおすすめしているので、どちらかというと夜活ラジオなんです。

haru._私は出勤するときにいつも聞いています。

伊藤_出勤してるときに聞いたら、たぶんお家帰りたくなっちゃうと思う(笑)。

haru._満員電車に乗って、きついなと思っているときに亜和さんの声が聞こえてくると、「いつも通りだ」って思えるんです。その安心感がある。Podcastが更新されると、番組名の横に青いマークが出るじゃないですか。それを見つけると、「やった!」と思って聞いています。

伊藤_ありがとうございます。お手上げリスナーなんですね。

haru._今日の朝活ではバドミントンをしてきましたね。朝活でバドミントンを選ばれた理由は何だったんですか?

伊藤_朝活に何がしたいか聞かれて、読書会とかが普段私に求められていることかなと思って提案したんですけど、運動もいいかもと思ってお伝えしたら、バドミントンをすることになってました(笑)。

haru._こちら側の提案でしたね(笑)。この番組の朝活では、ゲストが普段あまりやらなそうなことを一緒にやりたいと思っているんです。ただ、亜和さんが公園に登場したとき、スカートだったんですよ(笑)。

伊藤_運動しなさすぎて、ジャージすら持っていないという(笑)。

haru._でも、ストレッチ素材で案外伸びるやつでしたね。最初は本当に一回もラリーが続かずだったんですけど、回数を重ねていくうちに息が合ってきましたね。

伊藤_闘いの中で成長していく感じがありましたね。

haru._切磋琢磨という感じでしたね。いかがでしたか?

伊藤_楽しかったです。朝活をした時間帯って、普段は起きていないんですよ。なので来る前は頭がボーッとしていたんですけど、バドミントンを始めたら身体中に血液が回ったような感じがして、今はすごく元気です。

haru._この番組の朝活は本当に朝にやってるんですよ。9時30分に集合していますからね。でも亜和さん、たぶん運動神経がいいですよね?

伊藤_やればできる子でした(笑)。

haru._それをすごく感じました!スカートでいらっしゃったけど、やり始めたらすごく動いてくれるじゃないですか。

伊藤_そうですね。動くことにあまりためらいはないタイプです。

haru._モデル活動も普段されているじゃないですか。そういうときにもやっぱり運動神経ってすごく必要だと思うんです。現場で求められていることを瞬時に察知して、その場で身体表現するという。それは、元々あったものを活かしている感じなんですか?

伊藤_そうですね。何かを特訓したというよりは、想像力で補っている部分が大きいなと思います。野生の勘に頼ってることが多いなと自分では思っていて。説明書とかも読まないです(笑)。

haru._執筆業が本業だと思うんですけど、モデル活動もずっとやられていて。一つに絞らないことにはこだわりがあるんですか?

伊藤_モデルの方が、始めたのはずっと先で。みなさんが想像してるモデルの仕事って、テレビやパリコレで活躍しているイメージが多いと思うんです。でも実際は、名前が出てくるわけでもなく、広告に出ているけど、たとえ他の広告に出ていてもそれが同一人物だと気付かれないことが多い。そこで文筆業を始めて、今度は自分の名前で仕事をするようになってから、自分の名前でモデルの仕事が来るようになったんです。それが結構大きな変化ですね。仕事の内容としてはあまり変わりはないんですけど、新しい仕事のように気持ちを新たにできているからというのはあるかもしれないです。

haru._伊藤亜和さんとして呼ばれたときは、伊藤亜和として表現するわけじゃないですか。そうすると、今までのモデル業とは見せる自分が違ったりしますか?

伊藤_違いますね。自分が出したい自分でやっている感じがあります。以前は、スポーツウェアのモデルをするなら、できる限りの範囲で悪ぶったりしてました(笑)。

haru._『SPUR』*②で亜和さんが何ページにも渡って特集されてる号があったと思うんですけど、本当に素敵でした。

伊藤_ありがとうございます。

haru._執筆をされている方で、表にモデルとして出ている方ってあまりいらっしゃらないじゃないですか。私はどうしても、仕事を一本に絞った方がいいんじゃないかという感覚になってしまうこともあって。自分も表に出ることがあるんですけど、そのときに「本物じゃないんじゃないか」と思ってしまうときがあるんです。でもそれって多方面に失礼な感じもする。なのにどうしてもそういう感覚になってしまうときがあるんですけど、亜和さんもそういう感覚になってしまうことってあるのかなと気になっていました。

伊藤_そうですね。やっぱり、文筆業をしながら表に顔を出していると、掲示板とかに「こいつは容姿が珍しいから文章の内容も評価されているんだ」みたいに書かれることもあって。私はそもそも、何か一つだけを突き詰めてやっている人にすごく憧れがあったんですけど、ある時点で自分はそっち向きではないということが分かってしまったんです。どうしても目立ちたがり屋の部分もあるし、文章は好きだし得意だし求められるから、どっちもやりたいんです。どっちかに絞ることもしないし、本物じゃないと感じる自分も、開き直って受け入れてみてもいいのかなと最近は思っています。

haru._確かに、どっちの側面も見ている人からしたら、本当にどっちも見たいって思います。ちなみに亜和さんは、モデルとしてやりたいことってありますか?

伊藤_具体的なブランドとかですか(笑)?

haru._ブランドでもいいですし、どんな状態になっていたいかとか。

伊藤_容姿的に和装する機会があまりいただけなかったので、そういうお仕事ができたらいいなと最近は思っています。

haru._ちょうどこの番組に『suzusan』という、有松の伝統工芸の技術を使ったブランドをやられているクリエイティブディレクターの村瀬弘行さんがいらっしゃってくれたことがあって。その『suzusan』から和装のラインが出たばかりなんです。なので「亜和さんをモデルにいかがですか?」と聞いてみます。 亜和さんの和装姿、見たいですね。

伊藤_意外と似合うんですよ。とか言って(笑)。

haru._似合いそう!

伊藤_少し前まで髪も結構長かったんですけど、バッサリ切って。和装が似合うのはこの髪型かなと思い、準備万端です。

haru._ちょっとかけあってみますね。でも、私が20歳ごろって、スラッシャー*③が流行っていて、いろんな肩書きを持っていればいるほどいいみたいな流れがありました。今だと、インフルエンサーも何でもできることが結構当たり前になっているじゃないですか。写真も撮れるし、映像も自分で編集できたりする。容姿がいいだけじゃダメで、いろんなことができてやっと影響力を持った人物として認められるみたいな。

伊藤_自分でプロデュースして、全部自分で作って発信できるって強いですよね。

haru._その反面、一つのことを極められていないなって感じたりもする。

伊藤_コンプレックスみたいなのありますよね。

haru._私と亜和さんは2歳差なんですけど、いろんなことができるということが、強みにも弱みにも転じることがあるということを、すごく実感として持っている世代なのかなって思ったりもします。

伊藤_小さい頃から、「やれって言われればできる」っていうタイプだったんですけど、最初に褒められちゃうと、そこで満足して飽きるっていうのをずっと繰り返してました。

haru._そこから「もっとやろう!」って思えたことって何かありますか?

伊藤_今のところ、ないんだと思います。

haru._でも、文章は続けていますよね。

伊藤_文章とモデルは褒められても、自分の中での評価が低いんです。他のことで褒められると、「そうだろ?へへ」みたいな感じで終わっちゃうんですけど、文章とモデルに関してはそうなれなくて。褒めてくださってる方には失礼ですけど、「こんなんで?」って思ったりもするんです。だからまだ続けられているんだと思います。

新刊『わたしの言ってること、わかりますか。』に込めた 伊藤亜和の現在地

haru._亜和さんは、2023年に投稿サイト『note』で公開されたエッセイ「パパと私」が多くの方の目に留まり、多方面から注目を集めています。家族や恋人、身近な人との人間関係や、日常の些細な出来事を独自の感性で鮮やかに描き出し、今は立て続けに本の出版もされていますよね。4月には『わたしの言ってること、わかりますか。』という新しいエッセイ本も刊行されました。私もゲットしたんですけど、装丁がすごく独特ですよね。ちょっと皮膚みたいな触り心地なんです。

伊藤_ぬめっとした。

haru._滑りがある、鶯色の表紙に、黄色い文字で本文の言葉が抜粋されてプリントされているんですよね。

伊藤_ベルベット何とかっていう紙で、色の名前はサタンイエローというんです。あんなお淑やかな色味なんですけど、サタンイエローを二度刷りすると、ああいう色になるんです。

haru._特殊な印刷だよなと思ってました。

伊藤_デザイナーの戸塚泰雄*④さんにお願いして、綺麗な本にしていただきました。

haru._本屋さんで見ても、結構目を引くと思います。今回のエッセイは、言葉にフォーカスした1冊になっていると思うんですけど、亜和さん的に、この本をどう説明されますか?

伊藤_私が最初の本を出したのが去年の6月で、そこから今年の4月までに3冊出させていただいていて。最初の1冊目と2冊目は、「これまで」という感じだったんです。これまでの私についてや、今まで起きた珍プレーみたいなものをぎゅっとしたのがその2冊。今回の1冊は、「今の私」が入っているかなと思います。

haru._確かに、今の亜和さんを形作るというか、輪郭をなぞっていく感じがする読書体験でした。29歳になる亜和さんのリアルな現在地みたいな。

伊藤_前の2冊は、過去のことについて今の自分がどう思うか、あのときにどう捉えていたかという見方だったんです。でも、今回はつい最近起きたことを今書くという作業だったので、鮮度が大事だと思っていました。何年物という部分に価値があった前の2冊より、ピチピチの鮮度で、今感じたことを書くことが大事だと思いながら書いていました。

haru._日々感じたり、書きたいなと思ったことを、書き溜めていった感じなんですか?

伊藤_書き溜めてはいないんですけど、1日を振り返って考えを整理して、次の日ぐらいに書くみたいなことが多いです。ただ、本がこれから刷られますっていうときに、ある出来事が起こったんです。「絶対この本の一連はこの話のためにあったんだ」みたいなことが突然起きて、「この本にはこの話がないとダメだ!」と思い、夜中に編集者の方に追加できないかメールをしたんです。でもあっさりと「もう刷るので無理です」と言われてしまって(笑)。じゃあ、買っていただいた方に特典原稿としてデータをお渡ししましょうというお話しになり、今回は特典原稿がamazonで買っていただいた方でも、本屋さんで買っていただいた方でも届くようになっています。

haru._私、それまだ読めてないです。

伊藤_ちょっとお手間をおかけしてしまうんですけど、レシートを出版社の人に写真で送っていただけると…(笑)。

haru._なんだかアナログな方法ですね(笑)。人力でゲットしなきゃ(笑)。それを読んでいない私は、もしかしたらお話しにならないかもしれませんが…。「復讐」という章があって、そこには亜和さんがいつから言葉に執着するようになったのか、そのきっかけが書かれていますよね。

伊藤_そうですね。小さい頃から人と容姿が違うし、外国人だと思われる見た目をしているので、それをカバーするかのように、人よりも言葉を丁寧に話そうとすることが小さい頃からあったんです。その章に書いたきっかけが自分の中ではすごく記憶に残っていて。近所のバス停でバスを待っていたら、知らないおじさんに話しかけられたんです。見る限り日本の方で、私に早口の英語で話しかけてきたんです。どうやらその人は、英語を話せるということを私に示したかったのか、英会話の力を今こそ試す!みたいな感じで私に話しかけてきたみたいなんですけど、私は英語が全くわからない。だから「わからないです」って素振りを見せたら、その人が「なんだよ」みたいな顔をして、なんかいろいろ言われたんです。「恥ずかしくないの?」「英語は絶対話せた方がいいのに、なんで話せないんだ」みたいに言われて、すごく頭にきて、そのままバスに乗って桜木町の本屋さんにぷりぷりしながら入って、『バカでもわかる英会話』みたいな本を買って読んで(笑)。でも元々英語への関心がないわけですから、次の日には情熱は冷めてるんです。でも、めっちゃむかついたことだけは覚えていて、そのことについて書いたのが「復讐」というお話です。

haru._亜和さんは日本語に対して、特別な思いがあるということですよね。

伊藤_そうですね。まあ、特別な思いがあると言うなら、他の言語も知っていなきゃいけないというのは、ごもっともだなとは思うんですけど…。なので少しおこがましい気持ちもあるんですけど、やっぱり日本語が好きですし、それにしか興味がないですね。

haru._私は小学校と高校をドイツで過ごしていたんですけど、亜和さんと少し近い体験をしたことがあって。ドイツ人からしたら、私はアジアのどこかの人だから、ことあるごとに英語で話しかけてくるんです。ドイツ人も結構英語を喋りたがるし、英語ができる自分を見せつけたがるんですけど、「どこの国から来たの?」という質問に対して私がドイツ語で返すと、「なんだ」みたいな態度をされるんです。向こうからしたら別に本当は私がどこの国から来たのかとか、そんなに興味がないんですよね。

伊藤_自分の力を見せつけたいだけなんですよね。

haru._ミックスルーツを持った子でも、ドイツ語がメインの子も多いから、そういう子たちもよくそういうコミュニケーションに遭っていることが多かったです。「どうしてドイツ語ができるの?」「いや、ここで生まれ育ったんだよ」みたいなラリーがすごくあったみたい。私の場合は、言語の壁もあったので、また話が違うんですけど、そのときに私は言葉を遮断してしまったんです。言葉では自分の思っていることを伝えられないと、言葉に諦めを感じてしまって、コミュニケーションを一旦諦めて、何かを作るものづくりの方に進んだんですよね。なので、亜和さんはそこで、言葉を磨いていこうと思われたことに、私からするとすごく新鮮だなと思いました。

伊藤_偉そうですけど、日本語に可能性を感じていたんですよね。私が知らない日本語の言葉がまだいっぱいあるだろうし、難しい言葉を使う必要ないけど、使い方次第で私が何を考えているのか、どういう人間なのかをみんなに伝えられるはずだと信じてここまで来たのかなと思っています。

haru._初めて自分が書いたテキストで手応えをみたいなものを感じたのはいつだったんですか?

伊藤_あー、優れていると感じたことはないんですけど、ふざけた文章を書いておもしろいとは思っていて。例えば、mixiの紹介文とかでおもしろいことを書いているみたいなことはありましたけど、文章が優れていると思ったことはあまりないですね。

haru._それでもずっと書き続けていたんですよね。

伊藤_書き続けていたというか…。大学でレポート提出があったら書いていたし、課題があったら書いていた。noteにも4ヶ月に1回くらいのペースで1000字ぐらいの日記を書いて、また4ヶ月何もしないみたいなことをずっとやっていました。そしたら、1年前とかに書いた日記が急にものすごくバズったという感じなんです。

haru._じゃあ、亜和さんからすると、自分の文章がバズるというのは想定外だったんですか?

伊藤_あのかたちでは想定外でしたね。でも、他に道がなかったって言ったら変ですけど、「あのときにバズってなかったらどうなってたことやら…やれやれ」みたいな気持ちもあります。

haru._一気に状況が変わりますよね。そこから1年間の間に3冊も本が出て。

伊藤_そうですね。ありがたいです。

haru._今はもう、書くことに対してはプレッシャーとかはないですか?

伊藤_プレッシャーは最初より全然ありますね。最初の頃はもっと気軽に書いていたというか、「オッケーオッケー」みたいな感じで書いていたんですけど、書けば書くほどこれで合っているのかわからなくなってくるというか。一つひとつに「これでよかったんだっけ?」と思うようになりました。どんどん迷宮に入っている感じがします。読んでくれた人の反応を見ないと、進化しているのかもわからないです。

haru._確かに、文章を書く方ってどこでその判断をされているのか気になっていました。

伊藤_でも、自分が書いていて二ヤっとしたりするとか、そういうところなのかなって思います。自分で読み返して、自分で書いたのにちょっとおもしろかったり。

haru._今回の新刊ではニヤっとする瞬間はありましたか?

伊藤_「しつこいナンパ」という話が好きですね(笑)。桜木町で映画を観て帰っているときに、ナンパされたんです。そのとき『哀れなるものたち』*⑤というすごくおもしろい映画を観たあとだったので、スカした気持ちになっていたんです。

haru._あの映画を観たあとって、自分も登場人物の気持ちになって背筋が伸びますよね。

伊藤_そうそう。だから、ちょっとおしゃれな返しをしてやろうと思って、「お姉さん何歳ですか?」って聞かれたときに、「何歳に見える?」みたいな感じで言って、煙に巻いたんです。そのまま横断歩道を渡ってコンビニに逃げたんですけど、それで終わりでよかったじゃないですか。いい感じに巻いて、アンジェリーナ・ジョリーさながらな感じでスカした私もカッコよくて、「あの女の人は誰だったんだろう」みたいになる。それなのに、そのナンパ師はコンビニまで追いかけてきて、「今日やっぱダメですか?」って無粋なことをしてきたので、私がイラっとして「しつこいんだよ!」って言ったんです。そしたら、すごくしょんぼりしてコンビニを出て行ってしまって。あいつが悪いのはわかってるのに、なんだか私もあんなに言うことなかったかなとモヤモヤするみたいな話です(笑)。

haru._本当だったら、綺麗に別れられたはずなのに、ナンパ師がもう一歩踏み込んできちゃったんですよね。すごく笑いました(笑)。

伊藤_すごくしょうもない話なんですけど。

haru._読んでいるときに鮮やかさがありますよね。

伊藤_面白くなるように書いてます。

対談記事は後編に続きます。後編では、バニーガールとして働きはじめたきっかけや、エッセイが人々に与える力、自己流でキャリアを築いてきた二人が今感じる葛藤、若者から中年へと差し掛かる世代が感じる不安や希望についてお話しいただきました。 そちらも是非楽しみにしていてくださいね。

それでは今週も、行ってらっしゃい。

*①『わたしの言っていること、わかりますか。』
セネガル人の父を持つ「ハーフ」ゆえに日本語に執着してしまうという新進気鋭の文筆家伊藤亜和による、言葉にまつわるエッセイ集。(光文社)

*②『SPUR』
英社が発売している女性向けファッション雑誌。

*③スラッシャー
複数の肩書を持つ、多様なスキルや経験を組み合わせながら活躍する人のこと。特に、プロフィールや自己紹介で、複数の職種や肩書を「/(スラッシュ)」で区切って記述する際に使われる言葉。

*④戸塚泰雄
書籍の装幀、本文DTP、エディトリアル・デザイン、広報物のデザイン、刊行物の制作・出版などを行うデザイン事務所「nu(エヌユー)」の代表。

*⑤『哀れなるものたち』
2023年公開のイギリス・アメリカ・アイルランド合作のSFロマンティック・コメディ。監督はヨルゴス・ランティモス。出演はエマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォーなど。脚本はトニー・マクナマラ。原作は1992年に発表されたアラスター・グレイの同名小説。

この記事への感想・コメントは、ぜひこちらからご記入ください。編集部一同、お待ちしています!

Profile

伊藤亜和

1996年横浜市生まれ。文筆家。学習院大学 文学部 フランス語圏文化学科卒業。noteに掲載した「パパと私」がX(旧Twitter)でジェーン・スー氏、糸井重里氏などの目に留まり注目を集める。著書に『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)『アワヨンベは大丈夫』(晶文社)「私の言ってること、わかりますか」(光文社)。「CREA」「りぼん」など、各媒体でも連載中。

photography: miya(HUG) / text: kotetsu nakazato

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