気持ちに素直に。近道はしない。 とんだ林蘭
ことなるわたしたち
山瀬が20代の頃によく通っていた中目黒のメキシカン料理店「BAJA」をロケーションに、クリエイターのとんだ林蘭さんを迎え、これまでの仕事、恋愛、結婚観などについて語りあった前編。後編では、二人の今のキャリアについて語り合う。
山瀬まゆみ(以降山瀬)_25歳で漫画家を目指す、と決めた時に、美大や専門学校で学ぶことをしなかったのはなぜですか?
そのスタイルを知らないからこそ作れる面白さがあると言われて。
とんだ林蘭(以降とんだ林)_絵を描き始めた頃は、自分の学歴に劣等感がありました。なので、学校に通った方がいいのかなとか、考えていた時期もあったんです。でも、絵を描き始めて、少しずつ仕事をいただけるようになった頃、アートディレクターという仕事と出合ったことがきっかけで、その考え方は変わりました。
それまではアーティストとして個展を開いて、1人で作品を作って発表して、という個人プレイ。でも、アートディレクターはチームになって、一つのものを作っていくんです。
本来、アートディレクターがレファレンス(イメージ写真や映像)を出して、そのイメージに向かってチームがクリエイティブを作っていく、というのが主流なんですが、私の場合はレファレンスをほぼ出さないんですね。出さないというより、初めて依頼を受けた時、そういうもんだってことを知らなかった(笑)。なので、最初は手描きでラフを描いて、それを元にみんなで作っていきました。ある時くらいから、私のそのスタイルに興味を持ってくださる方が増えてきて。今は、仕事の内容にもよりますが、あえてスタイルを崩さないようにしています。広告となれば、突き詰めたレファレンスが強みにはなるとは思うのですが、そこまで型にはめない案件の場合、ビジュアルが決まりすぎてない手描きの強みが活きることもあるんです。
手描きの強みはチームみんながそれぞれこの絵に対して何をしたら良くなるかって、アイデアを出し合えること。私はルールをすごい気にしてしまうタイプなので、もし、型を習ってから始めていたら、わざわざそれを崩すようなことはしなかったと思うんです。
山瀬_私たちは、年齢も近いけど、年齢の歩みも割と近いなって感じますね。私も25歳でロンドンから帰ってきて、バイトをしながら、展示とかをやってました。日本に帰ってきて、日本の大卒の壁を私も感じたし、日本の会社で働いていない劣等感もありました。日本の会社で働きたい、そう思って就活して会社員になったけど、なったらなったで絵を描く時間が取れなくて、会社員になっても苦しくて、飲みに行ったりしてごまかすこともしていたけど、やっぱり満たされない部分みたいのがあったのかもしれないですね。だから会社員をやめて、この道を選んだんです。個展とか無理にやったけど、お金を生むのは大変でしたね。そんな時に、私もクライアントワークでフォトショップを使う案件を依頼されて、当時フォトショップは使えなかったけど、断ることもせず友人のデザイナーになんとか教えてもらって納品したんです(笑)。それから独学で使うようになって、今では使えるようになっているんですけど。なので、働きながら学ぶというか、お金を払って学んでいくことが全てではないという気持ちはすごいわかります。
とんだ林_もし、1人では抱えられないものが舞い込んできたら、人の手を借りて一緒に作っていけばいいんだ、っていうところに着地しましたね。むしろ、今では自分一人で作るより、チームで考え合って作り上げたものの方が、満足度も高いというか。 “こうでなければならない”という決めつけはあまりしないようにしています。
会社員は一旦余白を作るという意味で辞めてみた感じです。決まっていると、苦しく思うから。
とんだ林_私は会社員を辞める時、やりたいことは見つかっていなくて。何をしていいかわからないけど、“なんかやりたい”っていう状態でした。本当に目的もなかったけど、自分なりにやりたいこと、自分なりのベストを考えるようになりました。
山瀬_自分はどうしたいんだって自問自答したんですね。
とんだ林_販売員の先に見える未来が、本当に自分のなりたいものなのかなって考えましたね。会社の目標を自分の目標だと決め込んでしまうと、ときにその目標にとらわれて、頑なになってそっちに向かっちゃうというか、自分にはもしかすると向いてないかもしれないのにずっとやり続けてしまうことってあると思うんです。自分がどういう生活をしたいかということを立ち返って考えて、それを実現させるために、この今の会社がやっぱり必要だなとか、必要じゃないかもなって答え合わせをしてみる時間は重要だと思うんです。だって、会社って自分が望んで入ってるはずだから。本来の目的というか、ポジティブにした目標とかを再確認して、とりあえず今は頑張ろうかなって思えたら頑張ってもいいと思うし、なんか違うかなと思ったら別にやめてもいいんじゃないかな、という考え方なんです。
山瀬_私も、自分のことをまずは考えてる。前編でとんだ林さんが恋愛について、いろんなことを教えてくれるっていう話をしていましたが、自分が悲しいとか、相手が悲しんでいるとか、気持ちを感じる時って、大切な何かを感じてるわけじゃないですか。だから、ちゃんと自分の声を聞いてあげるみたいなのは、大事だなって思います。今の自分、どんな感じですか?って。明らかに体調悪いなとか、やっぱりある程度そこは素直に自分の心に聞いて決める時間を作った方が健康的ではありますよね。
本当は何がしたい?っていう理想を思い描くのは大事な気がしています。
とんだ林_現状にあるしがらみはまずは置いておいて、それをまっさらにした時に、何にでもなれるとか、どういう生活でもできるよって言われたら?仕事として割り切るのも偉いとは思うんですが、それをまず思い描くことが大事というか、意識することが大事なのかなって気がしてるんです。もし、できるとしたらっていうことを考えるのが一歩を踏みだす前のスタート地点だという気がしているんで。
山瀬_選択肢があって、一つを選択すれば、それ以外を捨てることでもあるじゃないですか。そのベストになる軸ってなんなんだ。その時どういう基準を持ってその選択をしてるのかなって思った時に、私は完全に気持ちなんですね。メリットとか状況って、その時次第で、時間が経つと結構ひっくり返ってもおかしくないことかな、と思っていて。その時のメリットは不確かなものと思ってしまうんです。逆に気持ちに従った方が後悔がない。もちろん難しい時もあります。でも、感情の方が後悔はないので、結局それが本心というか、教えてくれてるのかなっていう気がする。
とんだ林_メリットを優先して選ぶことはすごい良いと思うけど、気持ちとしては本当はあっちやりたかったって思ってしまうというか、気持ちの整理がつけられずに、パラレルワールドじゃないけど、そっちをなんか引きずっちゃう気がして。でも、気持ちを優先して選んだら、それが茨の道であったとしても、なんか、自分が納得できる気がします。むしろ、私はあんまりうまくいかない方を選ぶ方が面白いかなっていう気持ちもあるし。茨の道だなってわかっていても、やってみないとわかんないし、そっちに飛び込む面白さみたいな、そういう選択をした人じゃないと得られない何かもあるのかなって、どこかで思ってるところがあるんです。
Profile
とんだ林蘭 Tondabayashi Ran
1987年生まれ。2012年より、イラストレーターとしてキャリアをスタート。あいみょんのCDジャケット制作を手がけることをきっかけにアートディレクターとしてのキャリアが始まる。現在は、多くのアーティストのジャケット制作や、百貨店などとのコラボレーション制作、広告などのクリエイターとして活躍。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。