人の多面性を受け入れたら、救われることもある 生方美久×山瀬まゆみ

ことなるわたしたち

脚本家の生方美久さんをゲストに、働き方への姿勢について語り合った前編。真面目さが故に、リスクの想定を立ててしまうと語った生方さん。後編では、真面目な性格がどう仕事に影響されているか? 生方さんにとって不真面目とは? など、今回のトークテーマである「真面目さと不真面目さ」を深掘りしていく。
真面目はつまらない?不真面目は個性?
山瀬まゆみ(以降 山瀬)_前回は仕事における割り切り方を語らった際に、生方さんの真面目な側面が見えてきました。実際に、脚本家のお仕事にはその真面目な部分が出てると思いますか?

生方美久(以降 生方): そうですね。よくスタッフにも“真面目だね”って言われています。象徴的なのは、私、原稿の締切は絶対に守るタイプなんですね。実績としても、これまでに締切を超えたことはないんです(笑)。世間一般的に言えば、言われた期日を守る、それって当然のことだと思うんですけど。業界的には守らない人も結構いるみたいなんです。それで、プロデューサーや監督など、現場の仲間からは“真面目だね”って。
山瀬_私も似て非なる業界にいますが、そういうのは守りたい派です。根はちゃんとしたいタイプだから、最低ラインとして、スケジュールは守りたいですね。だって、社会にそういう最低のルールがなくなったら、全部壊れちゃうじゃん、って思うから。
生方_そうですよね。本来はいい意味で受け取るはずなんですが、私はダメって言われているような気がしてしまうんです。自由な働き方を求める人が多い中で、ちょっと変わってる、尖ってるくらいの人の方が業界的には面白いものを作れるみたいな風潮もあるじゃないですか。だから真面目って言われると、つまんないやつ、って思われてるんじゃないかって心配になるんです。

生方_時間のルールで言うと、打ち合わせにおいても、“遅刻したことないよね”って、褒められたことがあって。いや、当たり前じゃんみたいな。でも、中には、いつも遅刻してくる人っているんですよ。時間を守らず、でも当たり前な顔をして現場に登場してくる(笑)。そして、謝らない。なんでそんなに自分本位に生きられるんだって、ある種、羨ましく感じてしまうんですよね。私は、打ち合わせやこういった取材で、そこが初めて行く場所だったら、電車の時間とかそこまでのルートとか調べて、何度も確認して。絶対に遅刻したくない、という“心配性”に囚われてしまうんです。そういう性格だからこそ、囚われず自由に生きている人に、ちょっと憧れてしまうんでしょうね。
山瀬_ でも現実はそんな性分ではないご自身として、“真面目”をどう割り切っているんですか?
生方_基本的にネガティブですけど、頑張ってポジティブに思考を変換するんです。早く原稿を出せば、向こうもちゃんと読む時間を確保できるし、結果的にクオリティにも繋がるはずだって。
山瀬_ すごい真面目(笑)。すごくいいと思います。
生方_本当に(笑)。根本にあるのが、とにかく作品のクオリティが高くなることを最優先にしたいって気持ちなんで。その時間を確保できたから、こんなにいい作品が実現できたんだって、気持ちをさらにポジティブに切り替えることもできますしね。
真面目はダサい?

山瀬_ 私も根は真面目なんです。今日ちょっと事前企画書の中で、“不真面目になる勇気”がテーマにあったから、話そうと思っていたエピソードがあって(笑)。
生方_どんなご経験が?
山瀬_ 私、持久走が得意で、足がすごい速かったんですよ。中学校の頃って体育でマラソン大会があったじゃないですか。それで私、大真面目に大会でめっちゃ速く走っていたんですね。折り返しを超えた後、後続の人とすれ違うじゃないですか、速いから(笑)。そしたらすれ違いざまに、不良のグループってほどじゃないですけど、先輩に、すごい笑われたんですよ。
生方_なにか言われたんですか?
山瀬_ “まゆ(山瀬)速くて、マジウケんだけど(笑)”みたいな。
生方_ああ、嫌ですね~。わかります。
山瀬_ 何、真面目に走ってんの(笑)?みたいな。私の当時の感覚だと、速く走ること、手を抜かないことこそ、当然のことだし、正義と思っていたんで。全力も出さないでそもそも歩いちゃっていたその子たちに笑われたことが、すごく恥ずかしかったんですよ。
生方_その後、どうしたんですか?
山瀬_ 真面目な行動は恥ずかしいことって、刻まれちゃって。だから次の年は私、マラソン大会に出なかったんです。
生方_え!

山瀬_ 極端ですよね(笑)。 でも、真面目っていうのが、なんかこの業界だと裏目に出ることもあるっていうか。ちょっと遅れていくのがかっこいいとかも、それこそ、ファッショナブリーレイトみたいな言葉があるぐらいだから。真面目=気合いの空回り、みたいに思われることもゼロではない業界というか。 まさにそのマラソンで笑われた時の感覚をまだ覚えていて。真面目がダサいみたいな。不真面目な素振りをみせることも結構ありましたけどね。でも、やっぱり元はきっと真面目だったんで、今は無理をせず、真面目な自分に戻っている気がします(笑)。
真面目が故に、不公平を感じた思春期

生方_私の学生時代はどちらかというと、横道にはそれず、コツコツと勉強をして、進学も、就活も頑張って、真面目に生きていたって感じです。私には全く気質が真逆の兄がいるんです。子どもながらに、両親も自分より兄を目にかけているように感じてきました。ある日、親戚に二人で通知表を見せたことがあって。私は地頭がいいわけではなく、負けず嫌いな性格もあって勉強も努力したんですね。それで5とかの評価も多く、頑張ったね、と普通に褒めてもらいました。かたや、お兄ちゃんは2とかばっかりの評価で。それを見た親戚は、“お兄ちゃんは優しいんだからいいよ”って言うんです。横にいる私としては、まず、お兄ちゃん“は”、に引っかかって。私“は”優しくないから、勉強は頑張れってこと?って。何のために頑張ったんだろう、みたいな。捉えようなのはわかっていても、世の不公平を感じたときではありました。
山瀬_ そういうつもりで言ったわけじゃないんでしょうけど、自分に投げかけられた言葉ではない方が逆にこっちに刺さってくることってありますよね。人から見たら、生方さんは真面目であっても、自分自身では負けず嫌いだからやってるって。人によってそれぞれ、その人の側面に対しての解釈が違いますよね。まさにこの企画のように(笑)!
人は一面だけじゃない

生方_この仕事をしていて特に思うのが、イメージを持たれやすい職業なんだなって思うんです。自分の名前が出るからって言うのが大きいのでしょうけど。作品の印象が私の印象になってしまうというか。作品に対して、悪いことを言われたらシンプルにショックですが、逆に「こんないい作品きっと優しい人が書いたに違いない」って、褒められたとしても、いや、私自身はそんないい人じゃないです、みたいに思ってしまう。
なんかそういう、作品を観て、脚本家の一面を想像してもらうのはもちろん自由だけど、直接言われたり書かれたりすると、なんだか自分が自分じゃないところで勝手に形成されてくる感じがして、違和感を覚えてしまうんです。その、他の自分の違う面を無視されているような感じがもどかしいというか。
人って一面だけじゃなくて、多面性があるって思っていて。ドラマでも描いたんですが、いろんな側面を持っているのが人だよね、ということを伝えたくて。同じ人でも、ある人から見れば全然違う印象を抱いてることってよくあると思うんですよね。

生方_ 共通の知り合いに対しても、ある人はすごく純粋な人だって思っていても、違う人からみたら、すごい頑固な人って思われている場合もあるじゃないですか。人間、誰だって誰かしらからは好かれて、嫌われているってことももちろんあるものだし。自分から見えてることはもちろん事実だけど、でも、そうじゃない面もあるって思っていて。それは頭では理解できているんだけど、受け入れるのってすごい難しい。ただ、そういうことってあるよね、っていうのを知ってくれることで、救われる人がいたらなって。
誰かの嫌いな人が、誰にとっても嫌いな人ってわけじゃない
山瀬_ 人間関係を俯瞰で見すぎると嫌になりますよね。今って、自分が、自分の周りからどう見られてるかっていうのを気にしてしまうものだと思うんです。でも、360度、全方向で人の目を気にし始めてしまったら、身動きも取れなくなるじゃないですか。だから生方さんのいうように、人には多面性が必ずしもあって、人によっては自分への見方は変わるものなんだって思っておけば、救われるっていうのも頷けます。
さっきのお兄さんとの比較じゃないけど、生方さんのご親戚の方も、もしかしたら、生方さんにどれだけ手を回したとしても、言っても聞かないというか、自分で動きたいタイプっていう一面を見ていたんじゃないですか?

生方_ 確かにそうかもしれないですね。でも瞬発的にというか、破天荒だったり、不真面目な部分も受け入れられている人を見ると、羨ましいと思うのは事実で(笑)。ちょっと自由に生きるぐらいの方が面白いんだろうなっていうのも思ってはいます。だけど、結局長い目で、自分の性格を踏まえて人生を考えたら、真面目に生きて損することはない、得になるはずだって、そこもわかってはいるんです。

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Profile
生方美久 Miku Ubukata
脚本家。1993年、群馬県生まれ。群馬大学卒業後、助産師として勤務する傍ら、2018年から独学で脚本執筆を開始。2021年、第33回フジテレビヤングシナリオ大賞で『踊り場にて』が大賞を受賞。同年、第47回城戸賞で『グレー』が準入賞を受賞。2022年、連続ドラマ『silent』で脚本家デビュー。その後の執筆作にドラマ『いちばんすきな花』『海のはじまり』、映画『アット・ザ・ベンチ』など。GINGER webにてエッセイ『ぽかぽかひとりごと』を連載中。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。。
Photo Mai Kise / Text Chie Arakawa / Edit Chie Arakawa, Ryo Muramatsu