店舗、EC、カタログなど複数の顧客接点をどう融合させていくか。新CRMチームがアプリを核に考える「お客様への寄り添い方」(前編)
- RECRUIT

こんにちは。ブログ担当の土井山です。
2018年から始まったリブランディングを背景に、オルビスは様々な組織改革に取り組んできました。その中で、創業時から重きを置いてきたCRM(顧客関係管理)における事業計画の柱のひとつとなっているのが「アプリコア戦略」です。
オルビスは1987年に創業し、カタログ通販で築いたお客様との関係性・CRMを基軸に、ECや店舗などチャネルを広げながら成長してきました。今後もそれら培ってきたものをアセットとして活用しながら、「ORBISアプリ」を核としてお客様とのパーソナルな関係性をさらに進化させ、ブランド体験を向上させることを目指しています。
その、お客様との「深く、長い」関係づくりを担っているのが、2022年1月から正式に新体制で動き出した「CRM統括部」です。今回は、CRM統括部 部長の松枝奏輔さん、CX統括担当部長の井口悦雄さん、店舗統括・BtoB担当部長の石田龍太郎さん3名のインタビューを前編・後編に分けてお届けします。
前編では、売上500億円規模であるオルビスの土台を培ったこれまでのCRMを振り返りながら、一段とアプリを進化させた、新しいCRMの構想に至るまでの経緯について聞きました。
縦割り化した組織を見直し、シームレスな顧客体験を
――そもそもCRM統括部では、どのような業務を担っているのでしょうか。また部内における、それぞれの役割についても教えてください。
松枝:オルビスにおけるお客様との接点は、大きく2段階に分けられます。ひとつはオルビスを利用したことのない人に向けた「はじめまして」の働きかけ。もうひとつは、一度でもオルビスのサービスを利用したことのあるお客様に対して、どうコミュニケーションを取り、関係性を深めていくかの働きかけです。この後者を担当しているのが、我々CRM統括部です。
CRMの中にはコールセンター、EC、アプリ、店舗など多様なお客様との接点が含まれています。その全体像を見渡し、日々のコミュニケーションをどう構築していくのか、総合的に統括するのが部門長としての役割です。
井口:CX(カスタマーエクスペリエンス)の担当として、アプリやECなどのデジタルメディア管理と、CXに関わる新しいサービス企画の立案を主に担当しています。
石田:直営店とBtoBの両方を統括し、直営店の営業・販促・人事のほか、店舗やBtoBの事業戦略策定などを担っています。
――オルビスは以前から、カタログや店舗などを通じてCRMに力を入れてきました。この1月より、CRM統括部が新体制でスタートした背景にはどういった狙いがあるのでしょう。

松枝:おっしゃるとおり、オルビスは1987年の創業以来、カタログ通販モデルを通じてダイレクトマーケティングを行ってきた企業です。カタログという紙媒体でのコミュニケーションでお客様にお買い物をしていただき、その購買情報を分析して、カタログの送り方に反映するという、独自のCRMを構築して成長してきました。成長期に入り、1999年にEC、2000年に店舗展開など購買チャネルは広がります。CRMも通販、店舗とチャネル別の運用をしていく形になっていきました。
ですが他の通信販売ブランドやナチュラルオーガニックブランドが台頭するなか、市場でのオルビスのプレゼンスが低下。さらに近年のデジタル化の流れからコミュニケーションの主軸もデジタルにどんどんシフトしていきました。2018年より第二創業期と捉え、価格勝負の通販事業を脱却しリブランディングを実行し、ブランドビジネスへ事業転換しました。

【写真】創業時のカタログ

【写真】1999年 オルビス・ザ・ネット(ECサイト)オープン
井口:2018年にブランドの象徴商品「オルビスユー」をリニューアルしたのも、そうした背景からでしたよね。オルビスの原点に立ち返り、まずはスキンケアを中心とするビューティーブランドとして商品から対外的な見え方を変えていこう、と。
結果「オルビスユー」は過去最高の売上を記録し一定の評価を得ましたが、同時に購買チャネルがカタログ・店舗・ECなど縦割りになったままだと、シナジーが起きづらいという課題も見えてきたんです。
松枝:そもそもお客様にしてみれば、カタログを見て電話で買おうと、店舗で買おうと、ECで買おうと「ひとつのオルビス」です。その時々の状況や気分に合わせて最もフィットしたチャネルを使うのが便利であるはず。ですから、チャネルごとにバラバラになっていたCRMをひとつの組織内に集め、お客様との密なコミュニケーションを作り上げる部署として再構築しようというのが新体制発足の背景です。
もちろん、リブランディングが始まる前からOMO(オンラインとオフラインの融合)を見越して、各チャネルで手分けしてシームレスに動けるように準備は進めていました。その舞台が整ったので、部署として1月からスタートしたのです。
販売促進よりも、まずは「お客様の利便性」を改善することから
――リブランディングに伴って、「ORBISアプリ」を起点としてデジタルとリアルを融合させ、お客様一人ひとりに合わせたブランド体験を提供する「アプリコア戦略」が掲げられました。

井口:スマートフォンが普及し、世の中のOMO化が進んでいく背景を考えると、今の時代にお客様に最も寄り添えるデバイスはアプリだと考えました。
開発のロードマップを考えるうえで大切にしたのは、「お客様との距離を縮め、深い関係性を築いていく」こと。購買を最優先にしなかったという意味では理想論的な戦略かもしれませんが、お客様により深くオルビスを知っていただき、愛着を持っていただければ購買は必ずついてくるはずだ、と。
そこでまず着手したのが、カタログ・EC・店舗を利用してくれている既存のお客様に寄り添うことです。どのチャネルでもシームレスにお買い物をしていただくため、店舗で採用されていた磁気リライト式ポイントカードを廃止してアプリのポイントカード機能に統合しました。
店舗のお客様にアプリを入れていただいた後、通販機能を実装すれば、通販でも店舗でもお好きな場所でスムーズにお買い物ができるプラットフォームになるというのが狙いです。
また、カタログやECをご利用のお客様に対しては、メール便でも配送状況を追跡できる機能や、支払い用バーコードを表示する機能など「買い物のしやすさ」に着目を置いた機能を盛り込み、アプリへの誘導を進めました。
現在は、半年以内にオルビスで購入いただいたお客様のうち、6割弱の方々がアプリを利用していただいており、過去からのアプリ登録累計人数は約284万人にも達しています(2022年6月末時点)。この数字に関してはほぼ想定通りでお客様と密に繋がるための土台ができた手応えがあります。
――店舗では、アプリという新しい仕組みが入ってくることに対しての反応はどのようなものでしたか。

石田:店舗は販売拠点でもありますが、接客を通じてオルビスのブランド価値を上げたり、お客様に寄り添ったサービスを提供し、LTV(顧客生涯価値)向上につながる存在でもあります。一人ひとりのBA(ビューティーアドバイザー)に対しての売上ノルマがない、と話すと社外の方にはよく驚かれるのですが、あくまで接客の中心は「オルビスというブランドがお客様にどうご満足いただけるか」という点なんですよね。
そうした背景から、店舗側に「通販にお客様を取られる」のような反応は当然なく、BA自身が「アプリをご使用いただくと店舗だけでなく通販でもポイントが使えますよ」と紹介するような行動にスムーズに移行できました。2020年から始まったコロナ禍の最中、来店できないお客様に通販をご案内する動きが他社に先行してできたのも、ひとつの成果だと思います。お客様がご納得いただき、購入したいチャネルで買っていただくためにも、店舗を使われたお客様が通販でお買い求めされた場合でも、一部店舗の売上とみなすというような指標も取り入れています。
井口:オムニチャネル化を進めると、「部署間の売上の食い合い」という問題が立ちはだかるのが一般的です。ですがオルビスの場合は、代表の小林が「アプリコア戦略」を明確に打ち立て、先ほど石田が話した指標のように、部門単位の売上以外の評価指標を補強して、貢献度や寄与度を評価する形に環境を整えました。
もともとオルビスの社員は顧客価値を最大化したい、お客様にここちよい接客をしたい、という思いを持っています。
2018年のリブランディングと組織改革に伴った評価制度の整備によって、お客様一人ひとりに寄り添った「スマートエイジング®」の価値観を実践していくという、みんなの意思がひとつになり、そこに向かっていく原動力になったのではないかと感じています。
石田:また2019年の「パーソナルAIメイクアドバイザー」、2020年の「AIアイブローシミュレーター」など、ORBISアプリ内にAIを活用した分析サービスが追加されたことで、それらを自宅で活用してもらうような接客も可能になりました。直営店のなかでも、アプリを上手に活用している店舗ほど売上や利益が伸びている傾向があり、よい形で連携できていると言えます。
井口:ポイントカード機能実装を終えた後、さらにお客様にとって有益な機能を用意するためBAにヒアリングを実施したんです。その際に「接客時にお客様に納得感を持っていただけるエビデンス情報がほしい」という声があったため、カメラを使ったオリジナルの肌測定デバイスを開発して店舗に設置しました。測定結果をアプリで見ていただけて、美容のアドバイスも提供できるようにしたんです。その他のアプリ内のAIを活用した分析サービスも、お客様が判断に迷いそうなこと、BAが短時間で説明しづらいことを補う目線を大切にしながら企画しています。
まだ見ぬ新しい連携の形を生み出せるかが、これからの課題に
――お客様との接点が新しく生まれ変わっていくのに伴って、進化するのがアプリの特徴だと思います。目下の課題についても教えてください。

【写真】「ORBISアプリ」内コンテンツ
松枝:現在「ORBISアプリ」のダウンロード数が約438万件、うちMAU(月間アクティブユーザー)は約55万人です(2022年6月末時点)。昨年10月に2.3万件だったAPPストアのクチコミは約4万件にまで成長、平均で星4.5の評価をいただいており、業界内を見ても特筆すべき数字となっています。いち早くデジタル化に取り組んだ先行者利益に加え、井口が話した「この段階で何を実装すれば、ユーザーメリットを最大化できるか」という優先順位でアプリ開発に取り組んできたことが大きいと考えています。
一方で、お客様の求めることだけをやっていてもブランド価値は上がりません。「スマートエイジング®」というブランドの意思を発信し、そこに価値を感じ、共感していただくことと利便性が両輪になってまわり始めてこそ「長く、深い」関係づくりに繋がるはずです。

全てのお客様の購買アクションをデータ化しているのがオルビスの強みです。アプリユーザーが増加すれば、ますます多様なデータを抽出でき、お客様一人ひとりに寄り添ったよりパーソナルなコミュニケーションが取れるようになります。
反面、たとえば「店舗に行く前にスマホで商品を調べる」といった消費者行動は、15~20年前にはなかった新しい動きで、それについては各自が時代の変化にアンテナを張り、頭を働かせていくしかありません。
いかに店舗、EC、カタログなど各チャネルが現場で起こる変化の兆しを共有し、CRMに反映させられるか。これまでにない新しい連携をどれだけ柔軟に生みだしていけるか、が今後の課題になるのではないでしょうか。
後編では、今回の話題に続き「新CRMが目指すこれからの顧客体験づくり」についてお話を伺います。
取材・文:木内アキ
※本記事内容は、公開日(2022年7月15日)時点の情報に基づきます。
Profile
松枝 奏輔(Matsueda Sosuke)
マーケティング部門においてプロモーション企画を担当後、顧客購買データの分析官として活躍。新規事業プロジェクトでは、ECサイトおよび当時では珍しかった、コンテンツサイトの立ち上げを主導した経験も。顧客体験価値創造として、デジタルをコアとしたサービス企画開発を担うCXデザイン部を経て、2022年1月からCRM統括部 部長。
井口 悦雄(Iguchi Etsuo)
デジタルマーケティング(EC運用改善領域)、情報戦略(現OnetoOne)、情報システムを経験。直近では「パーソナルスキンチェック」、「パーソナルファンデーションカラーチェック」、「パーソナルAIメイクアドバイザー」、「AIアイブローシミュレーター」、「AI未来肌シミュレーション」など、テックを活用したパーソナルサービスをローンチしている。2022年1月からCRM統括部 担当部長(CX統括担当)。
石田 龍太郎(Ishida Ryutaro)
情報システム部にて、物流機能や受注機能など通販基幹システムの開発運用に従事。その後、グループマネジャーとして通販の新機能追加や基幹インフラ再構築などのマネジメントを行い、海外シンガポール法人のECサイト立ち上げも経験。2018年より、営業部 店舗営業グループマネジャーとして直営店の売上拡大や人事を担当し、現在は直営店に加えてBtoB事業の販路を拡大。2021年1月からCRM統括部 担当部長(店舗統括・BtoB担当)。