里山再生に10年。 人と自然の共生を目指す、オルビスの森づくりとは
JOB&CULTURE
こんにちは。サステナビリティ推進室の佐々木です。
サステナビリティ推進室は、通常業務と兼任するメンバーで構成された、オルビスのサステナビリティ活動を推進するチームです。すべてのアクションは社会の共存、地球に繋がるという考え方のもと、持続可能な「ここちよい社会」の実現に向けてさまざまな取り組みを行っています。
今回は事業外の取り組みの中から、長年取り組んできた「甲州市・オルビスの森」里山再生計画をご紹介します。 この計画は、山梨県甲州市にある市有林約100haを「甲州市・オルビスの森」と名付け、10年の歳月をかけて荒廃した里山の再生に取り組んできたプロジェクトです。2021年に活動を完了し、2022年から活用を開始していますが、これはオルビス、甲州市、オイスカが三位一体となって実現できた取り組みです。
今回の記事では、ともに人と自然との共生を目指してきた甲州市、オイスカの担当の方にも話を伺いながら、どんな思いでオルビスが里山の再生に向き合ってきたのかをお伝えしていけたらと思います。
【動画】撮影時期は紅葉がはじまりかけた頃、森の広さを体感していただけるようドローンも使って撮影しました。美しい秋の風景とあわせ、森の見どころはもちろん、川のせせらぎや風の音も楽しむことができる内容になっています。
【MAP】森の全景だけでなく、イラストを交えて見どころや楽しみ方について解説しています。生えている木の植生がわかるようになっているところもポイントです。
創業当時から環境への負荷を意識し、国内外で継続的な森づくりをスタート
はじめに、どうしてオルビスは長年に渡って森づくりに取り組んできたのでしょうか。
それはオルビスの業態が、カタログを中心とした通販事業により紙の原料である材木を多く消費してきたからです。「原料となる木を少しでも自然に還元したい」という想いから、国内外で環境負荷低減に向けたさまざまな活動を行ってきました。
国内では、2002年に「武田の杜」を皮切りに山梨県で環境活動をスタートします。2007年には「富士山の森づくり」、そして2012年より「甲州市・オルビスの森」プロジェクトを開始しました。同時に海外では、フィジー共和国の子どもたちとの交流、マングローブの植林などを実施してきました。
では「里山再生」とはそもそも何なのか、どんな影響がある取り組みなのか。オルビスが里山再生にかける思いと併せてお伝えしたいと思います。
生物多様性の宝庫である「里山」と、「ここちよい社会の実現」を掲げるオルビス
里山とは、人が手入れをして多様な生きものが共生できる環境や、景観が守られている山のことを言います。荒れた里山を再生することで、後々の環境にも良い影響を与えることができます。
持続可能な「ここちよい社会の実現」を掲げるオルビスと、里山再生の考え方は共通する部分も多く、特に多様な生きものが共生できる環境は、様々な個性が共存できる「ここちよい社会」にも繋がります。 ですから、里山再生もブランドメッセージの具現化の1つとして活動を続けてきたのです。
里山再生が環境に与えるインパクトとは?
里山再生をするためには、まずは、何年もかけて植栽・間伐・下草刈りなどを地道に行い、荒れた森林を整備することが必要です。年に1~2回、オルビスの社員やその家族もボランティアとしてこれらの活動に参加してきました。
このように適切に整備された里山には、下記のような効果が期待できます。
生物多様性の保持
多くの生きものが支え合ってバランスを取ることで自然災害や環境変化に強い森になります。
水涵養機能
「すいかんよう」機能、と読みます。ちょっと聞きなれない言葉ですよね。降った雨水を蓄えたり、逆に雨が降らない時にも河川の水が干上がらないようにするなど、ダムのような役割をしてくれる機能のことです。また、雨水が森の土壌を通って河川に流れていくことで、水質が浄化されます。
CO2吸収
現在、年間198tの二酸化炭素を吸収しています。一般家庭が1世帯で排出する年間CO2量は、年間約5.6t。一般家庭が排出する約35年分のCO2を吸収できることになります。
つい自慢したくなってしまう効果ばかりですが、再生が完了するまでには苦労の連続でした。木を植えても、植えてもシカに食べられてしまったり、毛虫が大量発生(!!)したり・・・。
問題が起きたらその都度、甲州市、オイスカ、オルビスで相談をし、専門家の意見を交えながら試行錯誤して対策を立てて進めてきました。
【写真】甲州市、(公財)オイスカ、オルビスによる現地調査「甲州市」「公益財団法人オイスカ」とともに取り組んできた里山再生10年のあゆみ
オイスカ啓発部普及部 参事 廣松和親さんに聞きました 「オルビスの環境保全活動の特徴とは?」
森づくりは、オルビス社員だけで行うことができたわけではありません。森林保全活動に造詣が深い(公財)オイスカさん、保有する自治体である甲州市さんとの協力が不可欠でした。 オイスカ啓発部普及部 参事 廣松和親さんは、取り組みが始まった当時のことをこのように語ります。
「お付き合いは2002年からなので、もう20年以上のお付き合いになります。 まず、環境保全活動を特別なことではなく、自分たちにとって当たり前のこと、と捉えている企業風土が感じられました。事業活動の中でも、創業当初から簡易包装を心がけていらっしゃるなど、環境への配慮を継続されていますしね。
当時は「カタログ中心の通信販売で紙を大量に消費する」という業態が環境に与える影響などを考え、「原料となる木を少しでも自然に還元したい」という想いから開始された活動だったと記憶しています。
それが、甲州市・オルビスの森においては「守るだけでなく活用できる森にする」という、新しい視点を取り入れた活動に変化していきました。同じことを繰り返すのではなく、視野を広く持って発展させたことで成果を上げられたのではないかと思います」
様々な企業・自治体の環境活動に携わるオイスカさんからみて、オルビスの活動の特徴とはどんなところだったのか。率直に聞いてみました。
「環境活動の事務局が、自らの業務と兼務で、部署を横断して環境活動に取り組んでいるという点です。他の会社ではあまり見られない形でした。 資金面での活動支援だけを行っている企業も多い中、オルビスさんの場合は当初から多くの社員のみなさんが現地での活動に参加されている印象です。部署を横断することで社内浸透がしやすかったのかもしれませんね。
環境活動には社員だけでなく、ご家族を含めての参加を推奨された点もそうです。特に、お子さん連れで参加される方向けの「キッズプログラム」を用意し、子どもたちにも環境教育の場を提供できたのは良かったと思います」
【写真】子どもたちが森と触れ合う「キッズプログラム」の様子
里山再生、そして地域活性へ
森林を整備しただけでは、里山再生とはなりません。里山は活用されて初めてその価値を発揮するものだからです。 森の環境設計をともにしたオイスカさんは「森が持つ、水を貯えたり、多様な生物を生かすなどの機能と、完成後の活用の両方を実現する点」こそ、まさに苦労されたところだったと言います。
それでは、「ここちのよい体験」ができる場所として、活用しやすくする仕掛けについていくつかご紹介していきます。
◆四季の展望台
展望台は、森の全景を眺められる場所で、心も体もリラックスしながら自然を味わうことを目的に設置しました。眼下に広がる桜の森は、オルビス社員が丹精込めて植樹しました。夏には新緑、秋には色とりどりの紅葉など、季節の移ろいを楽しむことができます。また、森の横にはブドウ畑「メルシャン天狗沢ヴィンヤード」があり、ブドウの実る様子も楽しめます。
※冬(12~4月)は林道閉鎖で森には入れません。詳しくは甲州市HPをご確認ください。森の詳しい情報も掲載されています!
◆木漏れ日のステージ
多種多様な森の楽しみ方を後押しできる環境づくりとして、ステージを設置しました。一人でも多くの人に森に足を運んでほしい、そのためには気軽に使える設備が必要ではないか、との思いからです。「甲州市・オルビスの森」の整備が進むにつれ、森の中で音楽会を開いたらどうだろう、青空の下お茶会をやってみたい、という声が地元の方から続々と寄せられました。また、小学校の環境教育の場としても使いたいというお話も伺い、森の活用方法には無限の可能性がある、と気づきました。
枠にとらわれない使い方ができる森として、地元の方々はもちろん、県内外からも人々が集い、地域活性の拠点となるような場所にしていきたいと考えています。
そんな思いを込めたステージは、設置場所にもこだわっています。実はこの場所、かつて稲を育てていた棚田なんです。段差のある地形をそのまま利用しました。元々あった木をステージの中にそのままの姿で残したことで、時間の経過とともに変化する木漏れ日を味わうことができます。展望台もステージも、森で生まれた材を使いました。
他にも、様々な樹木の香りを楽しめたり、小川のせせらぎを聞くことができるなど、ハイキングコースとしても魅力ある森です。散策がしやすいよう、遊歩道や階段も専門家の力を借りながらしっかりと整備しています。
【写真】社員の手で整備した遊歩道と、遊歩道にある森の案内板
森の活用は、森を楽しむことだけを指しているのではありません。その一例としてご紹介するのが「甲州市・オルビスの森」の最寄駅であるJR塩山駅に設置されているベンチです。
【写真】JR塩山駅構内に設置されているベンチこのベンチには「甲州市・オルビスの森」を整備する際に発生した木材を利用しています。
甲州市役所の管財課 勝村公一さんに聞きました 「オルビスの森を今後どのように活用していきますか?」
森完成を迎え、いよいよ森を活用するフェーズに入ります。オイスカさん同様、長きに渡って協業してきた甲州市役所の管財課 勝村公一さんに今後、どのように森を活用していきたいと考えているのかを伺いました。
完成記念式典で市長が「自然とのふれあいをコンセプトに市内外から人を呼びこんでいきたい」と話していました。
市街地からもアクセスしやすい場所ですので、気軽に森の散策をしていただきたいと思っていますので、地域の保育所、保育園、小学校などにオルビスの森の案内を送ろうと考えてます。
「木漏れ日のステージ」は、野点(お茶会)やヨガ、音楽会など、自然と文化活動を一緒に楽しめる利点を活かして様々なイベントに使っていただけますし、市としても積極的に情報発信していきたいと考えています。
また、小学校などの環境教育の場としても安全に活用できるのも魅力です。昨年は甲府市の小学校が環境学習を行い、森の中でゲームをしたり、のこぎりで丸太切りの体験をしました。
地元の小学校では隣接する学校林と甲州市・オルビスの森で自然学習会を開催するなど、すでに活用は始まっています。今後は、市内外の学校にも広く使っていただきたいと思います。
「自分がきれいになると地球がきれいになる」社会の実現を目指して
今後は、森というリソースを活かしながら地域社会へ良い影響を与える取り組みを継続することが、本当の意味での森の活用だと考えています。
「甲州市・オルビスの森」プロジェクトの10年におよぶ里山再生の取り組みが認められ、2022年には環境省による「地域環境美化功績者表彰」を受賞しました。今後も3社のパートナーシップを加速させながら、継続的な環境保全活動と森の活用を通して、「自分がきれいになると地球がきれいになる」社会の実現を目指します。
「自分がきれいになると地球がきれいになる」とは、省資源を加速させるライフスタイルの推進と、人と自然のここちよい共生を加速させるパートナーシップの発揮の両軸によって、あらゆる人が環境課題の解決に貢献できるシステムづくりを指します。
そして今、社員自らが現地に足を運び、目で見て手で触れ、作り上げてきた森が完成し、初めての春が訪れています。是非とも多くの方に足を運んでいただき、森のここちよさを体験してもらいたい、という思いでいっぱいなのです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
オルビスでは現在、一緒に働く仲間を募集しています。少しでも興味をお持ちいただいた方は、ぜひこちらからご連絡ください。
皆様のご応募、お待ちしております!
※本記事内容は、公開日(2023年5月8日)時点の情報に基づきます。
Profile
佐々木 美枝(Sasaki Mie)
2006年入社、SCM部ロジスティクス管理グループ所属。物流業務を担当しながら、サステナビリティ推進室を兼務し、環境活動を中心に活動している。