2025.8.18

「もう一度、旅に出たい」|小児がんの子どもと家族に寄り添う支援

PROJECT

SUSTAINABILITY

 ORBIS

未来を担う子どもたちを、お客様とともに、ポイント寄付やコラボ商品のご購入を通じて応援する「ORBIS ペンギンリング プロジェクト」。その支援先のひとつ、特定非営利活動法人ジャパンハートには、「スマイルスマイルプロジェクト」という活動があります。

これは、国内で小児がんと向き合う子どもとご家族の「旅行に行きたい」「もう一度、思い出の場所に行きたい」といった願いを、医療者が外出や宿泊に同行してサポートする活動です。
この活動の背景にあるのは、「医療とは、ただ治療をすることではなく、関わる人の人生の質を高めること」という、ジャパンハートの考え方。そして、「目の前のひとりの『生まれてきてよかった』のために、一人ひとりと向き合う」という想いが、支援の原点になっています。

外出や旅行はご家族にとって大きな楽しみである一方で、体調が急変するかもしれないという不安も伴います。病気と闘うご家族にとって、楽しいイベントを計画することは簡単なことではありません。
だからこそ、医療者がそばに寄り添い、どうすれば叶えられるかを一緒に考えながら支える。そんな姿勢で、一つひとつの願いをかたちにしているのがスマイルスマイルプロジェクトです。

今回は、このプロジェクトに看護師として携わる伊藤さんにお話を伺いました。
「スマイルスマイルプロジェクトには、0歳から18歳まで、年齢も病状も異なる小児がんの子どもとご家族から依頼がきます。治療の合間のリフレッシュ、頑張ったご褒美、あるいは残された時間の中での思い出づくり―― どんな状況でも、ご家族と過ごす“キラキラとした記憶”を届けたいという思いで活動しています。」
そう語る伊藤さんは、新生児集中治療室での勤務経験をお持ちで、「命を救うだけでなく、その先の“心”も救いたい」との想いからジャパンハートに入職。日々、子どもたちやご家族のそばに寄り添い続けてこられました。

▲小児科医師でありジャパンハート理事長の吉岡さん(写真中央)と、伊藤さん(右から2番目)含む4名の看護師の皆さま。昨年度は年間450名の方々をサポートしてきたこの活動は、この5名によって支えられています。

“キラキラとした記憶”が、希望や支えになるように

「スマイルスマイルプロジェクトに参加されるご家族の中には、『うちより大変な子がいるはず』『お願いしていいのかな』と遠慮される方もいますが、『大丈夫ですよ』と、私たちは一人ひとりに丁寧にお伝えしています。治療の先に希望がある。頑張ったその先に楽しい時間が待っている。そう思える体験を届けたいというのが私たちの想いです。先ほどもお伝えした“キラキラとした記憶”は、特別なサプライズや非日常だけを指すのではありません。何気ない日常のひとコマこそが、大切な記憶になることがあります。」と語ってくださった伊藤さん。
たとえば「テーマパークに行きたい」という願いの裏には、アトラクションを楽しみたいという気持ちだけでなく、病気や治療で離れがちだった家族ともう一度一緒に食事をしたい、兄弟とゆっくり話したい、家族の笑顔を見たい…そんな“かつての当たり前”を取り戻したいという、切実な願いが込められていることもあるそうです。
スマイルスマイルプロジェクトでは、そうした声なき思いにも丁寧に耳を傾け、子どもとご家族の本当の願いに寄り添った支援を行っています。

ある子どもが、とある遊園地に行きたいと話していた時のこと。病気が進行し、ご自宅に戻れるかどうかも分からないほど体調が悪化する中で、その子自身、「行かない」という苦渋の決断を下しました。しかし、伊藤さんたちは全てを諦めるのではなく、「何かできることはないか?」とその子どもの心の奥にある気持ちを解きほぐしていきます。
「実はその子が本当にやりたかったのは、友だちにお土産を買ってあげたいということだったんです。自分は病気で出かけられず、いつももらってばかりだったから、自分から贈りたいと。」
そこでスタッフは、本人が選んだお土産を現地で購入し、飛行機で彼女のもとへ届けました。たとえ旅行に行けなくても、子どもの“想いを叶える”という目的は果たされたのです。

こうした一つひとつの願いに寄り添うため、医療的ケアが必要な場合でも「どうしたら叶えられるか」を丁寧に考えることが大切にされています。
「飛行機に乗りたいという子に、“リスクがあるからやめよう”ではなく、どうすれば安全に実現できるかを一緒に考える。それが私たちの役割です。」

▲テーマパークに同行中の一枚。闘病中の子ども・ご家族と、伊藤さん(写真左)。受けた支援を今度は自分が返したいと、お母さんは現在ボランティアとして活動を支えてくれています。

心を救う医療が、ここにある

昨年伊藤さんが担当したのは、残された時間を告げられた16歳の男の子。
かつて野球少年だった彼は、「北海道に出来た最新の球場に行きたい」と願っていました。飛行機を使う遠方の旅、さらに体調は日々悪化。ご家族は体調を考え近くの旅行先を提案したそうですが、それでも彼は「看護師さんが来てくれるなら、北海道に行きたい」と希望を伝え、ご家族もその意志を尊重して旅立ちを決断しました。

スマイルスマイルプロジェクトでは、当日の同行だけでなく、その日を迎えるまでの準備こそが活動の要です。
主治医との連携、医療機器や薬剤の手配、緊急時の対応体制づくりに加え、旅行先や宿泊施設との調整、ご家族との面談まで。看護師としての専門性を発揮しながら、ご家族との信頼関係を築き、一つひとつの行程を整えていきます。
「看護師が一緒にいるだけで安心できる、と言っていただくことも多く、その信頼と期待に応えるために入念に準備を行います」と伊藤さん。このときも16歳の男の子の体調や想いに寄り添いながら、本当に意味のある時間を届けるために、現場では細やかな支援が積み重ねられていきました。

そうして迎えた本番の旅。無事にその球場を訪れることができたものの、旅程の最終日を前にした明け方のことでした。「息子が苦しいと訴えている」と、お母さんから伊藤さんに連絡が入ります。数値には大きな変化がなくても、本人がそう言うなら、その感覚がすべてです。
伊藤さんはすぐに部屋へ駆けつけ、呼吸状態や症状の確認を行い、手を握りながら「どこが痛い?」「今日は何をしようか」と静かに語りかけ、背中をさすって、彼の容体は徐々に安定していきました。
「医療処置はしていないけれど、そばで話を聞いて、痛いと言う場所に手を当ててさするだけで落ち着くことがある。安心が苦しみを和らげることもあるんです。そこに医療者がいる意味を感じました。」

旅を終えた後しばらくして、お母さんから伊藤さんのもとへ「最後に彼が本当に行きたがっていた場所に行かせてあげてよかった」と連絡が届きました。子どもの願いを叶えられた記憶は、ご家族にとっても、これからを支える大切な力になっているのです。

▲16歳の男の子とご家族。兄弟とゲームをしたり大好きだった海鮮丼を食べたりと、旅行中は存分にやりたいことができたそう。

伊藤さんが強く感じているのは、子どもだけでなく兄弟や親御さんの心もまた、活動を通してほどけていくということ。長い闘病生活のなかで、自分の身なりを気に掛ける時間や余裕がなかったり、「楽しんではいけない」と知らず知らずのうちに思い込んでしまう親御さんも少なくありません。
だからこそ、旅の時間はご家族にとっても自分を取り戻す時間になってほしい。
気兼ねなく笑い、空を見上げる。おしゃれをして、美味しいものを味わう。
誰に遠慮することもなく、心からくつろげる時間を家族みんなで過ごしてほしいのです。
命を支えるだけでなく、心まで満たす。スマイルスマイルプロジェクトが届けているのは、まさに家族ごと“心を救う医療”そのものだと感じます。

この活動が「当たり前」になる未来へ

「点滴をつけたまま出かけていいの?」「車椅子でアトラクションに乗れる?」と戸惑うご家族も、提案を重ねていくうちに表情が変わっていきます。「できないと思っていたけれど、ただやり方を知らなかっただけなんですね」という言葉が届いたとき、この活動の意味が深く伝わったと実感するそうです。

一方で、「チューブがあると乗れません」「身長を立って測れないと入れません」と受け入れ側の施設から断られることも。そうしたときも、伊藤さんたちは「一緒にできる方法を考えてもらえませんか」と、施設側に働きかけを続けてきました。「やってみます」と応えてくれるところも、少しずつ増えてきています。

「この活動が必要なくなる社会が理想です」と伊藤さんは語ります。この取り組みは、子ども一人ひとりの願いを叶えるだけでなく、社会を少しずつ変えるアクションでもあるのです。

「生まれてきてよかった」と思える社会を目指して

「病気や障がいがあってもなくても、どんな子どもでも『生まれてきてよかった』と思える社会であってほしい」。伊藤さんの言葉には、医療の枠を超えてすべての子どもたちに寄り添いたいという願いが込められていました。
「スマイルスマイルプロジェクト」と「ORBIS ペンギンリングプロジェクト」の両方が共通して抱いている想いは、“優しさを循環させていく”ということ。どちらも、目の前のひとりを大切にすることから、やさしさの輪を少しずつ、でも大きく広げていこうとしているのです。

オルビスは、年齢や環境にとらわれず、その人らしさに寄り添い続けるブランドでありたいと考えています。だからこそ、子どもたち一人ひとりの「願い」や「想い」を真ん中に据え、医療的な支援だけでなく“心のケア”を何より大切にするジャパンハートの活動に賛同し、応援を続けています。
お客様一人ひとりのあたたかなご支援が、かけがえのない記憶となって、子どもたちやご家族の心に届いています。
これからも、未来を担う子どもたちの笑顔と希望につながる支援の輪が広がっていきますように。

ジャパンハートへ寄付の支援を行う→こちら(寄付ページ)

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