2023.5.9

心の奥底をさらけ出したときに始まる人との繋がり|人間らしさとブランドの未来 #01|佐々木康裕×小林琢磨

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効率や合理性を追い求めるがゆえに、ともすれば人間らしさが失われがちなこの時代。 人間らしく生きていく術を探るべく、ビジネスデザイナーの佐々木康裕がゲストと対話を重ねていくシリーズです。

contributor 佐々木康裕 Yasuhiro Sasaki

効率や合理性を追い求めるがゆえに、ともすれば人間らしさが失われがちなこの時代。人間らしさは暮らしにおいてはもちろん、ビジネスにおいても今後ますます不可欠なキーワードになっていくのではないだろうか。人間らしく生きていく術を探るべく、ビジネスデザイナーの佐々木康裕がゲストと対話を重ねる連載『&Human Nature』。オルビス代表の小林琢磨を迎え、“人間らしさとブランドの未来”について語り合うシリーズの第1回。

自分の好きに正直になる

佐々木_昨年、ブランドパーソナリティの策定でオルビスとお仕事をさせていただき、“人間らしさ”についてかなりの時間を議論に費やしてきました。その背景には、何かにつけて効率を求めるがゆえに、知らず知らずのうちに私たちの暮らしから、 “人間らしさ” が失われてしまっているのではないかという疑問からでした。

例えば、ビジネス系のメディアとかが取り上げる、いわゆるサクセスストーリーもそのひとつで、“人間らしさ”に対するある種の有害性を帯びている側面があるのではないかと感じています。メディアがこぞってサクセスストーリーを取り上げることで、そことのギャップに苦しんでしまう読者が結構いるのではないかと。この連載では判で押したようなキレイなストーリーではなく、その背景にある“人間らしさ”というか、Human NatureやHumanityをテーマに対話できればと考えています。

自分の話で言うと、最近までは仕事の「間(あいだ)」に暮らしがあるように感じていました。例えば週末などの仕事以外の時間も、翌日からの仕事のために英気を養うとか、キャリアのために自己投資や学習をするというように、仕事のための時間として構成されることが多いですよね。最近は、そのバランスを見直して、いかにして暮らしを中心に自分のライフスタイルを再設計できるのかを考えています。

小林さんが日々の暮らしを充実させようとしていることとか、実践されていることをおうかがいできますか。

小林_僕は経営者としてのキャリアが長いというのもあるので、いわゆる仕事とプライベートの境目がないのですが、それを好きでやっているという感じです。

趣味としての話をすると、僕は大抵のことをそこそこソツなくこなせるのですけど、突出して何かができるわけではないんです。だから、何かに秀でたプロフェッショナルの技をライブで観るのが好きですね。

この前も『ハリー・ポッター』の舞台を観に行ったのですが、あれはもうびっくりしましたね。あまりの衝撃に、これどうやっているんだろうって。本当に舞台で魔法をかけていますよ。

佐々木_どういうふうに観に行くものを選ばれていますか? 頭で見る人もいれば、心で見る人もいると思うのですが。

小林_昔はいろいろ考えてしまっていましたけど、いまは直感で選んでいます。

佐々木_打算的というか、教養として捉えていた、と。

小林_そうですね。前はグローバルのビジネスパーソンとはアートを知らないと話せないから見る、ワインを知らないと話せないから好きになるみたいに。でも、そういうのが煩わしくなってしまいました。

佐々木_最近は自分が好きなものを選ぶようになって、選ぶ対象は変わりましたか。

小林_強いて言うと、メジャーなものも普通に観るようになりました。以前は斜に構えて「単館じゃないと」とか「好きな映画監督はヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュです」みたいな感じでしたが(笑)、いまは何でもありです。『アベンジャーズ/エンドゲーム』も、ユニバーサルスタジオに行っているような楽しさがあっていいですよね。


Interlude

自分の好きに正直になることは、何を意味するのでしょうか。ビジネスデザイナーの佐々木さんは、「ニューヨーク知識人」の一人であり、ヒューマニズムと自己実現論を基調としたドイツの精神分析学者、社会学者エーリヒ・フロムの言葉を挙げ、その意味を深く問うていきます。そして、対話の核心は、自分すらもまだ知りえぬ心の奥底への旅へと。


素の自分、本当の声

佐々木_『自由からの逃走』などを書いた精神分析学者で社会学者のエーリヒ・フロムは、能動性には二つの種類があって、一つが自分で本当に選んだという能動性と、もう一つが疎外された能動性と言っています。後者のほうは自分で選んでいるように見えて、実は社会の構造や要請によって選ばされているというようなことを指します。恐らく小林さんがかつて見ていたものや嗜んでいたものは、自分で選んでいるように見えて実は“こういう自分になるべきなのではないか”、という思考に選ばされていたのかもしれませんね。

この連載のテーマのHuman Natureに寄せて考えると、「他人が考える自分」とか「自分はこうあるべき」というところから離れて、自分が本当に好きなものにいかに気がづけるかが大事なのではないかと思っています。自分を解像度高く理解するために、何かされていることはありますか。

小林_その日に行動したこと、感じたこと、本当のことをメモするようにしています。例えば、なぜそれを買ったのかと聞かれても、理由はなんとでも言えると思うんです。「この◯◯というブランドが好きで、ここに◯◯を入れてくれている」とか。でも、本当は自分の好きな女性がこういうものを好きだからなのかもしれない。「本当の欲求」がそういうことにあっても、絶対そうは言わないですよね。恥ずかしいから。そういうことを正直に書き留めています。結果的には、その積み重ねが事業とかマーケティングに役立つかなと思っています。

佐々木_ご自身のリアリティに向き合うのは、おもしろいですね。それは日記帳みたいものにメモを取られているんですか。

小林_スマートフォンのメモ機能に書いています。

佐々木_それを見返されることはありますか。

小林_読み返しますよ。かなり具体的に書いているので、後から読むと「あ、まずい!」となって、思わず消してしまうこともあります(笑)。

佐々木_そうなんですね(笑)。言葉が悪いですが、自分のグロテスクな面であったり、もっと人間味のあふれる面に向き合う機会があるということでしょうか。

小林_結果的に、ですけどね。そればかりを考えているわけではないのですが、事業をやっているのでね。結局、事業=本質的な広義の意味でのマーケティングなんですよね。そういう意味では、マーケティングが人の行動変容だとするならば、1回はポジショントーク的な行動変容があるけど、お客さまにずっとお付き合いいただくには、「本当の欲求」に触れていないと、本質的な行動変容にはならないのではないかと。

佐々木_それはおもしろいですね。

Profile

小林琢磨|Takuma Kobayashi [Right]

オルビス株式会社代表取締役社長。2002年、ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。09年にグループの社内ベンチャーブランドとして立ち上げた株式会社ディセンシアで取締役を経て、10年同社代表取締役社長。17年オルビスマーケティング担当取締役、18年より現職。ポーラオルビスホールディングス取締役、トリコ株式会社取締役を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。

佐々木康裕|Yasuhiro Sasaki [Left]

Takramディレクター / ビジネスデザイナー。クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナーとして、幅広い業界で企業のイノベーション支援を手がける。デザインリサーチから、プロダクト・事業コンセプト立案、エクスペリエンス設計、ビジネスモデル設計、ローンチ・グロース戦略立案等を得意とする。講演やワークショップ、Webメディアへの執筆なども多数。2019年3月、ビジネス×カルチャーのスローメディア『Lobsterr』をローンチ。著書に『パーパス 「意義化」する経済とその先』『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』〈ともにNewsPicksパブリッシング〉などがある。

Photo by Satomi Yamauchi / Text by Takafumi Yano / Edit by Ryo Muramatsu

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