「家族」という不思議な存在|家族編 #09|佐々木康裕
&Human Nature
ここまで8回にわたり、編集部、エッセイスト・紫原明子さん、そして社会学者・筒井淳也さんと、「家族」をテーマに対話を重ねてきた「&Human Nature」編集チーム。社会の“写し鏡”である家族は、掴みかけたかと思えば、カゲロウのようにするりと指の間から抜けていくようでした。そんな捉えどころのない家族と、どう向き合えばいいのでしょうか。コラボレーター・佐々木康裕によるクロージング・エッセイ。
この特集では「家族とは何か」を考えるために、編集部のメンバーやゲストとの対話を繰り返してきた。しかし、答えに近づくどころか、逆に答えがよく分からなくなってしまった。今となっては、この分からなさを引き受け、考え続けることこそが「家族」というテーマに向き合う適切な態度のようにも思う。
エッセイストの紫原明子さんと話しながら思ったのは、家族は、思った以上に不確かでありながら、希望に溢れる存在で、社会という網の目の結節点でもあるということだ。その網は、ある程度の自由を担保しながらも私たちの行動を制限する規範であり、文化であり、私たち自身の思い込みでもある。難しいのは、その網は絶えず変形・複雑化しているということ。私たちはその網から逃れることはできないし、それは私たちにさまざまなことを要求する。父親、あるいは母親らしく振る舞うこと、孫の顔を見せることが親孝行、などと。
時に家族の近すぎる関係が、私たちを難しい状況に追い込んだりもする。価値観のギャップ、絶えぬ言い争い、嫉妬や失望。逃げ場のない家族だからこそ、ネガティブな状況を全身で浴びてしまい、とても深いダメージを負ってしまうこともある。私たちはその網から影響を受けるけれど、そんな時、それは、私たちの負担を分かち合う頼み綱にもなる。紫原さんとの会話の中でフレンドシップについて触れたのも、そうした家族以外の人たちの良好な関係が、健全な家族関係を考えるためにとても重要だと思ったからだ。親密で、傷つけ合ったり支え合ったりするような会話は、家族だけに閉じる必要はない。私たちは、本来、家族が担っていた、あるいは背負い過ぎていたものを差し出し合いながら、もっとカジュアルにケアし合う必要がある。
「家族」の曖昧な境界線
私たちは、網の中で柔軟に自分たちを開いたり閉じたりしながら、家族というものの枠を捉え直したほうがいいのだろう。そういった意味では、社会学者の筒井淳也さんとの対話は、自分たちがもつ「家族」のイメージをアップデートしてくれた素晴らしいものだった。
彼の話で面白かったのは、一般の方が考える家族や家族の変化と、筒井さんが研究者としてデータを踏まえて捉える家族の変化にはだいぶズレがあるということ。
「だんだんと家族関係が希薄化していますよね」
彼は、専門家としてこう尋ねられることが多いらしいが、彼の視点からしてみるとまったく訳のわからないことだという。昔は子どもの数も多かったし、寿命が短かった。孫が10人以上いる、ということも決して珍しくなかった。逆に、少子化の今は家族関係が緊密化かつ長期化している。単純に考えれば、今のほうが家族関係はずっと濃密だ。また、福祉国家として有名なスウェーデンは、国民全体を家族として考えることで、お互いを助け合おうという考え方があるという点も印象的だった。そして、離婚率が高いが子どもは多いのはシングルマザーを支える地域ネットワークに起因する、という沖縄のストーリーは、ケアや支え合いを中心に置きつつ、私たちが家族と社会のあり方をどう捉え直していけるか、について考えるために大きな示唆を与えてくれる。
家族観を書き換える、新しい選択肢
社会は寄せては返す波のように、リベラルになったり保守的になったりするが、長い目で見れば、家族やパートナーシップについての選択肢は増えていくだろう。そしてその選択肢は、私たちが今もっている常識や倫理を揺さぶるものになる可能性がある。近い将来に、生物の種を超えた結婚や死者との結婚の議論が始まるかもしれないし、オンラインゲームのキャラクターと親族になるかも知れない。そうした新しい選択肢を、私たちは、直感的に祝福できないかもしれない。しかし、それを望み、必要とする人がいるのであれば ── これまで私たちがしてきたように ── 、家族像を刷新し続ける必要があるのだろう。
Profile
佐々木康裕|Yasuhiro Sasaki
Takramディレクター / フューチャーズ・リサーチャー。カルチャーや生活者の価値観の変化に耳を澄まし、企業やブランドが未来に取るべきアプローチについて考察・発信を行っている。そうしたアプローチを元にした著書に『パーパス 「意義化」する経済とその先』『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 〈共にNewsPicksパブリッシング〉、『いくつもの月曜日』〈Lobsterr Publishing〉などがある。Takramでは、未来洞察やユーザ理解のためのプロジェクトを数多く実施している。