2023.10.25

いい家族、幸せな家族ってなに? 多様化する家族のかたち|家族編#03|編集部

PROJECT

&Human Nature

佐々木康裕 Yasuhiro Sasaki

効率や合理性を追い求めるがゆえに、一元的になっていく社会。もっと多元的に、そしてあるがままに暮らしていけると、失われがちな“人間らしさ”の回復につながるかもしれません。固定観念や思い込みが崩れていくなかで、「いい家族」「幸せな家族」ってなに? 母でもなく、父でもない、定型的家族像を超える多様な家族像について、課題図書である作家・山崎ナオコーラさんの『母ではなくて、親になる』〈河出書房新社〉を補助線に、引き続きビジネスデザイナーの佐々木をはじめ、編集チームの榎本、岡本、村松が話し合う、前編「世の中のノーマルを越えて、家族は複雑化していく」の続き。

鼎談参加者:佐々木(40代・男性)、榎本(20代・女性)、岡本(30代・女性)、村松(40代・男性)

いい家族、幸せな家族って?

── 実際、エディターズレターで触れている『母親になって後悔してる』は、作家がある種のリフレームをするというか、問いを投げかけるわけですが、それによって自由になっている人もいますよね。

佐々木_ナオコーラさんも「最近は女性の方が立場が強くなってきた」みたいなことを書かれていましたね。お互いが都合よく利用してるのがあるんでしょうね。例えば、大きな決断は男性が任せるみたいに。でも、そこから逃れようとすると、それなりの苦しさがあって、周りから変に思われたらどうしようとか、どうしてもパートナー同士の間で難しいコミュニケーションをしなければいけないとか、乗り越える勇気とか胆力みたいなのがないと、なかなか難しいですよね。

── 「&Human Nature」に寄せた話として、この1〜2週間、この場のために、家族というすごく日常的な概念について向き合った時間は多かったのかなと思います。そのうえで、考えてみたいことや深掘りしたいことはありますか? 「ORBIS IS」が発信していくことで、家族のことでモヤっとしてる人が、「モヤっとしたままでいいんだ」みたいに感じてもらうところもあるのかなと。

榎本_すごく抽象的ですが、「いい家族ってなんだろう?」ってことですかね。自分の家族を「いい家族」と思えている人は多いですけど、かたちとか状態はきっと全部違っていて。それぞれに良さがあるし、状態もいろいろだと思うんです。よその家族ってやっぱり外から見てる状態しかわからないぶん、他の家族のかたちや状態が気になります。

村松_この数週間、いろいろ自分を振り返ってみると、結婚していなくても家族になり得るのかっていうのをずっと考えていました。結婚してないと幸せじゃないのかっていうと、パートナーという制度もあるじゃないですか。例えば、知り合いのクリエイターには愛犬がいるのですが、それが恋人みたいになっていて、別にそれもいいかもしれない。でもどこか自分のなかでは結婚して子どもがいて、家庭を持つことがイコール幸せじゃないかって、無自覚にも植えつけられているなっていうのをこの数週間で自覚できるようになりましたね。

まだ、その新しいかたちが想像できないところがあるのも事実で、そんなことを考えているときに今朝たまたま小泉今日子さんと作家の川上未映子さんがPodcastで家族について話しているパートがあって。川上さんが「これからの家族像は、もっと複雑化していくべき」って言っていたのが、すごく印象に残っています。

── 本当にそうですね。拡張家族っぽいかたちの方もいらっしゃるし、要はなにをもって家族というのか。

榎本_それこそ、結婚もひとつの家族のかたちですよね。わたしはもうすぐ入籍を控えているので、最近はよく「自分はどんな家族や家庭をつくっていきたいのか」を考えます。その過程で苗字をどうするか考えているのですが、まだどちらを選ぶかが決まっていません。 でも、友人や知人に結婚の報告をすると、決まって「苗字は何になるの?」と聞かれます。女性側の私が変わることが当たり前に思われているんだなと感じて、ちょっとモヤモヤします。

村松_不思議ですよね。ぼくは妻の苗字に変えているんですよ。向こうの苗字がなくなってしまうので。自分は次男だし、別に抵抗はなかったのに、親戚も含めてザワつきましたよ(苦笑)。

岡本_なんでどちらかに統一しないといけないの? って気持ちになります。わたしは国際結婚なので「岡本」のままでいいのですが、もし国際結婚で苗字を揃えるとなると、もう一つ手続きをしないといけない。それって裏を返すと、なぜ外国籍の方と結婚をすると、その選択肢が与えられるのに、日本国籍同士だとその選択肢が与えられないのか。手段としては存在するのになぜ叶わないんだろう。結婚をするという選択を取ったからといって他人の苗字を名乗らないといけないのが、すごく不思議な感じでした。

── 夫婦別姓みたいなテーマもありますよね。苗字を何と名乗るかという問題は、それだけをトピックにして考えることができる部分もありますね。

村松_ちょっと前の世代は、“儀式的な家族”としてすごく拘束力があったけど、逆にぼくらの世代には苗字変えることが、家族の定義のなかでの優先順位としては下のほうにある感覚です。

いろいろな家族のかたち

佐々木_家族像みたいなことでいうと、『母親になって後悔してる』と似たような話だけど、母親や父親とすごく関係が悪いとか、そもそも家族が崩壊している人は、少なからずいると思うんですよ。

週末に『Short Term 12』(邦題:『ショート・ターム』)という児童養護施設を舞台にした映画を見ていたんですが、物語の途中で児童養護施設の職員が彼自身も児童養護施設の出身だったということが明らかになるんです。その彼が、施設にいたときの施設長夫婦の誕生パーティに行くと、その夫婦にお世話になった20人がみんなで、あなたたちはわたしたちのお父さんとお母さんですという感じでお祝いしていて、血縁関係は0だけど、そこにはすごく温かい空気があって。現実の父母からはひどい扱いを受けて家族崩壊しているけど、擬似的家族関係の兄弟がいるんですね。“複雑化していく家族”の一つかなと思いました。

岡本_わたしには、いとこが2人いて、お兄ちゃんのほうが養子だったんですね。そのことは家族全員が知っているんだけど、なんとなく言ってはいけないこととして扱われていました。なんで養子は日本においてはタブー視されるのか。わたしは幼少期をアメリカで過ごしていたのですが、「アドプト」されることは一般的な会話としてあって、そこにカルチャーの違いがあるのかなとか、日本は社会としてなぜそういうふうになってしまってるのかは、すごく気になります。

── 養子の話で面白いなと思うのは、かつて戦国時代とか江戸時代は、跡取りのために養子を入れていた歴史がありますよね。それがいつからか隠されるものになった。

佐々木_日本は家族というものに変に重きを置きすぎていているのかもしれませんね。

村松_世代的に変わっていっても、制度が変わらないとギャップができそうですよね。

岡本_例えば、養子にも「普通養子縁組」と「特別養子縁組」という制度がありますよね。わたしもそのようなことを考えた時期があったんですが、単身者だと「特別養子縁組」が制度的にはできなくて、パートナーが外国人だと、それも難しい。いろんな法的なハードルが高いんですね。ただ、養護施設にいる子どもは多分、日本でも海外でも同じくらいの割合としているのに、なんで法的なハードルを高くして縛るんだろうっていうのは疑問でした。

複雑化していくべき家族

佐々木_家族のフレームみたいなものが、良くも悪くも固まってるがゆえに、それに合わない人が変な苦しさや引け目を感じちゃうっていうのが、苗字とか養子とかいろんなところで起きているのかなと思いましたね。

── 今後のテーマになり得そうなトピックがいくつか出たと思います。家族は複雑化していくことを誰にどういうふうにお話を聞くのかを考えていく必要があると思うんですけど、複雑化していく家族、要は家族のかたちはいろいろあるよねというか……。

佐々木_複雑化していくのもそうだけど、複雑化すべきということなのかもしれないですよね。

それが一つのテーマとしてあるし、「幸せな家族ってなに?」みたいな。その幸せ感っていろいろあるよねっていうこと。家族は複雑化していくべきだし、幸せって変わっていく中で、それを縛るフレームに対して、こんな違和感があると思ったことを掘り下げていくのも面白いかもしれませんね。

村松_複雑化したとき、社会から弾かれる感じがあります。

佐々木_アウトロー感というか、ね。

岡本_独身でいることさえもキワモノ感が出ることがありますよね。たとえば、職場とかで際立ってる女性がいると「独身らしいよ」「だよねー」みたいな会話になることがまだ結構多いんじゃないかな(苦笑)。なぜ人間性を結婚をしているかどうかで計るところがあるのか。それは多分、男性も言われていると思うんですけど。

村松_結婚をしていない裏には、実は世の中では定義されてない家族のかたちがあるかもしれない。まだ社会にそれを想像する能力が全然ないので、そう思ってしまうんでしょうね。

佐々木_まず結婚する。子どもが1人とか2人生まれる。それぞれのタイミングでおめでとうっていう言葉があって、という定型的家族像に近づいてる人を祝福する謎の文化がありますよね(苦笑)。

岡本_前にSNSに「実は『クレヨンしんちゃん』の家族ってめちゃくちゃハードル高くない?」みたいなことが書いてあったのを思い出しました(笑)。一軒家に住み、奥さんは専業主婦で、子どもが2人、ひろしは三十何歳で係長みたいな。子どものときに何気なく見ていた型にハマった家族像が、実はすごくハードルが高いことに、自分が大人になったときに気づくというか。

村松_単純に、「複雑」という言葉に当てはめていいのかはわからないけど、多様化する家族を取材していくのはあり得そうですね。

佐々木_絶対的な答えがないテーマなので、「こういう考え方もあるよ」ということを提示するだけでもいいんじゃないかと思いますね。こういうところに幸せを感じてる人もいるよということを、そっと言ってあげることもCompassion-istとしての大事な役割ですよね。

佐々木康裕|Yasuhiro Sasaki

Takramディレクター / ビジネスデザイナー。クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナーとして、幅広い業界で企業のイノベーション支援を手がける。デザインリサーチから、プロダクト・事業コンセプト立案、エクスペリエンス設計、ビジネスモデル設計、ローンチ・グロース戦略立案等を得意とする。講演やワークショップ、Webメディアへの執筆なども多数。2019年3月、ビジネス×カルチャーのスローメディア『Lobsterr』をローンチ。著書に『パーパス 「意義化」する経済とその先』『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』〈ともにNewsPicksパブリッシング〉などがある。

Illustration by Shoko Kawai / Edit&Text by Takafumi Yano / Produce by Ryo Muramatsu

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