Z世代に代表的な価値観は存在しない|人間らしさとブランドの未来 #03|佐々木康裕×小林琢磨
&Human Nature
効率や合理性を追い求めるがゆえに、ともすれば人間らしさが失われがちなこの時代。人間らしさは暮らしにおいてはもちろん、ビジネスにおいても今後ますます不可欠なキーワードになっていくのではないだろうか。人間らしく生きていく術を探るべく、ビジネスデザイナーの佐々木康裕がゲストと対話を重ねる連載『&Human Nature』。オルビス株式会社 代表取締役社長の小林琢磨氏を迎え、“人間らしさとブランドの未来”について語り合うシリーズの最終回。
「ニューロダイバージェント」という“心の多様性”
佐々木_最近、米国のZ世代やその下の世代の価値観のリサーチをしているのですが、すごくおもしろいですね。僕が会話した人は25〜26歳 でしたが、大学でも教えているんですよ。その人からすると、7つほど下の18歳を教えているのですが、自分と価値観が違いすぎてびっくりすると言っています。どういうことかというと、対人関係の大事なことを学ぶ15〜16歳という時期にコロナ禍でずっとオンラインで授業を受けていたから、いろいろなことをすごく怖がっているらしいんです。先生に質問するのさえも怖がっているくらい。米国の授業ってみんなが手を挙げて、みたいなイメージがあるけど、全然そういう感じではないらしいです。誰も質問しなくて、後からメールで来るんですって。そのメールもめちゃくちゃ丁寧に書かれている。その18歳の世代を一言で描写すると「恐怖世代」だと言っていました。
大人たちは、大人を一度経験してコロナ禍になっているから戻り方もわかるけど、1回しかない学生時代をコロナ禍で迎えてしまうと、戻るべきトラックみたいものがないから、本来あるべき場所からズレっぱなしな感じになってしまうのが大変みたいです。
小林_10代のいちばん多感な思春期って、二度とないんですよね。そういう時期にどういう経験をしているかが、将来大人になってからのキャラクターとか、その後の自己形成にかなり影響があるかもしれませんね。
佐々木_「ニューロダイバージェント」という言葉があって、ADHDとかうつ病を「心の多様性」という捉え方をするんですよね。病気の人ではなく、“多様な人”と捉えるから、雇用する企業側が多様性をどう確保するかというときに、人種や性別はもちろんですが、感受性とか脳の仕組みが他と違う人も積極的に採用しようみたいな流れが出てきているようです。
だから、若い人の中には、採用のときにニューロダイバージェント向けの施策とか人事の仕組みがあるかを、会社を選ぶ基準にしている人も増えているようです。
小林_多様性としては、それが本質的な進化なのかもしれないですね。僕も社内にメッセージしましたけど、「Z世代こそ多様性に満ちているからね」って。
佐々木_先ほどの大学の方も言っていましたが、「Z世代の代表的な価値観というのは存在しない」のかもしれませんね。
Profile
小林琢磨|Takuma Kobayashi
オルビス株式会社代表取締役社長。2002年、ポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。09年にグループの社内ベンチャーブランドとして立ち上げた株式会社ディセンシアで取締役を経て、10年同社代表取締役社長。17年オルビスマーケティング担当取締役、18年より現職。ポーラオルビスホールディングス取締役、トリコ株式会社取締役を兼務。早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。
佐々木康裕|Yasuhiro Sasaki
Takramディレクター / ビジネスデザイナー。クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナーとして、幅広い業界で企業のイノベーション支援を手がける。デザインリサーチから、プロダクト・事業コンセプト立案、エクスペリエンス設計、ビジネスモデル設計、ローンチ・グロース戦略立案等を得意とする。講演やワークショップ、Webメディアへの執筆なども多数。2019年3月、ビジネス×カルチャーのスローメディア『Lobsterr』をローンチ。著書に『パーパス 「意義化」する経済とその先』『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』〈ともにNewsPicksパブリッシング〉などがある。
Photo by Satomi Yamauchi / Text by Takafumi Yano / Edit by Ryo Muramatsu