2024.1.9

“(仮)でいい”。決め切らない勇気をもつこと|家族編 #05|紫原明子 中編

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効率や合理性を追い求めるがゆえに、ともすれば人間らしさが失われがちなこの時代。 人間らしく生きていく術を探るべく、ビジネスデザイナーの佐々木康裕がゲストと対話を重ねていくシリーズです。

contributor 佐々木康裕 Yasuhiro Sasaki

「いい家族ってなに?」「幸せな家族とは?」──。コントリビューターの佐々木康裕のエディターズレター「小さな社会的物語が語ること」をきっかけに、「& Human Nature」編集チームが社会を取り巻く状況や価値観の多様化によって急激に変化する、もっとも小さな“社会”としての「家族」について考えるシリーズ第5回。家族のかたちは自由になりつつあるなかで、その受け皿である社会はいったい? 第4回に引き続きエッセイストの紫原明子さんにお話しをうかがう中編をお届けします。

誰もが“小さな文学”を抱えている

紫原_もぐら会は家族に問題を抱えている人の参加率がすごく高いのですが、自分の妻とか親とか、自分が悩んでいる関係をもつ相手にもぐら会に入ってほしいと言っています。その問題を自覚している人ではなく、まだ自覚していない人のほうが、こういう場所をもってほしいなと思っています。

──いわゆる中年以上の男性が、そういうことに気づいて入っていくと、もっと社会の流れ方が変わるかもしれないですよね。

紫原_そうなんですよ。もぐら会では、ヤマもオチもいりません(笑)。言葉が出なくなったら、沈黙していいんです。沈黙をみんなで共有するので、まとまらなくてもいいから、自分の普段のノリの中では出てこない言葉を出すことが大事だし、聞いてるほうもそれが出てきた瞬間に、いま、すごいものに触れたことが分かるんですよね。だから、うまく話すとちょっとシラけちゃうんですよ。

「なんだ、この異様に退屈な場所は!」と思う人も当然います。だけど、わたしは、この非合理的な時間に慣れない人が、資本主義を批判するな! と思ってしまうわけです(笑)。

コロナ禍に、パン教室を開催したら、参加者のなかに発酵し過ぎて不味くなってしまった人とかもいて。その不味くなった味に、「お母さんが不機嫌になったときの味がした」と言っていました(笑)。普通の人が、そういうちょっとした文学的な話をしていくわけです。それがなかなかおもしろかったですね。

佐々木_もぐら会で共有されている話って、家族とも共有できないような話なんだろうなと感じました。本当の自分とか、心の奥底にある分かち合いたいことはあるけれど、家族がそれを分かち合う相手になっていない人たちが、もぐら会に参加しているのかなと思いました。

紫原_確かに。

佐々木_家族に対して社会的な役割期待みたいなものがあって、──父は、母は、子はこうあるべきのような──その役割や期待と個人のなかの心を比較すると、常に役割期待が勝ってしまうところがあります。本当の自分を押し込めて、常に家族との、仕事場での役割をこなさないと、となりがち。

特に男性にそれが多い気がします。それは社会的規範のなかで家族が運営されているというところを解いていかないといけない気がしています。

いろいろな家族もありだし、家族ではなくなることもありだし、また戻るのもありだしみたいな、そういうのを許容するだけで、家族のなかのコミュニケーションがもぐら会的なものになっていく可能性はあるのではないかと思いました。

一方で、家族とではなく、友人たちと分かち合えたらいいかもしれないし。そういう意味で、ぼくの今年のテーマは、「友だちをつくる」なんです。

紫原_すてきです。

大人になってから自分にとって大事な人

佐々木_「Lobsterr」で、ギャンブル、スポーツ、仕事の話は絶対しないという制約のなかで、友だちがいない50〜60代の男性が集まって、友だちになるみたいなストーリーを取り上げました。その記事をきっかけに、いま自分にも同世代の男性の新しい友だちがひとりできました。

この前は、一緒に夜に下北沢の本屋さんへ行って、ふたりで一緒に本を選んで、窓際の座席でコーヒー飲みながらその本を読んでました。「これ、なんかデートみたいだな」って(笑)。

紫原_本当ですね(笑)。

佐々木_それは自分のなかに違う“極”みたいなものができた感じがして、心の豊かさにつながっているように思います。

紫原_関係性を表す呼び名や言葉がもっと増えるべきだなと思います。例えば、会社の同僚を友だちと言えるかというと言えない。ご近所さんもそう。ママ友という言葉はあるから友だちかもしれないけどみたいな…..。

ただ、大人になってから自分にとって大事な人が増えてないかというと、そうではないですよね。苦楽をともにした会社の同僚や、家族以上にお互いのことを知っている知人とか。そういう人たちに正当な価値を示す言葉があれば、少しだけ孤独ではなくなるかもしれないですよね。

佐々木_確かに。

紫原_そうすると、家族の重みも少しは軽くなって、解散しやすくなりますよね。

──家族との、いわゆる天秤のバランスをどのように取っていくのかみたいなところですよね。

紫原_でも、バランスを取るというのは、なかなか知的で高度ですからね。2つがいいのか、100くらいあったら、1つくらい欠けても気にならないかもしれないけど、心もとなさはありそう。

佐々木_いくつくらいが、いちばんバランスがいいのでしょうね。

関係性は切れない、それは変容するだけ。

紫原_わたしが離婚して家族の型を外れたら、そういうことを自分の感じ方で自分で選べるようにはなったんですよね。自分が心地いい状況を自分でつくるから楽でもあります。自由の代償ももちろんあるけど、型にはまっていたときだって、不健全だなと思ってたから、わたしはいまのほうがいいですね。

榎本_友だちの関係性も、大人になると変わっていくと最近すごく感じています。学生時代にそこまで親しくなかった同級生と、ある日突然、価値観が合うとか。逆もしかりなんですけど。いま、学生のときに全然親しくなかった同級生と会っています。

紫原_意外と、人とのつながりは切れないものです。離婚はしたけども、子育てでは元夫とは連絡を取るし、疎遠になった友だちと再会したりとか。プツンと切れるわけではなくて、関係性が変容していくだけなんです。

佐々木_確かに。

──ご著書の『家族無計画』のなかで「(仮)」の話をされていましたが、決め過ぎないというか、決め切らないみたいな話も、心をちょっと自由にする“魔法の言葉”になるのではないかと感じました。

紫原_本当にそれをいまも頑張って実践しているんです。自己責任へのレジスタンスというか。決めろと言われても、決められないことがいっぱいありますよね。だって、変わっていくから。変わっていく自分の人生とかに、ある程度、その変化を下支えしてくれる社会であってほしいという思いは変わっていません。むしろ、ますます思いが強くなっています。

──ニュートラルな感じでいられるのは、心を自由にしておくための方法のひとつなのかもしれません。

紫原_そうなんですよね。臨床心理学者の東畑開人さんが書かれた本に、いまのわたしたちが置かれた状況を「昔はみんな一つの大きな舟に乗っていたけど、いまはみんなが一つひとつの小さな小舟に乗って、行き先なく彷徨っている」というようなことを書かれていました。

だから、「(仮)でいられる権利」をわたしたちはもっているけれど、それは寂しさを引き受けたり、トレードオフであったり、心細さも常に感じておかないといけないですよね。でも、それはもしかしたら嗜好品みたいな感じなのかもしれません。

──そういうのを自分の心の隅に、少しもっておくだけで、息苦しくなくなる感じがしますね。

紫原_そう。誰も決められないですよ。だって、先のことなんて分からないから。

──そう考えると、いまこの瞬間、家族であるけれど、もっと自由に考えてもいいかもしれませんね。

社会は多様な家族を受け入れる器

紫原_全然、いいと思いますよ。家族もいつかは解散するし、結婚しても離婚するし。ただ、それに対しての経済的な負担とか、子育ての負担に備えておくことが、とても難しい問題ですよね。

──そうですよね。

紫原_結局、どちらかが育児を担うとか、出産は女性しか担えないとなってしまう。だから、本当はいつでも解散できるとか、仮でいけるのが理想。それができる世の中になれと言っていかないといけない。

──家族がもっと多様化していくといいのではないかと言って、いざ自由に分解されたけれど、社会が受け入れられるシステムになっていないとリアリティがないですよね。

紫原_シングルマザーは非正規がとても多いです。半数ぐらい非正規。貧困だし、食べていけない人が多い。だから、わたしの理想は、本当に家族の負担が軽くなればいいと思うんです。でも、それを言うときに、いつも「じゃあ、どうすればいいんだ?」というのがあって、なかなか煮え切らないものになってしまいます。

──でも、それがリアルなところですよね。要は概念として「自由、自由」と言うのは簡単だけど……。

紫原_原稿依頼で、離婚しても幸せになれる、勇気が出る原稿を書いてくださいと言われますが、わたしは幸せになったけど、それは奇跡的なだけで、実際はすごく難しいと思います。ただ、もぐら会もコロナ禍で3組離婚したんですよ。別れさせるもぐら会って、メンバーが言っています(笑)。

そういう意味では、もぐら会に入って家族に変化が起きていますね。気づくんでしょうね、自分の負担がいかに大きいかということに。それがついにコロナ禍で隠せなくなってしまった感じがします。

佐々木_フィードバックループみたいなのが働いて、自覚が進みますよね。

紫原_そうなんですよ。カウンセラーではない人が下手にフィードバックするとよくないので、もぐら会ではフィードバックをしないようにしているんです。ただ、幸い離婚できた人たちは、ワンオペの間ずっと苦しみながらも働き続けていた人なんです。だから、離婚できたんです。

──そのあたりは紫原さんが常に意識的、無意識的にメリット/デメリットについてお話しされていて、それを聞いた会員の方々が自己消化して決めたことなんだと思います。

紫原_もぐら会を始めて3年目になりますが、もぐら会はすごく人の人生に影響し合うから、以前は自分がどこまで責任を取れるかということに結構悩んだこともありました。でも、それはその人の選択なんだと、いまは思えるようになりました。

わたしは、人の人生に関わることをやりたいんです。人と関わり合いたいし、そうしないと自分は孤独から逃れられない。誰かの人生とか、その人が生きてきたもののいちばん深いところに根本的な傷みたいなものがあって、そこにふれあうことで孤独ではないと感じられるのでしょうね。わたしは孤独を強く感じるタイプなので、そうしたふれあいをずっと続けていきたいと思っています。

──もぐら会のスタンスとは違う話なのかもしれませんが、自分の仕事よりも人に「これ、お願い」と頼まれた仕事のほうが、一生懸命頑張れる自分とかがいたりしますよね。

紫原_確かに。

──あの人のために一生懸命やろうというのは、誰かとつながっていたいということの表れなのかもしれないと思いました。

紫原_いま、人の役に立ちたい人はいっぱいいるけど、人にお願いできる人が意外にいないと思うんですよね。その寂しさがみんなにあるんですよね、きっと。誰かにお願いされることで踏み込んできてほしいけど、自分は恐縮しちゃうから人にお願いとかできなくて、全部交換にしたいと。でも、誰かに贈与したい気持ちはあるんですよ。だけど、贈与を受け取れる人がいない。だから、ちょっとダメだなと言われる人が、愛されるのかもしれないですよね。

Profile

紫原明子|Akiko Shihara

エッセイスト。2人の子をもつシングルマザー。家族、福祉、恋愛、性愛、人間関係等をテーマに幅広く執筆する。「クロワッサンonline」「東洋経済オンライン」「弁護士ドットコム」「AM」などのウェブ媒体のほか、『VERY』『PHP special』『月刊PHP』などの紙媒体の連載に寄稿している。著書に『大人だって、泣いたらいいよ 紫原さんのお悩み相談室』『家族無計画』〈ともに朝日出版社〉、『りこんのこども』〈マガジンハウス〉などがある。執筆の傍ら、“話して・聞いて・書いて自分を掘り出すコミュニティ もぐら会”を主宰。2017年より、エキサイト株式会社と共同で「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」泣いてもいいよステッカーの配布を開始。公共の場で泣いている赤ちゃんを温かく見守る眼差しを可視化するプロジェクトの普及に努めている。

佐々木康裕|Yasuhiro Sasaki

Takramディレクター / ビジネスデザイナー。カルチャーや生活者の価値観の変化に耳を澄まし、企業やブランドが未来に取るべきアプローチについて考察・発信を行っている。そうしたアプローチを元にした著書に『パーパス 「意義化」する経済とその先』(NewsPicksパブリッシング)、『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 』(同)、『いくつもの月曜日』(Lobsterr Publishing)などがある。2019年からはカルチャーやビジネスの変化の兆しを世界中から集めて発信するスローメディア「Lobsterr」を運営。Takramでは、未来洞察や生活者理解のためのプロジェクトを数多く実施している。

Photography by Takafumi Matsumura / Edit&Text by Takafumi Yano / Produce by Ryo Muramatsu

PROJECT back number

vol.1
2024.02.16

家族社会学からみる“家族のいま”|家族編 #07|筒井淳也 前編

vol.2
2024.01.30

立ち止まって、景色を見る勇気をもってみませんか?|家族編 #06|紫原明子 後編

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