2024.5.13

「服を交換する」朝 haru.×山口祐加 【前編】

PROJECT

月曜、朝のさかだち

 haru.

『月曜、朝のさかだち』、今回で10回目となりました。毎回多方面で活躍するゲストをお迎えし、自分のカラダや心をほぐす朝活を行うこのシリーズ。今後もみなさんの新たな週の始まりに寄り添えるよう、たくさんのゲストをお迎えしていきますので、この人のお話を聞いてみたい、こんな朝活をしてほしいなどのリクエストもお待ちしています。 10回目となる『月曜、朝のさかだち』には、自炊料理家の山口祐加さんをゲストにお迎えし、「お互いに着てきた服を交換する」という変わった朝活を行いました。いつも自分が着ている服を誰かに着てもらうこと、いつもだったら選ばないかもしれない服を着ることは2人にとってどんな体験だったのでしょうか。朝活を終えた2人は、山口さんと初めて会ったご飯会の思い出とともに、山口さんの初めての料理体験、料理に苦手意識を持つharu.さんの思い、料理をすることのハードルを下げる方法についてなど話していただきました。

「私は先生ではなく、みんなのマネージャー」

haru._『月曜、朝のさかだち』、今週のゲストは自炊料理家の山口祐加さんです。久しぶりに私は山口さんとお会いしたんですけど、今日はいつもとは全然違う朝活でした。カフェに到着したらすぐに、お互い着てきた服をその場で交換するということをしてみました。山口さんはやってみていかがでしたか?

山口祐加(以下:山口)_自分がさっきまで着てた服を着てもらうって初めての体験だったから普通におもしろかったし、不思議な感じで、なんとも言えない感覚になりました。

haru._服を交換しようっていうアイデアは山口さんからのご提案でしたけど、やってみたかった理由はなんですか?

山口_なんの前触れもなく、ピンと思いついた感じだった。haru.ちゃんがヘンテコなことがしたいって言っていて、背中に文字を書いて当てるやつとか、絵しりとりとか考えていたんですけど、服を交換するってシンプルだけどヘンテコでいいなと。

haru._まさかそんな提案が来るとは思わなかった。私は、今日は天気が悪かったので、シャカシャカのパンツを履いて、上半身はグレーのスウェットにシャカシャカのベストを着てきました。

山口_スポーティーな感じでしたね。

haru._普段はデニムが多いんですけど、今日はこの後撮影現場にいくこともあって、現場で目立ちすぎるのは嫌だなと思って、控えめな感じ。しかもその撮影がスポーツブランドなのもあって、そっちに寄せたコーディネートでした。

山口_私はこの冬に一番着たすごく派手なイングランドのニットを着てきました。いろんな色が入っていて、しかもめっちゃ柄柄(笑)。それとデニムっていう感じでしたね。

haru._明るい色を着てきたのには意図はありますか?

山口_haru.ちゃんに似合うかどうかっていうのも大事だと思ったんだけど、私がこの服を着て取材を受けることが多いから、haru.ちゃんが着ることで自分との比較ができておもしろいかなと思ってこの服を選びました。

haru._こうやってなんでその服装なのかって、それぞれ意図があるじゃないですか。山口さんが取材を受けるときにこの服を着ることで、自炊料理家としての山口さんの像みたいなものができてくる。だけど、相手が自分の服を着ることによって、その意図が完全にリセットされるというか。ただその服を着てる自分を楽しむみたいな状況になって、すごく明るい気持ちになりました。私はこの後の用事や現場をイメージして、「このニットを着て行ったら角の方にいても発光しちゃうな」とか考えてしまって、自分が着たいというよりかは、利便性や行動についてばかり考えてしまったけど、純粋にこのカラフルなニットを楽しむんだっていう気持ちになれてすごくよかったです。

山口_コロナ禍で家にいることが増えたときに、いろんな服を着るようになったんです。外に行けないから、服だけでもせめてと思って着ていたら、なんだか元気になる感じがして。それからは新しく服を買うときはほぼ色物しか買ってないです。

haru._家にいるからなんでもいいやとはならなかったんですね。

山口_そうしちゃうと自分がかわいそうな感じがしちゃうんです。別に服がすごく好きなわけじゃなくて、冬はニット5着をずっと着回してるみたいな感じで。だけど、全部すごく気に入ってるから、それでいいかなと思っているんです。でも、色物や柄物が前に比べて増えたなと思います。

haru._私の今日の地味な服を着てみてどうでしたか?

山口_もし交換した服を着て初めて会っていたらスポーティーな料理を作りそうって思うよねってさっきも話してたけど、見た目から勝手に想像するイメージってやっぱりあるよね。

haru._そこにプラスして職業っていう情報が乗っかってくることで、より方向性を絞ってその人のことを見ちゃうなって思った。山口さんが私の服装で初めて私の目の前に現れていたら、アスリートのご飯を管理する人かなって思う。

山口_そう思うとファッションから受けているイメージってすごく大きいんだなって思いました。

haru._だから私はメディアに出るときはデニムばっかり着るんですよ。デニムってカジュアルすぎないし、着飾りすぎてもいない。割とニュートラルな印象に持っていきたいと思っているんです。自分が人に取材をしたりすることも多いから、そのときにノイズとなるものをなるべく少なくしたいなと思っていて。それに毎日履ける耐久性もあって、デニムがすごく自分に合ってるなって思っています。「無課金アバターが着てるような」っていつも言うんですけど、あまり特徴のないものを着ることが多いです。

山口_それはある意味仕事着みたいなことなんですか?

haru._そうですね。山口さんの仕事着はありますか?

山口_撮影の時はエプロンをすることが多いので、エプロンに合うものを選んでいて、エプロンも色物が多いので、変にごちゃごちゃしないようにってことだけ考えるかな。

haru._色物を着ている料理家さんのイメージがあまり想像できないです。

山口_最近は結構多いと思います。でも確かに白だけとか、ナチュラルなオーガニックっぽい感じはイメージとしてあるかもしれない。エプロンも結構いろんな種類のものがあるんですけど、可愛くても首が疲れるとかもあるから、機能性も大切。書籍の撮影とかだと、6〜7時間エプロンを着たままだし、ずっと下を見てるから首が痛くなるっていう職業病もあります。

haru._メディアに出るときに、自分はこういう風に見せようっていうのはあるんですか?

山口_自炊料理家って名乗っているんですけど、それは先生にはなりたくないっていう想いがあって。自分がやってる自炊レッスンという名の料理レッスンでは、「先生って呼ばないでください。山口さんって呼んでください」って言っているんです。私は別に先生じゃないと思っているので、いつもレッスンでは「みなさんが部活でいうプレイヤーで、私はマネージャーです」と言っています。対等ですっていうことを言いたくて。私が料理をしていても、みなさんができるようになるわけじゃないので、あくまでもみなさんがプレイヤーだと思っていて、それって先生と生徒みたいな関係じゃないんですよね。なので、今言われて初めて気づいたけど、先生っぽい感じの雰囲気は避けてるかもしれない。権威感がない感じを目指しているかもしれないですね。

haru._山口さんから受ける印象って、立派なキッチンに立っているというよりかは、台所にいらっしゃるようなイメージがあります。

山口_まさに今住んでいる家もそんな感じで選びました。

これしかできなかったではなく、これがいいと思えること

haru._普段ご飯を全く作らないので、ご飯の話をするのをいつも躊躇しちゃうんですけど、今日はいろんなお話を聞いていきたいと思っています。山口さんと初めてお会いした時も、料理を作ってくださったのを覚えています。

山口_初めましてで、私のご飯を食べてくれてるんですよね。

haru._8年くらい前なんですけど、その時のことをずっと覚えています。料理家を名乗るときに「自炊」ってつける方って全然いらっしゃらないと思うんですけど、自炊料理家に至った経緯を教えてください。

山口_私自身は7歳のときから料理を始めていて。お母さんが疲れて帰ってきたときに冗談で言っていた「祐加ちゃんが作らないと晩ご飯がないの」って言葉を真に受けてしまったんです。お母さんがソファに座りながら天の声みたいな感じで指示を出して、私がその指示にしたがって作っていたんですけど、大人ごっこみたいな感じで楽しかったし、親も喜んでくれたんです。これはいい趣味だなと思って、図書館で本を借りて、親に材料を買ってきてもらって作っていました。中学生の頃は寮生活だったので、そのときもいろいろ作っていたので、料理することは特別なことではなく、普通のことだったんです。普通で、楽しくて、美味しいもの。私は料理が好きだけど世の中の情報を見ていると、「時短」「手軽」「ズボラ」とか、とにかくやりたくない方向性の情報がめっちゃ多いなと思ったんです。こんなに楽しいことを、みんなお金をかけてまでやりたくないのはなんでだろうって感じていて。でも実際に聞いてみると、「ハンバーグやオムライスが料理です」とか「一汁三菜がいい」とか、栄養や見栄えの話がたくさんあって、私なんかお味噌汁と納豆ご飯しか食べてないけど?って思ったんです。たまにパスタ作ったり、人が来るならワイン買って、バゲットの上に何か乗せちゃったりするけど、それは特別な日だけ。でも、なんてことない家のご飯が私はすごく落ち着いていて好きだったので、むしろハンバーグやオムライスは全然作ってないんです。どうやら世の中が料理って言っているものと、私が料理って定義しているものはだいぶ違うということに気づいて。そりゃ料理がしんどくなるし、こっち側の料理を教えてくれる人はいないのかなと思って始めたんです。私がいつも料理教室で教えているのは、家にあるもので作る汁物と、焼いただけの野菜とか、そういうものです。世の中のレシピって、それらをできる前提で発信しているものが多い気がします。

haru._そう感じています。

山口_きっとそう感じちゃうよね。チャチャっと作るご飯はできて当たり前で、それに飽きたところにプラスアルファこんなレシピがあるよみたいな提案が多い。その応用編にたどり着いている人って、実はめっちゃ少ないんじゃないかっていう感覚があるんです。味噌汁も、鍋に顆粒出汁でも、自分で取った出汁でも、ただの水でもなんでもいいから入れて、具を入れて火が通ったら味噌を入れればいいだけだと私は思っているけど、味噌汁のレシピもいっぱいあって、レシピ化することによって逆に複雑化してるみたいな矛盾も感じています。私がよく料理教室で言っているのは「料理って人類が生き延びるためにやってきた行為だから、そんなに難しかったら私たちはとっくに死んでいますよ」っていうこと。料理に対するイメージを変えることで、自分が楽になるんじゃないかなと思っています。料理家って言うと、さっき言ったように先生としてずっと見られちゃって、私がしんどいなと思い、違う肩書きが必要だと思ったんです。それを父に毎日相談していたら、半年経った頃に父が名付けてくれました。

haru._さっきおっしゃっていた、それぐらいできて当然だろうっていう料理のラインがあると思うんですけど、そこの一歩手前を教えるという選択がすごいなって思いました。やっぱり仕事をし始めると、なるべくクオリティを高くしていかなきゃいけないって思ったりするし、それこそ「プロだから」みたいなのもあるじゃないですか。でも、自炊のプロって言うのは聞いたことないです(笑)。

山口_いないよね(笑)。でも言われて気づいたけど、結局みんなにとって自炊は仕事じゃないから、妥協が絶対必要だよね。むしろ妥協しないといけない。やっぱり稼いでるお金も限度があるし、使える時間や体力とか、いろんなものを鑑みてみんな料理している。全部が湯水の如く湧いてくるのであれば一汁三菜作れるかもしれないけど、そうだったとしても妥協がみんなどこかで必要だと思うから、その妥協を提案したいのかもしれないですね。今日はこれしかできなかったってことじゃなくて、これがいいっていうことを認める方向性の方が幸せになれるんじゃないかなって思うんです。

haru._さっき朝活の話をしていたときも、お気に入りのニット5枚を好きで着ているってお話もあったけど、自炊の考え方にも通じていますね。

山口_結局身体はひとつしかないし、1日に何回も靴を履き替えるとかもないから、3足ぐらいしか持ってないです。それでいいじゃんって思っちゃいますね。

haru._自炊へのハードルを高く感じている人が多いんじゃないかというのは、何を通して発見していったんですか?

山口_友達が家に来たときに、友達が来るから品数を増やして作ったら、それに対して「祐加はすごいね」とか「料理が上手でいいな」っていうコメントをされて。「これスタンダードじゃないよ?」って伝えていたりしたんです。あとは、料理やりたくないとか、苦手だと言っている人に、なんでそう思うか聞くと、「インスタグラムに載ってるように、あんなに品数作れない」っていう話にたどり着くんですよ。料理家さんの料理と自分の料理を比べて落ち込んでいたりして、そもそもプロと素人を比べちゃだめだよって思ったりしていました。プロの料理とか雑誌に載ってる料理って、作る側もプロだし、スタイリングもカメラマンもみんなプロじゃないですか。だからみなさんが疲れて帰ってきて、普通の家のキッチンで20%オフの野菜で作った料理を普通の白いお皿に乗せたら、それはそういう仕上がりになります。でもそれがいけないじゃなくて、それが愛おしいじゃないですか。「あなたにしかできない料理ですよ」っていつも言っています。料理本とかに載っているものは、美味しそうと思ってもらって作ってもらうための写真だから、目的が全然違う。別に家で作る料理なんて写真撮らなくていいし、私だって残り物をキッチンで立ち食いする日だってある。

haru._SNSに載せていないだけで、みんなそういう日を過ごしているのに、なかなかそこまで想像できないというか。SNSを見ていると、自分はだめなんだとか、今日もご飯作れなかったとか思っちゃいがちですよね。YouTube Shortsでも、料理の動画が流れてくるんですけど、朝ごはん作ってきますって言いながら、品数多い!みたいに思います(笑)。

山口_朝からどんだけ作るんだって感じですよね(笑)。見た目も完璧で。私は寝癖ついたパジャマのまま作ってますけどね(笑)。

haru._でも最近は両極端の方がSNSでもいるなと思います。

山口_そうなんですよね。いつも「極端です」って話をしていて。そんなに毎日味の濃いもの食べなくていいし、毎日レンチン料理だったらそれはそれでつまらないじゃないですか。だけど毎日最初から出汁をひくのも大変だし、もうちょっと間は無いんかい!って言うのが私の一番の疑問ですね。

haru._私は生卵で卵かけご飯を作るよりも、焼いた方が料理した感があるから目玉焼きが好きなんです。

山口_自分の尊厳が料理には関わってくると思っていて。本当は料理できたのに、やらなかった日って、「本当はもっとできたのにな」って思いながら食べちゃうと思うんだけど、卵1つ焼くだけで「よし、やったぞ!」って思えるなら絶対やった方がいいと思うんです。そっちの方がメンタルにいい。

haru._そうなんですよね。直結してるなっていうのはすごく思います。私は料理することを蔑ろにしちゃうことがあって、夜遅くまでオフィスでPC作業とかをしていると、本当だったらご飯を温めて、卵焼いて食べればいいのに、Uber Eatsを頼んじゃう。しかもある程度冷めたものが届いて、私はこれに2000円払ったんだと思うと、高いし落ち込むんですよ。その感情をどうカバーしたらいいか分からなくて、「でも今日だけ仕方ない」と思うようにしてるんですけど、それが3日ぐらい続く(笑)。

自分のご機嫌を取るためではなく、自分のお世話としての料理

山口_haru.ちゃんはなんであんまり料理しないんですか?

haru._料理をすることが自分の生活のなかで最下位になっちゃっているというか。自分を大切にする優先順位のなかで料理がすごく低いところにいるんです。整体とかは行くんですけど。

山口_人の手を借りて自分を癒したりとか?

haru._自分でどうにかしろって思うんですけど、あんまりできないですね。でも本当は料理もしたいんです。

山口_私は味にうるさいというか、食べたいものを食べたいと思っているんです。だから、外食で食べる料理にも「もうちょっとこうだったらいいのに」って思いがちなんです。でも自炊って、それを自分好みにできるのが気持ちいいんです。

haru._定食屋さんでご飯食べたりすると、想像してた3倍ぐらい味濃かったりするじゃないですか。

山口_するする!どういう計算でこれ味つけてんの?みたいなね。

haru._でも、料理名的にはこれが食べたかったっていうところで、一旦良しとしちゃうんです。でも、自分で作れば薄味にできるのでいいなと思っています。

山口_料理自体は月に1回もしないんですか?

haru._目玉焼きを焼くのも入るなら月に5回とか(笑)。

山口_でもやりたい気持ちはある?

haru._やりたい気持ちはあるんですけど、時間の使い方が下手すぎるのかな……。

山口_私はご飯を食べることを1日のメインに据えていて。だから17時くらいになってくるとお腹空いてくるんですけど、そうすると本当に不機嫌になるんです。家でも18時になったら夜ご飯を30分くらいで作って食べて、片付けて、19時になったらまた仕事するみたいな感じで、リフレッシュみたいにしています。

haru._料理をする方は、それにだけ集中できるからすごくいいよって言いますね。

山口_マイベスト目玉焼きを作ったりするのもいいと思う。さっきのセーターの話じゃ無いけど、お気に入りの料理を3つだけ持っていればいいと思うんです。それだけは上手に作れるって自分が思えるものがあれば、3択だから献立を決めなくていいし、すごく楽になる。私はメニューに困ったら「豚汁とおにぎり」か「刺身と味噌汁とご飯」って決めています。どっちも好きなメニューなので、仕事で疲れて帰ってきて、献立を考えるのが無理なときは絶対それにしています。

haru._自分のオンオフのスイッチみたいな感じなんですね。

山口_そうそう。自分の手入れとか世話のために料理を作ってるっていう感じなので、機嫌をとるっていう感覚じゃないんですよね。

haru._自分のお世話をしてあげるっていうのが、私はできてないんだな……。本当に整体でどうにかする。

山口_自分で背中とかさわれないから、人にやってもらうことの意味もある。だけど、自分が今食べたいものを、すっごく微妙な味付けの違いとかを他人に指示してやってもらうのってすごく嫌じゃないですか。うるさい人になっちゃうから。だからそれを自分でやる。自分の中にいる、ご飯を食べたがってるもう一人の自分に「味どうですか?」って相談しながら決めてる感じです。

ご飯を食べることで生まれる特別な時間

haru._料理って他人を巻き込まなきゃいけないっていうイメージがあったんですよ。一緒に住んでる人がいるなら、自分のご飯を作るタイミングでその人の分も作らないといけないのかなとか。でも私は自分の料理に自信がなさすぎるから、自分の分を作るのも嫌なのに、人がいるっていうのも無理なんですよ。料理を振る舞うっていう発想がない。

山口_プレッシャーだよね。

haru._私は美味しいと思うけど、味噌汁にサツマイモ入ってても大丈夫ですか?とか思っちゃうし、すごくプレッシャーを感じていたけど、自分のためのご飯でいいっていうのはすごく救われました。

山口_誰かに食べてもらうご飯って緊張感がありますよね。

haru._でも、私たちのオフィスで、ランチの時間にお友達や仕事の人を呼んで、miyaが作るご飯をみんなで食べる「オフィス飯」っていうのをしているんですけど、作れる人が作って、みんなでそれを囲んで「美味しいね」って言って食べる時間が、レストランとかでご飯を食べる体験とは全く別物なんです。仕事のコラボレーションの話を持ちかけなくても、人とこうやって時間を過ごせるんだっていうのは大きな発見だったんです。仕事の話をしなくてもいいんだ!って。

山口_しかも料理って言語があまり関係ない世界。去年の10月にイタリアに行って、女性シェフがやってるレストランに一週間ホームステイしてたんですけど、私はイタリア語喋れないし、彼女も英語があまり喋れなかったんです。だからお互いカタコトの英語でコミュニケーションしてたんですけど、料理の単語ってイタリア語から来てるものも多いから、なんとなくイメージで分かって。工程もほとんど食材を切って、火を入れて味付けをするっていうものだから、理解できるし、言葉が通じなくてもめっちゃ料理が楽しかったんですよ。それと、料理って作ったらみんな食べてくれるから、作品として残らないんですよね。だから多少失敗しても大丈夫だと思える。それが私はすごくいいと思っています。

haru._確かに、お土産とかも食べ物にした方がいいって言いますもんね(笑)。

山口_あと、料理作ってる人ってあんまり悪い印象をもたれない(笑)。だから仲良くなりやすいって思う(笑)。

haru._料理作ってもらった人に「この人嫌な人だな」って思わないですね(笑)。

山口_8年前にharu.ちゃんに私のご飯を食べてもらってるように、そういう人がいっぱいいるんです。あの人にご飯食べてもらったなって思い返す人。そういう不思議な関係性がありますね。

haru._ただその場にいて話しただけじゃない、また違った記憶の残り方がありますよね。

山口_よく「お店をやらないんですか?」って聞かれるんだけど、今のところはやりたいとは思っていなくて。それは、私の料理っていうのは私から生まれたものなので、私の一部みたいな感覚があるんです。初めましての人にお金をいただいて食事を提供することがなんだか怖いって思っちゃうんですよ。自分の一部を差し出すみたいな気持ちがあるから、合わなかったらどうしようとか考えちゃう。恥ずかしいし、怖いし、評価されたくないみたいな気持ちになっちゃうから、逆に言うとお店をやっている人は本当にすごいなって思う。でも山口さんはこういう料理を作る人だってことを分かってる人には食べてほしい。そうじゃないとただの地味なご飯だなって思われそうで。よく言ってるのは、アンパンマンみたいな気持ちで、自分の顔を食べてもらってる感覚なんです。だから、誰にでも食べてもらいたいかっていうとそうじゃない。

haru._自炊レッスンでも、自分の作った料理を提供するっていうよりも、みんなが自炊しているところを見守っている感じなんですよね?

山口_そうです。オフラインの料理教室も、グループになってもらってそれぞれ料理してもらっていて、たまに呼ばれたら切り方や味を確認するくらい。だけど、大体大丈夫なんですよ。大きい間違いをする人なんてそんなにいないから「大丈夫ですよ」って言ってるだけ(笑)。

haru._山口さんが書かれた『自分のために料理を作るー自分からはじまる「ケア」の話』*を読んでいるんですけど、いろんな方との料理のレッスンのレポートが掲載されているんですけど、そのレッスンはオンラインで開催されていたんですよね?

山口_そうそう。キッチンにパソコンを持っていってもらって、「玉ねぎは繊維に沿って切るとシャキシャキして、繊維を断ち切るようにきるとクタクタになります」みたいなのを説明しながらやっていました。

haru._それってまさに山口さんの最初の自炊体験みたいですよね。お母さんの声に従って料理をしていくという。料理家さんっていうと、その人が作った料理を振る舞われたり、その人の名前がついたレストランにご飯を食べにいくっていうイメージがあったんですけど、山口さんは自分のために料理を作る体験を広める活動をしているのかなって思いました。

山口_自分のレシピ本を出しておきながら言うのもなんですけど、全然こだわりがないんです。料理家さんって、一度はレシピ通りに作ってほしくて、その後に各々アレンジしてもらってオッケーっていう人が多いなって個人的には思っているんですけど、私からするとカラオケみたいな感じ。私のやり方も一個ありだと思うけど、自由にやってくださいって思ってます。とにかく、こういう感じで料理すればいいのねっていう感覚を掴んでくれる人が一人でも増えたらいいなっていう感じ。そのためのツールとしてレシピがあるだけなんです。私以外の料理家さん達が日々レシピをたくさん作っていらっしゃるから、私は料理人口を増やす方に注力したいなって思っています。

haru._レシピって出切っていないのかな?って思ったりもします。

山口_出切ってると思うよ。ひらめいたと思って検索すると絶対にすでにそのレシピあったりするもん。だからもうひらめいても検索しないようにしてる。さっきもカラオケの話をしたけど、同じ曲でも、同じように歌えることってないじゃないですか。みんな声が違ったら、歌が変わるように、その人の癖って必ず出るから同じようにはならないんですよね。だから私のレシピを10人に作ってもらったら、全部違う味になると思う。

haru._野菜の切り方もみんな違いますもんね。

山口_そうそう。みじん切りっていっても、すごく雑な人もいるし、すごく細かい人もいる。

haru._私は検索をしすぎて一向に進まないんです。野菜の下処理とか切り方とかいろいろあるけど、乱切りって言われても「何それ?」ってなって検索してを繰り返して一向に出来上がらないんです(笑)。

山口_じゃあ今度haru.ちゃんに料理を教えたらいいんだな。乱切りとかめっちゃ簡単だから。例えばきゅうりをまず斜めに切る。そのきゅうりを手前にコロッとするときゅうりの断面が見えてくるんです。断面が見えたらまた同じ角度で斜めに切ればいいんです。それを繰り返せば乱切りになる。その斜めの角度を戻していくとただの輪切りになる。そう言う感じです。

haru._今度実戦でやりたいです。

haru.さんと山口さんの対談は後編に続きます。後編では家庭で料理をするうえでの主導権は誰にあるのか、二人が共通して考える「カラダは借り物」という考えとはどういったものなのか、山口さんが料理を教えるときのモットーなど、たくさんお話いただいたので、そちらも楽しみにしていてくださいね。

それでは今週も、行ってらっしゃい。

*『自分のために料理を作るー自分からはじまる「ケア」の話』 ゲストの山口さんの書籍。山口さんのもとに寄せられた「自分のために料理が作れない」人々の声。「誰かのためにだったら料理をつくれるけど、自分のためとなると面倒で、適当になってしまう」。そんな「自分のために料理ができない」と感じている世帯も年齢もばらばらな6名の参加者を、山口さんが3ヵ月間「自炊コーチ」。その後、精神科医の星野概念さんと共に、気持ちの変化や発見などについてインタビューすることで、「何が起こっているのか」が明らかになる。「自分で料理して食べる」ことの実践法と、その「効用」を伝える、自炊をしながら健やかに暮らしたい人を応援する一冊。

山口祐加さんに聞きたいコト

視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

Q.ご機嫌に生活されるために何か工夫をされてますか?

A.毎日、朝起きた時に、今日は何が食べたいか、どんなことがしたいかを考えます。すべては叶えられませんが、小さなことでも叶えられるとハッピーだなと思います。体調や気分は毎日変わるものなので、そのチェックを欠かさずにいるという感じです!

Q.カラフルなエプロンのおすすめなブランドや作家さんはいますか?? 素敵なエプロンを探しています。

A.料理家の野村友里さんがディレクターを務めるeatripのエプロンはピンクや水色などがあり、きれいですよ。 https://eatripsoil.com/items/5ee9c9880d5e380e903572ed Doのエプロンもおすすめです。 https://www.claskashop.com/?pid=174237145

Q.自炊に役立つ意外な調味料を教えてください。

A.意外なもの…私はいつも普通の調味料しか使っていないです(笑)。塩、醤油、味噌、みりん、酢、ごま油とオリーブオイルがあれば、日常の料理は十分だと思っています。

Q.毎朝のルーティンはありますか?

A.ルーティンを決めると全然続かないことに気づいたので、その日朝起きて、着替えたり朝ごはん食べたりなど、好きな順番でやっています。その時の気分を一番大事にしています。

Profile

山口祐加

自炊料理家 1992年生まれ、東京出身。慶應義塾大学総合政策学部卒。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など。好物はみそ汁

photography: miya(HUG) / text: kotetsu nakazato
 

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