プランター菜園を始める朝 haru.×maco marets【前編】

月曜、朝のさかだち

『月曜、朝のさかだち』第11回目はラッパー、作詞家、詩人のmaco maretsさんをゲストにお迎えし、プランター菜園を行いました。トマトやバジル、紫蘇など、家庭でも育てやすい苗をプランターに植え付け。苗を植え付ける担当と土を入れる担当に分かれ協力しながらプランター菜園を完成させていきました。朝活を終えた二人は、出会いからの8年間を振り返りながら、ラップを始めたきっかけや、ヒップホップに根付くマッチョなイメージとの向き合い方、年齢を重ねるごとに感じてきた自分のルーツについてなどお話しいただきました。

二人の出会いとこれまでの共作
haru._実はPodcastを聞いているとわかると思うんですけど、毎回ゲストとお話ししている後ろで音楽が流れていて聞こえると思うんですけど、この音楽はmaco maretsさんに提供していただいたんです。
maco marets_私の「Spring Journal」という曲のインストバージョンを使ってもらってるんだよね。
haru._私は別でもPodcastをやってるけど、そこには音楽はなくて。でもこの『月曜、朝のさかだち』ではずっと音楽が聞こえる状態なんです。この番組のムードを作ってくれていて、明るい気持ちになるんですよね。あの音楽があることで、この番組の暖かさみたいなものがすごく出ていると思います。ありがとうございます。
maco marets_こちらこそありがとうございます。
haru._私たち実は学生時代からのお友達なんですよね。大体8年くらい。だから普段はmaco maretsさんって呼んでいなくて、「ブアくん」って呼んでいるんです。
maco marets_2016年にmaco maretsとしてCDデビューするまではbuaっていう名前でずっとラップをしていたんです。学生時代に知り合った人とかはbuaで繋がっていたから、その時からの友達はブアくんって呼んでくれていますね。
haru._じゃあ私たちが出会ったのはまだbuaで活動していたときなのかな?
maco marets_ちょうど境目ぐらいだった気がする。
haru._maco maretsっていう名前に対して、私は何も違和感とか無いし、めっちゃ馴染みはあるんだけど、名前を呼ぶときはブアくんって呼んでいるので、今日も自然な感じで話していくためにブアくんと呼ばせていただきます。maco maretsのグッズの制作を一緒にやらせてもらったり、私が喋っている音源を素敵な楽曲にしてくれたりしているんです。
maco marets_あとはMVに出てくれたり、結構色々一緒にやってるんですよね。
haru._そうだ(笑)! 昨年の8月30日にリリースされたアルバム『Unready』のアートワークも、私たちHUGで担当させてもらっています。それが一番直近のブアくんとの思い出なので、最新のアルバムの話もしていきたいと思っています。我々はちょうど朝活から帰ってきたところで、今日はプランター菜園をしました。いかがでしたか?


maco marets_楽しかったですよ。プランターに苗を移し替えるっていう作業なんだけど、パクチー、紫蘇、パセリ、トマト、バジル…。
haru._私たちはよくオフィスでお昼ご飯を作っているんですけど、そこで多分今後活用されるのかなって思っています。今までの朝活ってその場で終わることが多かったんですけど、今後を楽しみにできる朝活っていうのがおもしろかったです。
maco marets_やって終わりじゃないっていうのは素敵ですね。
haru._そうですね。だからここから育てていかないといけないけど。
maco marets_枯らさないようね。
haru._ブアくんにも持って帰ってもらえるよう小さなミントがあるので、この思い出を胸に育ててください。普段自分でもプランター菜園とかやりますか?
maco marets_野菜はないんだけど、観葉植物はお部屋に何個かあって、頑張って水をあげてます。1回レモングラスを育てようと思ったんだけど、それは枯らしちゃった。
haru._お水をあげすぎるのもよくないって言うじゃん。その塩梅が難しくて、サボテンも放っておけばいいのに、なんか気にかけちゃって水をあげすぎて枯らしちゃう。
maco marets_その具合って、専門家じゃないから分からないじゃない。なんとなくでやっちゃうとやっぱり繊細だから…。
haru._枯らしちゃうたびに、自分は動物とか飼ってはいけないっていう気持ちになっちゃう。ブアくんは犬さんがいますよね?
maco marets_犬さんは同居人の実家の犬だから、いつもいるわけじゃない。たまに預けられてきたり、散歩に行ってあげたりするんだけどね。でもヤモリ3匹います(笑)。爬虫類って可愛いと思っていて、ヒョウモントカゲモドキっていう爬虫類のペットのなかではポピュラーなのがいて、その子を飼っています。
haru._なんでヤモリにしたんですか?
maco marets_住んでいる家がペット可じゃないんだけど、それでも飼えるのがヤモリとかお魚で。最初は1匹だったんだけど、エゴだよね…。今は3匹飼ってます。

身体を動かし、朝が始まる
haru._ブアくんは朝のルーティーンとかありますか?
maco marets_この番組でもやっていたけど、ラジオ体操をしますね。五島列島に一緒に行った時も、ラジオ体操やってるんだよねって話したと思うんだけど、できるときはするようにしてます。ストレッチとかもそうだけど、体をまず1回ほぐしたい。
haru._それは日課みたいになってるんですか?
maco marets_うん。目覚めがいい気がする。
haru._私は寺尾紗穂さんと朝活でラジオ体操して以来やってないですね(笑)。でも最近、本当に体を動かさないといけないかもしれないって思ってて。なので満を持してパーソナルジムに登録しました。
maco marets_結構本格的。
haru._8回分を半年で消化しなきゃいけないから、2週間に1回は絶対にいかなきゃいけなくて、明日2回目に行きます。しかも朝。
maco marets_どういうのをやるんですか?
haru._1時間のコースなんだけど、基礎がなってないから、一旦30分ストレッチして、そのあと筋トレもやらせてもらってる。
maco marets_じゃあ半分ストレッチで終わっちゃうんですね(笑)。
haru._まだ2回目だから、ちょっと今後…。
maco marets_そうだよね。徐々にね。いきなりやっても体に負担かかっちゃうから。
haru._そうなの。ジムで好き勝手やっても間違えそうだから、プロの手を借りようかなと。
maco marets_僕も本当に筋トレとかしないから、年齢を重ねるにつれて特に腰をすぐやっちゃう。ライブイベントとかで1日中稼働してると、夜は立ってるだけでもちょっとしんどい時もあって。たぶん筋肉がたりてないんだと思う。
haru._整体通ったらいいと思う。私もそうだったけど、4年間ぐらい通ったらもう大丈夫になった。
maco marets_筋トレもせずに?
haru._筋トレはしてない。本当に整体だけ。紹介しますね。
maco marets_行ってみたいです。

マッチョな振る舞いを自分の中から切り離したい
haru._実は私、ブアくんがなんで音楽の道に進まれたのかとか知らなくて。今日はそういうところから話して行けたらいいなって感じなんですけど、きっかけはなんだったんですか?
maco marets_元々楽器をずっとやっていたんです。小さいときにピアノを習って、中学高校で吹奏楽部に入ってサックスをずっと吹いていて。だからラップミュージックに出会う前から割と音楽に触れる機会はすごく多かったんです。中学高校で仲の良かった友達のお兄ちゃんが福岡で活動してるラッパーで、その友達もすごくヒップホップが好きで色々と教えてくれたんです。それまではロックとかバンドミュージックが流行ってたから、そういうのを聞いてたんだけど、福岡のディーブなヒップホップを聞いたときに、自分的に「これかっこいいかも!」ってなったんです。そこから自分でも調べて聞くようになって、その友達のお兄ちゃんもラップやってるから、ラップも自分たちでやったら楽しいじゃんって思って、教室でラップをするみたいなのが最初。昼休みとか放課後にみんなで当時流行ってた曲のカラオケ版を流して、そこにラップを載せるっていうのが楽しかったんです。それがきっかけかな。
haru._10代の頃に好きになったことって、当時はあまり何も思ってなくても、めちゃくちゃ考え方とかのベースになるよね。私も高校で初めてZINEを作ったんだけど、楽しすぎる!と思って目覚めてしまって。初めて人と繋がれて、そこからずっと同じことをしてる。ブアくんも今に繋がってるもんね。プロに転身した人は仲間でも多分少ないんじゃないかなって思うんだけど。
maco marets_そうだね。その時に得た煌めきみたいなものがずっと自分の中に残っていて。その時の喜びとか、楽しさがあるからこそ続けられてるみたいなところはあるかもしれない。
haru._いまだにその頃の楽しいなって感じは蘇ったりする?
maco marets_そうだね。制作してるとしんどいときも多いんだけど、そういうときにラップを始めたときは、ラップするだけで楽しかったよなっていうのを思い出したりする。
haru._私の視点だけど、世間が持ってるラッパーのイメージって主義主張が強かったり、見た目もわかりやすく攻めの姿勢みたいなものが連想される。ラップバトルって言うくらいだし。だけど、ブアくんに出会って、ラッパーなんですって言われたときに、自分の持ってたラッパーという職業に対する偏ったイメージがすごくあるなって思った。
maco marets_確かにね。ラッパーって名乗るときに、どういうものを背負っているかって人によって違っていて。僕は単純にラップをしてるからラッパーですって名乗っているけど、今haru.ちゃんが言ってくれたようなラップゲームみたいな業界で心身をかけた戦いってマインドでラップをしている人もたくさんいると思う。だからそういう人たちが「ラッパーです」って言うときのものと、僕が言うときのものは違うものなのかもとは思ったりする。

haru._私から見てると、ブアくんは言葉を扱ううえでもうちょっと詩人とかのイメージの方が近いんですよ。職人さんみたいなイメージがあって。人のあまりフォーカスされないような移ろいゆく感情だったり、繊細な部分を掬い上げる印象がある。音楽も主張がある方がいいと言われるような世界だっていうイメージがあるけど、ブアくんはどうやってその繊細さを保ったまま活動を続けられてるのかなっていうのはすごく気になってることだった。
maco marets_繊細さ、保ててるかな?
haru._保ててると思います。文脈に乗った方がやりやすい時ってあるじゃないですか。でもブアくんは自分の静かな内側をちゃんと守ってるっていうか。ラッパーからは男性性みたいなものをすごく感じるの。
maco marets_マッチョな世界だしね。
haru._それが真横にある世界だけど、それでもそうならずに来たみたいなのは何か意識してたの?
maco marets_自分であまり自分のことを客観的に見れていないかもしれないから、あれだけど…。いわゆるマッチョなヒップホップみたいなものに最初は憧れとかあった気はしていて。それこそ僕は中高と男子校だったから、そこでラップやろうぜってヤンキーノリみたいな感じではあったりしたんだけど、ラッパーのそういうマッチョなキャラクターに自分を没入させることが、なんとなく肌に合わないなっていうのは感じていたんです。ロジックや言語化した理由があったわけじゃないんだけど、なんかちょっと違うかもと思っていて。そもそも男子校のマッチョなノリ自体も違和感みたいなものを持っていたので、ラップをやるってなったときも、自分に合わないと思うようなアティチュードやスタンスのあり方は無理して真似しなくていいのかなっていうのは思ってた。むしろ、いかにそういうマッチョな振る舞いを自分の中から切り離していられるかっていうのを考えたいっていうのはあったから、曲を作っていくときにも意識してるときもある。
haru._それって意識してるだけだとなかなかできなかったりする。社会で起きてることとかって、常に変化してるから、そこでのスタンスや考え方も常にアップデートしていく必要があるなっていうのは、やっぱりものを作ってたりするとすごく感じていて。自分のものづくりのスタンスはここ10年とか変わってないかもしれないけど、いろんな物事に対しての知識のアップデートや、自分の考え方や、使う言葉が間違っていないかっていうのはすごく気になる。ブアくんは本をすごく読んでる印象があって、Instagramでも読んだ本を紹介してくれているよね。
maco marets_ずっとしてる。
haru._だからか、言葉の引き出しがすごく多い。蓄積が多い人だなって思っていて、常にそうやってアップデートしている感じがします。
maco marets_嬉しいです。言葉を扱うときに常に社会的な正しさや、コレクトネスの要請があるからとかではなく、自分自身が世界を見るときの眼差しのあり方が硬直してしまわないように、曲を作ることを通して脱し続けたいと思っていて。そこが固まってしまうのが自分にとっては結構しんどさに繋がってしまうんですよね。そういう意味でなるべくいろんな本を読むようにしています。
haru._なんでも読んでるイメージ。
maco marets_興味がちょっとでも沸いたら、その分野の本をバーっとかき集めて読んでみたりしてる。それが何か体系的に自分のなかで繋がってるとかでもなかったりするんだけど、とにかくいっぱい勉強するっていうのは心がけています。全然たりないとは思ってるけど。
haru._最近気になるトピックや題材はありますか?
maco marets_直近だと日本史かな。歴史は何度でも振り返った方がいいんだけど、ちゃんと勉強しなきゃと思っていて。最近は、第二次世界大戦のときに日本が中国大陸で作っていた満洲国っていうところがあって、僕のおじいちゃんがそこの生まれなんです。自分のルーツがそこにあるっていうのは知っていたけど、あまり深く勉強をしたことがなくて。おじいちゃんがもう90歳で、これから先どれだけ会えるか分からないから、自分のルーツとなるおじいちゃんが、どういう場所で生まれて、どんなふうに生きてきたのかっていうことを知りたいなって最近ふと思って、満州や日本の歴史について調べています。自分の個人史に紐付けたいっていうところから始まってるんですけど。
haru._その感覚すごくわかる。この間、歌人の伊藤紺*さんとお話ししていて、紺さんもおじいさんが亡くなられて、そこからすごくおじいさんのことを調べるようになったり、自分のルーツについて考えるきっかけになったって言っていて。私も去年おばあちゃんを亡くして、自分自身を考えるときに、私だけを考えるんじゃなくて、その前の人や出来事、自分がどういうルートを辿ってここにいるのかなっていうことをすごく意識するようになった。あと、自分が次に何を残したいのかとかも考えるようになったかな。
maco marets_わかる。ジェネレーションの感覚というか、昔はなかった気がするんだけど、年齢かな(笑)。
haru._年齢だよね(笑)。しかも真ん中なんだよね。振り返りもするし、これから自分はどうして行こうとか、何を残せるのかっていうことを考える。なんだかすごいことをしなきゃいけないみたいに聞こえるけど、そういうことでもなくて、本当にちょっとした物でもいいんだけど、何を残せるかっていうことをね。
maco marets_なんのためにこれから生活を送っていくのかっていうのを考える気がする。
haru.さんとmaco maretsさんの対談は後編に続きます。後編では昨年リリースされたアルバム『Unready』の制作秘話、リリースから数ヶ月経った現在の心境やこれからについて、そして自身のほぐし方についてお話しいただきました。そちらも楽しみにしていてくださいね。
それでは今週も、行ってらっしゃい。

maco maretsさんに聞きたいコト
視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!
Q.休日何されてるのか気になります!
A.ふだんは制作作業で引きこもりがちなので、休日は展示やライブイベントなど、新鮮な空気を求めて外に出かけるようにしています。と言いつつもちろん家でゆっくり本を読んだり、映画を観たりする時間も大好きです(最近は『美味しんぼ』がお気に入りです)。
Q.「月曜、朝のさかだち」bgmの話がきたときはどう思いましたか?
A.率直に、とても嬉しかったです。こうしたお仕事はなによりブランドや番組のメッセージに寄り添うために、自分が表現活動をする上でのスタンス、立ち位置の再確認を求められるものだと思っていて。「わたしは誰かの心をほぐすことのできる存在になれるのか?」と、勝手ながら自身を見つめ直す貴重な契機になりました。
Q.今一番やってみたい仕事は何ですか?
A.まだやったことのないことがたくさんで、なかなか選ぶのが難しいのですが……たとえば映画やドラマ、アニメといった映像作品に楽曲を提供させてもらえることがあったら楽しそうだなと思います。あとは音や詩のことばを使ったインスタレーションとか、ある空間全体を演出するような企画もやってみたいです。
Q.これまで読んできた本で一番心に残っているものは?
A.一番を選ぶのはとてもとても難しいのですけれど、小説という表現形式に興味を持つきっかけになったひとつを挙げると『カフカ: コミック版 (知的常識シリーズ 3)』(心交社, 1994年)。これはカフカの入門書なのですが、漫画家のロバート・クラムによる強烈な挿絵もあいまって、悪夢的・迷宮的とも称されるその小説世界にズルズル引き摺り込まれるような、底知れぬ魔力に夢中になって読んだ記憶があります。
Profile
maco marets
1995年福岡生まれ、現在は東京を中心に活動するラッパー/作詞家。2016年に1stアルバム『Orang.Pendek』で「Rallye Label」よりCDデビュー。その後セルフレーベル「Woodlands Circle」を立ち上げ、自身7作目となる最新アルバム『Unready』に至るまでコンスタントに作品リリースを続けている。近年はEテレ『Zの選択』番組テーマソングや、藤原さくら、さとうもか、Maika Loubté、Mashinomi、Shin Sakiura、LITEなどさまざまなアーティストとのコラボレーションワーク、またメディアでの執筆活動でも注目を集める。