2024.5.27

「服を交換する」朝 haru.×山口祐加 【後編】

PROJECT

月曜、朝のさかだち

 haru.

第10回となる『月曜、朝のさかだち』では、自炊料理家の山口祐加さんをゲストにお迎えしています。記事の後編では二人が共通して考える「カラダは借り物」という考え、その捉え方の違い、山口さんが料理を教えるときのモットーなどたっぷりお話しいただきました。Podcastでも全編視聴できるので、ぜひ聞いてみてくださいね。

二人が考える理想のご飯やさんとは?

haru._コロナ禍に一度料理にハマったんです。仕事もストップしちゃったので、やることといったら家で料理するくらいで。そのときはパンを作ってたんですけど、それもレシピを検索して、分量もしっかり測ってやっていました。

山口祐加(以下:山口)_パンやお菓子は絶対に計量しないとダメ。だから私はパンやお菓子作りは向いていないんです。それこそコロナ禍で夫と住み始めた頃にほうじ茶プリンを作ったんですけど、ゴムみたいになって(笑)。「祐加さんでもこんなにまずいもの作れるんだ」って大爆笑していました。私は雑な人間なので、計量とか向いてない。これでいいっしょ!って思いながらやっちゃう。

haru._仕事しながら横にパンの生地を置いて、膨らむ様子を見ているのが楽しかったんですけど、料理となると本当にわからなくて。調味料を何と何を入れたら、あの味になるみたいな計算式がないんですよ。だから生姜を入れまくってるのに、そこにバターを入れちゃったりする。食べてみたらまずすぎて衝撃を受けるみたいな(笑)。

山口_ニンニクとバターは合うのにね。

haru._そうなんですよ。だから生姜とバターもいけると思ったんですけど、恐ろしい味でした。

山口_でも、haru.ちゃんにとっては合わないだけかもしれなくて、それが美味しいと思う人もいるかもしれないのが料理のおもしろいところなんですよ。だから料理のレシピを作っていて一番もどかしいのが、私は美味しいと思ったけど、きっと全員が美味しいって思う味じゃないのかもって思うんです。味の好き嫌いって、人によってすごく繊細に違うので。だからこそ、そこを自分で選んでほしい。私はあなたにはなれないから好きに選んでって思っています。

haru._うちの母がそのスタイルでした。うどんを作ってくれても、味をつけてないからそれぞれお願いしますっていう感じ。うちの家系はたぶん女性陣があまり料理をしないんです。おばあちゃんもたまに作ってくれていたんですけど、定期的にお肉と卵を届けてくれるおばさんがいて、その人が来ると毎回同じカステラと鶏肉料理を作っていました。そういうルーティンで料理をしているのもすごくおもしろいですよね。家族に食べたいものを聞いて、それぞれ違うものを食べたがっていたら、全部作ってあげる方もいるじゃないですか。あれめっちゃすごいなって思います。

山口_すごいよね。基本的には自分の家のことしか言えないんだけど、私は夫に「何食べたい?」って聞いたことは一度もなくて。聞いてもたぶん作らなくてかわいそうだから聞かないです。世間の“良いお嫁さん像”があるのだとすれば、たぶん旦那さんが食べたいものを作ってあげることが理想とされるのかもしれないけど。

haru._それ結構衝撃です。自分の家は作る人に主導権が完全にあったので、家族それぞれが食べたいものを作るっていうのを聞いて、すごいなと思いました。

山口_でも基本的には作る人に決める力がある方がいいと思うんですよね。じゃないとお客さんみたいになっちゃう。作ったのに食べてくれなかったって、そもそも食べてもらえるだろうっていう期待を相手にしているじゃないですか。今日は仕事が早く終わったから、息子が好きなハンバーグを頑張って作ったのに、「帰りにマック食べたからいらない」って言われることもあり得る。そうなったら私は絶対キレちゃうもん。それなら今自分が食べたいものを作って、食べないって言われたら「量が増えてラッキー♪」って思えた方が得だし、無駄なエネルギーを使わなくていいなって思うんです。

haru._大抵の人が1日3食食べるからこそ、誰かと一緒に食べたりする時間が生まれるじゃないですか。そこでのコミュニケーションって、すごくお互いの価値観が顕著に出てくる場所ですよね。

山口_だから作る側はもっとハンドルを握ってもいいんじゃない?って思います。直近で出した本が『軽めし』*①っていうタイトルなんですけど、担当してくれた編集者さんは「奥さんは頑張って料理を作るもの」って結婚当初思っていたみたいで、毎日気合を入れて料理を作っていたそうなんです。そしたら「たまにはうどんとかでいいよ」みたいなことを言われたらしくて。その編集者さん的には衝撃を受けたそうなんです。たぶん、地味なものがベースにあってから、張り切る料理がたまに出てくる方がメリハリがついていいと私は思います。

haru._特別感が出ますしね。

山口_そうそう。だから一緒に住んでる人とはもっと食べ物のことを喋ってもいいと思うんです。この味が好きとか、ご飯はどれくらい盛りがいいとか、お味噌汁は絶対ほしいとか。そういうのって人によってこだわりがちょっとずつ違ったりするんですよね。そういうことを聞くのって楽しいと思います。

haru._私も、パートナーがご飯を作ってくれることの方が多いんですけど、向こうは味の濃いものが好きなんですけど、一緒に食べてるとやっぱり汁物とかが濃いなって思っちゃうんです。でも作ってもらってるから言えないなって最初は思ってたんですけど、これから先何年私はこの人にご飯を作ってもらうんだろうって考えたときに伝えた方がいいと思って、「私は薄味が好きです」って言ったら、「そうなんだ」だけで会話が終わって。じゃあお湯もっと入れるねで解決したんです(笑)。

山口_それからは薄味になったんですか?

haru._薄味にはなってないんですけど、薄くできる場合は個人でカスタムしてくださいっていう感じになって、大したことねえなって思いました(笑)。

山口_本当にそうだと思う。だから食べさせてもらってる側って、逆に言うと弱い立場ですよね。それも認識したうえで、作った側がいろいろ聞くといいんじゃないかなって思います。

haru._確かに、味の感覚が違うから、私はこっちを追加して食べるねみたいなやりとりが発生すると、一緒に食べることが全然ストレスにならないんですよね。

山口_私も基本は薄味で出して、足りなければ塩とかを足してくださいっていうスタイルです。味付けがうまくいかないと、味付けをすること自体が料理をする側のプレッシャーになったりするでしょ。それは食べる側にもプレッシャーになる。味付けは不可逆で戻せないので、可能なものはゼロ味で出すのがいいと思います。

haru._お店でもそういうのがあってもいいですよね。

山口_外食って基本全部に味がついてるからね。冷奴くらいじゃない?味ついてないのって。

haru._そういうお店流行りそうですけどね。

山口_私とharu.ちゃんの共通の知り合いがこの間、「もしお店をやるなら『塩控えめ』っていうお店を出したい」って言っていて、めっちゃわかると思いました(笑)。基本的に外食って味が強いですからね。台湾はめっちゃ薄味なんですよ。台湾、特に台北は外食が基本なんで、日本ぐらい味付けの濃いものを毎日食べてたら大変だと思う。

haru._それ思いました。おかゆみたいなのをどのお店で食べても「薄っい!」って(笑)。でも自分でいろんなものを乗せて自分好みの味付けにするのはすごく自分に合ってるなと思いました。

山口_全部20%減塩みたいな定食屋さんがあったらいいんじゃないかなって思いますね(笑)。

haru._サラダ屋さんももっとあってもいいと思っていて。サラダも結局外で食べるとドレッシングが濃くて、ドレッシングを食べてる感じなんですよね。自分でかけられるところってあんまりないじゃないですか。

山口_キューバに行ったときは、基本サラダは素材だけが出てきて、オリーブオイル、ビネガー、塩胡椒が常にテーブルに置いてあるから、それをかけて食べてくださいっていうスタイルだった。それはすごくいいなって思いました。

haru._国によってチェーン店のスタイルも全然違うじゃないですか。昔イタリアに修学旅行で行ったときに、マクドナルドで出てきたサラダに塩胡椒と小さいボトルに入ったオリーブオイルが付いてきて、イタリアンスタイルだなって思いました。

山口_そういうのが増えてほしいですよね。

「何によって心躍るのか」を考えることで 人生は超楽しくなる

haru._私はドイツに住んでいたんですけど、子どもだったのもあって学校が終わったらすごく時間があって、いろんな子の家に遊びに行ってたんです。そのまま夕食も一緒に食べていくことになったんですけど、パンだけってことがよくあったんですよ。カルテスエッセンって言うんですけど、直訳すると「冷たいご飯」って言う意味。冷たいパンに普通のチーズやハム、蜂蜜とかが出されて、簡単にご飯を済ますって文化なんですけど、結構衝撃的でしたね。

山口_めっちゃ合理的ですけどね。夜って寝るだけだから、そんなにカロリー取らなくていいし、全部切るだけで加熱もいらない。洗い物も少ないから、日本人も週2くらいでやったらいいのにって思います。

haru._これでもいいんだって思ったんですけど、それを日本でやると「なんで夜にそんな質素な食事してるの?」って言われたりするんです。

山口_まじで!?そんなのほっといてくれよって感じですけどね。

haru._でもやっぱり、夜こそ食卓を囲んで温かいご飯を食べるっていうカルチャーが日本にはあるんだなって思いますね。国によって違うということをそのときにすごく感じました。日本ではそれ以外の時間に、ゆっくり人と一緒にご飯を食べるタイミングがないのかなとも思います。

山口_オフィスで働いている人が多いから、出先で急いでランチするっていう人はすごく多いですよね。しかも12時〜13時がお昼休みっていうところ多すぎませんか?もっとバラけてお休み取ったらお店だって混まないし、並んでる時間が長くてすごい勢いで食べて、オフィス帰って眠くなって作業効率下がるってこともなくなる。

haru._会社員もやられてたんですもんね。そのときはそういう生活をしてたんですか?

山口_私は基本的にお弁当を持って行ってたんで、外にはあまり食べに行ってなかったです。でも友達の話を聞いてると、やっぱりそういう生活をしてるっていう話を聞いて、なんか切ないなって思いました。私はご飯が好きなので、ゆっくり食べたいんですよ。だから急かされてる感じも嫌だし、30分長く働くので、もう少しゆっくり食事させてもらっていいですか?みたいな気持ちになります。

haru._会社にいるとそういう個人のちょっとした工夫とか、生活のこだわりって蔑ろにされていきますよね。

山口_新入社員とかだと自分の時間を自分で決められないからね。だから自分の意思とは関係なく、13:30からミーティングが入っちゃうっていうこともあるよね。

haru._そうなんですよね、山口さんはさっき「自炊は自分のお世話をすること」っておっしゃっていましたけど、そういう毎日できるちょっとした自分のためのケアってもっと必要だなって思いました。

山口_私は料理が好きで、ずっと考えているので、料理について言ってるだけで、自分のお世話をお洋服でしてる人もいると思うし、好きなシャンプーを使うとか、いろんな方法で自分のお世話をしている人がいると思います。人によって響くポイントが全然違うと思うので、自分は何によって癒されるんだろうとか、心が休まるんだろうとか、あるいは心踊るんだろうっていうことを考えると、人生超楽しいと思います。

二人の異なる「体は借り物」という意味

haru._ゲストの皆さんに聞いているんですけど、自分のことをどうほぐしていますか?山口さんはほぐしの達人みたいな気がしているんですけど、自炊以外でされてることってありますか?

山口_なんでしょうね……?

haru._むしろうまくいかないなとか、すごく凝り固まっちゃうときもあるんですか?

山口_疲れているときほどずっとスマホを見てますね。あれなんなんだろうって自分でもわからないです。

haru._それしかできなくなっちゃうみたいなのありますよね。

山口_布団に横になって、ひたすら枕で顔の半分を潰しながらスマホを見てる。あれ現代人みんなやってんじゃないかなっていう感じですよね。

haru._スマホがない時代の人は何でそれをしていたんだろう(笑)。

山口_テレビ見てたのかな? 縁側に座って犬と遊ぶのかな? わかんないけど……。私はボーッとするのが本当に下手だと思います。何がかは分からないけど、もったいないって気持ちになっちゃうんです。そういうときはもう強制的に家のヨギボーに寝転んで天井を見上げてます。スマホにも触らないで、ボーッとする練習ですね。あとほぐすことで言うと、私が沖縄ですごくお世話になってるクリニックがあって、カラダのことを見てくれる先生なんですけど、メンタルの話もたくさん聞いてくれる先生で。その先生が「人間はやりたいときにやりたいことができるのが一番の幸せ。そういうことを大事にしてほしい」って言っていて、私の人生の指針にしています。だから2週間に1回とかで、何もしない日を作って、朝起きて自分に「何がしたい?」って聞いて、それを実行するんです。この前は、白イルカを見にいきたいと思って、一人で八景島シーパラダイスに行きました。

haru._行動力もすごいし、ちゃんと自分の声を聞くのもすごい。自分との対話をし続けていますよね。何が食べたいのかとかもそうだし。

山口_すごくわがままなんです(笑)。機嫌が悪いと、パフォーマンスも下がるし、周りに迷惑をかけると思っているので、自分を一定のラインより下に行かないようにしています。それにフリーランスだから、機嫌の悪い料理の先生とか嫌でしょ(笑)?楽しく教えるためにも必要なんですよね。私は仕事とプライベートの自分が常に同じだから、素の自分をできるだけお世話することが、良い仕事につながるって思っています。

haru._朝活のときにも、カフェで朝ごはんを食べていろんなお話をしたじゃないですか。そのときに山口さんが「自分の体は入れ物」っておっしゃっていて。今日お話をずっと聞いていて、自分の意思とこの体は別物で、山口さんの言う「世話をする」っていうのも、自分と自分が向き合ってる状態みたいな感じで自分の体のことを捉えているのかな?って思いました。

山口_小さいときにアトピーだったこともあって、合わない食べ物もたくさんあったし、いまだに食べすぎると調子悪くなったりするものも多いんです。特にジャンクなものや乳製品、バター類とかはあまり合わない。だから自分でそこをケアしていないと、ただただ体調が悪くなっちゃうことも含めて、できるだけ1日8時間は寝るとか、意識していることはいくつかあります。体がそんなに強くないから、考えざるを得ないっていう感じなんですけどね。体が強かったらたぶんこの仕事をしていなかったかもしれないです。

haru._私も体は入れ物っていう感覚がすごくあるんです。タトゥーの話からこの話になったんですよね。私はタトゥーが入っていて、山口さんには入っていなくて。「自分の体は借り物だからタトゥーは入れない」っておっしゃっていたのがすごくおもしろいなって思いました。

山口_図書館から借りてる本に線を引かないみたいな感じです。

haru._逆に私は借り物だからこそ、自分の思考や魂と体が結びついていて離れられないことがしんどいなって思っていて。だからこそこの体は自分のものって思えるためのタトゥーだったんです。借り物という点では同じ考えだけど、全然違う結果になって面白いなって思いました。

山口_haru.ちゃんってモデル業もやってると思うんだけど、「かわいいね」「美人だね」みたいなことをコメントされることについてどう思っているんですか?

haru._体も顔も変わっていくじゃないですか。自分からしたらすごく細かいいろんな悩みとかあるんですけど、そういうコメントを見るといつも「そういうふうにも見えるんだ」って客観的視点で自分を見ている感覚になれることがあります。でも、「天気いいね」って言われてるのと同じくらいの感覚で受け取るようにしています。だからそういう言葉やコメントは、固定の私を評価するうえで必要な要素だとはあまり思わないようにしているかもしれないです。身近な人たちは、きっと私が事故に遭って体型が大きく変わったとしても、たぶん私のことを好きでいてくれるだろうなって思うんですけど、SNSのコメントっていうのは遠いところから微かに聞こえて来るものっていう感じなので、あまり真に受けないようにしています。

山口_アイドルの投稿に「ビジュアルがすごくいい!」みたいなコメントって多いと思うんですけど、私はスタイルや見た目が美しいみたいなことをあまり言われないから、言われ続けるってどういう感じなんだろうって思うんです。内面を見てほしいみたいに思ったりしないのかな?とか考えていました。

haru._私もそんなに言われないですよ(笑)。私の場合は、思春期に自分の見た目が社会の美の基準に当てはまってるっていうふうに思ったことがなくて。それはドイツと日本を行ったり来たりするなかで、美しい人っていう基準値が取れなかったんだと思うんです。当時はアジア人の見た目っていうのをすごく意識させられていたし、そこから先を見ていなかったんですよ。「自分はアジア人だ、どうしよう」って思って、そこから異性に好かれたいとか、そういうとこまで行けなかったんです。セクシーで、眉毛も細めで、まつ毛が長くて、鼻が高くてっていう子たちの要素が一個もなかったから、自分がその美の基準に達してるって思ったことがなかったんです。日本に帰ってきて初めてモデルをやってみないかって言ってもらえて、びっくりしました。今は裏方の仕事がメインなので、そこに活かせるなと思ってモデルの仕事もやってる部分はあります。

山口_なるほどね。インプットのためのモデル業みたいなことなんですね。

haru._それもすごく大きいです。だからカメラの前に立っても、「こういうふうに撮った方がたぶんいいですよね」みたいなこともめっちゃ話しちゃう(笑)。「このモデルうるさ!」って思われちゃうかもしれないですけど、「私」として呼ばれる現場の方が多いから、最近はそれでいいのかなと思っています。そういう視点がどんどん交差する感じがおもしろくて、たまに出る方もやってます。

山口_おもしろいですね。インプットとしてモデルをやってる人は少ない気がします。

haru._すごくメインの仕事に活かされます。ディレクターや編集者からこういうふうに言われたら嫌だなとかってあるじゃないですか。むしろこういうふうに接してもらえたら、被写体として安心できるかもしれないとか、立場が変わるだけでそういう学びはすごくあります。

山口_私も写真を撮られることが増えて、自然に撮ってもらえる人もいれば、めちゃくちゃ固くなっちゃう撮影もあって、撮る側によってこんなにも変わってしまうんだなっていうのはすごく感じますね。

haru._同じ行為だとしても、スタッフで本当に変わりますよね。自己紹介してくれるかどうかっていうのもすごく大事だと思っていて、現場において自分の役割を伝えてくれるだけで、そういう役割でここにいるんだっていうのがわかるだけでもリラックスできたりする。

料理で手元の安心を作る

haru._話が少し外れてしまいましたが、山口さんの自分のほぐし方は、自分との対話を怠らないってことですね。

山口_でも、聞かないと答えてくれなくなっちゃうので、最初は答えてくれなくても、しつこく聞くことが大事な気がします。『自分のために料理を作るー自分からはじまる「ケア」の話』*②でも書いたんですけど、「自分に『何が食べたい?』って聞いてあげてください」って言っていて。「そんなこと考えたことなかったです」っていう人も結構多いんですよ。

haru._私もそうだったんですよ。何を食べたいかがはっきりわかってる人って本当にすごいと思っていました。

山口_質問をし続けてるから答えられるんだと思います。同じように質問していないとたぶん答えてくれなくなっちゃう。食べたいものが分からなくても、何が食べたくないとかはあると思うんですよね。寒い日に冷やし中華食べたいって私は思わないけど、食べたい人もいるかもしれない。

haru._山口さんの話し方や、本でのテキストの書き方ですごく特徴的だなって思ったのは、「私はこうだけど、それが好きな人もいるかもしれない」って自分の意見を言った後に付け足しますよね。

山口_それ嫌なんだけどね……。

haru._え!そんなことないですよ!そうだよなって思わされます。私が生姜とバターを一緒に炒めた件も、自分ではあの味はあり得ないって思っちゃってるけど、それが好きな人もいるかもねっていうのを言ってくれたり、本でも結構その一文って入ってきたなと思います。

山口_常にExcuse(言い訳)しちゃうの嫌だなって思ってるんだよね。でもさっきの生姜バターの話は、やりようによっては全然美味しくなると思う。生姜焼きにちょっとバター入ってたら美味しそうじゃない?

haru._美味しそうかも。

山口_それは醤油がつないでくれているのかな。味と味の記憶ってあると思ってて、バター醤油の味を知ってて、生姜焼きにも醤油が入ってるから、そこにバターが1かけら入っていても違和感ないと思うんだけど、バターと生姜だけになっちゃうと、たぶん記憶のブリッジがないから何これ?ってなっちゃうんだと思う。

haru._私も自炊レッスン受けたいです。

山口_ぜひ一緒にやりましょう。私から料理を学んだら、たぶん楽しくなると思う。誰から教わるかってめっちゃ大事だなと思っていて。それで料理が嫌いになっちゃう可能性もあるし、大好きになる可能性もある。だからすごく責任重大な仕事をしてるんですけど、私が料理を教えるときのモットーは、「やたら楽しそうにやる」っていうこと。

haru._山口さん自身がですか?

山口_そうそう。でも料理してるときって本当に楽しい。砂場で楽しそうに遊んでる人がいるから、子どもたちも仲間に入りたくなるわけで。つまんなそうにしてたら、誰もやりたくないと思う。だから楽しそうにやってくれる人が増えたらいいなと思っています。

haru._わー、今なんだか自分の話をされたみたいな気がしました。楽しそうにやってると、やっぱり周りにそれが派生しますよね。

山口_絶対するし、もし子どもがいる人なら、きっと手伝いたくなると思う。鬼の形相でキッチンに立ってたら、近づくのやめとこうかなって思うじゃない。だけどルンルンでやってたら、何やってるんだろう?って興味を持ってくれると思う。

haru._仕事でもすごく大事なことだなって思いました。料理ってめっちゃ先の未来を考えてるわけじゃないじゃないですか。私はいつも仕事のことばかり考えているんですけど、それって未来のことを考えてる状態なんです。でも未来って何が起こるか分からないからずっと不安なんです。でも料理って、未来といってもそれを食べる自分のことを考えればいいから、時間軸がキュッと短くなってすごくいい効果がありそうって思いました。

山口_15分後の自分が喜んでくれるので。

haru._そうですよね。私はいつも最短でも1ヶ月後の自分とかを考えちゃうんです。

山口_それもそれでありなんだけど、手元の安心を作るっていう意味で料理はめっちゃいいと思いますね。美味しいご飯を食べて不機嫌な人っていないから。別にそれが美味しくなくてもいいと思うんです。自分で作ったってことの安心感がやっぱりあると思うし、それに対して安心感がないっていう人もいるんですよね。でもそれは、自分は美味しく作れないって思っているから。買ってきたものの方が美味しいって思ってる人もいるし。でも、いろんな料理のスタイルとか、食べ物のスタイルがあると思うんだけど、それって自分で作るものに安心感を持てた方が、そのスタイルに辿り着きやすいんじゃないかなって私は思う。

haru._自分さえいれば安心が作れるんですもんね。

山口_私は私の専属のシェフだと思っています。私の中の食べたい人は、すごくめんどくさくて、食べたくないものは本当に食べたくないから、すげえめんどくさいなと思いながら作っています(笑)。気が合うときはいいんだけど、撮影でヘトヘトで帰ってきたのに、豚汁が食べたいっていう人が私の中にいるから、めんどくさ!と思いながら作るしかない。人格が常に二人いて、その人の面倒をみていると基本的にずっと元気だから、手元の安心感が作れてるんだなって思います。

haru._そうですね。ちょっと実践したいと思います。

山口_今度一緒に料理しましょう。

*①『軽めし』
ゲストの山口さんの書籍。「ちょっと何か食べたいな」「チャチャッと作れるのがいい」「片付けもラクに済ませたい」。そんな現代を生きる人のためのレシピです。量はちょっと少なめだけど、満足度は問題なし。作り方はシンプルで 、調理時間はどれも3~10分くらい。準備も片付けもラクチン。あなたの体と心を軽くする、やさしいレシピ本。
*②『自分のために料理を作るー自分からはじまる「ケア」の話』
ゲストの山口さんの書籍。山口さんのもとに寄せられた「自分のために料理が作れない」人々の声。「誰かのためにだったら料理をつくれるけど、自分のためとなると面倒で、適当になってしまう」。そんな「自分のために料理ができない」と感じている世帯も年齢もばらばらな6名の参加者を、山口さんが3ヵ月間「自炊コーチ」。その後、精神科医の星野概念さんと共に、気持ちの変化や発見などについてインタビューすることで、「何が起こっているのか」が明らかになる。「自分で料理して食べる」ことの実践法と、その「効用」を伝える、自炊をしながら健やかに暮らしたい人を応援する一冊。

山口祐加さんに聞きたいコト

視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

Q.最近購入して気に入っている調理器具を教えてください。

A.いろんなところで紹介しているのですが、魚焼きグリルに直接鉄板を入れて食材を焼き、熱々のまま食卓に出せる「焼き焼きグリル」がお気に入りです。直火で焼くとなんでも美味い!

Q.番組内で話されていた小学生の頃にお母様の天の声で料理をされていたというエピソードがとても好きでした。山口さんが現在の職業に就かれて、お母様はどのような感想をもたれていますか?

A.すごく喜んでいますよ!「私があの時お願いしたから今の祐加がいるね」と自慢顔です。さすが私の母。

Q.料理をすると「いつも同じ味」になってしまいます。それが良い時もあるのですが…「いつもと同じ」から脱却するためのポイントを知りたいです。

A.いつも同じ味は安心材料でもあるし、マンネリの始まりでもありますよね。そんな時は香りで気分を変えることが多いですね。例えば生姜焼きの生姜をにんにくにしたらどうだろう?とか、いつもの照り焼きに梅を入れたらどうだろう?とか、ちょっとだけ変数を加える感じです。私はいつもそうやってレシピを発想します。

Q.ハマると同じものを食べ続けてしまうので、なるべく健康的なものにハマろうとしてます。山口さんは健康管理で意識していることはありますか?

A.健康管理はとても意識していますね。まず、冷たいものを飲まないこと。飲むとしてもできるだけ氷は少なめにします。お酒を飲むときも白湯をもらって、胃腸を冷やさないようにしています。甘いものや脂っこいものを食べ過ぎないことも意識していますね。健康的なものにハマりたいなら俄然お味噌汁がおすすめです!!

Q.体のことを考えたいと思いながらも、欲望に負けて体に負担の大きい食事をしてしまいがちです。山口さんはどのように健康と欲望のバランスをとってきましたか?

A.私は元々アトピーだったこともあって、ガッツリ系のご飯が元から食べられないこともありますが、健康的なご飯2〜3回食べたら、欲望にそったご飯1回食べるみたいなペースがちょうどいいかな?と思います。

Profile

山口祐加

自炊料理家 1992年生まれ、東京出身。慶應義塾大学総合政策学部卒。共働きで多忙な母に代わって、7歳の頃から料理に親しむ。出版社、食のPR会社を経てフリーランスに。料理初心者に向けた対面レッスン「自炊レッスン」や、セミナー、出張社食、執筆業、動画配信などを通し、自炊する人を増やすために幅広く活躍中。著書に『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』、『週3レシピ 家ごはんはこれくらいがちょうどいい。』など。好物はみそ汁

photography: miya(HUG) / text: kotetsu nakazato
 

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