“みんな”ではなく身近な人のために アオイヤマダ
ことなるわたしたち
アーティスト山瀬まゆみがモデレーターを務める「ことなるわたしたち」。今回はダンサーのアオイヤマダさんと「自己表現と時代性」をテーマに語り合う。前編では、アオイさんが思春期に抱いた“恥ずかしさ”という気持ちについて向き合ってもらった。
幼少期からダンスをはじめ、15歳で長野から上京。ダンスを専門に学べる高校に入学。Instagramでスカウトされ、活動を本格化させた。米津玄師、夏木マリ、アイナ・ジ・エンドなど数々の有名アーティストのMVなどにも出演。東京2020オリンピック閉会式で追悼の舞を踊った人として記憶している人も多いだろう。Netflixシリーズドラマ『First Love 初恋』で、物語のキーとなるダンサー役と聞いてピンとくる人もいるかもしれない。映画『Perfect Days』、『歌う六人の女』の公開も控えている。モデル、音楽制作、俳優など、“表現者”である彼女のフィールドはますます広がりを見せていく。
その堂々としたパフォーマンスからは想像しがたいが、元来恥ずかしがり屋。時代の先端を走る表現者として国内外で高い評価を受けているのに、お弁当作りが大好き。そんな等身大な一面も持ち合わせるアオイさんが語る言葉には、ネット時代を生きる大切なヒントが散りばめられていた。
__ジャンルレスに活動していますが、子ども時代から表現することが好きだったのですか?
「クラスでの発表が恥ずかしくて仕方なかったです。でも、どうしたら目の前の人を喜ばせられるか、考えるようになったら、私を邪魔していた“恥ずかしい”は消えていきました」
アオイ_子どもの頃は、人見知りで、小学校の独唱発表の時間がとにかく嫌でした。あまりの恥ずかしさに、お母さんに頼んで学校を休んでいたくらい(笑)。成長してMVに出させていただくようになっても、はじめは「笑ってください」と言われても笑えなくて……。「面白くもないのに笑うなんて、恥ずかしい」と内心では思っていました。ワークショップをやっても、踊ることを恥ずかしがる方やマスクを外せない子がいるんですね。一概には言えないけど、SNSとかネット上ではコミュニケーションを取れても、リアルで人に接することに抵抗を感じる人もいるみたい。
そんなこともあって、最近、自分の中にもあるその“恥ずかしい”の正体は何だろうと、考えるようになりました。自分のことだけを考えると、どうしても恥ずかしくなるんですよね。子どもの頃の発表にしても、目の前にいるクラスメイトや先生を楽しませようという気持ちがあって、実際に楽しんでくれている表情を見れば、恥ずかしさは完全になくなるわけではないけれども、少なくとも克服できるんじゃないかって。MVの撮影にしても、私が笑うことで監督が求めている表現に近づき、出来上がった作品を見て、誰かが救われるかもしれない。そういう思考にシフトチェンジしてきたら、私を邪魔していた“恥ずかしい”というものがだんだん消えていったんです。そのうち私が表現することによって、どう役に立てるんだろうということを考えられるようになりました。
私のパフォーマンスやダンスで、この社会にコミットできているのかという不安は、常にあります。ただ、精一杯に生きていれば、きっと誰かのためになっているだろうとも思うんです。何かしらの気づきを提供できる機会をいっぱい作れたら、私のやっていることにも意味があるのかなって。
__人は誰しも求めたいし、誰かのためになることで、自己肯定感が上がるようにも思います。一方で、人のためになるだろうと、何でもイエスと言っていたら、自分の個性がすり減ってしまう。そのあたりのバランスは、どう取っていますか?
「漠然とした“みんな”のためではなく、身近な人のためへのお節介が、自分のためになることもあります」
アオイ_上手くバランスが取れず、つまずいたことがありました。“人のため”と言いながら、それはエゴなんじゃないかと考えたこともあったんですけど、表現を届ける相手は、漠然とした“みんな”じゃなくて、もっと身近な人でいいと思うんです。私は、毎朝、旦那さんにお弁当を作るんですね。嗅覚と視覚を刺激しながら、絵を描くようにおかずを詰めることが、私にとってはとても大切な瞑想的な時間になっていて、それをおいしいと彼が食べてくれる。それでいいのかなって。“人のため”って、ちょっとしたお節介の寄せ集めみたいなことなんでしょうね。
私はもともとお節介なんです。撮影などがあると、とにかくスタッフさんのお弁当が行き渡っているか、食べているかばかり気になって、しつこいくらい「ごはん、食べました?」って聞いてしまいます(笑)。自分の仕事に集中したほうが良いと思いつつ、やっぱり気になっちゃうんですよね。
「好きなことには一生懸命になれるし、命を懸けられるんです」
ダムの貯水部分に水が溜まると、放水しないと溢れちゃいますよね。そういう感覚なのかもしれません。私、好きなもののためなら一生懸命やれる。命を懸けたっていい。それほど好きなものを伝えることができれば、目の前にいる人が喜んでくれる。そして好きになるから繋がれるんです。
Profile
アオイヤマダ Aoi Yamada [Right]
2000年生まれ。 表現者。90年代のクラブ、アートシーンやアンダーグラウンドカルチャーから影響を受けつつ、独自の感覚と日常からのインスピレーションを融合させた表現の活動をしている。 映画『Perfect Days』、『唄う六人の女』の公開を控えている。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase [Left]
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。