作ることを通じてつながりを生み出していく haru.
ことなるわたしたち
アーティスト山瀬まゆみがモデレーターを務める「ことなるわたしたち」。今回は、クリエイティブディレクターのharu.さんと「繋がり」をテーマに語り合います。前編では、同世代に支持される雑誌を作る上で、haru.さんが大切にしている想いを伺いました。
1995年生まれ、Z世代のharu.さん。高校時代からZINEを作り始め、東京藝術大学在学中にインディペンデント雑誌『HIGH(er) magazine』を立ち上げました。“同世代と一緒に考える場を作る”がコンセプトのこの雑誌が取り上げるテーマは、ファッション、カルチャー、政治、ジェンダーとさまざま。haru.さんにとって雑誌は、世界とつながる手段であり、自ら、そして同世代の想いを投影できる大切なメディアです。近年は、バンド・羊文学のアートディレクションも手掛けています。
「作ることでしか人と繋がる実感が湧かない」
――雑誌『HIGH(er) magazine』を立ち上げる以前から、文章を書くことは好きだったんですか。
haru._そうですね。私は高校時代をドイツで過ごしていたんですが、日本の『ELLE girl』でブログを書く人を募集していたんです。日本国内の人限定だったのでダメもとで応募したら受かっちゃって、カルチャー担当として、気になるブランドや人を紹介していました。個人的なブログもやっていました。なので、“書く”ということは私がずっと続けてきていることになりますね。
――高校時代にはすでにZINEを作っていたとか。haru.さんにとって雑誌は、どんなメディアなんですか。
haru._私が唯一、人と対等にコミュニケーションを取れる方法ですね。自分が周りに馴染めてないという自覚がずっとあったんです。保育園の頃が一番つらかったですね。毎朝、悲しいんです。全員が同じ時間にお昼寝をしなきゃいけない意味がわからなかったし、お遊戯も私にとっては意味不明だったんですよね。プールなんてもう…。ずっとプールサイドに座っていました。本当はみんなが楽しそうにしていることを、私も楽しみたいのに、“みんなと一緒”というのができなかったんです。学校にはただ行って、そこにいさせてもらっているという気持ちがありました。そういう子どもだった私にとって、“そこにいる”という安心感を持てて、“ここが自分の居場所”と思える場所になってくれたのが、雑誌でした。
――もともとは読者として雑誌好きだったそうですが、自分で作るようになって感じた魅力は?
haru._その時その時の自分の気持ちだったり、この人の切り取っておきたいと思う部分をコラージュ的に、ある意味雑多に、詰め込めるメディアなのが、雑誌の面白いところです。正直、私から発信したいことってそんなにはないんです。それよりも、誰も残さなければそのまま消えてしまうことを、ほんの一部でも私だったら残せるかもしれない。それが、雑誌を作ってきたモチベーションになってきたような気がします。作ることが好きですし、それ以外で、人と繋がっている実感が湧かないんです。誰にでも人それぞれ役割がありますよね。だからその人が必要だし、自分も必要。だからそこにいるという実感です。
「ポッドキャストでまた繋がりを感じられた」
――東京藝術大学卒業後に会社「HUG」を設立して。
haru._卒業のタイミングで、未来が何も決まっていなかったから立ち上げたというのが正直なところなんですが、“自分たちの作るものの価値をしっかり作っていかなきゃいけない”という、はっきりとした意識が芽生えました。それから、目の前のプロジェクトを全力でやってきたら、今、ここにいるという感じですね。
――組織に所属する考えはなかった?
haru._まったくなかったですね。保育園がつらかったくらいで、既にあるグループに入っていくことに対しての恐怖がずっとあって。就活については、いつ何が行われていたのかまったくわからないまま、気づいたら、すべてが終わっていました(笑)。
――会社を立ち上げてからは、雑誌は作っていないですよね。
haru._会社として利益を上げなければいけないですし、すぐコロナになって人と会えなくなったこともあって、作りたい気持ちが本当になくなってしまって…。それで、クライアントワークをしてきました。当たり前ですけど、クライアントワークは、まずクライアントに喜んでもらわないと意味がないじゃないですか。そうやって仕事をしていくと、先ほど話した“この人のこういうところを取っておきたい”という、他の人から見たら何の価値もないかもしれないけど、私にとっては価値あることを、どんどん大事にできなくなっていく感覚があったんです。これはもう、何か自分で作らないダメだなと思って始めたのが、ポッドキャストの「take me high(er)」です。リスナーの方たちとの距離が縮まって、繋がれている感覚が戻ってきて、4,5年ぶりに『HIGH(er) magazine』を出すことにしました。
――『HIGH(er) magazine』で伝えたいことは?
haru._私が日本人の女性として作り、発信しているものなので、読んでほしいのは日本人の女性たちなんです。バイリンガルにという話もあるんですけど、やるとしても日本の女性が何を考えているか知ってもらうため。あくまで、同世代の子だったり、これから先に生まれてくる子たち一人ひとりが、もっと自由に「こういう未来になったらいいよね」と想像できる場所になったらいいと思っていて。さらに、『HIGH(er) magazine』を通じて、安心して体の悩みを話せるといいなと考えた時に、もっと広がりのある、よりダイレクトなプロジェクトとして、下着作りも動き出しています。
――雑誌と下着。一見すると畑違いですよね。
haru._服とか髪型とか、自分が好きで選んでいるつもりでも、社会から選ばされているようなところがありますよね。下着もそう。妊娠したらつけたいものが変わるだろうし、一生考えていけるテーマだと思ったんです。今まで雑誌でも、体のことや性教育について取り上げてきたんですけど、本当に自分が欲しいものは何なのか考えるきっかけや練習になるようなサービスを作れたらいいなと。『HIGH(er) magazine』の考えをもっといろんな方法で体験できる仕組みを作りたいんですよね。それが同時に、チームのみんなも私自身もちゃんと生きていける仕組みにもなっていくのが理想です。
「チームがハッピーになるためのお金も権力もほしい」
――ストレートに聞いてしまいますが、“稼ぎたい”みたいな野心はない?
haru._全然ありますよ(笑)。大金持ちになれたら、富の分配ができて、自分が落としたいところにお金を落とせますよね。結果的に、自分にとってもいい環境になるわけですし。権力も欲しい!「すごく偉そうだけど何してるんだろう?」っていう人ほど、決定権があるじゃないですか。その権利があれば、チームがハッピーになるように動けるし、もっと面白いことができるのに…って歯がゆくて。会社化したのも、大きな組織と仕事をするときに、チームのフリーランスの人たちができるだけ気持ちよく働けるようにというのが大きかったです。でも、『HIGH(er) magazine』で稼ごうという考えはないですね。おそらく、『HIGH(er) magazine』はライフワークとして、私がずっと続けていくことなんだと思います。
Profile
haru.
東京在住。学生時代に同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌HIGH(er)magazineを編集長として創刊。2019年に株式会社HUGを立ち上げ、仲間とともに働き方を模索中。「自分たちに正直でいること」をものづくりのモットーに掲げる。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。