2023.11.1

楽しませるためのクリエイティブってなんだろう? 山瀬まゆみ

PROJECT

ことなるわたしたち

山瀬まゆみ Mayumi Yamase

アーティスト山瀬まゆみをホスト役に、様々な女性の生き様を掘り下げていく連載『ことなるわたしたち』。前回は2回にわたり、ダンサーのアオイヤマダさんを迎え“自己表現と時代性”について語り合った。

今回は、対話を通して感じたインスピレーションを1枚の絵で表現。心に残ったアオイさんとのエピソードとは?

インタビューを始めると、アオイさんは、まず山瀬さんに逆に尋ねていった。幼少期のこと、なぜ絵を描くようになったのか、そして結婚をなぜしたのか。それはアオイさんの“気になる”お節介が働いていた証拠なのかもしれない。

__とにかく可愛い、素直が第一印象

「インタビュー中はすごく話しやすかったですね。彼女の表現は唯一無二じゃないですか。だから、奇抜な人なのかなっていう先入観があったんですけど、実際に会ったらそれを全く感じなかった。彼女は全く構えがなくて、素のままで接してくれながら、他者への気遣いもあったというか。その立ち振る舞いがダンスにもそのまま表れている気がしました」

“私のパフォーマンスやダンスで、この社会にコミットできているのかという不安は、常にあります。ただ、精一杯に生きていれば、きっと誰かのためになっているだろうとも思うんです。何かしらの気づきを提供できる機会をいっぱい作れたら、私のやっていることにも意味がある”

「好きなことを率直に伝えているだけという感じもするし、でもその過程の中にはいろんな葛藤があったんだなって」

__好きなものを伝えたい、その過程には…

「誰かを喜ばせるために表現をする」そうマインドを変えていくと、恥ずかしいという気持ちが自然となくなっていく。それがアオイさんの持論だ。

「恥ずかしい気持ちにたいしての解釈のつけ方とか。好きなものを伝えたい理由は目の前にいる人を楽しませたいからじゃないですか。彼女の自己表現は、自分から生まれるのではなく、誰かのためにから始まっていますよね」

相手を思って自己を表現していく彼女のスタイルは、これまで多くの人たちとコミュニケーションをしながら、ダンサーとしてキャリアを積み重ねてきた賜物だ。ただ、誰かのことを考えすぎると、自分そのものをときに見失ってしまいかねない。

__みんなに理解されるものは、誰もが思いつくもの?

「私がアーティストとして絵を描き始めた頃は、正直、みんなが理解できるものじゃなくていいって思っていたこともあったというか。ある種、自分の感性は誰もが理解できるものではないと、尖った考え方をしていた時期があって。むしろわかりやすいものを作らない方がいいという感覚に近いというか。もっと自分を掘って、自分にしかできないことをやろうという気持ちが強かった」

過去に、コマーシャルのものを作ることに対しての背徳感や抵抗感について語っていた山瀬さん。その頃の気持ちを、アオイさんの“面白くもないのに監督の前で笑うことへの抵抗感や恥ずかしさ”という気持ちと重ねていた。

「アオイさんがその気持ちを経て、シンプルに素直に、人を楽しませるというところに軸をもって表現していくようにしたというのは興味深かったですね。思い返せば自分もそうなのかもなって。アウトプットしていく上で、自分がどういう形であれ納得してやるという過程は表現する人にとって大事だと思うから。これはクリエイターだけに関わらない話かもしれませんね。たとえば会社でスピーチを任されたとしても、自分を誇示するためではなくて、人のためだから、とそういう風にできるどうか。アオイさんはそれを生身で理解しながらやっている感じがしましたね。体で表現している。それがいいなって思いました」

「疑問を持つとか、なんか当たり前のことだけど、そういうのにちゃんとひとつひとつ、目の前のことに向き合いながら、真っ直ぐに進んでいる感じがしました。なので、今回はアオイさんの着ていた、アオイさんがご自身で作ったお弁当の洋服を描かせていただきました。ここに悩みはなかったですね。色々思うことを経て、そのままのイメージを伝えたくて、素直に描きました(笑)」

自己表現というのは、一方的に自己を表現することなのではなく、誰かを思い、喜ばせるために生まれ育つものなのかもしれない。

その表現の根幹は誰かのためにある、という本質に気づかされた。

Profile

アオイヤマダ Aoi Yamada [Left]

2000年生まれ。 表現者。90年代のクラブ、アートシーンやアンダーグラウンドカルチャーから影響を受けつつ、独自の感覚と日常からのインスピレーションを融合させた表現の活動をしている。 映画『Perfect Days』、『唄う六人の女』の公開を控えている。

山瀬まゆみ Mayumi Yamase [Right]

1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。

Photo Mai Kise / Text Chie Arakawa / Edit Ryo Muramatsu

PROJECT back number

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2024.06.21

離婚からはじまった、あたらしい家族のかたち 安達麻美子

vol.2
2024.05.23

迷いながら、悩みながら生きていく 岩田紗羅

vol.3
2024.04.24

あきらめずに挑んで、すべてを好きになっていく  浅野美奈弥

vol.4
2024.04.10

自分で選択した道は信じて貫く 大村佐和子

vol.5
2024.04.02

母になる。かわる環境と、かわらない気持ち。 山瀬まゆみ

vol.6
2024.03.06

自分の中での選択肢を増やしていく 山瀬まゆみ

vol.7
2024.02.21

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vol.8
2024.02.08

作ることを通じてつながりを生み出していく haru.

vol.9
2024.01.25

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vol.10
2024.01.11

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2023.12.22

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vol.13
2023.12.13

選択するたびに新しい自分が形成されていく 山瀬まゆみ

vol.14
2023.11.22

仕事も結婚も子どもも、あきらめない生き方もある 黒沢祐子

vol.15
2023.11.08

逆境の中でつかんだ新しい自分 黒沢祐子

vol.17
2023.10.19

自分ひとりでは表現は生まれない アオイヤマダ

vol.18
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vol.19
2023.08.10

「今を生きる」とは。心がスッと軽くなるおまじない 山瀬まゆみ

vol.20
2023.08.03

リアルな女性の悩みに、作家・川上未映子が寄り添ったなら

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2023.07.25

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2023.05.23

自分にとってここちよい環境をどう見出していくか  山瀬まゆみ

vol.23
2023.05.09

人生の分岐点で「透明」になる。未知なる自分に出会うため 安藤桃子