迷いながら、悩みながら生きていく 岩田紗羅
ことなるわたしたち
連載「ことなるわたしたち」のモデレーターを務める山瀬まゆみさんの育児休暇にともない、スタートした番外編「ことなるわたしの物語」。いまを生きるひとりの女性の暮らしを垣間見ることで、人生の選択肢を増やすきっかけを届けられたら。
3人目は、会社員として働き、アーティスト活動も行う岩田紗羅さん。現在31歳で入社6年目、マネージャー昇格試験にチャレンジしようと考えている。私生活では27歳で結婚し、そろそろ子どももほしい。仕事でできることが増え、これからのキャリア構築のベース作りにおいても大切な30代。キャリアアップと結婚生活とのバランス――。働く女性のリアルな想いを聞いた。
キャリアアップは、目標ではなく手段
__会社ではどんな仕事をしているのでしょう?
ソーシャルメディアプランナーとして、お客様との関係構築のために、SNSなどを使ったコミュニケーションの計画、運用を行っています。
__入社から現在に至るまで、仕事との向き合い方はどう変化していきましたか?
入社して4、5年目の頃は、このまま仕事を続けるべきかとか、今後のキャリアについて悩んでいました。そのときにすごく自分と向き合ったことで、今はこの会社で頑張りたいという気持ちがあり、昇進を目指しています。
__昇進したいという意思が明確にあるんですね。
私は昔から、散らばったものや情報を組み合わせてより魅力的に見せるというキュレーション的なことが好きで、それがしたくて入社したのが今の会社なんです。この会社でやりたい、こうしていきたいと思うことが形になってきたのは、私の話に耳を傾け、推進してくれたマネージャーがいたから。上司に恵まれていた分、上に立つ人の重要性を感じるんです。
__仕事をする上で、意識していることは?
流されず、意思を持つこと。業務って、言ってしまえばタスクなので、流そうと思ったらいくらでも流すことができてしまうし、そつなくこなすこともできるじゃないですか。わざわざ苦手なことをやらなくても、人生は進んでいきますし。でも、苦手なことから逃げずやってみると、意外とできるようになるんですよね。その体験が自信になって、怖くなくなっていく。そういうことを何度も繰り返していくうちに、自分のことを好きになっていくんだと思います。 私には、流れに身を任せたくない、自分で人生をコントロールしたいという意識がすごく根強くあるんですよね。“誰かに言われたから”“夫がこうしたいから”ではなくて、自分で自分がどうしたいのか、ちゃんと考えたいという気持ちがすごくある。知能を持った人間だからこそ、意思を持てるわけですし。
ただ私は、意思はあるんですけど、内向的な性格で。もともと人と話すことが苦手ですし、挨拶することがしんどい日もあるくらい。苦手克服で人と意識的に会い、楽しく話せるようになってきた自分のことは好きだけど、やっぱり内向的な部分が出ちゃうこともあって、そういう自分はあまり好きじゃないです。でも、常に自分のことを好きでいるのって、難しいと思うんですね。どちらの自分もいていい。だんだんとあまり好きじゃない自分との付き合い方が上手くなっていくんだと思います。
会社員、イラストレーター、妻。いろんな私がミックスされた人生を
__イラストレーターもやっていますよね。会社員とのバランスはどう取っているんですか。
入社3年目までは気持ち的にも余裕があって、休みの日もそんなに疲れていなかったから、自分のやりたいことに時間を費やせたんですけど、だんだんと会社で働いている以外の時間も、なんだかんだ仕事のことを考えるようになってきて、夢にまで出てくるようになって。そうすると、絵で自己表現するだけの心の余裕がなくなってきたんですよね。絵を描くとなると、誰に、何を、どういうふうに伝えたいのか、どう表現したらいいのか考えるのにすごくエネルギーが必要なんです。なので、今はイラストレーターとしての仕事は積極的には受けていなくて、9:1くらいで会社員としての仕事が占めています。
それでも、絵は自分の中にずっと持ち続けていきたい世界としてありますね。もちろん会社で働く自分は、私の人生の一部で、1日のうち8時間半は会社のことだけを考えてしっかりやりたい。でも、それ以外の時間をどう使うか。将来的にイラストをもっと頑張るとか、家族の時間を大事にするとか、いろんな私がミックスされて初めて人生を楽しめると思うんです。
結婚したら、思いやりは意識していないとできない
__結婚してみて、何か変わりましたか。
結婚しても生活は変わらないと感じていたので、結婚したんですけど、戸籍の名字が変わることによる手続きが思っていた以上に多かったですね。そもそもなんで名字を変えなきゃいけないんだろうって、ぷんすかしてました(笑)。名前はアイデンティティなのに、結婚したから今日からあなたは〇〇紗羅ですと言われるのもおかしな話だって、結構長い間引きずっていましたね。
いろんな考え方があると思うんですけど、私にとっての結婚は、個と個が一緒に生きていくためのもの。なので、女性が家庭に入って名字を変えるという概念と、私の価値観が一致しなくて悩ましかったです。でも、仕事は旧姓でやっているので、この会社にとっての私は岩田紗羅で、大袈裟ですけど岩田紗羅は生き続けているんだと思ったら、そこまで気にすることもないかなと、怒りが収まりました(笑)。
__結婚5年目になり、二人の関係はいかがですか。
難しい質問ですね(笑)。夫婦共に、お互い干渉しすぎないという価値観を共有できているので、良好だと思います。夫婦にはいろんな形があって、一生恋人のような夫婦も、同居人のような夫婦もいますよね。私たちの場合は、このくらいの距離感がちょうどよくて、親友みたいな夫婦がしっくりきます。
干渉はしないけれども、相手に思いやりを持つことは自分の中でクセづけてますね。うちは仕事柄もあって夫が朝4時に帰ってくることもありますし、休日も合わなくて、私が出勤する前と寝る時くらいしか顔を合わせないんです。生活のリズムがバラバラですし、そうでなくても時間が経つにつれてどうしても一人暮らしのような感覚になって、意識していないと思いやれなくなっていくと思うんですよ。たとえば何かものを家に置こうとするじゃないですか。思いやりをお互い持っていれば、私はここに置きたい、俺はここ!って主張し合うのではなく、何となく置き場所が決まっていき、そういうもんだって二人とも自然と受け入れられていくと思うんですよ。そういうのも思いやりなのかなって。
__生活のリズムが合わないと、結婚生活を維持するのは大変なのでは?
一緒に食事をとることは滅多にないけど、寝る前、ベッドの中で毎晩お喋りをするんです。その日にあったことやたわいのないことも、仕事のことも。悩みを聞いてアドバイスをくれるので、一人で抱え込まずにすんでいます。顔を合わす時間こそ少ないですけど、本当にしんどい時に自分を大切に想ってくれる人がそばにいてくれて本当によかった。この人と結婚してよかったとすごく思います。
子育てしながら今のペースで働けるのか、怖さがある
__子どもを持つことについては、どう考えていますか。
欲しい気持ちはあります。今の職場はほとんどの方が妊娠・出産後に戻ってくる職場で、上司にもお子さんを生んで、半年で復帰してバリバリ働いている方がいらっしゃいます。私もあんなふうに働けたら……とは思うんですけど、果たして自分にできるのか。出産して子ども中心の生活にシフトした時、これまで通り働けるのかと言ったら、その上司のような高い能力が必要な気がして。 仕事を頑張りたい。子どもを産んで育てたい。でも、今まで築いてきたことが出産で大きく変わることへの怖さがあるんです。キャリアと子ども、どちらも諦められないから、子どもを持つタイミングについてすごく考えます。でも、迷っていて、産みたいという気持ちに100%振り切れていないっていうことは、今ではないんでしょうね。中途半端な気持ちのままでは子どもを育てる責任もきっと果たせない。私には、キャリアと妊娠・出産について考える時間がもう少し必要なのかもしれません。
Profile
岩田 紗羅
1992年生まれ。アメリカ生まれの日本と台湾のハーフ。高校、大学はアメリカへ留学。在学中にフェミニズムに興味を持ち、イラストで表現しながらSNSを使って発信をするようになる。イラストレーターとして活動しながら、帰国後、都内百貨店に就職。現在はソーシャルメディア担当として勤務する傍らイラストレーターとしても活動中。