逆境の中でつかんだ新しい自分 黒沢祐子
ことなるわたしたち
アーティスト山瀬まゆみがモデレーターを務める「ことなるわたしたち」。今回はウェディング&ライフスタイルプロデューサーの黒沢祐子さんと「キャリアと結婚」をテーマに語り合う。前編では、仕事論について伺いました。
自動車メーカー勤務を経て、24歳でウェディングプランナーに転身した黒沢祐子さん。そのきっかけになったのは、自身の結婚式だった。打ち合わせで担当者に感じた「私だったらこう聞くのにな」という想いが、彼女をこの道に進ませる。逆境を転機に変え、一番選ばない道をあえて取ることで、人生を切り拓いてきた。
「上手くいかなかった結婚があって、今の私がある」
__自動車とウェディング。まったく畑が違う世界に飛び込むことになった経緯から聞かせてください。
黒沢_自動車メーカーで働いていた時に出会った人と半年で結婚を決めて、その半年後には結婚式を挙げたんです。それが、24歳で相手は1歳上の25歳。お互い若く、勢いだけで突き進んだところがあって、式までの間に価値観のすり合わせがまったくできていなかったことに気づいてしまいました。 延期しようとも話したんですが、彼は会社関係の人に話してしまっているから、恥ずかしいと。当然ですよね。当時の私は、抗う勇気がなく、長いものに巻かれるしかなくて、結局、式を挙げたんです。2次会もやって、新婚旅行はハワイに行きました。ハワイでの滞在では彼が体調を崩したこともあり、一人で過ごす時間もあって、改めて人生について考えました。 帰国してから新居には行かず成田で解散。籍を入れていなかったので、成田離婚ならぬ成田解散です(笑)。
ある意味、逆境のような結婚式だったんですが、結果的には転身のきっかけになったんです。そんな状況だったから結婚式が自分事に感じられなくて、式の打ち合わせをしながらも、どこかもう一人の自分がいるような感覚がありました。そつなく対応していただける担当の方でしたが、「私だったらこうするのにな…」と思う場面がたくさんあったんですよね。
__ウェディングの仕事をしている立場上、上手くいかなかった結婚について話すことに抵抗はありませんでしたか?
黒沢_当時は自分の幼さが導いた結果を恥じていたので、おおっぴらには話せませんでした。でも、あの体験があったから今の私がある。ウェディングプランナーになったことと最初の結婚は絶対に切り離せないので、お客様には伝えるようにしています。人生は、本当にいつ何が起こるのかわからない。どんな経験でもすべてに意味があるとも思っていますから。
「自分が一番選ばない選択肢が、新しい自分を作る」
__フリーになったのはなぜだったんですか?
黒沢_ウェディングプランナーに転身後、業界の中での大手企業に就職していたのですが、所属店舗がクローズすることになりました。会社からマネージャーになるか本社勤務になるかの選択肢を与えられ、自分が一番選ばないものを選ぼうと決めました。それが、神戸のエリアマネージャーというポジション。関西には友達もいないし、東京から出る機会はこれくらいだろうなって。想定以外のことを選んだほうが面白いですし、新しい自分になれるような気がしてワクワクするじゃないですか。
マネージャーになったことで改めて、多忙を極めるプランナーの立場について考えました。お客様からのご要望に応えたいけども、あまりにやるべきことが多岐にわたっていて、シンプルに結婚式のことだけを考えてはいられないジレンマがあるんです。もっとプランナーが専門職になって、じっくりお客様と会場選びから始められたら、相互でハッピーになれると思って、独立することにしました。
日本では、結婚が決まるとまず会場を選び、そこのプランナーと作っていくのが結婚式のセオリーなんですけど、先に会場を選んでしまうと、やりたいことを実現できないことも少なくないんです。“どんな結婚式をしたいのか”がまずあって、それが叶う会場を選ぶところからプランナーが一緒にやるのがベストだと思います。
「結婚しようと思える人との出会いは奇跡で、結婚式は人生の縮図」
__ウェディング業界で20年以上働いてきて、どんな変化を感じますか?
黒沢_今でも、決められたプランを使う会場は多いですね。そんな中で、カスタマイズできる範囲が広く、よりお客様のニーズに合わせていこうとしている会場が成長していると感じます。今は、SNSに「#プレ花嫁」で結婚式リポートがたくさんあがっていますから、花嫁さんがすごく調べていて、プランナーよりも知識が上の方もいらっしゃるんですよ。
コロナが明けて、大切な人だけを厳選して招くことが多くなったことはすごくよかったと思います。結婚式は人生の縮図であり、それまでのお二人をよく知っている人達に、お披露目する場だと私は捉えています。結婚しようと思える人に出会えることは、とても素敵な奇跡です。そんな相手を、自分にとって大切な方々にご紹介する場なのに、日本では長らくご両親や親戚が後ろの席でした。だんだんと、関係の近い人こそが、招待客みなさんのお顔を見られるいい位置で、大切な日をシェアできるようになってきたのも、すごくいい変化です。
__黒沢さんにとって、ウェディングプランナーはどんな仕事ですか?
黒沢_どうしたら、よりいい結婚式になるのかを考えていくのが大好きで、言わばライフワークです。やりたいことはできるだけ叶えてあげたいので、お2人が何を考えているのか、親御さんとの関係はどうなのか、時間をかけてお話をして、時には食事も共にしてできるだけ引き出すようにしています。私自身の最初の結婚はけっしていい思い出ではないですが、24歳で、ライフワークといえる仕事を見つけることができたことには、本当に感謝ですね。
Profile
黒沢 祐子 Yuko Kurosawa [Right]
Wedding Lifestyle Producer。大学卒業後、OLを経て、(株)Plan・Do・Seeでウェディングプランナーに転身。7年以上現場を経験した後、より密にお客様と対峙しパーティを作り出せる環境を選択すべく、2008年より会場探しから共にするフリーランススタイルで再始動。2016年には、(株)YUKOWEDDINGを設立し、現在までおよそ1000組ものカップルを担当する。20年以上weddingに関わる中で、新郎新婦のその後の生活を豊かにする空間やライフスタイルに興味を持ち、2020年鎌倉へ移住したことをきっかけに、同年9月にライフスタイル事業を開始。個人宅のインテリア相談やパーソナルコーディネート、自宅でのフローリストを招いてのワークショップ開催や洋服プロデュース、また2022年からは自身のオンラインサロン「Y’s room」を主催し、ウェディング&ライフスタイルプロデューサーとして、幅広く活動中。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase [Left]
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。