仕事も結婚も子どもも、あきらめない生き方もある 黒沢祐子
ことなるわたしたち
アーティスト山瀬まゆみがモデレーターを務める「ことなるわたしたち」。今回はウェディング・ライフプランナーの黒沢祐子さんと「キャリアと結婚」をテーマに語り合う。後編では、不妊治療の経験や鎌倉移住の体験をもとに、より豊かな人生の送り方を考えます。
「キャリアと子ども、両方手に入れていい」
__前編では、24歳で結婚をして別れることが、ウェディングプランナーへの転身のきっかけになったお話を聞きました。それからご結婚は?
黒沢_38歳で2回目、籍を入れたという意味では1回目の結婚をしました。43歳で離婚したんですけど、その原因は明確で子どもが授からなかったことでした。40歳くらいまでは、フリーになって起業して、ものすごく仕事が楽しくなってきた時期で、「夫婦二人だけでも」と思っていました。 そんな時に、彼から「いつ妊活はじめるの?」と言われ、不妊治療を始めたんですね。体外受精を3、4回して病院も変えたけど、私の中で限界がきてしまった。最後にダメだったらどうするか話したら、彼が「たとえばだけど、他で子どもを作っていい?」と言うんです。結構ひどい話ですよね(笑)。もちろん代理母や養子を迎えることも話しましたが、彼は自分のDNAを持った子どもが欲しいのではと気づきました。
それまで、私に何も求めず、私が笑顔でいてくれたらそれでいいといってくれていた人が一番求めていたことに目をつぶり、耳を塞いできた自分がいました。おそらく私は年齢的にもう授からない。だったら、お互い別々の道を歩んだほうがいいんじゃないかと。「本当にいいの?」と何度も聞かれて、大丈夫と言ったものの、リスペクトしていた相手なので、散々迷いましたが離婚を決めました。 今では、彼は再婚した方との間に2人子どもがいて、あのときの決断を心からよかったと思えます。
__キャリアと妊娠・出産は、女性にとってバランスを取るのが難しい問題です。
黒沢_不妊治療中に彼から「仕事の合間にやるんじゃなくて、治療がプライオリティNo.1になるんだったら全額費用を僕が出す」と言われてドキッとしたんですけど、たしかに私は仕事を優先してたんですよ。あの時の自分には、本当に大事なものは何なのか考えて、両立できるように働けばよかったんじゃないかと言いたいです。
仕事はその時でなくてもできるかもしれないけど、妊娠はどうしても年齢的な制限があるから、卵子凍結も選択肢として持っておくといいかもしれません。そして、何があるかわからないこの時代、年金も頼りになりませんから、相手に頼り切らず、自分で収入を得る手段を持っておくことも大事。なので、若い人たちには、仕事も子どもも両方を手に入れる方法を考えてほしくて。
「ときめきが人生のエネルギーになる」
__離婚をした後は?
黒沢_1週間友人を頼りに飲みまくってましたね(笑)。それである程度気が済み、出会いがアプリのお客様がいたので、仕事上のリサーチを兼ねてアプリに登録をして何名かの方と知り合い、一回り以上年下の方に出会いましたが…うまく行きませんでした。
その後出会った今の夫と去年の11月に再婚しました。私は結婚式のプロではあるけれど、結婚のプロではない。もう結婚(入籍)はしなくてもいいと思っていたし、彼もそういう私を尊重してくれていたんですけど、藤井風さんのライブを観た翌日かな。「入籍する?」って。私があまりに幸せそうな顔で「風きゅん」ってずっと言ってたことで、盗られると思ったらしくて(笑)と言うのは冗談ですが、早くにお父様を亡くしている彼は自分の家族を安心させたいというのもあったんだと思います。 いまだに日本だと、入籍してないと死に目に会えないとかもあるじゃないですか。シンプルに私を大切に想ってくれる人を喜ばせたいと思って、入籍しました。
__離婚してすぐにアプリで出会った人と付き合ったり、行動的ですよね。
黒沢_一人でもいられるんですけど、根本的には寂しがり屋で、誰かと一緒にいて言葉を交わすのが好きなんです。やっぱり、ときめくって絶対に大事だと思うんですよね。その対象は恋愛相手でもあるし、お友達でも、行く場所でも、お花でも、ファッションでも、ときめくことが生きるエネルギーになっていくと思うのです。
「後ろに下がるより、前に進みたい人です」
__ウェディングプランナーとしてだけなく、オンラインサロンを主宰したり、東京から鎌倉に移した暮らしをベースに、ライフプランナーとして洋服やインテリアのプロデュースも手掛けるなど、活動の幅を広げていますね。
黒沢_きっかけはコロナでした。2年間、結婚式が一切できなくなって、今までやりたくても時間的にできなかったことを始めたんです。会社員としてウェディングプランナーをやっていた時に、縁もゆかりもない関西で働くことを選んだ時もそうだったんですが、これまでとは違う状況だからこそ、何が自分にできるのか、視点を変えてみると、いろいろ見えてくるんですよね。コロナ禍は、大きな気づきがあって、私にとってはいい時間でもありました。今の世の中、「自分なんて…」と自虐してしまう人がすごく多いんです。自分自身が好きになれなければ、人に愛されることも難しい。だから、自分を愛する大切さを伝えたい。そうした想いが、今の活動のベースにあります。
__コロナ禍の真っ只中の2020年には、鎌倉へ引っ越しもして。
黒沢_コロナ前までは仕事を兼ねて、毎日のように東京で飲み歩いていたんですけど、東京生活はやり切った感があったんです。さらに、コロナによって東京の嫌な面を見てしまったこともあり、鎌倉に移りました。鎌倉は、ゆったりしていてすごくいいですよ。
__人生の大きな節目、ピンチの場面で、守りには入らないですよね。
黒沢_守りに入ったところでお金は入ってこないですから! もちろんコロナ禍では、しっかりとした貯金もないし、一人でどうやって生きていけばいいのか不安にもなりました。でも、私、結構楽観的で「自分で選んだ道だしなんとかなる、大丈夫」って思える。後ろに下がるより、前に進みたい人です。いずれは、さらに地方に移り住んで、お花を育てたり野菜を作ったりしながら、自分達が飲む分のワインも作って…というのが、これからの二人の人生イメージ。だいぶ先の話ですけど、そんなふうに暮らせたら、最高に贅沢だなって。
Profile
黒沢 祐子 Yuko Kurosawa [Right]
Wedding Lifestyle Producer。大学卒業後、OLを経て、(株)Plan・Do・Seeでウェディングプランナーに転身。7年以上現場を経験した後、より密にお客様と対峙しパーティを作り出せる環境を選択すべく、2008年より会場探しから共にするフリーランススタイルで再始動。2016年には、(株)YUKOWEDDINGを設立し、現在までおよそ1000組ものカップルを担当する。20年以上weddingに関わる中で、新郎新婦のその後の生活を豊かにする空間やライフスタイルに興味を持ち、2020年鎌倉へ移住したことをきっかけに、同年9月にライフスタイル事業を開始。個人宅のインテリア相談やパーソナルコーディネート、自宅でのフローリストを招いてのワークショップ開催や洋服プロデュース、また2022年からは自身のオンラインサロン「Y’s room」を主催し、ウェディング&ライフスタイルプロデューサーとして、幅広く活動中。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase [Left]
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。