枠にハマらない。ちょっとずつ抵抗しながら生きる haru.
ことなるわたしたち
アーティスト山瀬まゆみがモデレーターを務める「ことなるわたしたち」。今回は、クリエイティブディレクターのharu.さんと「繋がり」をテーマに語り合います。後編では、家族やパートナー、そして“推し”を通じて、ここちのよい距離感を考えます。
「子育てという壮大なプロジェクトはやってみたい」
――前編で出た、保育園の頃から“みんなと一緒”ができなかったというお話が興味深かったのですが、どんなご家庭に育ったんですか?
haru._おじいちゃんもおばあちゃんも日本人なんですけど、おじいちゃんの仕事の都合でドイツに住んでたんです。私も幼少期は、お父さん、お母さん、妹の4人でドイツに過ごして、小学校に上がる頃に日本に来ました。高校に上がるときにドイツに戻って、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らすことに。親からは「おじいちゃんおばあちゃんに親権を渡したから」って言われました(笑)。
――私も5歳までアメリカに住んでいて、父だけ残って母と姉と私は日本に戻ったんですよ。ご両親はどんなお仕事を?
haru._お父さんは絵描きで、暇さえあれば海にあるアトリエで描きたい人です。お母さんは美術史の研究をしています。私を妊娠したのが博士課程にいた時で、産んでから卒業したんですけど、お母さんにとっては研究が一番楽しいんですよ。だから「ママはしたいことがあるから、今から全員出掛けてほしい」とか言われちゃう。子どもながらに、「それぞれやりたいことがあるのに、その気持ちを抑えているんだな」と強く感じたんですよね。それで、私も好きなことを見つけようと一人遊びをして過ごしていました。
――うちの母も、いきなり「一人暮らしがしたい」と言い出したことがありました。その時の母には物理的な距離を置くことが必要なんだろうなと。親でいることにずっと居心地の悪さを感じてるのもわかってましたし、限界がきたんだろうなって。haru.さんは、子どもを産むつもりはあるんですか?
haru._この間、占いをしてもらったら、「子育てにすごく向いてる」と言われました(笑)。それはそうと、具体的にイメージできているわけではないけど、子育てはしてみたいですね。子どもを育てることって、壮大なプロジェクトじゃないですか。子どもという個が個としての自意識が芽生えるまでは、そのプロジェクトに全振りするかもしれません。自分の経験を踏まえると、できるだけ早く子どもにも「お互いの人生だよね」って思ってもらえるといいですね。
――子育てのために仕事を辞める可能性はありますか?
haru._ないかもしれない。私は人生すべてがネタなんですよ。“どう生きるのか”が全部仕事に繋がっているんです。なので、子育てというプロジェクトの比重が大きくなっても、仕事を辞めることはないと思います。
「違和感があることに抵抗しながら生きている」
――結婚への興味はあるんですか?
haru._ないです。ちなみに、占いでも「結婚は向いてない」と言われました(笑)。彼氏がほしいと思ったこともないですね。彼氏ができると“理想的な彼女”という枠に収められそうじゃないですか。「幸せにする」とか言われても、別に私はもう幸せなのに、何なんだろって。過去にはお付き合いもしてきましたけど、枠にハメてくる人たちから上手いこと脱走してきて(笑)、今のパートナー(ラッパーのTaiTanさん)と出会い、事実婚をしました。彼は、私が自由にいられる相手。事実婚をしてからは「幸せです」って周りにいちいち説明しなくて済むようになって、すごくよかったです。
――事実婚を選んだ理由は?
haru._手続きとして苗字を変えるのが面倒だったというのが、一つ。パートナーが「変えてもいいよ」って言ってたんですけど、私が嫌なことを相手にさせるのも違うじゃないですか。あと、同性が好きというだけで、結婚したくてもできない友達を差し置いて、自分が法律的な結婚をすることに違和感がありました。私にとってはフェアじゃないと感じる制度なら、しなくてもいいんじゃないかって。“会社”もそうだし、“彼氏/彼女”という枠も、結婚するとセットでついてくる“相手の家”も、とにかくどこかに入ることがダメなんですよね。いわゆる“幸せのイメージ”に入れられることへの違和感に、ちょっとずつ抵抗しながら生きているのかな。
「存在しているだけで励まし合える関係がここちよい」
――突然ですけど、悩みってあります?
haru._ないです。次の質問、どうぞ(笑)。
――(笑)。本当にないんですか?
haru._すべてに満足しているわけではないですし、すごい自信があるということでもなくて…。うん、普通に怖いです。会社をやっていて、いつも「来月どうしよう…」って不安ですよ。コロナ禍は全然仕事がなかったですし。でも、不安だから悩むことはないです。むしろ、不安は伸びしろ。悩みは、私のイメージとしては、狭い隙間のようなところに引っかかってしまい、うっ…となっている状態なんです。どうしたらいいかわからなかったり、不安もあったりするけれど、歩き続けてはいる。進んでいるかもわからないけど、立ち止まってはいない。だから、悩みはないんです。
――会社を立ち上げてすぐにコロナ禍で、大変だったでしょうね。
haru._コロナになってすぐ、企業冊子を作ったんですけど、人と会うことも移動もできないからZoomで取材をして、Zoomの画面をスクショして載せたんです。あの時は、この先、どうなっていくんだろうとすごく怖かったですね。
あの時期は、みんなが今まで当たり前にやってきてきたことについて考えて、もっといい方法がないかとか、それまでの当たり前を続けるにはどうしたらいいのかとか、すごく考えましたよね。自費出版で『生きてる?』という本を出したら、想像以上に多くの人が手に取ってくれたのは、生きていることを続けている人を見ることで、自分も前向きになれたからなんじゃないかと思うんです。今は、ほとんどのことが普通に戻って、何も考えずとも、目の前のことをやっていれば先に進めます。だからこそ、あの時間は、何度も振り返らないと、どんどん忘れてしまうような気がします。
haru._ちょっと話がずれちゃうんでうすけど、私、コロナ禍でK-POPにハマったんですよ。NCTが好きでファンクラブにも入ったんです。
彼らが私の人生に現れる前と後とで、明らかに何かが変わったんです。コロナ禍の漠然とした不安をどこにぶつけていいかわからなかった自分と、好きなものができた自分とは、絶対に違うんです。その人が存在しているというありがたさだけで生きていけるみたいな。K-POPアーティストに限らず、私は“離れていても繋がっている”という距離感が好きで、誰かの人生にギュッとがんじがらめにされちゃう関係は苦手。その存在がいてくれるだけで励まし合えるような、自然な付き合いがここちよいですね。
Profile
haru.
東京在住。学生時代に同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌HIGH(er)magazineを編集長として創刊。2019年に株式会社HUGを立ち上げ、仲間とともに働き方を模索中。「自分たちに正直でいること」をものづくりのモットーに掲げる。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。