自分の中での選択肢を増やしていく 山瀬まゆみ
ことなるわたしたち
アーティスト山瀬まゆみをホスト役に、様々な女性の生き様を掘り下げていく連載『ことなるわたしたち』。“繋がり”をテーマに語り合ったのはクリエイティブディレクターのharu.さん。海外で暮らした経験、姉妹という家庭環境、現在はクリエイティブ業界にいるなど、共通点の多かった二人。今回の取材を通して山瀬が共感したこととは?
__結婚制度に対しての違和感
同性が好きというだけで、結婚したくてもできない友達を差し置いて、自分が法律的な結婚をすることに違和感がありました。私にとってはフェアじゃないと感じる制度なら、しなくてもいいんじゃないかって。“会社”もそうだし、“彼氏/彼女”という枠も、結婚するとセットでついてくる“相手の家”も、とにかくどこかに入ることがダメなんですよね。いわゆる“幸せのイメージ”に入れられることへの違和感に、ちょっとずつ抵抗しながら生きているのかな
「これは日本だけの問題ではなく、全世界同じだと思うんですけど、適齢期がきた人に対して、ピュアに聞いてくるじゃないですか。例えばですが、30歳を目前にする人に対しては、“結婚はしないの?”とか、1人目を授かった夫婦に対しては“2人目の予定は?”とか。欧米ではセクシャリティに関してはもう少し選択肢の広い聞き方をしてくれるけど、日本だと、見た目だけで男性が好きだろう、女性が好きだろうと決めつけることも少なくないですよね。ロンドンから日本に帰ってきたばかりの頃は、日本のスタンダード、社会制度に対して窮屈さを感じていたし、当時は若かったというのもあって違和感を持ったら言わずにはいられなかったですね。セクシャリティの選択肢の幅も、働き方のジェンダーギャップに対しても、結婚制度に対しても。そのパッションはすごくharu.さんに共感できました。今も昔も考え方は変わってはいませんが、制度に対して“こうであるべき”“こうなるべき”というよりは、私は自分の中での選択肢をもっと増やして臨機応変な生き方をしていきたいなと思っています」
現在、山瀬のパートナーはイギリス人。日本で籍を入れている。
「私も結婚制度(籍を入れる)に関しては必要がない人は事実婚でいいと思っています。私はパートナーが外国人ということもあり、ビザの兼ね合いもあって籍を入れることにしました。そういう“必要性”があったから籍を入れたわけで、なかったら、籍を入れることは考えなかったと思います」
__自分が作った枠で生きること
みんなが楽しそうにしていることを、私も楽しみたいのに“みんなと一緒”というのができなかったんです。学校にはただ行って、そこにいさせてもらっているという気持ちがありました。そういう子どもだった私にとって、“そこにいる”という安心感を持てて、“ここが自分の居場所”と思える場所になってくれたのが、雑誌『HIGH(er) magazine』でした
「少し話がズレてしまうかもしれないんですが、自分のインプットは相手次第で受け取り方も違うということを、ふと思いました。例えば、同じ本の勧め方をとっても、好きな先生からこれ絶対あなたに合うと思うって言われて渡されるのと、みんなも読んでるからこれを読んでおけ、と言われて渡されるのとでは捉え方が全然違う。前者であれば、その本の“意味”が変わってくるし、読んだ後の気持ちも違ってくると思うんです。haru.さんの言う“居場所”というのも、捉え方の違いなのかなって。たとえ同じ場所だったとしても、自分のインプット、捉え方次第で変わるってこともあるんじゃないかとも思うんです」
__haru.さんの居場所を題材に
今回、絵にしたのはharu.さんの事務所にあった大きなモニュメントと、彼女の持つ媒体名。
「取材の時期は、haru.さんが渋谷西武で開催される(※現在は終了)アーティストの羊文学のポップアップのビジュアルを含めて、全体のディレクションをされていたタイミングでした。視覚的に飛び込んできた印象が強かったモニュメントと、事務所の壁にあった雑誌タイトルを描かせてもらいました。取材の中で、haru.さんは今の歳(28歳)になってようやく同世代の仲間と繋がって一緒に企業の仕事をできるようになってきたっておっしゃっていたので、今回のテーマである“繋がり”を表すにはこの二つだなって。わりと迷いはなかったですね」
似た境遇から共通点も考え方も近かった二人。人は年齢を重ねて、環境が変化していくたびに、少しずつ柔軟になっていく。
Profile
haru.
東京在住。学生時代に同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌HIGH(er)magazineを編集長として創刊。2019年に株式会社HUGを立ち上げ、仲間とともに働き方を模索中。「自分たちに正直でいること」をものづくりのモットーに掲げる。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。