自分ひとりでは表現は生まれない アオイヤマダ
ことなるわたしたち
アーティスト山瀬まゆみがモデレーターを務める「ことなるわたしたち」。ダンサーのアオイヤマダさんと「自己表現と時代性」をテーマに思春期に抱いた“恥ずかしさ”の正体について語り合った前編。後編では、アオイさん自身の自己表現の源にあるものを紐解く。
「発想のもとは身近なところにある」
__ダンスはどんなことからイメージを膨らませていくのですか? 発想の源が知りたいです。
アオイ_ワークショップでの例でいうと、野菜を観察してスマホで調べたり、過去の思い出だったり、知ったことや感じたことを声に出しながら踊ってもらったことがあります。今は当たり前のように食べられている野菜も、掘り下げていくと発想のもとになって面白いんですよ。たとえばトマトを誰が最初に食べたのか気になって調べてみると、イタリアの貧しい少年が、大富豪のお庭を掃除していて、あまりにお腹が空いてそこになっていたのを食べたという説があるんです。 高知でどなたでも参加できるワークショップでやった、名産のカツオをイメージして、「カツオ!」「ボニート!(英語でカツオ)」とひたすら叫んで投げるというのも楽しかったですね。
ダンスというと、難しく捉えられがちなんですけど、叫びながら身体を動かすことに、上手い下手もなくて、音楽にのせればもうダンスになるんです。ストレスが発散されるのか、ワークショップを終えた参加者の顔つきがスッキリするのを見ると、声と身体をフィットさせることが、生きる上で必要なんだなと感じます。
「自分ひとりから生まれる表現はないというのが私の考え。だから、もっと人と繋がってほしい」
__自分の声と身体をフィットさせていくことは、自己表現のひとつだと思うのですが、どうしても自分を上手く表現できない人へのアドバイスはありますか?
アオイ_「アオイさんみたいに個性溢れる表現がしたい。どうしたらできますか」と聞いていただくことがあるんですが、自分ひとりから生まれる表現だったり、「自己表現しなきゃ!」と力んで生まれてくるものではないと思っていて。人との繋がりからしか見つけ出せない“個”が絶対にあるので、もっと人と繋がってほしいですね。周りの人から得られるものに感謝しながら、すでにある作品や情報などを寄せ集め、たくさんの輪が重なった部分が、自分らしい表現になっていくんだと思います。今はSNSで個と個がつながりやすく、自己表現もしやすい時代ですしね。
それと、これは自分に掛けたい言葉でもあるんですが、「目の前の人に優しくして」と伝えたい。今朝、昼間はコーヒー、夜はお酒を出しているカフェに行ったら、カンパリを頼んだ男性がいたんです。「朝なのでコーヒー担当しかいなくて、時間がかかってすみません」って、戸惑いながらも用意しているお店の人に向かって、その男性は「君、今、イギリスは夜だよ」って言ったんですよ。その会話を聞いたらすごく凹んでしまって……。そもそも、ここは日本ですし(笑)。改めて、目の前の人に優しくありたいなって思ったんですよね。表現も、心に余裕があってはじめてできることですから。
「ネットのネガティブなコメントを読んで、自己表現が怖くなったことがあります。でも、結局は自分自身を信じるしかないんですよね」
__言葉にできない想いや感情を届けるアートという自己表現には、自分を解放できる気持ちよさや伝わった時の喜びといったポジティブな面だけでなく、時にはリスクを伴いますよね。しかも、SNSでは批判のほうが目立ちやすい。それでも表現するには、何を大切にしていけばいいのでしょうか?
アオイ_東京オリンピックの閉会式では、テーマの追悼を言葉を超えた身体表現としてパフォーマンスしたんですが、「不愉快だ」「日本の恥だから謝れ」みたいなコメントがたくさんあって、自己表現がすごく怖くなったし、自信も持てなくなりました。あの時思ったのは、さっき「誰かのために役立ちたくて踊る」といった話をしましたけど、考えすぎてもダメなんだなと。
出演させてもらった映画『PERFECT DAYS』のヴィム・ヴェンダース監督が、ドイツ出身で東京を取り上げて映画を撮ったことに対して、「外の人間が、僕らのことを語るな」みたいな声がたくさん上がったんです。でも、監督は「単なるネットの落とし穴だから、ハマってはいけない」と。本当にその通りだなって。
結婚するまでの二十歳前後は、社会から置いていかれているようで、落ち込み迷うことも多くてつらい時期でした。自分の存在が無意味だと思えば、本当に無意味になってしまうんです。でも、今は、すべてに意味があると思っていて。偶然の出会いや出来事を繋いで繋いで、いつの間にかそれが必然になって、私のパフォーマンスや存在に意味が生まれていく。人生は、その繰り返しなんじゃないかな。
Profile
アオイヤマダ Aoi Yamada [Left]
2000年生まれ。 表現者。90年代のクラブ、アートシーンやアンダーグラウンドカルチャーから影響を受けつつ、独自の感覚と日常からのインスピレーションを融合させた表現の活動をしている。 映画『Perfect Days』、『唄う六人の女』の公開を控えている。
山瀬まゆみ Mayumi Yamase [Right]
1986年東京都生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、高校卒業と同時に渡英。ロンドン芸術大学、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ&デザインにてファインアート学科を専攻。現在は東京を拠点に活動する。抽象的なペインティングとソフトスカルプチャーを主に、相対するリアリティ (肉体)と目に見えないファンタジーや想像をコンセプトに制作する。これまでに、東京、ロンドン、シンガポールでの展示、またコム・デ・ギャルソンのアート制作、NIKEとコラボレーション靴を発表するなど、さまざまな企業との取り組みも行っている。