お互いの印象をネイルに施す朝 haru.×NORI【前編】
月曜、朝のさかだち
『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第11回目のゲストはヘアメイクアーティストのNORIさんをお迎えしています。この日の朝活は、南青山に構えるSKINCARE LOUNGE BY ORBISにて、お互いの印象をお互いのネイルに施し合いました。まずはharu.さんがNORIさんの爪にネイルを塗り始めます。全面に塗るのではなく、複数の色をポイントごとに塗り、アーティスティックなネイルを施しました。「こんな塗り方があるんだ!おもしろい!」と、NORIさんも大満足。「紺やグレーの印象があるからくすみっぽい色をベースに、優しさも兼ね合わせているからピンクも。あとはパッションの赤を使って、NORIさんの遊び心をデザインしました」とharu.さん。
続いて、haru.さんが好きだというくすんだグリーンのポリッシュを選び塗っていき、そのあとは一本ずつ違う色を塗っていくNORIさん。塗らない爪もあり、統一されたトーンながらもカラフルなネイルを施しました。

朝活を終えた二人は、朝活を振り返りながら、NORIさんが仕事現場で心がけている「やらないこと」の重要性、メイクをし慣れていない人が抵抗感なく一番最初に始められるメイク方法、そもそもヘアメイク業界がどのように誕生したのか、NORIさんがヘアメイクアーティストを志した背景にあった雑誌業界への憧れと衰退についてお話しいただきました。
本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

NORIさんに聞きたいコト
Q.ヘアメイクの経験を重ねてきた今おもう自分の強み
A.骨格や顔のパーツなどその人の素材の活かし方を知っていること。
Q.ヘアメイクアップにおいて、どのようなことから日々インスピレーションを受けていますか?
A.文章、香り、社会の動向(政治、経済、紛争、ファッショントレンドなど)
Q.夏のメイク、TIPSやワンポイントアドバイスがあれば教えてください
A.汗でメイクが崩れやすいのでファンデは薄めで。 最近は眉にアイシャドウのオレンジやブルーをコッソリ忍ばせるのが好きです。 オレンジは血色良く見えるし、ブルーは涼しげな印象になります。 気付かれない程度にふわっと。

「完璧じゃないからおもしろい」 ヘアメイクにおける“やらないこと”の重要性
haru._NORIさんとは何度かお仕事でもご一緒させていただいているのと、この番組のリスナーでもいらっしゃるんですよね。
NORI_よく聞かせていただいています。
haru._今日はSKINCARE LOUNGE BY ORBISにて、お互いに受ける印象をお互いのネイルに施すという朝活をしてきました。いかがでしたか?
NORI_楽しかったですね!ネイルを塗り合う経験がなかったから、新鮮でした。
haru._普段お仕事ではモデルさんに塗ったりはしますもんね。私はNORIさんに藍色やグレーの印象があるんです。いつもグレーっぽい装いをされていて、髪の毛も黒髪と白髪が絶妙にミックスされていてカッコよくて。そんな印象が強いので、グレーっぽい色を使いました。あと、NORIさんとお仕事をご一緒するときに、いつも新しい提案をくださるんです。そういったパッションを表現するために、赤いネイルを使ってみました。私にはどういうイメージでネイルをしてくれたんですか?
NORI_haru.さんが、実家の外壁の色がカーキだったというお話しをされていたので、カーキっぽい色をメインで使いました。ただ、指10本に塗ってもおもしろくないなと思い、塗っていない指も作りながら、透明感のあるネイルもミックスしながら塗りました。 最初は、haru.さんがネイルを塗るイメージがあまりなかったので、ペディキュアの方が夏っぽくていいかなと思って、足元を見てみたら、すごくカラフルなボーダーの靴下を履いていたんです。それを見て、多色使いもいいかもと思い、何色か混ぜてみました。
haru._今日はサンダルで行こうかと思ったんですけど、ローファーにしちゃったので、カラフルな靴下で色を入れて来たんです。それを見逃さなかったんですね(笑)。
NORI_実はharu.さんの靴下をよくチェックしているんです。それこそ、以前サンダルの広告撮影でharu.さんがモデルで、僕がメイクをさせてもらったときに、上下デニムのセットアップにレンガ色の靴下を履いていたんですよ。そういう色の靴下を合わせるんだと関心していて、今日もカラフルなボーダーの靴下を見て「なるほど」と思っていました(笑)。 今日はネイルでしたけど、メイクをするときにも、モデルさんの服装の色合わせを職業病的に見ているんです。haru.さんは靴下でアクセントを出す人なんだなという印象がすごくあります。
haru._バレてる(笑)。人に見られてると思ってなかったです。完全に自分が楽しむためだけなんですよ。あまり派手な色の服は着ないんですけど、靴下や小物で遊びを入れるのが好きなんです。そうした部分をチェックしているのは、ずっと意識していることなんですか?
NORI_自然に身についたんじゃないですかね。
haru._聞きたいなと思っていたんですけど、いろんなヘアメイクさんがいるなかで、NORIさんは、コンセプトが決まっていたらそこに合わせたヘアメイクをするのか、それともモデルさんありきのヘアメイクをするのか、どういったことを意識してメイクしているんですか?
NORI_例えば、インタビュー記事用のポートレート撮影のときに意識しているのは、絶対にその人のことを事前に調べないということ。それがアーティストや俳優さんだとしても、その人の前情報が入っちゃうと、固定概念が生まれちゃうんですよね。この人はいつもこういうメイクをしているなと知ることで、一個の正解ができてしまい、僕自身がそのイメージから抜けられなくなってしまうんです。なので何も情報を入れずに、丸腰で行き、その場で感じたインスピレーションでメイクを提案するように意識しています。
haru._そうなんだ!私は真逆で、ヘアメイクのお仕事ではないですけど、取材相手のことは何でもいいから情報が欲しいって思っちゃいます。
NORI_僕の場合は、自分のインスピレーションを大事にしているのプラス、相手が有名な方であればあるほど、ファンにならない努力を大事にしています。ファンになっちゃうと、手が震えてメイクできないんですよ。それに、相手の方も、現場にファンが来たと思うと構えちゃうじゃないですか。ファンの前で見せる表情を作らなくちゃいけなくなるし。あくまでも、人と人ですよという立ち位置に立ってメイクをするようにしています。
haru._それはそうですね。ヘアメイクのお仕事においては大事なポイントかも。ヘアメイクさんがすごく自然体でいてくれることが、私もモデル側として現場にいるときにすごく助かっています。ヘアメイクさんが一番距離が近いので、居心地のいい距離感があるなと思います。そして、NORIさんが私にしてくれたネイル、あえて塗らない指があるのもいいですね。
NORI_やらないことって重要じゃないですか。完璧じゃないからおもしろいというか。最近は完璧なものはChatGPTで作れちゃうから、完璧じゃないもののなかにおもしろさがあるなと思っています。
haru._メイクでもそれは意識されていますか?
NORI_めちゃくちゃ意識しますね。下手に作る努力みたいなところをすごく意識していて。「左右非対称でいいじゃん」って思う意識みたいな。 10年〜20年前って、メイク講習を受けると、いかに左右対称を作れるかとか、顔がもともと左右対称じゃないから、メイクでシンメトリーな顔に作っていきましょうといったセオリーがあったと思うんです。でも、それを今の価値観に照らし合わせたときに、果たして正しい向き合い方なんだろうかと思っていて。逆に、左右非対称だから人間らしいんじゃないかと思うように今はなってきましたね。
haru._それをヘアメイクさんが言ってくださるのがすごく勇気が出ます。私も顔が非対称で、片目だけ日によって一重になることもあるんです。それが気になってしまって。ただ顔が非対称であるだけなのに、自分のなかのバランスが取れていないみたいなふうにまで思っちゃうんですよ。だからいろいろと調整して、左右が同じ印象になるようなアイメイクをしようとしていたりして。そんな非対称さも受け入れているのが魅力的な人物像だと思っているんですけど、なかなか自分ではそう思いきれない部分があるんです。 モデルさんの非対称さも活かしながらメイクをするんですか?
NORI_非対称さを誇張するわけではなく、全ての人の顔は左右非対称であることを大前提に、どこでバランスを取ると一番美しいかというバランスを見つけるという感じです。目の大きさが左右対称じゃないからアイメイクで何とかしようとすると限界があるので、髪の毛の分け目を変えてみるとか、そういうことでバランスを発掘していくみたいな考え方です。左右非対称な人にすごく綺麗なセンター分けをしてしまうと、非対称さが誇張されてしまうけど、いつもは右に分けているのを、左に分けてみることでバランスが取れることがある。そういうバランスを探してる感じですね。
haru._おもしろい。それはその人の顔を見て瞬時に判断するんですか?
NORI_そうですね。瞬時に判断するし、もちろんそれが間違っていたりすることもあるから、モデルさんとはコミュニケーションを取りながら発掘していくようにしています。

メイクをすることに抵抗があるあなたへ 「質感のコントロール」
haru._今日はSKINCARE LOUNGE BY ORBISに行って、いろんなプロダクトを一緒に見ましたね。私は普段メイクを全然しないから、何からスタートしたら自分の印象や気分を変えられるかなと気になっています。リップを塗ることで気分が変わったりはするので、リップはよく塗るんですけど、NORIさんがメイク初心者の方におすすめするワンポイントや、初めてのケアみたいなことってありますか?
NORI_リップってすごくわかりやすいですよね。好きな色を選んで乗せるだけで、ノーメイクでも完結するので。アイライナーもそうですよね。カラーアイライナーもおもしろいなと思います。普段全くメイクしない人だとしたら、色付きのリップではなく、ツヤだけ出してあげるのもおすすめです。会社にお勤めの方だと、なかなか色もののリップやアイライナーを使えなかったりするけど、ツヤを出してあげるだけで気分が変わったりしますよ。撮影でもたまに、リップクリームをまぶたに乗せて、目元にツヤを出したりもします。そこに光が当たると綺麗なんですよ。メイクに慣れている人だと、パールやラメのものを使ってあげるといいんですけど、メイク初心者の人はそこにも少し抵抗感があったりする。なので、普段使っているリップクリームを薬指にとってまぶたの上に乗っけてあげるだけでフレッシュになったりします。
haru._今日リップクリーム持ってるのでやってみようかな。確かに光を集めるだけでも印象変わりますよね。
NORI_アイシャドウを塗ったあとにリップクリームをまぶたに乗っけちゃうとよれちゃいますけど、アイシャドウを塗っていないからこそリップクリームを乗せてみるのはおすすめです。 色ものって、使いようによってはすごく華やかになったり、アクセントになるんですけど、質感も同じで、ツヤがあるものと、マットなもので印象が全然変わるんです。色が入っていなくても、質感のコントロールで結構楽しめるなと思います。
haru._NORIさんはInstagramでメンズ向けのアイテムを紹介されていますよね。
NORI_自分が忘れないための記録みたいな側面もあるんです。あとは、仕事でモデルさんにおすすめを聞かれたときに、あれを見せて紹介しています。金額や内容量もメモしているので、すぐに出せるものとして記録しています。

憧れの雑誌業界の衰退によって 変化したキャリアへの眼差し
haru._私もものづくりやファッション系のお仕事をすることが多いので、ヘアメイクさんって本当に身近な職業なんですけど、そもそもこのお仕事がいつから生まれたのかということに疑問を持たずに過ごしてきてしまったんです。今回NORIさんがいらっしゃるということで、ヘアメイクという仕事がいつぐらいから生まれたのか調べてみたら、ハリウッドが発祥だったりする話を見ました。日本だと、伝統芸能の歌舞伎で専用のお化粧がされていたりしますよね。テレビがモノクロからカラーになった1960年ぐらいから、ヘアメイクさんの仕事が増えていったという情報をネットで見ました。
NORI_カラーテレビになり、色が使われるようになったことでヘアメイクの需要が増えたんでしょうね。
haru._1964年の東京オリンピックのタイミングでカラーテレビが普及して、それぐらいからヘアメイクさんのお仕事が増え、1972年に日本で初めてのプロのヘアメイクアップアーティスト養成学校ができたそうです。当時は美容室がお化粧も担っている場合が多かったという情報を見ました。
NORI_確かに、僕のヘアメイクの先生である日野 眞郷さん*①という方がいるんですけど、その方はもともと、mod’s hair*②というヘアサロン出身なんです。mod’s hairは1970年代にパリから帰ってこられた田村哲也さん*③というへメイキャップアーティストの方が、日本でmod’s hair japanの一号店を設立したという話を聞いたことがあります。
haru._NORIさんがヘアメイクアーティストを目指された時代はどういう感じだったんですか?
NORI_僕は完全にファッションから影響を受けて、自然な流れでヘアメイクになったんです。僕が生まれ育ったのは和歌山県の田舎で、雑誌が唯一情報を得る手段だったんですよ。最初はファッションデザイナーに憧れたんですけど、周りを見渡してもファッションデザイナーをやっている知り合いもいないし、近しい職業もなくて。高校を卒業するタイミングで、一番ファッションに近いと思ったのが美容師だったんです。なので、美容室に就職したんですけど、いろんな人との出会いを経て、サロンで働くよりもヘアメイクという撮影をメインにやる職業があることを知り、27歳でヘアメイクを志して東京に出てきました。
haru._それまでは和歌山にいたんですか?
NORI_大阪にいました。大阪の美容室に就職して、そのあと数年美容学校で講師をやっていたんですけど、27歳で東京に来てアシスタントに就かせていただきました。
haru._じゃあ、メイクは後から学ばれたんですか?
NORI_そうです。東京に出る前に、大阪のメイクスクールに週末だけ通って、メイクのベーシックスキルを学んで出てきました。僕自身も、美容師さんが雑誌の撮影に関わっているのかと思っていたんですけど、当たり前にサロンワークを中心にされていて、思っていた世界と違うぞと思っていたんです。知り合いからヘアメイクという職業があることを聞き、だんだん興味を持ち、流れていった感じです。でも、美容室は美容室で楽しかったですよ。
haru._NORIさんは当時どんな雑誌から影響を受けていたんですか?
NORI_雑誌が唯一、世界との入り口だったので、レディース誌もメンズ誌も全部見ていました。当時は特に、スタイリストさんが今で言うインフルエンサーだったんですよね。私物紹介をやったりしていたので、モデルさんが出ているファッションページというよりは、裏方にいる人が何を着ていて、何が好きかをすごくチェックしていました。スタイリストさんが付けている香水がブルガリって書かれてたら、それを買ってみたり(笑)。
haru._確かに裏方の方たちがカリスマ的に注目されていた時代でもありますよね。
NORI_レディース誌だと、パリコレの舞台裏のスナップ写真が記事になっていたんです。ランウェイを歩いている洋服ではなく、そのモデルさんがどういう私服を着ているのかをキャッチするみたいなことをずっとやっていました。
haru._確かに今はそれぞれのSNSで発信しているけど、当時は超小さい写真の細かい部分まで見ていましたよね。NORIさんはヘアメイクのお仕事を始められて、雑誌の仕事もされたんですか?
NORI_雑誌をやりたくてこの業界に来たんですけど、僕のキャリアとともに雑誌の影響力がどんどん弱まっていってしまったんです。思い描いていた世界とは変わっていき、憧れていた雑誌もどんどん休刊や廃刊になっていき、グラデーションのなかに立っていましたね。なので雑誌のお仕事はあまりたくさんやらなかったです。

「感覚だけではいけない」 現代において説明することの必要性
haru._2010年に独立されたんですよね。その頃だと少しずつ減ってきていますよね。
NORI_そうなんです。ものすごくいろんな雑誌があったんですけど、『Olive*④』や『CUTiE*⑤』、『HUgE*⑥』なんかもなくなっていったし、やりたいと思っていた雑誌がどんどんなくなっていき、どこに向かっていけばいいんだろうと思っていました。
haru._当時はどんなお仕事が多かったんですか?
NORI_ブランドのルックブック撮影が多かったです。今まではブランドも雑誌に掲載してもらうことに意味があったけど、雑誌の影響力がなくなったことによって、自分たちで豪華なルックブックを制作することのほうがやりがいとおもしろさ、話題性がありましたね。
雑誌という形を残すために、いろんなクライアントとのタイアップ企画を増やし、そこに登場するタレントさんの意向などで、どんどん自由度が低くなったような気がします。
逆に、ブランドの撮影の方が自由に何をやってもよくて。なんなら洋服が見えていなくても、イメージを追求できればいいと、大胆な企画を組めたりしたんです。ルックブック自体も、A4サイズじゃなくても、A3や変形なんかでもできたし、用紙もいろんな種類を使えたりと、ものすごく自由度が高かったんです。それはすごく楽しかったですね。
それが今はInstagramなどのSNSに辿り着いているのかなと思います。
haru._今だとルックブックを印刷するブランドもすごく減っていますもんね。
NORI_今は写真じゃなくて、動画になってきていますよね。
haru._ヘアメイクって人に施すものだから、媒体だけでなく、時代によって変わりゆく人間像にもついていかなくちゃいけないですよね。
NORI_そういう意味で言うと、雑誌に憧れてこの業界に入ったけど、雑誌業界が衰退していくなかで、次に何が来るのか、次はどういうことを世の中は求めているんだろうと、半歩先を読んで察知する能力が必要だなということは痛感しましたね。
haru._ここ10年ぐらいで、ナチュラル志向な流行りになっていったじゃないですか。奇抜なメイクやヘアって、ルックブックでもされなくなっていったなかで、どうやってヘアメイクさんたちは自分の個性を出していけるんだろうと思っていて。すごく闘い方が難しいなと思っています。
NORI_難しいですね。昔の方が、「どうだこれすごいだろ!」とか「こんなもの見たことない」といった闘い方ができたと思うんですよね。僕はすごく印象的に覚えていることがあるんですけど、20代のアシスタントに僕の作品を見せて率直な意見を聞かせてほしいとお願いしたことがあるんです。そしたら、オブラートに包みながらも「Pinterest*⑦に上がっている写真みたいです」って言われて。要は、もう資料やサンプルになる画像やアーカイブってネットを検索すればいくらでも出てくる。たぶん今の若い人たちは、それが90年代の写真なのか、2000年代のものなのか、2025年のものなのかは関係なく見ているんですよね。そのうえで、可愛いか可愛くないかというサンプルの仕方をしていて。だから、今までのやり方をやっていても、今の人たちには絶対に響かないなと思い、考え方を変えなきゃいけないなと思ったのをよく覚えています。
haru._「Pinterestに載ってそう」って言われたら結構ショックですけどね…(笑)。
NORI_ショックですよね!でもすごく新鮮な意見だったし、その人たちに刺さるためには別のアプローチをしないといけないなと思ったんです。haru.さんがおっしゃったように、ナチュラルな時代だからこそ感覚的にやるのではなく、ロジックや文脈を盛り込んで表現する必要があるなと考えるようになりました。
haru._説明できることが差別化にも繋がりますもんね。
NORI_あとは、写真でも映像でもそうですけど、ビジュアルコミュニケーションとして、フックになる問いを盛り込むことも大事だと思っています。「なぜこの色を使ったのか」といった仕掛けが必要じゃないかなと。
haru._前にNORIさんとご一緒したときに、モデルさんがつけるリップの色を私が提案したら、NORIさんは全然違う色を提案してくださったんです。そのときも理由をしっかり説明してくれて、納得できたんですよね。ヘアメイクって感覚的なこともすごく多いと思うんですけど、そこをちゃんと説明してくれることですごく腑に落ちる体験をしました。
NORI_僕がキャリアを重ねてきた90年代、2000年代って、明らかにファッション雑誌は読むものじゃなくて見るものだったんですよ。感覚的な世界でやばいとか、イケてるとか、可愛いみたいなことをどれだけ理解し合うかという世界。しかもその感覚は、半年が経って次のシーズンに進むと“ダサい”に変わる。そのフットワークの軽さがファッションのいいところだと思って好きだったんです。だけど、今はそこにもう一声何かがないと、今の“イケてる”にはならないと考えています。
haru._説明責任じゃないですけど、感覚だけではダメなことがありますよね。
NORI_あとは、感覚だけで作ったものが、もう出尽くしてしまった感があります。だから、「これどうだ!いいだろう!」って見せても、「Pinterestに載ってそう」で終わっちゃうんですよね。
haru._ストーリーをしっかりと語らないといけないなと思いますね。それを言葉にすることで、共通言語になり、同じ景色を目指せたり、瞬発能力よりも過程に何があるかという制作スタイルになっていく。私たちもそういうスタイルが増えているなと感じるし、大事だなと思っています。
以前、八木華さん*⑧とHEAP*⑨のコラボアイテムを作ったときに、ビジュアル撮影でNORIさんがヘアメイクに入ってくださったんですけど、そのときも、みんなでコンセプトだけを話す時間がありましたよね。そのためだけに集合したんですけど、あれがすごく大事だなと思いました。それがあったうえでアウトプットすることで、何が起きても大丈夫と思えるというか、そういう信頼を作れることのほうが今は価値がある。そういうことがみんなのなかにもだんだんと芽生えているなと思ったりします。
NORI_ディテールの話じゃなくて、根っこの部分に何があって、何に共感できるのかということがすごく重要。 70年代ってヒッピーカルチャーやベトナム戦争があったりした背景もあって、攻撃的なものを求めていないことを表明するムードがあったんです。だから70年代っぽさというと、オレンジやブラウン、アースカラーがトレンドになっていて。僕は70年代に生きていたわけではないのでわからないですけど、そのときと同じようなムードを今も抱えていたりするのかなと考えていたりします。
haru._何をするにも、「戦争はしてはいけない」とか「私たちが求めるのは平和」だということを常に言っていかないといけないというか。言わずして、自分たちのことだけをやっていくことがもう無理な状況になっているなと思います。
対談は後編へと続きます。後編では、NORIさんが女性が多い現場で意識していること、感覚が重視されてきたファッション業界で、今言語化を大切にするNORIさんの思い、5月に開催されたNORIさんの個展を経て捉える、時代と美しさの変化などについてお話しいただきました。
そちらも是非楽しみにしていてくださいね。
それでは今週も、いってらっしゃい。
1980年代からファッションを中心にアーティスト活動を始める。1990年MAKE’S設立。
現在は雑誌・広告・CF・ヘア&メイクアップ ディレクション等で活動。
*②Mod’s hair(モッズ・ヘア)
1968年パリ発のヘアサロンブランド。ファッション性と独自のデザイン性を重視し、世界各国に展開。サロン運営のほか、ヘアケア製品も展開している。
*③田村哲也
1972年にパリのmod’s hairへ参加。帰国後は原宿に日本初店舗を開設し、パリコレや雑誌広告で活躍するトップメイク&ヘアアーティスト。
*④Olive(オリーブ)
1982年創刊の雑誌。男性誌「Popeye」の女性版として始まり、自然でソフトな“ロマンティックガール”像を提案。2002年に休刊。
*⑤CUTiE(キューティー)
1988年創刊の女性向けファッション誌。独立した“インディペンデントガール”をターゲットに、ストリート&カルチャー要素を融合した雑誌。
*⑥HUgE(ヒュージ)
2004年創刊、講談社発のメンズハイエンドファッション誌。ストリートとハイファッションを混ぜ、音楽・アートも扱うカルチャー誌。
*⑦Pinterest(ピンタレスト)
2004年創刊、講談社発のメンズハイエンドファッション誌。ストリートとハイファッションを混ぜ、音楽・アートも扱うカルチャー誌。
*⑦Pinterest(ピンタレスト)
2009年米国発の画像共有プラットフォーム。ユーザーは美しい画像や動画を「ピン」し、テーマ別のボードで整理し、インスピレーションを得るビジュアル検索エンジンとして機能。月間利用者は5.5億以上、買い物やレシピ探し、DIY計画などに活用されている。
*⑧八木華
1999年東京生まれ。都立総合芸術高校卒業後に「ここのがっこう」でファッションを学び、2019年に欧州最大のファッションコンペ「International Talent Support(ITS)」ファッション部門の最年少ファイナリストに選出。伝統的修復技法や古布を用いた持続可能な制作で注目されている。
*⑨HEAP(ヒープ)
HUGが手がける下着ブランド。
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photography: miya(HUG) / text: kotetsu nakazato