手作りスムージーを飲む朝 haru.×川原好恵【前編】
月曜、朝のさかだち
『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第13回目のゲストはランジェリーライターの川原好恵さんをお迎えしています。今回の朝活は、数種類の果物と野菜を用意して、オリジナルスムージーを作りました。haru.さんも川原さんもスムージーは毎日のように作って飲むそうで、今回haru.さんは川原さんの定番スムージーを、川原さんは用意された食材から新しい組み合わせを選び作ることに。
haru.さんが作った川原さんの定番スムージーには、ほうれん草・バナナ・りんご・オレンジ・お水が入っています。そして川原さんの新スムージーには、小松菜・冷凍マンゴー・ミックスベリー・キウイ・オレンジ・お水をチョイス。

以前、スムージーのレシピをまとめた書籍を執筆したこともある川原さん。「ミキサーの刃に近い場所に果汁の多い柑橘系を入れると混ざりやすいんです」と、ワンポイントアドバイスをいただき、カットした果物と野菜を入れスイッチオン。
川原さんの新スムージーはミックスベリーが色の決め手となり、酸味と甘味が調和した高級感ある味わいの紫色のスムージーに。そしてharu.さんの作った川原さん定番スムージーは、グリーンが鮮やかでりんごの赤い皮が粒々とアクセントに煌めくスムージーになりました。

「普段は牛乳かヨーグルトを入れているんです」と話すharu.さん。今回はお水で作ったのですが、「甘味がちゃんとある!」とシンプルなスムージーながらも素材の味を楽しんでいました。
「次は一緒に作ってみましょう」という提案のもと、2人は黄色いスムージーを作ることに。冷凍マンゴー・パイン・ゴールデンキウイ・ピンクグレープフルーツ・お水をチョイス。優しい黄色が夏っぽさを引き出し、「ギャルっぽくなった!」と満足げな川原さん。果物の甘味と爽やかさとともにグレープフルーツの苦味がアクセントとなり、「大人ギャルなスムージーだ!」とharu.さんも大満足なスムージー作りでした。
朝活を終えた二人は、朝活を振り返りながら、川原さんがランジェリーライターを志したきっかけやフェミニズムと下着の繋がり、インディペンデント下着ブランドが社会に対してできることについてお話しを伺いました。
本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

川原好恵さんに聞きたいコト
Q.自分の身体に自信を持つにはどんなことが必要だと思いますか?
A.身体に限らず「自信を持つ」って難しいですよね。私は「自信を持たなきゃ」という考えを手放すのも一つの方法かと思います。ただ、自分の身体を否定したり、嫌いになったりはして欲しくないです。理想とは違うかもしれないけれど、自分の身体を「受け入れる」「認めてあげる」で良いのではないでしょうか。そうしたら「私のここは好きかも」が見えてくるかもしれません。
Q.ランジェリーを表現する、伝えることはデリケートな部分も多くあると思いますが、取材や執筆の際に心がけていることや大切にしている言葉などはありますか?
A.長年仕事しているからこそ、「こうあるべき」という既成概念を持たずに取材したり執筆したりするようにしています。あくまで「私はこれがいいと思うので、選択肢の一つとしていかがですか?」というスタンスです。もう一つ、年齢を重ねる事をマイナスに捉えたり不安を煽ったりする様な事は、書いたり言ったりしない様に心がけています。

健康のために続ける、簡単スムージー
haru._今朝は川原さんと一緒にスムージーを作ったんですけど、楽しかったですね。スムージー作りは川原さんがご提案してくださったんですよね。
川原好恵 (以下:川原)ORBISさんのPodcastなので、何かしらビューティーに関連する朝活がいいなと思ったんです。普段私がやっている美容やヘルスに関する朝活を考えたときに、スムージー作りとお風呂に入ることだけで。それならスムージー作りを一緒にしたいと思いました。
haru._お風呂もいいですね。
川原_本当は銭湯とかで朝風呂もすごくいいなと思ったんです。私は毎日湯船に浸かるんですけど、それが唯一の美容習慣です。
haru._でも、毎日湯船に浸かることとスムージーを飲むことを続けていらっしゃるのが、めちゃくちゃすごいと思います。
川原_一番簡単なんです。あるアロマセラピストの方に教えていただいたのが、特別なことをたまにやるのではなく、毎日できることをコツコツ続けていくのがいいということ。それがすごく腑に落ちたんです。私はあまりエステに行ったり、美容医療をすることはないんですけど、毎日の積み重ねを少しずつ無理なく続けていきたいと思っていて。美容というよりは健康のためにも大切にしています。
haru._今日は三種類のスムージーを作りましたね。
川原_私が毎日飲んでいる定番メニュー、今日はほうれん草を使いましたけど、小松菜やタアサイに変えたり、冬はちぢみほうれん草にしたりと、旬の青野菜を入れるようにしています。りんごが旬ではないときには人参に変えたり、柑橘系もグレープフルーツやみかんにしたりもしています。そこに必ずバナナを入れているんですけど、一年中手に入りやすいし、全体的に甘くなって味がまとまるので、バナナは必須です。
haru._それをすごく感じました!見た目はグリーンのスムージーなんですけど、すごく甘くて、飽きのこない味で、これなら毎日続けられそうだと思いました。
川原_手に入りやすい材料ばかりなので、続けやすいと思います。
haru._私もスムージーをよく作るんです。夏場はバナナ・冷凍ブルーベリー・牛乳で作っていて。朝からデザートみたいな感じだったんですけど、しばらく続けるとちょっと飽きてしまうんですよね。たぶんそれは牛乳を入れていたからかなと今日思いました。
川原_今日はお水で作りましたもんね。
haru._川原さんもおっしゃっていましたけど、何かなければ代用できるのがスムージーのいいところですね。普段お野菜をそんなに食べられなくても、今ある食材をまとめて入れちゃえば出来上がる。
川原_そうなんです。朝にしっかりあれぐらいの野菜や果物を取っておけば、お昼や夜にサラダが食べられなくても、ちゃんとビタミンが取れているのでオッケーな感じがするので、なるべく朝はスムージーを飲むようにしています。
haru._めっちゃ大事ですね。私は朝適当にコンビニで菓子パンを買っちゃう日もあって。それもたまにはいいかなと思いつつ、「朝から少し妥協しちゃったな」という気持ちが夜まで引っ張ってしまうことがあるんです。その後のご飯の選択も、なんとなく自分を蔑ろにする感じになってしまう。でも、朝からスムージーを作って飲むことで、その後も自分にちょっと優しいものを選ぼうという気持ちが生まれてすごくいいなと思いました。
川原_毎日スムージーを作るって、なんだかすごく頑張っている感じがするんですけど、材料も手に入りやすいものだし、ジューサーの中に適当に切ったものを入れてお水を入れればできるものなんです。なので、そんなに意識が高くなくてもできるものだと思うし、続けられるものだと思います。私が続けられているので、皆さんもできると思います。
haru._ぜひ皆さんも好きな材料でスムージーを作ってみてほしいなと思います。

足を運び話を聞くことで広がる
ランジェリーの世界
haru._川原さんはランジェリーライターという肩書きですが、初めて聞く肩書きでした。川原さんは主にランジェリーや下着にまつわる記事を手がけていらっしゃるんですよね?
川原_そうですね。haru.さんとの出会いのきっかけにもなった『ELLE デジタル』*①の連載は随分長く続けさせてもらっていますし、今は『Richesse デジタル』*②でも連載をさせてもらっています。そういう媒体で書かせてもらうこともあれば、『WWD』*③などのファッションが好きな人向けやファッション業界のプロの方向けの記事を書くこともあります。あとは専門学校で講義を行ったりもしています。主には下着に関する取材をして執筆・編集をしています。
haru._下着に特化したライターさんだと思うんですけど、ランジェリーライターになるきっかけはなんだったんですか?
川原_言ってしまえば成り行きなんです。私は文化服装学院を卒業したんですけど、学生時代に3週間企業でインターンとして働く授業で『ワコール』*④さんに行ったんです。元々ファッションに興味があって文化服装学院に入学したんですけど、お勉強をしているうちにお洋服のなかでも部屋着に興味があって。おしゃれをして出かける装いよりも、自分がリラックスして着られるおしゃれな服の方に興味を持つようになっていたんです。そこで、部屋着やラウンジウェアをデザイン・企画するお仕事をしたいなと思い『ワコール』さんにインターンに行きました。その研修プログラムの一環で販売のお仕事をしたんですけど、それがすごく楽しかったんです。いろんな下着を販売したんですけど、あるとき、ある女性のファッションやその方の雰囲気と、買っていかれる下着にすごくギャップがあることに気づいたんです。「この雰囲気の方がこのパンティーを買うの!?」という、そのギャップがすごく興味深くて。
なんでこんなにギャップがあるんだろうと思ったときに、やっぱりお洋服って社会性やルール、人からどう見られるかということをどうしても気にせざるを得ないものじゃないですか。でも、下着って他人に見えない分、本当に自分が好きなものや自分が表現したいもの、こうなりたい、こうありたいという観点で選べるものなんだと思ったんです。始めはそのギャップがおもしろいというだけだったんですけど、だんだんとお仕事をしていくにつれて、下着とは女性の本音と建前の隙間を埋めるものなんだなと感じるようになっていきました。そこからさらに興味が湧き、今に至っています。
私はもともと流通業界で働いていたんですけど、そのときに下着ショップを立ち上げるお手伝いをしたりしていて。そういったご縁もあり、会社を辞めた後も下着の通販会社にお仕事をいただき、コーディネーターというお仕事をするようになりました。そうやってどんどん面白くなっていき、私が知っている下着の世界も広がり、海外の展示会に行くとさらに視野が広がっていきました。
haru._奥が深そうですね。
川原_すごく面白くて、どんどん好きになっていったし、興味も沸いていきました。それと、下着ってすごく精緻に作られているものなんですよね。パターンもそうですし、縫ってくださる職人さん、美しいレースを作るデザイナーさん、肌に触れたときに心地いいと思う素材など、本当に奥が深い。いろんな職人さんの手がないと完成しないものなんですよね。それがすごく興味深かったんです。
後になって思ったことなんですけど、たぶんこれは私の父が家具の職人だったこともあって、小さい頃から職人さんや手を動かして何かを生み出す人たちを見ていたということもあると思うんです。下着って職人さんがいないと美しいものはできないし、職人さんの力って本当に大きい。そういうところに惹かれていったような気がします。
haru._川原さんも自身の足でいろんな場所に行き、実際にランジェリーや下着を手に取り、バックグラウンドまで調べていると思うんですけど、現地でいろんなことを見聞きすることは大切だと思いますか?
川原_そうですね。それは私が一番大切にしていることです。今ってネットを見ればほとんどの情報って手に入ると思いますし、AIに聞けばいろんなことをアドバイスしてくれる。でも、実際に触れて、作った人に話を聞く。できればその人のホームに行って話を聞くということがすごく大切だと海外の取材をするようになって特に思います。 今、私は毎年1月にパリ国際ランジェリー展*⑤という世界で一番大きい規模の合同展に行っているんですけど、果たしてそこまで行く必要はあるのかと考えることもあります。でも、やっぱり実際に行ってみると、そこでしか出会えない人と会えたり、話が聞けたり、これからの動向が見えてきたりと、そこでしか得られないものが必ずあるんです。それはやはり、相手のホームに行って初めて得られること。相手方のホームに行き、懐に入り、膝を突き合わせてカタコトの英語でもいいから話すことで初めて得られるものなんだなということは変わらないです。それはもちろん、日本国内でも一緒です。
haru._相手の城に行き、門を叩くことって本当に大事ですよね。
川原_それをずっと大切にして仕事をしてきたことが、自分の財産だなと思っています。
haru._それこそ川原さんが販売員をされたときに感じた「この方がこういう下着を買うんだ」みたいなギャップも、現場にいないとわからないことですよね。
川原_そうですね。社会人になってからも販売の経験は重ねてきたんですけど、今でもそれはすごく財産だと感じています。お客様と接しなければわからなかったことはすごくたくさんあるし、そこで得たことを今、haru.さんのようなデザイナーをされている方とお話しする際に交換し合うことがすごく大切だなと思います。
haru._最初に川原さんとお会いしたのは、私たちがやっている『HEAP』*⑥のPOP-UPに来てくださったときですよね。私のなかでランジェリーの世界って敷居が高い印象なので、ランジェリーのライターをされている方と聞いて、すごく緊張してたんです(笑)。「こんなのランジェリーじゃない!」みたいに言われたらどうしようって思っていて(笑)。私たちはかなりラフな下着を作っているので、高級なランジェリーの世界とはちょっと違うところでやっているなと思うんです。なので緊張していたんですけど、川原さんの好奇心でいろんな質問をしてくださって、私たちのアイテムも面白がって手に取ってくださったことがすごく新鮮な体験でした。
川原_すごく楽しかったです!POP-UPには取材で伺ったんですけど、もちろん事前にInstagramやホームページは見ていて。でも、やっぱり現物がすごくよかったんです。それって現物を手に取った瞬間にやっぱり分かるんですよ。長く仕事をしているので、「これはあの商品をコピーして作ったものだな」とか、「他人任せで作っているんだな」とかが分かってしまうんですよね。ちょっとキツい言い方をすると、魂が入っている商品なのかどうかということは見たら分かります。なので、そのときに現物を見たときに、「えー!Instagramで見るのよりも全然現物の方がいいじゃん!!」となったのがすごく楽しかったです。
haru._嬉しいお言葉です。
川原_本当にそう思いました。そしてharu.さんから、なぜこういうデザインなのか、なぜこういう色・柄なのかということを聞かせてもらい、納得したんですよね。それをあそこの場所で聞けてよかったです。

選択肢があり、自分の意思で選び、
その選択が尊重されること
haru._日本のファッションの歴史のなかで、女性の解放が大きく進んだタイミングはいつ頃だったんでしょうか?ファッションに変化が起きたことにより、下着も変わっていったのかなと気になっていて。
川原_日本だけでなく、世界的に見ても大体1900年代の初頭にポール・ポワレ*⑦やココ・シャネル*⑧が女性たちをコルセットから解放したんですよね。そこから身体の線を強調しないお洋服の時代になっていくんですけど、それが戦後1947年にクリスチャン・ディオール*⑨がニュールックを発表した際にまたコルセットが逆戻りしたんです。その頃に『ワコール』も創業しています。その後、だんだんファッションの移り変わりとともに下着も変わっていきました。
もちろんもっと細かく歴史を辿っていくといろんなことがあったんだけれども、90年代は寄せて上げるというブラジャーが日本でもブームでした。世界でも「ワンダーブラ」や「ウルトラブラ」といった谷間を強調するブラジャーが流行した時代。当時はボディコンファッションが流行っていたので、下着もその流れに沿ったものが流行していました。
その後新時代を切り開いていくような出来事で言うと、これは私の考えですが、2008年にユニクロがブラトップを発売したのが大きかったなと思います。始めは「何これ?」という感じだったんですけど、女性たちもだんだんと「これでいいじゃん」みたいになっていき、時間が経つにつれて「これがいい」と選択するようになっていったと思います。
2013年に『スロギー』*⑩から「ゼロフィール」という商品が発売されました。これはタンクトップをバストの下で切ったような形で、伸縮性のある素材で縫製ではなく接着で形作られているもので、これがすごく広がったんです。これらをきっかけに、快適性・リラックスできるブラジャーというものがどんどん広がっていったなと思います。
そういったファッションと下着の流れがある一方で、やはり社会的な流れと下着の流れというのは、特にフェミニズムの流れと非常に密接に関連していると私は思っています。記憶に新しいところだと、2017年の#MeToo運動*(11)がありましたよね。『ニューヨーク・タイムズ』*(12)の記者が性的虐待疑惑のあった映画プロデューサーのセクシュアルハラスメントを告発する記事を発表したことを機に広がった#MeToo運動ですが、実は#MeToo運動とボディポジティブのムーブメントって重なるんです。
私が初めてボディポジティブという言葉を聞いたのは、たぶん2017年の秋ごろで、先ほど話したパリ国際ランジェリー展でボディポジティブというキーワードを多く目にするようになりました。ボディポジティブのムーブメントが広がると同時に「ブラレット」というアイテムが流行り始めていて。これは、ノンワイヤーですごくナチュラルなシルエットに見えるもので、おしゃれアイテムとして、ちょっと見えても可愛いといったもの。それが流行り出したのも2016年〜2017年くらいなんですよ。そこからノンワイヤーのブラジャーがどんどん広がっていきました。
haru._それは体感として覚えています。私が中学3年生の頃はまだワイヤーがすごく入っていて、体育の授業でみんなで体操着に着替えるときに「痛いよね」と文句を言っていました。それが2015年以前とかで、まだブラレット的なものが普及していなかったんです。
川原_中学生でも高校生でもワイヤーが入ったブラジャーをつけていましたよね。そこからノンワイヤーブラが広がっていき、2016年ぐらいになるとノンワイヤーでもちゃんとホールド力のあるブラジャーがどんどん出てきて、そのことを私は勝手に「サードウェーブブラ」と呼んでいます。必ずしもバストメイクするブラはワイヤーブラじゃなきゃいけないという流れがそこで大きく変わったんです。そのあたりから、女性の選択肢が増えていったなと思っています。なので、私は#MeToo運動と「自分の身体は自分のもの」「自分が好きなものを選べばいい」という大きな流れの一つとして、ブラジャーの選択肢も広がっていったなと解釈しています。
haru._下着を作り始めて聞いたことなんですけど、「下着ブランドは新しいものを作ることに慣れていない」ということを生産先の方に伺ったことがあります。ファッションはかなり流行の移り変わりに敏感になっているけど、下着はすぐに形を作って量産することが難しいから、過去の型を使って作ることが多く、大きな移り変わりが少ない業界なんだそうです。ただ、今聞いたお話しはそこと少し乖離しているというか、社会が変化し、女性の体への意識も変わると思うんですけど、そこに業界が追いついていないみたいなことは実際にあるんですか?
川原_下着って開発するのにものすごく時間がかかるんですよね。ファッションブランドがランジェリーを作ることもあると思うんですけど、一番最初にぶつかる壁が時間なんです。私たちがつけているブラジャーって、大体30〜40のパーツを使ってできています。しかもそれが全部一箇所の会社でできるわけではなく、いろんな会社さんが持っているいろんな素材を使うんですよね。しかも、ピンクという一つの色に染めるにも、全部材質が違うものを同じピンクに染めなくてはいけない。そういった工程を経て作るので、どうしても時間がかかってしまうんです。ブラジャーってものすごく小さなプロダクトなのに、そこに多くの技術が必要になってくる。そこでパターンを何度も作るとなると、ものすごく時間がかかるので、必然的に変化が難しい業界ではあるのかなと思います。ただ、変化を拒否しているわけではないんですよね。
haru._最近は機能性だけでなく、気持ちに寄り添ったものだったり、ファッション性が高いものも多いと思うんですけど、そういう小さなブランドが増えてきていることに関して、川原さんはどのように受け止めていますか?
川原_とても素晴らしいことだと思っています。日本でいわゆるインディペンデントなデザイナーズブランドが増え出したのって私の感覚では2013年ごろなんです。東日本大震災後、たくさんのブランドが生まれていきました。私が初めてパリ国際ランジェリー展に取材で行ったのが1999年。約200ブランドが日本でいうビッグサイトみたいな展示会場に集まっていたんです。当時はイギリスやフランスからすごくチャレンジングなインディペンデントブランドがたくさん出ていて、びっくりしました。世界にはこんなブランドがたくさんあるんだと感動したし、ものすごく楽しかったんです。日本もいつかこうなってほしいなと思ったし、そうならなきゃいけないんだと思いました。そこから約25年経ち、今では日本のブランドがそういうエリアに出展できるようになっているのを見ると、あのときに思い描いていたことが現実になったんだなと感慨深いです。
haru._それを見届けている川原さんもすごいですよね。
川原_2013年頃からインディペンデントブランドが出てきたと言いましたが、2021年頃にまた次の山が来たんです。10年前にデビューしたインディペンデントな女性デザイナーの活躍を見た次の世代が10年後に出てきたんですよね。今ではミレニアル世代やZ世代のデザイナーがすごく増えていて、ますます楽しみになっているなと思っています。
下着の選択肢が増えるというのは、とにかく私は素晴らしいことだと思っています。大手ブランドさんが提案するブラジャーもいいけど、「私はこれが好き」「このデザイナーさんに共感する」と思えるブランドが増えているのはすごく素晴らしいことですよね。選択肢があり、自分の意思で選ぶということ、その選択が尊重されることがすごく大切だと思います。なので、こうあるべき、こうしなきゃいけない、こういう胸の人はこういうブラジャーをつけるものといった先入観は何も必要ないんです。自分の意思で選んでほしいですし、私はその選択肢が広がるような提案記事が書ければいいなといつも思っています。
haru._すごく希望があるなと思いました。私たちもブランドを始める前に『ワコール』さんの歴史を本で読んですごいなと思っていて。下着や身体について知れる性教育的な教室もやられていて、さすが大手だなというか、幅広い活動をされているんですよね。そのなかで、今、インディペンデントブランドが増えて、女性の選択肢が増えてきているとなると、大きなブランドができることと、小さなブランドができることの役割も違うのかなと思っていて。今、大手ブランドさんが抱えている課題ってどんなものがあるか知りたいです。
川原_私がコメントできるような立場ではないのですが、おっしゃるように大きな会社さんとインディペンデントブランドではやはり役割が違ってくるのかなと思います。
例えば、『ワコール』さんがやられている「ツボミスクール」はスケールメリットを活かして全国の学校でやられているけど、インディペンデントブランドは、やはりコミュニティを作ることがすごく上手。haru.さんのブランドのPOP-UPを見てもそうでしたし、他のブランドでもそうなんですけど、推し活のような雰囲気があるんですよね。ディレクターやデザイナーさんに共感して、その人を中心にコミュニティができていく。それってすごく密な感じがあるけど、ときには横の繋がりを持っていたりする。つまり、それぞれ違った発信ができるということが、それぞれが持つ役割なんじゃないかなと思います。
haru._私たちもずっとブランドとして社会性を持って活動することに憧れを持っているし、比べるものではないんですけど、追いつきたいと思っている部分はあって。『ワコール』さんの活動を見ていてエッセンスを参考にしたいとは思いながらも、全く別物でもあるとも思っています。だからこそ、そこの役割をお互いにどう担って行ったら、もう少し業界的に発展するのかなと考えていて。
川原_それぞれがそれぞれの立場でまだ模索している段階かな。正解ってないから、それぞれが自分にできることや得意とするものをやっていくこと。それを積み重ねていくことが大事なのかなと思っています。
haru._『ワコール』さんは乳房を摘出した方用のブラジャーとかも出されているじゃないですか。そういうことができるのもさすがだなと思って見ています。ただ、資源が限られているので、自分たちの立場で作るべきブラジャー、下着とはどんなものなのかということを日々すごく考えています。
川原_そうですね。でもharu.さんの作っている下着には魂を感じます。
対談は後編に続きます。後編では、パリ国際ランジェリー展から見える世界のランジェリー市場、キム・カーダシアンが発表した下着ブランド『スキムズ』旋風、ボディポジティブの次のキーワードなど、盛りだくさんにお話しいただきました。
そちらも是非楽しみにしていてくださいね。
それでは今週も、いってらっしゃい。
世界45の国と地域で刊行されている女性誌「エル(ELLE)」の日本版『エル・ジャポン』のデジタル版
*②『Richesse デジタル』
『リシェス』は、ラグジュアリー情報を発信する雑誌&デジタルメディア
*③『WWD』
国内・海外の最新ファッション&ビューティ・トレンドをはじめ、業界ニュースを発信するメディア
*④『ワコール』
京都市に本社を置く、日本の衣料品メーカーである。インナーウェア、アウターウェア、スポーツウェアを扱う
*⑤『パリ国際ランジェリー展』
毎年開催される世界最大級のランジェリー・水着・ラウンジウェアの展示会。最新のランジェリー製品や素材、トレンドが発表され、国内外のバイヤーが買い付けや情報収集を行う重要なイベントであり、女性のエンパワーメントやサステナビリティといった最新の潮流も反映されている
*⑥『HEAP』
パーソナリティのharu.さんが手がける下着ブランド
*⑦ポール・ポワレ
コルセットからの解放を提唱し、女性のファッションに自由なスタイルと大胆な色彩をもたらした20世紀初頭のフランスのファッション・デザイナー
*⑧ココ・シャネル
コルセットに締め付けられるなど窮屈だった当時の女性のファッションを、機能的でエレガントなスタイルに変革したフランスのファッションデザイナー
*⑨クリスチャン・ディオール
戦後ファッションに大きな影響を与えたフランスのオートクチュール・デザイナー
*⑩『スロギー』
1979年にドイツで生まれ、海外ではシンプルなデザインのショーツで知られるブランド。1986年に日本上陸し、2013年に日本発の企画として「きもちよすぎ―!スロギー!」で人気となったゼロフィールシリーズが発売された
*(11)#MeToo運動
性暴力やセクハラ被害の経験を被害者自身が告白・共有する国際的な社会運動。2017年にハリウッドの性的スキャンダルが発覚したことを機に、SNSで「#MeToo」のハッシュタグを使い、被害を訴える声が広まった
*(12)『ニューヨーク・タイムズ』
1851年創刊の米国を代表する高級日刊新聞で、リベラルな論調と正確な報道で知られる。近年はデジタル購読に注力し、ニュース以外のサービスも展開している
この記事への感想・コメントは、ぜひこちらからご記入ください。編集部一同、お待ちしています!
Profile
川原好恵
文化服装学院マーチャンダイジング科卒業後、流通業界で販売促進、広報、店舗開発を約10年経験した後、フリーランスとして独立。下着通販カタログの商品企画などを経て、現在はランジェリーを中心に、雑誌、新聞、ファッションウェブサイトなどで執筆・編集を行うほか、服飾専門学校などで講師を務める。ランジェリー取材のモットーは、プチプラからラグジュアリーまで、国内外の展示会とショップを自分の足で回り、リアルでライブ感ある情報を届けること。