2025.10.14

手作りスムージーを飲む朝 haru.×川原好恵【後編】

PROJECT

月曜、朝のさかだち

 haru.

『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第13回目のゲストはランジェリーライターの川原好恵さんをお迎えしています。記事の前編では、スムージーを手作りした朝活を振り返りながら、川原さんがランジェリーライターを志したきっかけやフェミニズムと下着の繋がり、インディペンデント下着ブランドが社会に対してできることについてお話しを伺いました。

後編では、パリ国際ランジェリー展から見える世界のランジェリー市場の動き、全世界で旋風を巻き起こしているブランド『SKIMS』とは何か、ランジェリーのあり方の変化を見てきた川原さんが考える、ランジェリーの今について、好きなものを好きでい続けられている理由など、盛りだくさんにお話しいただきました。

本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

川原好恵さんに聞きたいコト



Q.小さなブランドが継続するために大切にするべきことは何ですか?

A.どんな仕事もそうですが、一人では成立しないですよね。例えば、縫製してくださる方や販売してくださる方など、ブランドを共に愛し応援してくださる“仲間“を大切にする事かな、と思います。そんなチームづくりがうまいブランドは長く続いているような気がします。

Q.ランジェリーのおすすめの保管方法があったら教えてください

A.まず、汗がついたり汚れたりしたら、すぐに洗濯すること。そして、形崩れしないように正しい方法で干すことです。ブラジャーはギュウギュウに収納するとカップが変形してしまうので、ゆとりを持ってしまいましょう。

 

ランジェリーブランドが変えた人々の意識
自分が好きなものを選択できるために

haru._川原さんがWWD*①で執筆されたパリ国際ランジェリー展のレポート記事をすごく楽しく読ませていただきました。そもそも、国際的なランジェリー展というのはどのようなものなんですか?

川原好恵 (以下:川原)世界から約200近くのブランドが集合する展示会で、インディペンデントなブランドから、『ワコール』*②や『Aubade』*③、『SIMONE PERELE』*④や『HANRO』*⑤など、そういったグローバルプレイヤーのブランドも出展しています。次のトレンドを見つけることもそうですし、何よりそこであった人に話を聞くということができる私にとっては大切な場所です。これがプレスブックです。

haru._すごく分厚いカタログですね!

川原_今回は来場者全員に配られていたものなので、プレスブックというよりは、すごく充実した内容が載っています。

haru._インタビューもあるんですね。

川原_インタビューやトレンドキーワードみたいなものも載っているし、今回の注目出展ブランドの紹介も載っています。会期自体は3日間なんですけど、会期中にどんなセミナーやファッションショーが行われるのかなども全て載っています。とにかく会場が広いので、会期中は朝から晩までいて取材をしていました。

haru._「レース」や「ビジブルアンダーウェア(見せる下着)」などのトレンドのキーワードも散りばめられていますね。

川原_そうですね。それはすごく参考になります。「そういったキーワードで検索する人たちがすごく増えた」ということが述べられているページですね。そこには「ランジェリーとファッションは今やボーダーレスだ」ということが解説されています。

haru._これを見ていると、セクシュアルウェルネスの文脈ともとても密接だと思います。

川原_ スポーツウェアが集まっているエリア、靴下が集まっているエリア、いわゆるグローバルプレイヤーが集まっているエリア、インディペンデントブランドが集まっているエリアと、大きくエリアが分かれています。そのなかに、ウェルネスというエリアもあって、今回は『TENGA』*⑥さんの『iroha』*⑦がブランドとして日本から出展されていました。そういったボディケアやセクシュアルウェルネスのアイテムが並ぶエリアもあります。

haru._そうなんですね!それにしてもこのプレスブックの表紙がすごくおしゃれですね。

川原_ビジュアル面に置いてはやっぱりフランスはさすがですよね。

haru._直接的な表現じゃないんですよね。

川原_そうなんです。今回の表紙は女性が裸でシャワーを浴びている写真なんですけど、いつもビジュアルは上手だなと思います。

haru._日本のブランドだと、どういったブランドが出展されるのですか?

川原_今回、2025年1月に開催されたときには、『YUVI KAWANO』*⑧というブランドと、『La siréne』*⑨という2022年にデビューしたブランド、それと『AROMATIQUE』*⑩という奈良県の『タカギ』*(11)さんという老舗下着メーカーが11年前に作られたブランドの3ブランドが出展されていました。

haru._世界の市場に日本のランジェリーブランドが集合したときに、どういった見え方をするんですか?

川原_やはり、丁寧なものづくりという印象はあります。特に『AROMATIQUE』さんは素材も最高級のものが使われていますし、決してヨーロッパのブランドと並んでも引けをとるようなものでは全然ない。もちろん、価格は輸出になるので、円のレートによっていろいろとハードルはあると思うんですけど、物としてはフラットに評価されていると思います。

haru._国によって特徴はそれぞれあるんですか?

川原_私が取材に行き始めた頃は、なんとなく先入観もあったとは思うんですけど、それぞれの国によっての特徴があったように感じます。フランスはフェミニンな感じで、イタリアは女豹のようなセンシュアルな感じで、イギリスは洋服と同じですごくインディペンデントなブランドが続々出てきて、アメリカはモールドカップ*(12)を中心とした機能重視のような特徴があったんです。その一方で、日本は可愛さやエレガントなテイストが好まれているという、大きな流れみたいなものがあったんですけど、今ではそういった各国の特徴はどんどんなくなってきているなと私自身は思います。

「このおもしろいブランドはどこのだろう」と思ってみるとポーランドや南米のブランドだったりして、各国の差みたいなものはなくなってきていますね。その代表として考えているのが、ここ数年では『SKIMS』*(13)です。

haru._すごいな…。

川原_もうこれはSKIMS旋風ですね。パリへは2020年1月には行けたんですけど、2021年から3年間はコロナがあったので行けなかったんです。なので、去年の1月に4年ぶりに行きました。そしたら売り場がSKIMS旋風になっていて、本当にびっくりしました。 『SKIMS』はキム・カーダシアン*(14)がプロデュースしているブランドで、2019年にデビューしています。言ってしまえば、何のデザインもない、ヌードカラーを中心としたカラーリングと成形編みと言われる編み方で強弱をつけたウェアと、モールドカップのブラジャーという、今までのヨーロピアンな下着と真逆にあるようなものなんです。なのに、百貨店の売り場ではものすごく売れているし、そこのブースだけ何かを無料配布しているんじゃないかと思うぐらい人がいてびっくりしました。

haru._私たちも2023年にベルリンの百貨店で『SKIMS』を見に行ったら、人が多すぎて整列させられていました。フロアに少人数しか入れないから、制限をかけていたんです。それを見て、すごく人気があるんだなと思いました。

川原_パリやロンドンもそうです。あれがあれだけ受け入れられ人気なのは、アメリカブランドだからとか、ヨーロッパブランドだからとかではないんですよね。特にミレニアル世代やZ世代からしたらそこは本当に関係ないんだなと思いました。

haru._たぶん私たちが行ったときは、ベーシックアイテムくらいしかなかったんですけど、色の展開がすごくあったんです。ヌードカラーと言っても、肌の色ってたくさんあるじゃないですか。自分の肌の色と同じカラーがあるということに対する意識を持つことで、自分のためのアイテムがあるという発見と喜びに繋がると思うんですよね。

川原_今haru.さんが「自分のための」とおっしゃいましたけど、まさにそれがSKIMS旋風のキーワードだと思います。肌色のバリエーションもそうですけど、サイズ展開もすごくあるんですよね。しかも日本でブラジャーを見ると、大体DカップかEカップ以上になると値段が上がるんです。でも『SKIMS』ではあれだけのサイズレンジがあるのに値段が変わらない。それって「私のためのブランドなんだ」、「このブランドは私のことを考えてくれている」と誰もが思いますよね。

haru._値段が変わることである意味特別視されている気持ちになりますよね。

川原_そうそう。そこで区切られて、「これ以上の人はこう」という決まりのようなものを当たり前に言われてしまうんですよね。でも『SKIMS』はそうではない。全部が同じ値段で、あれだけのサイズ展開がされている。そういう積み重ねが「自分のためのブランド」だと思わせてくれる一番の成功の秘訣なんじゃないかなと私は思います。

haru._『SKIMS』を見ていると、ボディポジティブという文脈も超えているように感じます。キムもかなりカーヴィーな身体だったりするし、そんな彼女が作って、彼女がモデルとしても登場する。同時にいろんな体型の人もモデルとして起用されていますけど、ボディポジティブの正しさ以上に、「自分たちがその状態で成立している」ということを強く感じるんです。なんかそれって、ボディポジティブとはまた違った文脈だなとも感じています。

川原_もっとニュートラルな感じがすごくしますよね。ボディポジティブという言葉が出始めた頃はすごくいい言葉だなと思ったんですけど、一方で「自分の身体を好きになりましょう」とか「自分のことをもっと大切にしましょう」みたいな、押し付けられている感覚をどこかで感じている自分がいたんです。それは自分の性格もあるとは思うんですけど、こんな世の中で「自分で自分のことを好きになれ」と言われても、「そんなにメンタル強くないよ…」と思ってしまう。だから、ボディポジティブとはちょっと違う、もっとニュートラルに自分の身体を捉えるというか、そういう流れがあるなというのは感じます。

haru._「愛さなきゃいけない」って結構無理がありますよね。あと、個人的には身体ってそもそも美しいものなのか?という疑問があるんです。なので、“正しさ”みたいなことにちょっと疲れているんですけど、今それがもう少しナチュラルな方向性に行っているなと思っているので、そしたらまた可能性が広がるのかなと考えています。

川原_そうですね。「自分の身体を好きになりましょう、自信を持ちましょう」というメッセージは時々強く感じてしまうけど、それでも自分の身体は否定しないでほしい。それを受け入れて、自分が好きな下着を選べるような時代であってほしいなと強く思います。

時代とともに変化するランジェリーを取り巻くイメージ

haru._長年国際ランジェリー展を見てきて、女性が自分の身体に対して、意識の変化のようなものを直に感じますか?

川原_2017年、2018年頃からボディポジティブという言葉がどんどん浸透してきて、そのことによって登場するモデルさんも変わってきたし、ビジュアル面も変わってきました。昔は西洋人のスタイル抜群の女性たちがセクシーな下着をつけたビジュアルが多かったんですけど、コロナが収束した2024年の展示会ではマチュア世代のモデルさんもいましたし、肌の色、体型も多様で、特別な存在ではなく、他のモデルさんと同じようにステージに登場するようになっていて、それはすごくいいことだなと思いました。いろんな世代のモデルさんがいることは、マチュア世代の私からするとすごく嬉しかったですね。

haru._ビジュアルは私たちもブランドをやっているうえですごく意識するところです。私たちの場合は、デザイナーの方が出てくれたりしていて、彼女は40代なんですけど、年齢を重ねると身体のかたちや胸のかたちも変わってくるじゃないですか。それをそのまま写すことで、静かなパワーを写し出せるんじゃないかと思っています。
それと、西洋人のモデルを起用するよりも、自分たちが出るということも意識しています。それがどれだけお客さんに届いているのかは体感としてはあまり分かっていなかったんですけど、SNSで「日焼けをしているモデルさんが出ているのが嬉しいです」とコメントをもらったりしていて。そういった声をいただけると、やっぱりいろんな人がビジュアルに出てくることって大事だなと思います。

川原_私の記憶では、初めて下着ブランドでいろんな体型の方がブランドの下着モデルとして登場したのは、『American Eagle』*(15)の下着ブランド『Aerie』*(16)なんです。『Aerie』が2014年に出したビジュアルが、初めていろんな体型の一般の方をモデルとして起用したんです。初めてそのビジュアルを見たときに、一般の方が下着姿でモデルをするんだと驚いたのを覚えています。当時はまだボディポジティブという言葉もなかったんですけど、ブランドの声明として「私たちは広告写真を一切リタッチしません。ありのままの姿を私たちは広告写真に使います」と宣言したんです。そのときに、#AerieREAL というハッシュタグが広がり、私もこんな考えがあるのかとびっくりしました。すごく素敵だと思ったけど、日本でこの流れはまだ難しいんじゃないかなとも思っていました。

そこから見事にビジュアルとして素敵なものを作り出したのが『PEACH JOHN』*(17)。2019年に『PEACH JOHN』がリアルサイズモデルの募集をしたら、なんと600人の応募が来たそうなんです。そのことですごく注目を浴びて、そこで選ばれたモデルさんたちの活躍を見て、2020年には1200人の応募が来たと言っていました。
2014年に「日本では難しい」と思っていた私の予測を、『PEACH JOHN』が見事に覆してくれたんです。こうやってどんどん塗り替えられていくんだなということがすごく楽しくもあり、嬉しくもありました。

haru._割と最近の出来事なので、私もすごく記憶に残っています。革新的でしたよね。

川原_あれから他のブランドでも、Instagramでモデルさんを募集するようなことが増えていったりと、流れが変わった感じがしますね。

haru._確かに、そういう方がモデルをすることに対して、世の中も抵抗がなくなってきましたよね。大きく何かを変えようというよりも、肩肘張らずに自分たちがいいと思うものや姿を出していくことが持続可能なのかもしれないですね。

川原_私は今の時代っぽいなと思います。1970年代にウーマンリブ(女性解放)運動があったけど、そのときは「ノーブラ運動」というシカゴの女子大学生がブラジャーを焼くというビジュアルが歴史を変えるような出来事としてありました。当時のフェミニズムが、シュプレヒコールを掲げて誰かが先導して声をあげているものだとしたら、今はみんなが自然体で、ナチュラルな感覚でフェミニズムを表現していますよね。それが気づいたら集まって、一つのムーブメントや緩やかな流れになっているのが、今の流れかなと思いますし、それは素敵なことだなと思っています。

haru._川原さんは普段お仕事で下着やランジェリーを手に取る機会が多かったり、リサーチをずっとされていると思うんですけど、川原さんにとってランジェリーや下着の魅力とはどのようなものですか?

川原_好きなものはそんなに変わっていないんですけど、今の仕事をし始めた30代と、今の50代になってからだと、選ぶものは変わってきていて。体型も変わってきているので、付けられるものも変化しています。以前は、ちょっと窮屈でも、素敵だなと思ったら付けたりしていたんですけど、そういう気持ちはだんだん少なくなっているんです。
でも、本当に自分の好きなものが選べる、付けられるというのが下着やランジェリーの楽しさだと思っています。「こうありたい」という姿に近づけるアイテムなんですよね。
選ぶ下着は変わってきましたが、若い頃からずっと変わらないのは、頑張りすぎないということ。それは仕事をしていくうえでも共通していることなんです。「胸が小さいから、大きいからこういうブラジャーをつけるべき」、「将来胸が垂れるからこういうブラジャーを付けないとダメ」といった不安を煽るようなものは買わない・付けない・語らないということはずっと変わっていません。

haru._大事ですよね。

川原_大事です。やはり、不安を煽ることで売れやすくなるんですよ。それは下着だけじゃなく、全ての商材に言えることだと思うんですけど、決して強要しない・押し付けないということは、仕事をするうえでも一番大切にしています。

haru._不安を解決するために買ったものって、それを使うたびにその不安が思い出されてしまいますよね。

川原_確かにそうかも。

haru._なので、自分が作る下着はその対極にあってほしいなと思っています。

川原_どうしても年齢を重ねていけば、重力があるからバストは下垂していきます。でも、私としては、デコルテの部分が削ぎ落とされていくその姿も、年齢を重ねた女性の美しさだと思うんです。それでもツヤはあった方がいいかなと個人的には思っているので、バストクリームを毎日塗ったりはしています。そういった感じで年齢を重ねていくことを受け入れています。

haru._バストクリームを使ったことがないです!

川原_どの年代の方が使ってみても良いと思います。

一期一会の出会いへのときめきを胸に

haru._ランジェリーって、今の身体の状態や、身体の捉え方の変化にすごく密接なので、ランジェリーをお仕事にされていると、常に自分ごと化して働いているんじゃないかなと思っていて。そうやってお仕事をされていると、自分の身体やアイデンティティに向き合うことが、しんどいなと思うことってありますか?

川原_そこに関しては仕事として切り替えて捉えている部分があるかもしれないです。これまでにお話しした、いろんなデザイナーさんや職人さんとお話しをして、新しいソースを自分の中に入れること。最近だと、ここ数年でデビューされた若いデザイナーさんが多いんですけど、そういう方たちのお話しをじっくり聞いて刺激をもらうことと、それを伝えること、そして自分が快適だと思う下着を伝えること、それぞれ違う軸として向き合っています。
純粋に、ランジェリーや下着が好きということもあるんですよね。ちゃんと数えたことがないんですけど、多分ブラジャーは140枚ぐらい持ってると思います。それでも、まだ買います。

haru._どうやって保管されているんですか(笑)!?

川原_三つのチームに分かれています。一つ目のチームは日頃使うスタメン下着。スタメンだけでも何十枚とあるんですけど(笑)。二つ目のチームは、スタメンではないんだけど、連絡先を知っておきたい卒業生のような下着たち。三つ目のチームは完全なアーカイブ下着です。1990年代に、私が下着に興味を持ち始めた頃、一番始めにハマったのがフランスのインポートブランドの下着で、コレクターのように買っていました。もちろん、付けたものもあるんですけど、買いすぎてタグがついたままのものとかもあるんです。あとは、「これは実用的ではないけど、もしかしたら後世に名を残すかもしれない」と思った下着なんかもこのチームにいます。
未だに展示会に行って、心ときめくものを買っているので、一つ目のスタメンチームは入れ替わりがあるんです。デザイナーさんに直接お話しを聞いたりすると、やっぱり欲しくなってしまうんですよね。

haru._川原さんのときめきポイントは、物としての美しさや可愛さもあるけど、バックグラウンドを直接聞けるというところにもあるんですね。

川原_すごく大切です。「これはデザイナーさんがこういう思いで作られたんだ」ということを聞くと、感情移入しちゃって気づいたら発注しています(笑)。

haru._私が下着に興味を持ったのは中学〜高校生ぐらいの頃だったんです。そのときは私自身が下着に対して初心者だからこそ、知らないものに対しての憧れやときめきがすごく強くて。10代って自分の身体に対しての自意識もすごく高いじゃないですか。その頃と比べると、今はいろんな物事に対して落ち着いて捉えてしまうようになったんです。それって仕方がないことだとは思うんですけど、それでも常にときめきを持っていたいとも思っていて。なので、川原さんがどのようにランジェリーに対しての熱意を保っていらっしゃるのか気になっています。

川原_そのときにしか出会えないかもしれないという思いな気がします。今年の1月にパリのあとにロンドンに行ったんですけど、そこで背中に虎を背負ってるブラジャーを買ったんです。『LIVY』*(18)という2017年に創業したブランドで、始めて見たときに「何このブランド!?」ととてもときめいたんです。この背中に虎を背負ってるブラジャーは、きっと今後このブランドを代表するアイテムになるだろうし、きっと真似したアイテムがたくさん出てくるだろうと思い、買っておきたいと思いながらも、お値段がまあまあ高かったのもあり、2、3年前に見かけたときはその場で買わなかったんです。そしたらいつの間にか店頭からなくなっていて。その頃から世間にはきっと、このブランドからインスパイアされたであろうブラジャーがどんどん増え始めていて、あのときに買っておけばよかったと本当に悔やんでいたんです。そしたらロンドンのハロッズ*(19)に行ったら、店員さんがこれを付けていて。「そのブラジャーすごく欲しかったんだけど、今はもう売ってないわよね?」と聞いたら、「あるわよ」と言って引き出しから出してくれたんです。しかもサイズもぴったりで。なんでパリに先日までいたのに、ロンドンでパリのブランドを買わなきゃいけないんだと思いながらも、これは運命だと思って買いました。
このブラジャーを買ったのはいいものの、どうせ付けるなら、背中の虎を見せたいじゃないですか。そのために背中が開いているニットを買ったりと、このブラジャーのためにいくらお金を使ったんだろうと思っています(笑)。

でも、そうした出会いがあるからずっとときめきを持てているのかなと思います。 アイテムだけじゃなく、人との出会いにもときめきがあるんです。パリのパッシー*(20)にある『LIVY』直営店のブティックに行ったときに、私がやっている『ELLE』*(21)の連載でぜひブランドを紹介したいとお話しをしたら、マネージャーの方とPRの方が出てきてくれて、いろんなお話しをしてくれたんです。すごくエッジの効いたブランドなんですけど、すごくフレンドリーで。帰りにお土産として、この立派なルックブックをくださったりと、素敵な思い出になりました。

haru._このルックブックの表紙に写っているモデルさんも、虎のブラジャーを付けていますね。

川原_そうなんです。やっぱりこのブランドを象徴するアイテムなんですよね。2017年にデビューしてから、7年間このブラジャーを売っているんですよね。定番でもあり、ブランドの象徴。そういうものに出会える喜びっていうものは、今もなお尽きません。

haru._川原さんは時間をかけて見ていらっしゃるから、予測が立証されていく楽しさもありますね。

川原_それはあるかも。「あのときに思っていたことは間違っていなかった」ということが確かにあるんですよね。それと、私はパリに30回以上行っているんですけど、基本的にいつも泊まる場所は同じエリアで、展示会場とホテルとパリのランジェリーブティックを見て回るという流れが決まっていて。なので、その辺はすごく詳しいんですけど、それ以外の場所はあまり知らないんです。ただ、同じところをずっと見ていることで、それはそれで見えてくるものもある。それもまた一つの財産かなと思っています。
それでは今週も、いってらっしゃい。

*①WWD
国内・海外の最新ファッション&ビューティ・トレンドをはじめ、業界ニュースを発信するメディア

*②『ワコール』
京都市に本社を置く、日本の衣料品メーカーである。インナーウェア、アウターウェア、スポーツウェアを扱う

*③『Aubade』
1958年にフランス・パリで創業しフランスを代表するランジェリーブランド

*④『SIMONE PERELE』
1948年にフランス・パリで創業者であるシモーヌ・ペレール(Simone Pérèle)氏によって設立された、エレガントで高品質なランジェリーブランド

*⑤『HANRO』
創業140年以上の歴史と、品質の高さを誇るスイス発祥のアンダーウェアブランド

*⑥『TENGA』
東京都に本社を置くアダルトグッズの製造販売を行う株式会社TENGAが展開するブランド

*⑦『iroha』
女性の「気持ちよさ」について真っすぐに考えたセルフプレジャーアイテム、デリケートゾーンなどのボディケア用品をつくっているブランド

*⑧『YUVI KAWANO』
ランジェリーと人体の関係性や美しさを考えるランジェリーブランド

*⑨『La siréne』
「人魚の鱗のようにしなやかな体に馴染む美しいランジェリー」がコンセプトのランジェリーブランド



*⑩『AROMATIQUE』
上質を知る大人の女性のために、ワンランク上のプレミアムインナーウェアを展開するブランド

*(11)『タカギ』
奈良県に本社を置く1930年創業の女性用下着メーカー。肌にやさしい素材を使った下着を企画・製造・販売しており、複数のブランドを展開している

*(12)モールドカップ
ブラジャーのカップ部分に継ぎ目がなく、一枚の生地を立体的に成形したもの。なめらかな表面が特徴で、薄手のトップスにも響きにくい。自然な丸みのあるバストラインをつくる

*(13)『SKIMS』
キム・カーダシアンがプロデュースする下着ブランド。幅広いサイズ展開と肌の色に合わせた豊富なカラーが特徴で、あらゆる体型の女性にフィットするシェイプウェアやラウンジウェアを提供する

*(14)キム・カーダシアン
リアリティ番組でブレイク後、実業家として成功したセレブリティ

*(15)『American Eagle』
アメリカ発祥のヤングカジュアルブランド。ジーンズをはじめ、アパレルやアクセサリーをリーズナブルな価格で提供している。個性を尊重し、自由なスピリットを大切にする姿勢が若者を中心に支持されている

*(16)『Aerie』
『American Eagle』の姉妹ブランド。下着やラウンジウェアを中心に展開し、「ありのままの美しさ」をコンセプトに、モデルの写真加工をしないキャンペーンなどで知られる

*(17)『PEACH JOHN』
通販から始まった日本の下着ブランド。ブラジャーやルームウェア、ボディケア商品などを展開している。「元気・ハッピィ・セクシー」をコンセプトに、キュートでトレンド感のあるデザインが特徴

*(18)『LIVY』
パリ発の新世代モードランジェリーブランド。大胆かつユニークなデザインが特徴で、自立した強い女性をイメージして作られている。セクシーでありながら着けやすさにもこだわっている

*(19)ハロッズ
英国ロンドンにある老舗高級百貨店

*(20)パッシー
パリ16区にある高級住宅街で、セーヌ川を挟んでエッフェル塔の対岸に位置する

*(21)『ELLE』
世界45の国と地域で刊行されている女性誌

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Profile

川原好恵

文化服装学院マーチャンダイジング科卒業後、流通業界で販売促進、広報、店舗開発を約10年経験した後、フリーランスとして独立。下着通販カタログの商品企画などを経て、現在はランジェリーを中心に、雑誌、新聞、ファッションウェブサイトなどで執筆・編集を行うほか、服飾専門学校などで講師を務める。ランジェリー取材のモットーは、プチプラからラグジュアリーまで、国内外の展示会とショップを自分の足で回り、リアルでライブ感ある情報を届けること。

photography: miya(HUG) / text: kotetsu nakazato

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vol.55
2023.09.18

キックボクシングをする朝 haru.× 阿部裕介

vol.56
2023.09.04

美味しく食べた記憶が習慣を生んだなら miya

vol.57
2023.08.21

おにぎりを握る朝 haru.× 横澤琴葉

vol.58
2023.07.19

はじめての『月曜、朝のさかだち』を振り返る miya

vol.59
2023.06.26

自分の「ほぐしかた」、知ってる? haru. ×Kaho Iwaya