アルトリコーダーを演奏する朝 haru.×Tomoe Miyazaki【後編】
月曜、朝のさかだち
『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第14回目のゲストはイラストレーターユニットSTOMACHACHE.のTomoe Miyazakiさんをゲストにお迎えしています。 記事の前編では、アルトリコーダーを演奏した朝活を振り返りながら、Tomoeさんが姉のNobueさんと組んでいるイラストレーターユニットSTOMACHACHE.の結成当時のお話、今年10月に開催されていたSTOMACHACHE.の展示について、Tomoeさんが捉えるSTOMACHACHE.の特徴、作品に込める小さな反抗についてお話しいただきました。

後編では、ZINE制作の原点、TomoeさんのZINE『TMTM BENTOU 2022 – 2025』の制作過程、父親から譲り受けた“自分で作る”精神について、その先の誰かへの共有の喜びなどについてお話しいただきました。
本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

Tomoe Miyazaki さんに聞きたいコト
Q.Tomoeさんが印象に残っているRelaxの企画はありますか?
A.NOKIAの特集の号。 これ見てNOKIAの携帯おしゃれ〜と思いました。その後SoftBankでNOKIAの機種が出た時には機種変しました。
Q.お弁当の投稿楽しみにしてます。おかずは前日のを詰めていますか?それともお弁当用に作ってる?
A.ありがとうございます。 作り置きのおかずをいくつか作っていて、晩ごはんにも食べるし弁当にも詰めます。 4~5日くらい同じものをずっと食べています。
Q.今後制作されたいと考えているものがあればお伺いしたいです
A.展示の制作が終わり放心状態で作品のことは今は何も考えられておらず。。
今年のTOKYO ART BOOK FAIRに向けて新しい本は作りたいと思っています。あと肉まん。
Q.鉛筆は何を使っていますか?
A.鉛筆はたまにしか使わないのですが、100円ショップで買った適当な鉛筆やユニの鉛筆(HB〜4Bくらい)を使います。

「自分にもできるかも」と思わせてくれるZINEの魅力
haru._STOMACHACHE.として作った最初の作品もZINEだったということで、勝手に親近感が沸いていました。私も高校生の頃にZINEを作り始めたことをきっかけに、雑誌をはじめ、いろいろなものを作ることに派生していったんです。なので、今日は私が高校生のときに作ったZINEも持ってきたんです…(笑)。Tomoeさんも初めてのZINEを持ってきてくださったんですよね。
Tomoe Miyazaki(以下:Tomoe)_ 厳密には初めての作品ではないんですけど、初期の作品です(笑)。
haru._ZINEを知らない人ももしかしたらいらっしゃるかもしれないんですけど、紙とペンさえあればできる小さな出版物と言ったらいいんですかね。量産するときも、みんな家やコンビニのプリンターや、KINKO’S*①で印刷することが多いですよね。
Tomoe_そうですね。
haru._目の前にはたくさんのZINEが置いてあるんですけど、つい黄色い表紙のZINEを選んじゃいますね(笑)。
Tomoe_そうなんですよ!でも、この濃いクリーム色が無くなっちゃったんですよ。だから、今はこの薄いクリーム色になっています。
haru._そうだったんですね。卵が多めのホットケーキ生地みたいな…合ってるかな…(笑)。私がZINEを作ったのは、高校生の頃に1年間、自分で決めたプロジェクトを遂行するという授業があったんです。プロジェクトはなんでもよかったので、空手を習っている人もいたし、ジムのトレーナーを目指す人もいました。そのなかで、私はZINEを作るというプロジェクトに決めて、そのプロジェクトをまとめた冊子がこちらになります。実は私も、イラストとちょっとした言葉を組み合わせたものから初めて、プリントも全部おばあちゃんの家でやっていました。

Tomoe_何部ずつ作っていたんですか?
haru._10部ずつとかですね。
Tomoe_すごいおしゃれですよね。
haru._試行錯誤して作っていました。Tomoeさんは最初の頃、何部くらい刷っていましたか?
Tomoe_私たちは増刷を繰り返したりもしていたので、1つの作品につき100部くらい刷っていたかな。結構いっぱい作って配ったりとかもしていました。
haru._販売はしてなかったんですか?
Tomoe_最初はしてなかったんです。今は名古屋にある『ON READING』*②で販売したのが最初ですね。『ON READING』が移転前で、まだ『YEBIS ART LABO FOR BOOKS』という店名の頃から置いてもらっていました。それまでは交換とか、あげたりすることが多かったです。それと、タワーレコード*③に、万引きならぬ、勝手にZINEを置く「万置き」をしていました(笑)。それが本当に楽しくて(笑)。いつだったか忘れてしまったんですけど、姉と一緒にこっそり置きに行き、近くの自販機コーナーからこっそり見るという遊びをしていました。
haru._置いていったZINEを持っていく人がいたんですか?
Tomoe_いるんですよ!姉が一人で置きに行ったときに、置いた瞬間に一目散に来て、持っていった男の人がいたそうです。あれは常連だったのかな(笑)。月1くらいで置きに行っていたので、気づく人は気づいていたのかもしれないです。 それと、店員さんがたまに私たちがZINEを置いていたチラシコーナーをチェックしにくるタイミングがあったんです。もう期限が切れたフライヤーなどを整理しに来るんですけど、そのときに私たちのZINEをパラパラと見て、またそのコーナーに戻してくれたんです(笑)。そのときに、「認められたんだな」と思って、調子に乗ってずっと置いていました。
haru._そういう遊びのような余白ってすごくいいですね。
Tomoe_楽しかったですね。普段はそんなにリスキーなことをしないタイプなんですけど(笑)。
haru._イラストと言葉で構成したZINEというのは当初から変わらずなんですか?
Tomoe_そうですね。
haru._描かれている人物は誰を描いていたりするんですか?
Tomoe_雑誌を見ていいなと思った人を描いたり、好きなアーティストも描いていました。
haru._Radiohead*④や歌詞が描かれていますね。
Tomoe_Radioheadがすごく好きでした。なんだか高校生っぽいなって思いますよね。
haru._高校生っぽいですよね。でも、これがいいんですよね。Tomoeさんたちは雑誌の『relax』*⑤からも影響を受けているんですよね?
Tomoe_たぶん、一番影響を受けたものですね。
haru._そうなんですね。マガジンハウス*⑥から出版されていた雑誌で、2006年に廃刊してしまったんですけど、どんな部分に影響を受けたんですか?
Tomoe_読んでいると、「私も何かやりたい」と思わせてくれたんです。前に元編集長の岡本仁*⑦さんにインタビューする機会があったんですけど、そのときに、「自分たちで何かやりたいと思えるような雑誌にしたい」とお話しされていて。実際に私もそう思っていたので、すごいなとそのときに思いました。
haru._私がZINEを好きなのってそういうところなんですよね。誰でもできるし、誰でもできると思わせてくれることがすごくワクワクするし、それが連鎖していく。なので、今のお話を聞けてすごく嬉しいです。
Tomoe_最初ZINEを作りはじめた頃って、ZINEという言葉も知らなかったんですけど、『relax』にライアン・マッギンレー*⑧のインタビュー記事が載っていて。そこに、ライアンが手作りの写真集をいろんな人に送りつけていたという話が書かれていて、それを読んで「私たちも作ろう」となって作りはじめたんです。後々、『relax』の別の号を読んでいるときにZINEという言葉が出てきて、「私たちが作ってるのってこれじゃん!」となったのを覚えています。
haru._Tomoeさんたちが『relax』から影響を受けていますと明言していることがすごく新鮮でいいなと思ったんですよね。ちょっと昔まで、雑誌って影響力がめっちゃあったじゃないですか。私も雑誌世代なんですけど、自分の好きな雑誌を言うことって、自分のルーツや出所を言うみたいな気恥ずかしさみたいなものがあると思っていたんです。私は雑誌に育てられてきた感覚があるので、胸を張って好きな雑誌を言えるんですけど、多くの人があまり言いたがらないなという印象を受けていました。 でも、STOMACHACHE.は『relax』から影響を受けていると公言されていて、Tomoeさんが描くイラストの中の本棚にも『relax』が置かれていたりするじゃないですか。そんなふうに自分が好きだったものを受け継いでいる姿勢がすごくいいなと勝手に思っていました。
Tomoe_嬉しいです。でも、本当に『relax』がなかったら始めていなかったんじゃないかと思うくらい影響を受けたものなので、全然恥ずかしげもなく公言しています。
haru._自分にでもできるんじゃないかと思わせてくれたり、自分だったらどうするかなって思えるものが世の中にもっとあったらいいなって思います。美術やファッションとかって、どうしても憧れが根底にあって成立している業界でもあるから、「自分にもできるかも」と思われたら負けみたいなところがちょっとあるじゃないですか。でも、「自分でやってみる」ということを促す力があるものって、本当に尊いなって思います。
Tomoe_そう言われてみて、本当にそうだなと思いました。

Tomoeさんが作る遊び心溢れるZINEの数々
haru._STOMACHACHE.の展示会に行ったときに、Tomoeさんが作ったお弁当の記録をまとめた冊子を見て、衝撃的だったんですよ。
Tomoe_自分用にお家で食べるお弁当の記録ですよね(笑)。

haru._あれお家で食べてるんですね(笑)!Tomoeさんはこのお弁当をどこに持って行ってるんだろうって話していました(笑)。
Tomoe_家で作って家で食べています(笑)。
haru._表紙もお弁当の写真で、中身は、毎日同じ画角から撮影されたお弁当と日付が載っているんです。
Tomoe_お弁当だけを載せているInstagramのアカウントがあって、そこに毎日写真を載せているんですよ。友達からは「狂気を感じる」って言われました(笑)。
haru._この冊子、写真だけで終わらないんですよね。最後に統計みたいなものも載っているんですよね。
Tomoe_そうなんです(笑)。ただの弁当本じゃないぞということを伝えたくて、統計のコーナーだけは絶対に作ろうと思っていました。
haru._その意志をすごく感じました。Tomoeさんの作るものからは、「そう思っただろう?でも違うんだぜ?」みたいなエッジを感じます。だからこの冊子を開いたときも、「これはやばい」と思いました。
Tomoe_何年か前に、抜粋バージョンで小さいお弁当ZINEを作ったことがあったんですけど、いつか全部をまとめたいと思っていたんです。どんな形にしようか考えたときに、1ページ1弁当載せるというのも考えたんですけど、そうなるとページ数がすごいことになって費用がめちゃくちゃかかってしまうんですよね。
haru._だから、A4見開きに12弁当載せて、それが91ページ続く構成になっているんですね。その後のページに、白米、炊き込みご飯、十六穀米、稲荷寿司、スパゲティー、味噌汁、梅干し、ごま、黒胡麻、みまから、ゆかり、いぶりがっこなど、お弁当の中で使われた具材が一覧となって、それらが登場する比率を年代ごとにまとめられていて…(笑)。これやばいですよ(笑)。すごく衝撃的な個人出版ブックですよね。なのでこれはZINEとは呼べないですよね?

Tomoe_これは本ですね。
haru._そうですよね。でも、自分で出す本やZINEの良さって、自分だけが熱を持って満足できるものを突き詰められるというところですよね。そこにその人の個性が出るし、その人の時間の過ごし方や大切なものが凝縮される。本当に読み応えがあるものだなと思います。今でもお弁当を作っているんですか?
Tomoe_作ってます!今日も朝作って家に置いてきました(笑)。
haru._家に帰って食べるんですね(笑)。細かいことなんですけど、写真に写っているお弁当の卵が、蓋を閉めたときに形が形成されて、平たくなっているんですよね。どの写真を見ても平たくなっているので、どこかに持っていってるんだろうなと推測したんですけど、お家で食べているんですね。
Tomoe_家で作って、蓋を閉めて保冷剤を上に乗っけて家に放置しています(笑)。仕事していると、ご飯を食べる前に「何を作ろうかな」と考えるのがめんどくさいんです。なので、朝作って置いておけば、あとは食べるだけでいいじゃないですか。それと冷めたご飯も好きなので、最適だと思って始めました。みんなから「なんで家でお弁当を食べるの?」って聞いてくるんですけど、「楽だから」なんですよね。
haru._でもこうやって見ると、お弁当箱という枠がフレームに見えてきて、Tomoeさんの作品に見えてくる不思議さがあります。
Tomoe_詰めるときに、なるべくギュウギュウに詰めたいんですけど、うまくハマるとすごく嬉しいですね。
haru._でも毎日のデッサンというか、筋トレみたいなことに繋がっていそうですね。
Tomoe_確かに頭使うかもしれないですね。最近はおかずの種類を作るのがめんどくさくなったので、お弁当箱を少し小さくしました。そうすることで、おかずが少なくてもギュウギュウになるので(笑)。
haru._おかずが足りなかったときはどうするんですか?
Tomoe_そういうときはお弁当を諦めたりします。無理しないというのが一番なので、おかずが足りないときはご飯を温めて、おかずを適当なお皿に盛って食べています。
haru._お弁当はパートナーにも作るんですか?
Tomoe_よく聞かれるんですけど、たまに気が向いたら作ってあげるくらいです。
haru._このお弁当を私がもらったらめっちゃ嬉しいです。Tomoeさんは、今でもZINE制作というのが、メインの制作の一部でもありますよね。
Tomoe_そうなんですけど、最近は忙しくてあまり作れていないですね。ちゃんと入稿するものや、家でプリントアウトして作る小さなものはブックフェアがあるたびにちょこちょこ作っていたんですけど、KINKO’Sに行ってコピーしてという初期のスタイルのやり方で作るZINEは、今回の展示のタイミングで久しぶりに作りました。
haru._昔からやってる、辞書から例文を持ってきて作るZINEをまとめたZINEが今回の展示では結構メインのように置いてありましたよね。
Tomoe_サブメインみたいな感じですね。
haru._会場の片方の壁一面にここに書かれている言葉が並んでいましたよね。
Tomoe_STOMACHACHE.が一番最初に展示したのは、愛知県立芸術大学の展示ができるスペースだったんです。そこで、部屋全部を文字で埋めて、文字の部屋にするという展示を作っていたんですよ。今回の展示会が決まったときにNobueちゃんが「今回もああいう感じで文字の壁を作るのはどう?」と提案してくれて、今回の展示でも採用しました。
haru._文字の作品とイラストの作品とでは、違う気持ちで作っているんですか?
Tomoe_そうですね。文字の作品はラフな感じで描いています。イラストの作品は結構神経質な感じで描くんですけど、これは下書きなしで、好きな言葉を選んで、そんな書体でどんな紙に描こうかなという、フリースタイルみたいな感じです。
haru._お気に入りの一文はありますか?
Tomoe_「気温の微かな変化がわかる」と「人生は過ぎ去っていくのに、我々は何もしていない」という英文が好きです(笑)。
haru._全然明るい言葉が書かれてるわけじゃないんですよね。お二人が選んだ言葉が壁にまとめて描かれていると、脈略のない言葉たちのはずなのに、お二人の世界観が立ち上がるのが不思議だなと思います。
Tomoe_二人ともちょっと暗めの言葉を選びがちなんです。
haru._お二人が選んだ英文に合わせた書体でTomoeさんとNobueさんが壁にその英文を描いていて、翻訳された日本語のテキストをZINEでもらえるので、それを見ながら展示を回れました。
Tomoe_その ZINEも時間がなかったので、当日作ったんですよ。文章が書かれた辞書の該当ページを事前にコピーしておいて、順番を決めたらそのコピーした紙をハサミで切って別の紙に貼り付けて、それをKINKO’Sでコピーして…。でも、久しぶりのKINKO’Sだったので、コピーのやり方を忘れちゃっていて、何回か失敗しました(笑)。でも、思い出してからは、二人ともすごいスピードでこの資料を完成させたんです(笑)。ずっと無言でしたけど。
haru._そういう時間もありますよね。
Tomoe_久しぶりですごく楽しかったです。
haru._でも、辞書に載っている例文だからちょっと不思議なんですよね。
Tomoe_しかもちょっと古い辞書なので、言い回しがちょっと変なんです。
haru._「風が本のホコリを吹き飛ばした」ってあまり言わないですよね。でも、すごくいいです。
Tomoe_ちょっとポエムっぽい感じですよね。

自分のためのDIYを超えていく
haru._Tomoeさんのプロフィールに、TomoeさんのDIY精神はお父さんにインスパイアされたものと書かれていますよね。
Tomoe_後々振り返ってみると、おそらくそうかなと。お父さんは、お金がなかったので勉強が好きだったけど学校に行けなかったそうなんです。でも、独学でいろんなことを勉強していたらしくて、語学も独学で習得して、20歳頃に片道分のお金だけを持って船でロシアに行き、シベリア鉄道に乗ってヨーロッパに行ったそうなんです。そこから2年ぐらい放浪旅をしていて、まだ日本にいたときにある宣教師の人に「困ったらこの人に連絡しなさい」と言われていたことを思い出して、その人に出会ったことがその後、お父さんが牧師になったきっかけだそうです。そこからパン屋さんで働いたり、イギリスで何でも屋さんをしているときに、家を建てるのを手伝ったりと、常識はずれなお父さんなんです(笑)。 日本に帰ってきてからも、私が生まれた徳島の家をお父さんが1から建てていて。それが普通だと昔は思っていたんですけど、大きくなるにつれてだんだんと普通ではないということに気づいていきました(笑)。同時に、これが私のルーツなのかもしれないと思い、最近プロフィールに書くようになりました。
haru._DIYって色々ありますけど、家を1から作るのってだいぶ究極ですよね。
Tomoe_そうですね。家を建てていたときもお金がなかったから車がなくて、自転車で木材を運んでいたらしいです(笑)。でも、見た目もすごくオシャレな暖炉があったり、サウナもあるんですよ。あと、昔はお父さんの仕事の関係で、教会の2階に住んでいた時期があるんですけど、雨の強い日に雨漏りしてきたときがあるんです。そこでお父さんが屋根裏をチェックしに行ったら、屋根裏がすごく広いことがわかって、そこをDIYで私たち兄妹の子供部屋にしてくれたんです。それ以外にも、家の家具は全部お父さんが作ってくれました。
haru._世界中を旅するなかで家を建てる知識も得たんですよね。
Tomoe_一応、家を建てられる二級建築士の資格は持ってるんですけどね。
haru._独学のプロですね。
Tomoe_そうですね。勉強が趣味みたいな感じで、今でもいろんな語学の勉強をしています。
haru._そういうお父さんが近くにいたら、自由な考え方で大きくなれそうですよね。
Tomoe_確かに、日本の常識的なところをあまり知らなかったりします。小さい頃とか、お盆のような伝統的なことを知らなくて、あんまりよくないなと思っていました。
haru._私も結構そうです。でも、小さい頃ってみんなと一緒が良かったりするじゃないですか。私もお父さんが自分でなんでも作る系の人で、クレヨンケースが学校で指定のものがあったんですけど、「それじゃなくてもいいじゃん」ってお父さんが言って、町の布屋さんに連れて行かれたことがあります(笑)。「これじゃないんだよな」と思いながら「これにする」って指差した生地を買って、オリジナルのクレヨンケースを作ってくれました。今思うとめっちゃ嬉しいんですけどね(笑)。
Tomoe_今だとそう思えますよね。
haru._買った方が早いのに、すごいですよね。今ならそう思えるけど、当時はそうは思えなくて、「みんなと一緒がいいのにな」って思っていた記憶があります。
Tomoe_少し違うんですけど、うちもお道具箱は姉のお下がりを使っていたんです。転校した先の小学一年生で入学したんですけど、先生から「お道具箱を広げて、お道具箱に描かれているくまさんの絵を指差しましょう」って言われたときに、私のお道具箱にはくまの絵はなくて、それが嫌で泣きそうになっていました(笑)。今思うと、「全然いいじゃん」って思えるんですけど、あの時はみんなと違うということが嫌だと思っていましたね。
haru._みんなと違ってもいいじゃんと思えるようになったのっていつ頃だったんですか?
Tomoe_中学を卒業したぐらいですかね。高校が美術系で、自由な校風だったんです。それまでは真面目な性格なので、周りに合わせなきゃと思って頑張っていたんですけど、高校はみんな変な子ばかりで。そこから「違うことがいいんだ」と思えるようになりました。でも、小学生の頃から、周りとちょっと違うのもかっこいいなと思っていたところもあります。
haru._お父さんがオリジナルすぎますもんね(笑)。子どもの頃って、学校と家がすべてみたいなところがあるから、嫌でも比較しちゃいますよね。でも、10代の頃に「自分は自分でいいんだ」って気付けてよかったですね。 Tomoeさんの作品からも伝わってくることなんですけど、作品を作ることだけが自分でやってみる精神のすべてじゃないというか、意外とやってみたら自分でできちゃうことって多い気がするんです。もしかしたら、クレヨンケースと同じように、買わなくても済むかもしれないものもいっぱいある。そういうことに普段の生活のなかで気付けるだけで、すごく自由な気持ちになれたりすると思うんです。Tomoeさんの作品や、STOMACHACHE.の作品をみていると、そういった遊び心というか、生活を自分で実験する楽しさみたいなことをすごく感じられます。
Tomoe_嬉しいです。でも確かに、なんでも作れるかなと思って試したりすることも結構あります。カバンを作ってみたり。
haru._Tomoeさんはいつもカバンを肩からかけていらっしゃるんですけど、あれも手作りなんですか?
Tomoe_あれも手作りです。趣味で手芸をしています。ミシンは下手くそなんですけど、中学校で習った技術で作っています(笑)。
haru._最近作ったものはありますか?
Tomoe_この間、友達の誕生日プレゼントにポーチを作りました。
haru._素敵!Tomoeさんとは、「自分でやってみる」をやってみるということについて話したかったんです。このPodcastにはいろんな道のプロフェッショナルの方が来てくださっているんですけど、なかなか私たちがすぐに真似しようと思っても、できることではないことも多くて。でも、Tomoeさんとお話しするなら、もう少し身近なところで「自分でやってみる」について話せるのかなと思っていました。Tomoeさんは毎日お弁当も作っていらっしゃいますし。
Tomoe_そうですね。でも、私も最初は全然うまくできないんです。何回かやって、やっとできるみたいな感じで。
haru._Tomoeさんのお父さんはお家を建てられたじゃないですか。Tomoeさんも作品の中で理想のお家を描いていましたけど、自分で家を建てたいと思いますか?
Tomoe_作りたいとすごく思っています。
haru._小屋とかなら資格がなくても建てられるんですかね?
Tomoe_私有地なら…いけるんじゃないかな…。でも、家はいつか建てたいですね。
haru._私も自分の作業場を建ててみたいと思っています。今作りたいものは、作業場と野菜です。
Tomoe_私は植物はすぐ枯らしちゃうタイプなんですよね…(笑)。でも、野菜を育てることに憧れはあります。
haru._なんだか今の世の中、自分でできるということを忘れがちな気がしていて。ネットでポチればすぐに欲しいものが届いちゃうし、物も溢れている。だから、「あれもこれも買った方がいい」って言われてる気がしちゃうんですよね。
Tomoe_私は買う前に「これなら自分で作れるかな?」って一回考えます(笑)。
haru._どういうものに対してそう思うんですか?
Tomoe_パソコンケースとか(笑)。
haru._わかります(笑)!私のなかで、パソコンケースって購入に至らないランキングで5位ぐらいにあります(笑)。私はパートナーへのプレゼントも自作しちゃうんです。私も30歳なので、それなりのものを買ってあげてもいいかなと思うんですけど、なんかムカついちゃうんですよね(笑)。何にムカついているのかわからないんですけど、自分で作ったものを渡す方が納得がいくんです。
Tomoe_でもいいですよね。私も友達にプレゼントを渡すときに、一回買うのを考えます。「これは自分で買えるよな」と思うと、私があげなくてもいいなと思っちゃうんです。それなら、不格好だけど、手作りしたポーチをあげようってなるんですよね。あとは、私はジャムを作るのが趣味なんですけど、ある友達が私の作ったレモンジャムをすごく気に入ってくれていたので、誕生日にレモンジャムを10瓶ぐらいあげました(笑)。
haru._いいですね(笑)。DIYって基本的に自分の為みたいな側面が強い気がしていて。それもすごく大事なことなんですけど、そこを超えて、作ったものを誰かにあげたり共有するみたいなことができると、DIYコミュニティが広がる感覚がある気がします。それって楽しいよなって思うんですよね。マガジン作りもそういう感覚で楽しんでいるところがあって。本という形態はとっているけど、デザイナーがいるわけでもないし、読む人にとっては価値のないことかもしれないようなことをトピックにしていたりするものをドヤ顔で売ることがおもしろいんですよね(笑)。自分のためのDIYを超えていくということが、資本主義に楽しく抗っているみたいでいいんです。
Tomoe_「楽しく抗う」いいですね。
haru._資本主義から完全に抜け出すことはできないと思うんですけど、自分たちが心地いいと思える経済圏のようなものを一部作れたらおもしろいなって思います。なので、Tomoeさんのジャムも食べてみたいです。
Tomoe_機会があったら無理矢理渡しますね。徳島の実家からお父さんが大量に柑橘を送ってくることをきっかけに作り始めたんです。今はすだちで、5月頃は甘夏、季節によっては土佐文旦(とさぶんたん)のときもあります。
haru._お父さんが育てているんですか?
Tomoe_すだちは育てているみたいなんですけど、あとは近所の人からもらうみたいです。それをジャムにするのが楽しいんです。
haru._でもTomoeさんはお弁当を食べてるじゃないですか。ジャムはいつ食べるんですか?
Tomoe_朝ごはんはパンかヨーグルトなんです。今はだいぶ減った方ですけど、それでも冷蔵庫の半分以上はジャムのストックで埋まっています(笑)。
それでは今週も、いってらっしゃい。
コピー・プリント・製本・デザイン支援などを行うオンデマンド印刷サービス。個人のZINE制作から企業資料まで、小ロット・短納期で対応できるのが特徴。全国各地に店舗を展開し、セルフコピー機やスタッフによるサポートで手軽に高品質な印刷物を作成できる。
*②『ON READING』
愛知県名古屋市にある、“感じる、考える人のための本屋”。世界をみる目の解像度を高めて、多様な価値観を教えてくれる本を、新刊、古本問わずセレクトしている。
併設するギャラリースペースでは新進気鋭のアーティストを中心に、様々なジャンルの企画展示を開催。
*③タワーレコード
世界各国の音楽を幅広く取り扱う大型CDショップ。
*④Radiohead
イギリス出身のロックバンド。繊細なメロディと革新的なサウンドで知られ、ロックや電子音楽の枠を超えた表現を追求し続ける。代表曲に「Creep」「Paranoid Android」など。
*⑤『relax』
1996〜2006年にマガジンハウスから刊行されたカルチャー誌。音楽、アート、ファッション、デザインなどを独自の視点で紹介し、“チルでクリエイティブ”な感性を象徴した。ライアン・マッギンレーら新世代のアーティストを早くから特集し、多くのクリエイターに影響を与えた雑誌。
*⑥マガジンハウス
日本の出版社。『anan』『BRUTUS』『POPEYE』などの雑誌で知られ、ファッション、カルチャー、ライフスタイルを中心に時代感ある編集を発信している。
*⑦岡本仁
編集者・クリエイティブディレクター。『relax』『BRUTUS』などでカルチャー誌の黄金期を支え、アートやデザイン、暮らしを独自の視点でつなぐ編集で知られる。
*⑧ライアン・マッギンレー
アメリカの写真家。若者の自由や官能、自然との一体感を鮮烈に切り取る作風で知られ、21世紀の青春を象徴するビジュアルを生み出している。
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photography: miya(HUG) / text: kotetsu nakazato