エアリアルヨガで逆さまになる朝 haru.×長 賢太郎【前編】
月曜、朝のさかだち
『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第15回目のゲストはファッションデザイナーの長 賢太郎さんをゲストにお迎えしています。 今回の朝活は、池ノ上にある『Aeras Aerial Yoga Studio』にて、天井から吊るされたハンモックを使った、エアリアルヨガ(別名:フライングヨガ)に挑戦しました。普段全然運動をしないという長さんが、「せっかくなら運動したい!」と提案してくださったのですが、エアリアルヨガを選んだきっかけは「BTSがやっているのを見た」からだそう。いざ、講師の井上先生の指導のもとハンモックに触れていく二人。「浮いてる!!」と、興奮気味の長さんと、黙々と井上先生の指導についていくharu.さん。対照的な二人でしたが、ハンモックで身体を包むと、二人ともまるで海を泳ぐ魚のようでした。

「haru.さんはベテランのようですね。スムーズについてこられている!」と井上先生もびっくりするくらい、エアリアルヨガを自分のものにしている様子。

長さんも普段の日常では決してすることのない体勢に驚きながらも、バッタのポーズ、ダウンドッグ、そして鼠蹊部をハンモックに固定させ、手足を浮かせ、宙を舞うポーズまでしっかりととることができていました。

最後に二人はエアリアルヨガで逆さまになっていきます。普段、心臓よりも低い場所にある足を高い位置に置くことで、血流を整え、頭の重みを支えてくれている首を、頭の重みで伸ばしてあげることで、アライメント(本来その人が持っている正しい骨のかたち・位置)を整えていくことができる逆さまのポーズは、井上先生曰く「究極のポーズ」だそうです。 逆さまのポーズを無事とれた二人は、再びハンモックに全身を包み、身体の緊張を緩めていき、無重力の空間から大地へと降り立つ感覚を取り戻すかのように、ハンモックから降りてエアリアルヨガを終えました。

朝活を終えた二人は、朝活を振り返りながら、長さんが「自分で作る」ことを選択する理由、SNSによって見えづらくなっていった自分の「好き」について、「曇りなき眼」を守るために長さんが大切にするマインドについてお話しいただきました。
本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

長 賢太郎さんに聞きたいコト
Q.クリエイティブの発想の源泉はなんですか?
A.あまり特定のこれってものがないかもしれず、日々の生活のあらゆるものからインスピレーションはもらってます!いわゆる生活だけでなく、本当に自分が見聞きして(風景、写真、映画、美術、音楽はもちろん、街中にいる人、たまたま入った飲食店などわりとなんでも)その中で興味あるものであれば発想の源になってる気がしてます!
ファッションはあらゆるものに内在していると思ってるので、そんなような感じになってるのかもしれないです!それから、メンタリティ的にはなんかなーみたいなこの世界に対しての納得のいかなさという感情が源泉とも言えるかもしれないです!
Q.最近読んで感銘を受けた本はありますか?
A.ちょっと全然最近て感じでもないんですが、ホックニーの『A HISTORY OF PICTURES』めちゃくちゃ面白いんで好きで、よく読み返してるし、自分の考え方にも影響かなり受けてる気がします!会話とかでも引用してるし、写真と絵画の違いとか、表現の素材によって可能なことや限界について考えるのが好きなので、この本はその辺の考えを補強してくれている感じもあってかなり好きです!

身を委ねる感覚を取り戻す
haru._オープニングからすごくエネルギッシュなスタートになっているんですけど、今朝の朝活は何をしてきましたか?
長 賢太郎(以下:長)_ エアリアルヨガです!
haru._エアリアルヨガはフライングヨガとも呼ばれているんですよね。私は普通のヨガに昔通っていたんですけど、コロナの時期に辞めちゃって。その頃からフライングヨガは知っていて、ずっとやりたかったんです!一時期すごく流行ってたんですよね。
長_巷で?
haru._韓国アイドル界隈で(笑)。
長_あー!俺もそれで知った!BTSがYouTubeでチャレンジしてて、それ見て知って、楽しそうだなって思ってた。
haru._今日実際にやってみてどうでしたか?
長_めっちゃ気持ちよかったよ!そもそも運動不足だから、久々に運動して、心も体もすっきりして、めちゃくちゃ気持ちよかった。
haru._私と長さんは結構長い友人なんですけど、今年になって、私が作っている『High(er) Magazine』*①の新刊で長さんにインタビューをさせてもらってからめちゃくちゃ会うようになりましたよね。なので、普段のゲストだともっと緊張してるんですけど、今日は長さんとフライングヨガということで、めちゃくちゃに楽しみにしてたし、今はすごくリラックスしています(笑)。
長_おー!ありがとうございます!
haru._フライングヨガ中に、長さんは一個の動作をするたびに叫んでましたよね(笑)。
長_俺リアクションしすぎて途中で「大丈夫かな?」って思ってた。正面に鏡があって、鏡越しにharu.ちゃんの顔が見えるんだけど、すげえ真顔でやってて、それがめっちゃツボだったんだよね。
haru._真面目に自分と向き合う時間じゃないですか(笑)。
長_そうなんだけど、未だかつて見たことない真顔だったから(笑)。
haru._あえて真顔でやってたんですよ。あそこで私が笑い出したら、ヨガどころじゃなくなってしまうと思って、すごく頑張って真顔にしてたんです(笑)。
長_前に、haru.ちゃんが子ども時代、周囲に馴染めないけど頑張ってたっていう話をしてくれたことがあるじゃん?きっとharu.ちゃんはその頃、こんな顔をしてたんだろうなって思った(笑)。それが垣間見えて、めっちゃウケちゃった(笑)。
haru._私の過去まで見えちゃったんですね。幼稚園の頃から集団行動が苦手で、みんなで一緒にプールで遊んだり、砂場遊びをしたりする時間に、私は一切参加せず、隅に座っていたんです(笑)。
長_その時に、こんな顔だったのかなってめっちゃ思っちゃったんだよね(笑)。
haru._フライングヨガとは関係ない感想ですけど、その長さんの視点がいいですよね。 長さんの方に意識を向けたら、腹から笑っちゃうから、私は長さんから発せられる波動を一度無視して、全集中していました。フライングヨガって、普段だったら絶対にしない体勢になるじゃないですか。そのときに、「身を委ねるってめっちゃ気持ちいいんだな」って思いました。
長_ぶら下がってるときとか、脱力してて、圧力みたいなものを感じなかったね。

haru._そう。身を委ねてもいいことってあまりないじゃないですか。特に現代を生きていると、流されることってマイナスなことかのように言われてしまうし。でも、本来はこの世に生み落とされたら、流されるように生きていくことが自然なのかもと思ったんです。
長_(笑)。話がズレちゃうんだけど、最後に撮った記念写真が、ハンモックに乗った二人が空を飛んでいるなか、手を繋ぐみたいな写真なんだけど、そのときにharu.ちゃんが「今一緒に生まれてきた子たちみたい」って言ってたのを思い出して笑っちゃった(笑)。
haru._最後に、長さんと手を繋いで写真を撮ったんですけど、その姿が『千と千尋の神隠し』でハクと千尋が空から二人で手を繋いで地上に降りてくるシーンみたいで(笑)。なんだかあのとき、「今、長さんと地上に生み落とされたんだ」って思ったんですよね。でも、その感覚ありましたよね?
長_エアリアルヨガをやってるときは結構あった。なんか、子宮に戻るというか、生まれる前のような感覚というか。
haru._チャイルドポーズ*②っていうヨガの定番のポーズがあるんですけど、それを宙に浮いた状態でやるから、おくるみされてるみたいなんですよね。大人になってからそういう状態にならないじゃないですか。
長_分かる。しかも脱力って意外と難しいじゃん。完全に脱力することってあんまりないなって思った。

haru._あの状態になることって日常ではないですよね。
長_ないない。
haru._それがすごくよかったです。
長_よかったよね。途中休憩挟みながらやってたんだけど、haru.ちゃんに「猫背治ってますよ!」って言われて、姿勢良くなったかもって思ったし、血色も良くなった気もした。裸足でやってたんですけど、足先がピンク色に熱をおびてたよね。
haru._あれは結構衝撃を受けました。
長_あんまりないよね。赤ん坊の足みたい!って思ったんだよね。なんだか身体のエネルギーが回ってるなって思ったね。
haru._身を委ねる話に戻すと、今の社会ではいろんな問題があるから流されてるだけじゃダメなのかもしれないけど、本来は、流されるように生きていく方が自然なのかなと思ったんですよね。
長_その感じめっちゃ分かるよ。これって偶然性に身を委ねることが大事だと思っていて。例えば、美味しいご飯屋さんに時間をかけてわざわざ行くのもいいけど、自分の近所にたまたまあるいい感じのお店を探すことも重要だと思うんだよね。頑張って遠くのいいものをゲットしようとするんじゃなくて、身近なところでいいものを見つけていくことの大切さというか。若い時って、めちゃくちゃイケてるものとか、この場所じゃないと得れないみたいなものをゲットしようとしちゃうけど、意外と流されてみて、そこで出会った偶然性で遊ぶっていうことも重要なんじゃないかって思うようになったんだよね。

自分の「好き」に靄をかけるSNSの弊害
haru._長さんは服作りをされているんですけど、アトリエ兼お家も自分でリフォームしたり、お庭を耕して野菜を育てていたり、身近なものは何でも自分で作りますよね。
長_そうだね。若いときってとりあえずお金がないじゃん。そのなかでどう自分の世界を作っていくかっていうのが重要だと思うんだけど。それで前に住んでいた家も自分で改装をしたの。築70年ぐらいの長屋に住んでたんだけど、ドアが茶色だったから黄色に塗り替えたり。そうすることで、ちょっと自分のものに近づけられる。ここでドアを新しく買っちゃうと、お金もかかるじゃん。でも塗るだけだったら1000円くらいでできる。そんなふうに変えていくことが楽しくて、今の家もそんな感じで作っている。なるべく自分で好きなようにやるのが一番って根本的に思ってる。
あとは、基本的に建築って平均値で作られてると思ってて。身長や身体のかたちってみんな違うのに、ドアノブの高さとかって平均的な高さに置かれていると思っていて。人によって一番気持ちのいい高さやサイズって違うと思ってるから、だったら全部自分で作る方がいいんじゃないかって思ってるんだよね。自分に合うものを自分で考えて、自分で作ることが重要なんじゃないかな。
haru._長さんって、物事も、人も、自分の方に手繰り寄せるのがうまいなって思うんです。ちょっとしたアレンジとかなんですけど。
長_あー、めっちゃ言われるかも。
haru._抽象的なんですけど、長さんが持っているものに対する手触りと同じようなものを、人に対しても感じるんですよね。私が真顔だったことに対して、私の過去を感じて、その相手に違和感を伝えることを、なんなくやるのが長さんらしさだなって思います。仮に私が長さんの過去を感じたとしても、それを本人には言わないと思うんです。大人になるにつれて、本心を言わなくなったりするのに、長さんはすぐに伝えてくれるんですよね。それに、「私の真顔にそういうことを思ってたんだ」っていう新鮮さが、長さんとの距離をすごく縮めてくれるんです。同時に、新しい自分も発見できるから話していて楽しい。それがドアの話を聞いていて、すごく似ているなと思ったんです。既にそこにあるドアを新しくするんじゃなくて、ドアノブの高さを変えたり、ペンキで塗ったりすることで、長さんとドアの距離が近づくんだろうなって。
長_確かにそうかも。
haru._ものや人に対するアプローチが全部フラットというか、自然に近寄っているのがすごくいいなっていつも思っています。
長_よく思うんだけど、俺たちって誰かが作ったもののなかにいるじゃん。でも、好きじゃないものもたくさんあるから、だったら自分の周りだけでも好きなもので埋め尽くしたいと思っていて。仮に俺が億万長者だった場合は「こいつめちゃくちゃやべえ」と思う人にオーダーして作ってもらうこともできるじゃん。今のところ叶わなそうだし、自分でやるのも楽しいから今は自分でやってるって感じかも。でも、家具とか置き物とか買ったりするよ。自分が作ったものと、好きで買ったものが同じ空間にあるっていうのも好き。とにかく身近なところだけは、なるべく好きなもので囲んでおきたいっていう感じかな。
haru._そう思えたら、「自分にはあれもこれもない」ってならなくてすみそう。今ってスマホで他人の人生がめっちゃ見れるじゃないですか。そうなると、「自分はこれ持ってない」「あの人はあれ持ってるんだ」「こういう機会にあの人は恵まれている」みたいなことがどんどん可視化されてしまう。「自分もこうしたい」と思ってもお金がなくて悲しい気持ちになったりもする。でも本来は、その人の人生はその人のものだし、自分は自分の好きなものを見つけたり、アレンジしたりと、自分好みに居心地よく調整できるはずじゃないですか。外からのノイズをすごく感じる時代だなと思うんですけど、長さんもそういうことを感じることはありますか?
長_全然あるよ。内なる欲望もあるかもしれないけど、今のharu.ちゃんの話で言われているのって外からやってくる欲望じゃない? その欲望ってどうなんだろうって考えることがあって。でも、やっぱり難しいよね。人の生活について羨ましいとかはあまり思わないけど、例えば、自分もものづくりをしているから、誰かが作ったものに対して「これいいな」って思うことは結構ある。でも、同時に「これよりもいいものを作りたい」っていうのも常に思っているんだよね。SNSって視覚的コミュニケーションだと思っているから、視覚的な遊びでかっこいいものを見ると、「すげえな!」って思うけど、嫉妬というよりも「もっといいものを作りたい」っていう感情になる。それも外的な要因で生まれる欲望だなと思う。
haru._クリエイティブもいろいろあると思っていて。私の場合は、自分が今できる範疇を超えたものに対して、やっぱり憧れを感じるんですよ。そこには莫大な予算があったりするんですけど。
長_そういうものに関しては、俺はライバル視できないんだよね。そもそも勝負できないというか。例えば、ティム・ウォーカー*③の写真ってすごすぎるじゃん。めっちゃ好きだし、すごいと思うけど、そことは勝負してないって思ってる。それよりも、自分でもできそうなのに、やられてることに対して感じるかも。映画でも、すごくお金をかけて作られているものよりも、ラフなのにすごくおもしろいものを作っていたりするのを見ると、「自分でもできたんじゃないか」っていう嫉妬のような気持ちが生まれたりする。
haru._長さんはその悔しいっていう気持ちがいい方向に作用するんですか?それともその感情に振り回されてるなって感じることもありますか?
長_振り回されてはいないと思うけど、いい刺激にはなっているんじゃないかなって思う。自分のクリエイティブではなく、SNSでいいなって思う部屋とかをみてると、そこにある家具ってめっちゃ高かったりするんだよね。それを揃えようと思ったらめちゃくちゃお金がかかるけど、俺はお金をかけずに、その部屋クラスのいいものを作りたいと思ったりする。 空間とかに関しては、色の要因もでかいと思っていて。色を用いて理想とするクラスの空間を作ったりしてるかな。
haru._長さんのキーカラーは黄色ですよね。
長_そう。全部黄色にするんじゃなくて、白ベースに差し色で黄色とか赤が入っているのが好き。そういうのを考えて探したりするかな。Instagramを見てると、名作系の建築とかがよく出てきて、その度に「やべえ!やべえ!」って憧れるんだけど、自分のかたちでそのクラスを目指すっていうのがおもしろいなって思ってる。
haru._それって意識的にならないと難しい世の中な感じがします。Instagramを見てると、いろんな情報が流れてくるじゃないですか。自分の本当の「好き」とか「ほしい」っていう血肉にはならないんだけど、知ってるブランド、知ってる人、知ってるトレンドがチリツモになって、なんとなくの知識やなんとなくの残像が溜まっていく。それが何かを買うときに靄になってる感覚があるんですよね。
長_何かを買うときに、その靄があるのが嫌なの?
haru._高校生ぐらいの頃までは、自分の見ている本や映画、音楽から得たインスピレーションで、好きが明確にわかっていた気がするんです。色の組み合わせとかも、もっと自由に楽しんでいた気がするんです。お店に行って気になる色が二つあったときに、直感では黄色に惹かれているのに、「今って茶色の方が流行ってるよな」と思って、自分の好きがモヤモヤモヤって消えちゃう感じがあるんですよ。そこにSNSの弊害を私は感じています。
長_なるほどね。わかるな。確かに、SNSがない場合、基本的にはかなり自分に近いものでしか自分の感覚が作られないからね。しかも、今はめちゃくちゃな量の情報があるもんね。

誰も尊敬していないということは
全員を尊敬しているということ
haru._長さんの「距離」の話がすごくおもしろいと思っていて。長さんはZINEも作ってるんですけど、そのZINEのなかで虫のこともゴッホ*④のことも「あいつ」って呼んでるんですよね(笑)。長さんにとっては、全員「あいつ」っていう距離感なんですよね。
長_そうそう。今すぐ会えるやつっていう感覚。
haru._でも、そういう感覚でいる方が楽ですよね。自分からたくさん話して、憧れみたいな存在にすると、そこへ届かない感じを生んでしまうというか…。
長_誤解を恐れずに言うと、尊敬している人がいないというか、「全員同じじゃない?」みたいなマインドがあって。もちろん、すごいなって思う人はいるんだけど、根本的には一緒でしょって思ってる(笑)。なんでもそうだけど、今までかけた時間の集積によってできることって変わってくるじゃない。だから、誰が何をやっていても、その人はそれをめっちゃやってきたんだなとしか思わない。実際、それってすごいことなんだけど、それですげえ尊敬するということは…まあ尊敬してる人いっぱいいるんだけど…(笑)。
haru._全員尊敬してるとも言えそうですよね。
長_めっちゃそれ!!全員尊敬してないってことは、全員尊敬してることでもあるんじゃないかっていうのは結構思ってるし、そのマインドなんだよね。
haru._でもそのマインドが、架空の格上・格下みたいなものに惑わされない方法なのかもしれないですよね。すごいことを達成しているように見える人も、その人の集積でしかないと思えることに繋がっていきそう。
長_すげえ思うのが、そういうのって勝ち負けがあることになってるじゃない。でも、全ての勝者っていないと思ってるんだよね。どこかで勝ってても、どこかで負けてる。人間ってすごく多面性があるのに、一つのことで計りすぎじゃない?ってよく思う。何か一つすごいことがあると、その価値を別のことにもスライドできるかのように錯覚してしまう人が多いと思っていて。すごい人は、これにおいてもすごいんじゃないかって考えてしまうかもしれないけど、俺はそうじゃないんじゃないかって思ってるんだよね。
どこかですごくても、どこかでポンコツっていう人の方が、人間らしいなって思う。まあ、自分もポンコツな部分もあるし、誰にでもあると思ってるから、そんなふうに思ってるのかな。
haru._長さんの魅力って、長さんが作りだす服とか、SNSとかの視覚的な情報からは読み取れないものがあるなって思っているんです。長さんの人間的な魅力って、話して初めてわかるものなんですよね。全てに対してフラットな接し方というか。一回受け入れてみる姿勢というか。その裸の人間感みたいなものがあるんですよね(笑)。原始人みたいな(笑)。
長_でもそれにめっちゃ憧れている俺がいるかも。『もののけ姫』に「曇りなき眼で見定めろ」みたいなセリフがあるんだけど、「曇りなき眼欲しい!!」ってめっちゃ思ってるんだよね(笑)。だって俺らの眼ってみんな曇っちゃうじゃん。
haru._長さんは曇りなき眼を割と保っていますよ。
長_まじで?だったらいいけどね。
haru._それがやっぱり魅力的なんですよね。それは映像や写真では映し出せないものなんだろうな。もちろんその人が持ってる嫌な部分も同時に表出しにくいから、人は多面的なんだって思っておいた方がいいんだろうなって思います。
長_多面的だよね。全然話違うんだけど、『花さか天使テンテンくん』*⑤っていう漫画があって。そこでは、神様が毎回生まれてくる前のまだ性別もない裸の人間に才能の種を植えていくんだけど、あるときぐーたら天使が食べてた梅干し入りのおにぎりの梅干しの種が、ある少年に入っちゃうの。そしたらその少年はなんの才能もなく生まれちゃって、その子の才能を探すっていう漫画なんだけど、それを見て「みんな本来は何かしらの才能があるんだ!」って結構テンション上がっちゃってさ。俺が描く絵には頭に花を挿しがちなんだけど、それは完全にこの漫画の影響ってくらい、好きなの。この漫画が好きだったのもあって、「みんな何かしらの才能があるし、何かしら苦手なこともある」って小学生の頃から思ってるんだよね。
haru._長さんの絵のルーツを知れた。
長_俺高校生のときすげえ漫画好きで、休み時間に漫画を読んでたら、普段ギャザリング*⑥ばっかりやってるやつがある日俺に「この漫画読め」って言って『鋼の錬金術師』*⑦を勧めてきたことがあって。俺は当時、そういう漫画を全然読んだことがなかったから、読んでみたらめちゃくちゃおもしろくてビビったわけよ。そのときに、「ただギャザリングやってるだけのやつって思ってたけど、めちゃくちゃおもしろい漫画知ってるじゃん!」と思ったのをすげえ覚えてるんだよね。普段からは気付けないその人の意外な部分があるみたいなのがおもしろかったし、誰しもがそういう側面を持ってるんじゃないかな。
haru._わざわざ話にするようなことでもないことでも、その人を形成していて、その部分が垣間見える瞬間ってありますよね。
対談は後編に続きます。後編では、飾らないことのかっこよさ、長さんのブランド『osakentaro』が目指す服づくりについて、世の中に溢れる物の多さに対する違和感、二人がオフラインで作るコミュニティやホームについて盛りだくさんにお話しいただきました。
そちらも是非楽しみにしていてくださいね。
それでは今週も、いってらっしゃい。
パーソナリティのharu.さんが編集長を務めるインディペンデントマガジン
*②チャイルドポーズ
ヨガの基本ポーズの一つで、正座から上体を前に倒して額を床につける姿勢。背中や腰を伸ばし、心身をリラックスさせる効果があり、休息や呼吸を整えるポーズとして用いられる。
*③ティム・ウォーカー
英国出身の写真家。幻想的で夢のような世界観を特徴とし、緻密なセットや衣装で非現実を描く。『Vogue』などで活躍し、現代ファッション写真を象徴する存在。
*④ゴッホ
オランダ出身の画家。強烈な色彩と筆致で感情を表現し、『ひまわり』『星月夜』などを残す。生前は無名だったが、没後に近代絵画の先駆者として評価された。(本名:フィンセント・ファン・ゴッホ)
*⑤『花さか天使テンテンくん』
小栗かずまたによるギャグ漫画。天使の少年テンテンくんが地上で人々を幸せにしようと奮闘する姿を描く。1997〜2000年に『週刊少年ジャンプ』で連載された。
*⑥ギャザリング
『マジック:ザ・ギャザリング(通称:ギャザリング、ギャザ)』は1993年に誕生した世界初のトレーディングカードゲーム。多彩な魔法や生物カードを駆使して戦う戦略性の高さが特徴で、世界中に熱狂的なファンを持つ。
*⑦『鋼の錬金術師』
荒川弘によるダークファンタジー漫画。錬金術で失った身体を取り戻すため旅する兄弟エドとアルの成長と葛藤を描く。2001〜2010年に『少年ガンガン』で連載された。
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Profile
長賢太郎(オサ ケンタロウ)
東京都墨田区を拠点に、ウィメンズブランド「osakentaro」を2014年にスタート。服のデザイン、パターン、縫製、イベント時の什器とプロップ製作、写真撮影まで、基本的には自分で行なっている。2021年にアトリエ兼自宅を引っ越し、日々改装しながら生活中。