エアリアルヨガで逆さまになる朝 haru.×長 賢太郎 【後編】
月曜、朝のさかだち
『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第15回目のゲストはファッションデザイナーの長 賢太郎さんをゲストにお迎えしています。 記事の前編では、エアリアルヨガをした朝活を振り返りながら、長さんが「自分で作る」ことを選択する理由、SNSによって見えづらくなっていった自分の「好き」について、「曇りなき眼」を守るために長さんが大切にするマインドについてお話しいただきました。

後編では飾らないことのかっこよさ、長さんのブランド『osakentaro』*①が目指す服づくりについて、世の中に溢れる物の多さに対する違和感、二人がオフラインで作るコミュニティやホームについて盛りだくさんにお話しいただきました。
本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

長 賢太郎さんに聞きたいコト
Q.落ち込むことってありますか?そんな時はどうやって回復していますか?
A.あまりないかもですが、落ち込む時あります!シンプルに良いと思うものが作れていない時は落ち込み気味な感じです!その場合は実際良いのできるまで待つしかないですね!それ以外の時は特別な対処方法はないんですが、今を忘れがたいがために映画観ることもあります!
Q.もし女性になったらしたいことありますか?
A.ありますね!てか、実際、今とある意味変わんない感じになるかもしれないんですが、女性として、よりリアリティのある女性服作りたい気持ちがありますね!女性ファッションデザイナーに対しての憧れあるので。MARNI創業者のコンスエロカスティリオーニ好きなんですが、彼女みたいに自分が着たい服を作る感じのデザイナーになりたいですね!あとは生まれ変わったら女性でめちゃくちゃイケてる画家かピアニストになりたいとはずっと思ってますね!

雑多な街・東京で作られる服とは
haru._長さんって、あまり自分をかっこよく見せようとしないですよね。ありのままでいる感じがあります。
長 賢太郎(以下:長)_ 確かに。でもそれは、かっこつかねえっていう諦めもちょっとあるんだよね。
haru._私にもその感覚がすごくあるんですよ。一個聞きたかったのは、長さんはファッションデザイナーをされているじゃないですか。ファッションって自分をちょっと大きく見せたり、かっこよく見せる側面が大いにあるというか。割と排他的でもあると思うんです。「自分はこうです」と表現することで、人との差別化を図るものでもあるじゃないですか。そういうファッション業界で活動されているけど、長さんの生き方や考え方、存在自体がそういう世界では珍しいんじゃないかなと思っていて。長さんはそういう世界に対して違和感みたいなものはあるんですか?
長_けっこうあるタイプかも。自分で言うのめっちゃ恥ずかしいけど、元々服よりも人間的魅力を評価されることが多くて、「作品よりも本人がおもしろいから、作品がついていけてない」みたいなことを永遠に言われ続けてきたの。もっとおもしろいものを作れると思われちゃって、勝手にハードルが上がってたんだよね。それに俺もめちゃくちゃかっこいいものとか、可愛いものとかが好きだったし、少年ジャンプ脳だったのもあって、ファッションデザイナーを目指していた頃は「世界一のファッションデザイナーになる」っていう感じで計画を練っていたの。
パリコレもめっちゃすげえと思ったし、今はないけど『FN(ファッションニュース)』*②って言う雑誌があって、そこに全身ANN DEMEULEMEESTER*③のスタイリングが載ってたりするのを見て、「まじやべえ!目指す!」みたいになってたの。ただ、パリコレって自分が育った環境とかからするとファンタジーの世界みたいな感じなわけ。パリコレを目指すっていうことは、これまで自分がいた世界から抜け出して、新しい世界に飛び込まないといけないじゃない。でも、俺にとってはそれが地続きになっているように思えなくて、しっくりこなくて。そこからなるべく自分の世界で、自分の友達ともコミュニケーションがとれる範囲でやる方がいいんじゃないって思うようになっていたんだよね。
haru._自分がファッションに寄っていくんじゃなくて、ファッションを自分の方に寄せていくみたいなことですかね?
長_そうかも!それで、ファッションってビジュアルがイケてないとファッションになりにくいと思っていて。もちろん、全てにファッションの要素はあると思っているんだけど、同時にイケてるかイケてないかっていうのもファッションにおいてはかなり重要だと思うんだよね。イケてるものを作ることがファッションなんだけど、俺は飾らない自然体な人にも憧れを抱いていて。裏表なく、どこにいても同じみたいな人。俺自身も普段はこんな感じなのに、人前に出る時だけかっこつけるのもどうかなって思っちゃったことがあるんだよ。
haru._私もめっちゃ同じです。
長_俺も何かでharu.ちゃんと似てるなって思ったんだよね。
haru._私ってよくデニムを着てるじゃないですか。どこにでもデニムを着ていくことで自分の存在を保つ感覚があるんです。デニムって元々労働者のための服じゃないですか。私は「自分でやる」ということが根底にあって。自分で赴くとか、自分で手を動かすとか、体を動かして体験するみたいなベースがないと、人の話なんて聞けないって思っているんです。綺麗な格好をして、高い椅子に座りながら相手から話を引き出すなんて無理だと思っている節があって。私がお話しを聞く人って作り手の人や裏方の人が多いから、そうなったときにすごくおしゃれな服装をしていると、それがノイズになる気がするんです。でも、デニムのセットアップって正装にもなると思っているので、これならどこにでも行けると思っています。それが相手に対する礼儀のように感じることがあるんです。そういう感覚は、長さんと近いのかなって思ったりします。
ファッション業界の人たちって、毎シーズンありとあらゆる服を世に出すじゃないですか。でもハイブランドのショーで、最後にクリエイティブディレクターがステージに出てきてちょこっと挨拶するときの服装っていい意味でめっちゃ適当じゃないですか。その潔さが実は一番かっこいいということに全員気づいているはずなのに、現実の世界ではそういうスタイルを目指そうとしない感じがおもしろいなと思っています。ありのままが一番かっこいいとわかってるのに、そういう勝負の仕方をしないことが多いなあって。
長_でもさ、ある程度自分に対しての自信も結構関わっていると思っていて。自分もそうだけど、何かしらのコンプレックスがあってファッションを好きになった経緯があるの。だから、ファッションの世界ってありのままを出すことが苦手な人たちが多いのかなって思ったりする。大谷さんとか?全然知らないけど、ずっとすごいって言われ続けてきたり、漫画の主人公のように生きてきたことによって育まれる自信があって、それのおかげでありのままでいられて、今の結果を生めてるんじゃないかなって思うんだよね。そういうのがない場合は、飾るしかないのかなって思うときがあるんだよね。語弊があるかもしれないけど、飾りすぎてておもしろい人ってあんまりいないと思ってた。
haru._エクストリームまでいくとおもしろいことはあるじゃないですか。アレン様*④とか見てると、あれは完成してるなってすごく思います。あれがありのままの姿に逆転してるというか、そういうおもしろさが出てきている。
長_たしかに。服って一番サーフェイスだけど、内側から出てきてるサーフェイスの場合と、サーフェイスでしかないサーフェイスの場合があるような気がしてる。
haru._長さんがそういう考え方を持っているから、『osakentaro』の服って、古着と合わせるのが一番自分にハマるなって思うんです。たくさん着て自分の癖が出てきてる服と合わせるとめっちゃハマるんですよね。

長_それ嬉しいけどね。服もすげえ試行錯誤を経て今の形になってるみたいなところがあるから。基本的に自分も全身一つのブランドで揃えるっていうことがあまりないから、他の服と合わせることもできる服がいいと思って作ってるんだよね。それがファッションの持つ都市性だと思っていて。ファッションって都市のものだと思ってる。服を着ている人は世界中にいるんだけど、とある民族が着ている服はまだファッションではないと思ってるんだよね。もちろん服だし、ファッション性はめっちゃあるんだけど。そのニュアンスみたいなものをどう都市に着地させるかっていう視点がないとファッションクリエイションにはならないと思っていて。自分の服も都市生活者向けに作っていて、誰が着てもいいんだけど、俺自信都市で生きているから、その形式のなかでハマるものを作ってる感じ。それは6年前ぐらいから意識していること。
haru._東京ってやっぱりいろんな人がいるし、雑多性のある街じゃないですか。そこでなじみながら生きていくってなったときに、長さんの言ういろんなものと合わせられるみたいなことって、理にかなっているなって思います。一つのブランドの中でしか合わせられない服もあるけど、それって長さんの言う都市性はあまりないのかな。
長_そうなんだよ。元々民族服がめっちゃ好きで、ブランド=これみたいなのがあるといいなって思ってたの。でも、それって排他的な服でもあるなと思っていて。それはそれでもちろんいいし、おもしろいブランドもたくさんあるけど、「俺がこんな感じの性格なのに、そんな服を作ってもな」って思ったときがあるんだよね。大袈裟かもしれないけど、人類愛というか、誰もが着てくれたらいいなって思ってるの。もちろん自分の中での美意識やミューズみたいな存在はあるけど、それもすげえ異次元の誰かとかでない。シンプル、叶姉妹とかが俺の服着たらウケるなとは思うけど。結局ブランドも俺のキャラクターに通じてるんだなっていうのは今話してて思ったかな。
haru._ターゲットを絞らないことって、売れるに直結しないじゃないですか。資本主義社会でめちゃくちゃ売れるものって、めっちゃターゲットを絞ってそこに対してガンガン広告をかけるみたいな売り方をしていて。でもそれとは結構真逆な思想ですよね。
長_そうかも。専門学生の頃もそれをやるんだけど、まじわかんなかったし、今もわかってないかも。
haru._私も下着を作ってるんですけど、下着は量産しているんですよ。100個しか作らないというよりかは、もうちょっと大きい規模で作っていて。それを頑張って売ってるんですけど、下着を欲しいと思った人がうちのサイトにアクセスをして下着を買う、そんな人が500人もいることってあり得るのか?って思うんです。よくドリンクの広告とかで「1日に何万本も売れています!」みたいなことが書いてあったりするけど、その規模感が体感として全然意味がわからないんです。「そんなに物って売れるんだ」「そんなにみんな物を買ってるんだ」って思うんです。
長_その感じはめっちゃわかるよ。自分の場合は自分で服を作ってるから余計に思うかも。今年から妻がosakentaroのニットを作り始めたんだけど、それも数は超少なくて。そもそも自分的には工場生産したことないっていうのもあるけど、そんなに服っているかな?って思ってて。服って無限にあるじゃん。服ありすぎだからいらねえんじゃねえかって思ってたんだけど、結局自分で作るのも好きだし、それで生計を立ててるから、そうなるとある程度の量は作らないといけなくて。でも、そのくらいでいいかなって思ってるんだよね。前にブランドをやってる友達が昔ユニクロで働いていた頃に、一つの商品を工場で何億も作ってるっていう話を教えてくれて、意味がわからなかったんだよね。自分の物差しで測れない桁すぎる。そもそもその桁を体感できる奴なんていないじゃん。そういうもので回っている世の中なんだなと思うと、自分はそうじゃないかたちでやっていこうって思ってここまで来て、今こうなっちゃってるんだよね。
haru._その体感がないからこそ関心が持てないのかなとも思うんです。

その場に適合するのではなく
その場を自分のホームにしていく
haru._長さんって東京以外でPOP-UPをするときでも絶対に行くじゃないですか。
長_基本的には絶対に行くね。
haru._ワークショップとか、お客さんと直接会ったりする機会もすごく多いじゃないですか。そこでコミュニティを作ってるなと思っていて。『osakentaro』の服を好きな人たちが、そこに対して意識的になれる瞬間を長さんはよく作っているなと思っていて。「これが好き」みたいなことを考えずに何かを着たり、使ったりする瞬間の方が生きていて多いと思うんです。でも、長さんが持っている世界観をそのままリアルライフに表出させてるから、それを体感した人たちは好きであることを感じやすいと思うんですよ。それがすごくいいなって思います。
長_服って基本的にお店で見るから、そのお店でどういうことをするかってことも重要なんじゃないかと思っていて、ブランドを始めたときからずっとPOP-UPをするときは俺も行って、みんなに会うようにしてる。
haru._空間から作ってますよね。
長_なるべく毎回作ってる。普通に行くのも楽しいしね。この間も広島に行ってて、ちょうどハロウィンだったの。普段ハロウィンってほぼ興味ないんだけど、おもしろい仮装をしてる人がいっぱいいて。最初はハロウィンって気づかずに「どんな方向性のファッションタウンなんだよ!やべえな広島(笑)」って思ってたら、お店の人に「今日ハロウィンですよ」って言われたんだよね(笑)。でも、自由に服を着てたり、変な格好の人が複数人いるだけで結構おもしろいなと思った。
haru._景色が変わりますよね。
長_景色が変わるし、いつもと違う格好してコミュニケーションをとるハロウィンって意外とおもしろいのかもなって思った。それに東京にいると見ないようなタイプの人たちもいっぱいいて地方に行くのっておもしろいんだよね。若者の格好もちょっとヤンチャな感じ。
haru._街によって全然違いますよね。関西に行くとすごく違うなって思ったりします。表参道とか綺麗すぎて、普通の服を着てるはずなのに若干の浮きを感じちゃうときないですか?
長_若干の浮きは今の家の周りでも感じてるからさ(笑)。でも感じちゃうときあるね。でも、そこまで気にしないかも。逆にエアリアルヨガをしてるときの格好とかの方が気にしてて。今日はフットサルをやったときの服装なんだけど、シャカシャカした長ズボンとか持ってないから、逆にアウェイ感じちゃってた。
haru._行き慣れてない場所ですもんね。
長_だし、普段着ない格好をするから。
haru._めっちゃわかります。私もマンツーマンのトレーニングに行ってるんですけど、トレーナーさんは私のトレーニングウェアの姿しか見てないんですけど、私は納得いくトレーニングウェアを着れていると思ったことがないんです。今日も普段パジャマで着てるお尻まである長袖と、持ってたNIKEのスパッツを履いていました。それに合わせてる靴下も全然納得いってなくて(笑)。イメージしてるエアリアルヨガって、ブラみたいな短いタンクに、色が合ったスパッツを履いてる感じなんです。「今日はなんか違うんだよな」って思いながら行きました(笑)。
長_俺もまじでそう。これは俺の100%ではないと思いながらやってた(笑)。今日はアウェイだったから。でもいつも、どれだけホームと感じられる場所を増やすかみたいな感じなんだよね。ホームにいるときは基本的に今みたいな振る舞いじゃん。まー今日も振る舞いはわりといつも通りな感じではあったかもだけど、なるべくいろんなところをホームにしていきたいと思っていて。そうなったときに、かしこまったりするとやりづらくなっちゃうんだよね。

haru._ホームの外に一歩出て、全然違う空気やいつもとは違う人が目の前にいると、「いつもの自分はこれだ」と思っていた自分も超揺らぐじゃないですか。だから「別に揺らいでもいい」っていうマインドセットで普段はいるようにしています。そうすることで、入っていける感じがあるんです。
長_自分の感覚だと、そこをどうやってホームにするかっていう感じなんだよね。そこに入るというよりは、手繰り寄せる感じ。そこに適合するんじゃなくて、そこを自分の場所にする感じ。
haru._長さんは積極的ですよね。
長_昔ランジェリーパブでボーイをしてたときがあったんだけど、全然美意識が違うわけ。当時、ワンピースみたいなロングシャツを着てたんだけど、それで出勤すると女性たちから「何それ」ってめちゃくちゃいじられたの。でも、「めちゃくちゃ良くないですか?」って言って、負けじとそこも自分のホームにしようとしたことがあって。別にいつもの格好でいた方が、ウケるかなって思ってたんだよね。場違いな人は場違いな人として場にハマるって思うときがある。
haru._新たな居場所を確保するみたいな感じですか?
長_そう。それにそれが話のきっかけになる可能性も高い。服ってそういう側面もあると思ってて。誰とも話合わなそうだなって思うような世界でも服でコミュニケーションとれたし、なんかおもしろかった。
haru._長さんが平然といる感じが、周りも受け入れちゃうみたいなのありそう。
長_確かに、意外とアウェイには慣れてる可能性もあるね。自分のホームじゃないところに行ってコミュニケーションをとるみたいなことは昔からやってたかも。
haru._私たちもよく『HEAP』*⑤や『High(er) Magazine』*⑥で、試着会兼茶話会イベントをやるんです。みんな最初は緊張しつつも、お茶を飲んだり、話したり、ブラの試着をしたりしていると、だんだん気が緩んできて、今会った人たちなのにブラ姿で出てきて「どうかな?」って会話してたりするんです。それがめっちゃおもしろいなと思っていて。職場でもない、家でもない、ここはなんなんだろうって思うんです。謎空間で自分がほぐれていくのってすごくおもしろいと思うし、自分たちがSNSでやることができないのってこれなんじゃないかって思うんですよね。だから、SNSは茶話会の入り口であるっていう感覚がちょっとあるんです。Podcastもそうですけど。現実世界のサードプレイスというか、ホームみたいなものをどう作っていくかというのが、今自分の中にある課題だなと感じています。
長_なるほど。でもharu.ちゃんはそういうのを積極的にやってるイメージがある。確かに俺も、たぶん現実をよくしたいんだと思う。そのためにフィクションやファンタジーはあると思っていて。いい作品を見たからといって現実は変わらないけど、見たことで自分のテンションが変わって、その自分が現実を変えていくと思っているんだよね。リアルライフをどうするのかっていうのが自分の中では結構でかい。だから服とかもそうだけど、物理的なものを作りたいと思ってるんじゃないかなって思うときがある。だから人生は現実をちょこちょこ良くするゲームなんじゃないかなって思ってる。

失敗と捉えない長さん流のマインドセット
長_個人的な話なんだけど、この前うちの庭の手入れをしてもらおうと思って植木屋さんを呼んだの。でもいつもの人が都合が合わなかったのか、77歳のニューカマーの人が来たんだけど、基本的に植木屋さんの雰囲気ってみんな独特なんだよ。その人のことをワンオペマイペースって呼んでるんだけど、下見いれて7日間来たの。いつもの人は二人組で二日間くらいで手入れも終わらせてくれるんだけど、この人は初日全然進んでなくて、本当に終わるのかなって心配だった(笑)。
ある日、そのおじちゃんがめっちゃボロボロのライトグレーのニットを着てて、すげえ服だなと思って「何年着てるんすか?」って聞いたら、もう50年以上着てるらしくて。その下にエンジ色のポロシャツっぽいものを襟を立ててきてて、つばの芯が見えてるキャスケット、ブルーのワークパンツにレザーのハサミケースをつけててめっちゃかっこいいわけよ。
haru._めっちゃおしゃれですね。
長_その人は広島出身なんだけど、70年代にスイスで皿洗いの仕事をしてたんだって。そこから日本に帰ってきて、東京に出てきた時に初めて買った服がそのニットだっていう話を聞いたんだよね。それがなんかいいなって思って、写真を撮らせてもらった。きっと冬の作業着としてずっと着てるんだろうなと思ったら、すげえなと思ったんだよね。
haru._半世紀着てるってなかなかないですよね。
長_ないよね。
haru._繕いながら着てるんですか?
長_いや、多分全くなおしたりしてなくて、ボロボロなんだよ。肘とか肩がほつれてラダーぽっくなっててぶっ壊れてたんだけど、めっちゃいいなと思った。
haru._長さんの服も何十年後とかにそうなってるかもしれないですよね。
長_そうなってるかもしれないよね。そういう服ってなんかいいよなって思う。自分もネイビーのパーカーを小学生の頃に友達の兄ちゃんのお下がりでもらったんだけど、今でもそれ着てる。もらった頃はダボダボだったけど、高校生ぐらいにサイズがちょうどよくなって、今は冬の作業着みたいな感じでほぼ毎日着てるんだよ。めちゃくちゃボロボロなんだけど、めちゃくちゃいいわけ。しかもどこのブランドかも分からないGAP劣化版みたいなやつなんだよ。なんか、そういう服ってあるよなって思うんだよね。
haru._ありますよね。私はお父さんが働いてる大学のカレッジTシャツをずっと着ています。たぶんお父さんがデザインしたもので、家に何着かあって、父さんの作業着だったから脇に穴が空いてたり、絵の具とかもついてるんです。でも、それが着たいと思って、そのTシャツを着てCMに出たことがあります(笑)。
長_おもろ。服もそうだけど、なんでも時間が経つとおもしろいと思ってる節があるんだよね。自分が作ったものも、今は名作じゃなくてもいいと思ってる(笑)。とはいえ、ファッションって今に刺さるかどうかを超重要視してるじゃん。自分もそれは重要だと思ってるけど、ワンチャン今に刺さってなくてもよくて、20年後にヤバくなってるかもしれないっていうメンタルでやってるんだよね。
haru._超わかるかも。私もマガジンを作ってるときにmiya(本記事の撮影担当者)と話しているんですけど、今一番うちらがイケてると思って作ってるけど、世間的に見たら10年後とかに価値が出るんじゃないかと思っています。誰かにとって有益でもなんでもないかもしれない情報や体験を自分たちのマガジンで取り扱ってて。そう言うとマガジンで取材させてもらった長さんに失礼かもしれないけど(笑)。ちょっと語弊があるんですけど、自分にとって大切って言うのが全部の軸なんです。今、私にとって長さんとの対話が大切だと思っているから入れていて。それに自分がそれを残さなかったら消えてしまうものだからこそ、残しておきたいって思うんです。でも、今その価値に気づくことってすごく難しいじゃないですか。失って気づくことが多いって言いますけど、すべてにおいてそうだと思うんです。いつかこれを読み返したときに、絶対よかったなって思うだろうと思いながら作っています。
長_そういうのあるよね。デザイナーズじゃない古着って、どうしてこうなったかって分からないけど、こちら側が勝手におもしろがって着てるのもあったりするわけで。何かしらのフックがあれば、おもしろくないものもおもしろくなるんだなって思うんだよね。前、ボア生地にプリントをした服があるんだけど、本来の毛並みとは逆向きに刷られちゃったことがあって。一瞬へこんでやべえなって思ったんだよね。一応こういう製法で作るときは、こうやって刷るべきみたいな作り手の暗黙のルールみたいなものがあるんだけど、これも10年後ウケるかもだからいっかと思って、そのまま販売したことがある。
haru._私たちが最初にマガジンを作ったときも、冊子のルールとか一切分かってなかったです。普通冊子の中央部って製本時に折り込みがあるから巻き込まれることを考えて文字を配置しないんですよ。でも、私たちは全部自分たちで作っていたので、大事な情報とかをそこに配置しまくっていて(笑)。実際に上がってきたのを見たら、巻き込まれてたり、訳のわからない感じになってたんですけど、「10年後見たら絶対おもろいだろ」「このデザインは今しかできなかったよね」って話せるよねって肯定してました。そこからもずっと自己流でやっているので、本作りを専門にされてる人から見たら、「なんやこれ」って思うことを今でもしてると思います。
長_失敗を失敗と思わずにどうにかするっていうことは結構意識してやってる。やり直すのって一番めんどくさいじゃん。やり直すとなると、時間もかかっちゃうし、服だとミシンで縫った糸を解いたりするのが超めんどくさくて。だから、いかにやり直さずにやるかっていうことを意識してる。
haru._長さんの人生で、やり直すのはめんどくさいけど、やり直さざるを得なかったほどの大失敗ってあるんですか?
長_大失敗かー。昔付属屋*⑦でバイトしてたときに、毎朝台車で荷物を受け取りに行ってたんだけど、帰りにその付属屋のガラスドアが空いてると思って思い切り突っ込んだら、ドアが閉まってて、ガラスドアを全部割っちゃったときかな。今もその付属屋に行くんだけど、行くとそのドアの下部分に鉄板で割れないようにされててそれを見るたびに思い出してる。(笑)他にも大失敗ってあるんだろうけど、なんでもその物事が起きてしまったときって大ごとに捉えちゃうじゃん。でも、時間が経つと笑えたりするようなこともあるんだよね。だから、最近とかは特になんでも「しょうがないか」って思うようになったな。だからあんまり失敗だと思ってないかも。
haru._長い目で見てるんですよね。High(er) Magazineで長さんを取材させてもらったときに、お父さんが亡くなったとき、悲しかったけど、死ぬことってそんなに大ごとじゃないと思ってるって言ってましたよね。
長_そうそう。
haru._究極ですよね、それ。
長_大ごとってあるんだろうけど、本当にあるのかな?って思うときがあるんだよね。昔バックパッカーをしてたときがあって、野宿してたら荷物が全部なくなっちゃったことがあって。警察に行って盗まれた場所、もの、その値段を書くんだけど、まず「bench on the street」って書いて爆笑されて。そのあとに「Note 100€」って書いたら「なんでこんな高いの?」って聞かれたから「My memory」って言ったらまた爆笑されたことがある。
haru._(爆笑)。
長_それもそん時はマジ凹んだし、疑心暗鬼になりすぎてその街をすぐ出たんだけど。そんな感じで、失敗はあるんだろうけど、いつかウケるかもってどこかで思ってるんだよね。
haru._私は一度モードに入っちゃうと結構落ち込んじゃうので、そのマインドで生きていけたらいいなって思います。仕事のことを考えると、究極の状態を想像して「倒産しちゃうじゃん」とか思っちゃうので、心に長さんを宿して「10年後ウケるかもしれない」って思うようにしたいです。
それでは今週も、いってらっしゃい。
ゲストの長 賢太郎さんがデザイナーを務めるファッションブランド
*②『FN(ファッションニュース)』
1990年代から発行されていたINFASパブリケーションズのモード誌。
2015年12月をもって休刊した
*③ANN DEMEULEMEESTER
暗黒的で詩的な世界観を特徴とするベルギー発のファッションブランド
*④アレン様
高知県出身のタレント・YouTuber・美容家。「日本一の整形男子」として整形費1億円超を公言し、過去にいじめ・少年院を経験。独特の言葉遣いとカリスマ性で熱狂的なファンを持つ存在
*⑤『HEAP』
パーソナリティのharu.さんが手がける下着ブランド
*⑥『High(er) Magazine』
パーソナリティのharu.さんが編集長を務めるインディペンデントマガジン
*⑦付属屋
生地以外の資材(ボタン・ファスナー・裏地など)を扱う資材メーカー・副資材屋を指す業界用語
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Profile
長賢太郎(オサ ケンタロウ)
東京都墨田区を拠点に、ウィメンズブランド「osakentaro」を2014年にスタート。服のデザイン、パターン、縫製、イベント時の什器とプロップ製作、写真撮影まで、基本的には自分で行なっている。2021年にアトリエ兼自宅を引っ越し、日々改装しながら生活中。