オルビス独自のCX戦略とは。アプリコア戦略、顧客起点の追求で導き出した、お客様の「当たり前」に答える重要性
JOB&CULTURE
こんにちは。採用広報の仁尾です。近年「企業がお客様にどのような体験価値を提供できるか」に着目したCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験価値)領域への注目が、化粧品業界の中でも高まりを見せています。
大手化粧品会社がCXへの取り組みを強化しつつある中で、オルビスはスピーディーにCX促進に注力し、2018年のリブランディング以降はその流れを加速させてきました。原動力となっているのは、自社の強みと顧客価値を常に見つめ、お客様一人ひとりにここちよいCX体験をいち早く実現していこうという意志です。
今回は、CRM・メディア戦略部CX統括部長を務める田村陽平さんに、オルビスが進めてきたCX戦略の背景を紐解きながら、未来に見据える展望について伺いました。
オルビスの強みをお客様に「体験」してもらうには
――オルビスは、D2Cブランドとして、いち早くアプリやデータを活用したCX戦略に取り組んできました。そうした背景も踏まえながら、オルビス独自のCX戦略について教えてください。
まず、私たちの強みをお話します。私たちがお客様に提供できる価値であり強みは、2つあります。
1つ目が「商品力」です。最先端の研究力を誇るポーラ化成工業と共に創り上げる「高品質でありながら手の届きやすい価格帯の商品」は、オルビスの圧倒的な強みだと思っています。
2つ目が「人」です。現在、かなりの頻度でお客様へのインタビューや、アプリなどのユーザビリティ調査を行っているのですが、ブランドへのロイヤリティの高いお客様ほど「●●店のBA(ビューティーアドバイザー)さんの接客がすごくいい」「オルビスの社員と話してここが良かった」など、オルビスのことを「人」で語ってくださいます。
つまり、オルビスの強みをお客様に「体験」として提供するには、「商品の魅力を正しく伝え、正しくご利用いただく」ことと、「お困りごとがあったら気軽にオルビスの『人』に相談いただける」ことが重要です。この2つのフィジカルな体験をデジタルを活用して、双方の価値を最大化するためのCX戦略であるのが大きな特徴だと考えています。
――これまでデータやアプリを駆使しパーソナライズを追求してきた企業として、強みを見つめ直したら「人」だった、というのは面白いですね。
オルビスでは、ブランド視点でなく、お客様の視点にたって、一人ひとりのお客様なりの正解をいっしょに模索しようという文化が長年にわたって定着しています。お客様とブランドのフラットで良好なパートナーシップとはどういう在り方か、というイメージもしっかり社内に根づいている。
デジタルを介したサービスを構築するうえでも、最初に「人=オルビスらしいコミュニケーション」があり、次にテクノロジーという順序が守られてきました。
お客様にとっての「当たり前」に真摯に向き合い続ける
――「人=オルビスらしいコミュニケーション」をCXに落としこんでいった結果、どういう取り組みにつながっているのでしょう。
現在、「お客様に最もストレスフリーなお買い物体験をどれだけ提供できるか」を突き詰めています。時間のある・なし、家にいるか外にいるかなど、その時々の状況や気分によって、店舗や通販、アプリ、カタログなどで買い物を使い分けるのが、お客様にとっては当たり前です。ですが企業には、通販や店舗それぞれに担当部門があり、それぞれKPIを持っています。組織構造上、できれば自分たちのチャネルで購入いただきたいという思いが強くなりやすいため、「当たり前」の実現がブランド側にとっては難しい。
オルビスが一番大切にしているのはお客様であり、そのお客様にとって「最もお買い物がしやすく、お悩みを解決していただきやすいチャネルを選択していただくこと」です。そのため、CX統括部ではチャネルを横断して、シームレスなコミュニケーションの設計に注力しています。
――CX全体の方向性は理解しましたが、それを実現するためのKPIについても教えてください。
オルビスは生涯を通じて寄り添い続けられるブランドを目指して、LTV(顧客生涯価値)を最重要視しています。そのためにCX統括部では、購買以外にもオルビスのサービスや接客などの「ブランド経験数」を大切にしています。
たとえば、「WEB初回購入後に早期にオルビスアプリをダウンロードいただき、アプリ内のコンテンツにたくさん触れていただく」ことでその後のLTVの伸びが大きく異なることが分かっています。こうした購買以外でブランドエンゲージメントの向上につながる複数のキーサクセスファクターを解き明かし、具体的なCX施策を立案・検証を繰り返しながらLTVへの寄与度を計測しています。
一方で、データ分析だけではわからないこともあります。先ほど、お客様へのインタビューを強化していることに触れましたが、本質的なお客様理解のリテラシーをもっと高めなければいけない、というのが目下の課題です。たとえば、複数のチャネルで購買経験のあるお客様はLTVが高い。という相関関係は分かっていますが、これまで通販で継続的に購入いただいていたお客様が、なぜこのタイミングで店舗を利用されたのか。その因果関係を紐解くことは非常に難しいです。
今後、お客様一人ひとりに寄り添ったパーソナルなコミュニケーションを強化するうえでは、お客様の行動(事実)の背景にあるお困りごとや心境の変化などの前後の文脈を読み解くリテラシーを組織的な強みとしていくことが急務だと考えています。
気づいたら、CX部門が「アプリ屋さん」になっていた
――オルビスのCXを語る上では、2018年のリブランディング開始時より注力してきた「アプリコア戦略」は外せません。現段階で、その成果についてどう捉えていますか?
2023年にアプリが500万ダウンロードを突破し、今年の年末にはおそらく600万ダウンロードに到達する見込みです。年間100万ダウンロードという勢いでユーザーが増えて行く媒体として、オルビスアプリが成長しているのは大きな成果だと考えています。
パーソナルカラーやスキンチェックといったAIによる分析コンテンツに先駆けて取り組んだことが、この成長の足がかりとなっています。アプリストアでも検索上位を獲得できており、認知度も非常に高い。オルビスの使用経験を問わず、いろいろな方にすんなりとダウンロードしていただける土台が作れている、という認識です。
――同様に、課題についてはどうお考えでしょうか?
先の成果が出せた一方、CX部門が「アプリ屋さん」になっていた、というのが非常に大きな反省点です。そもそもアプリは、お客様一人ひとりにパーソナライズされたコミュニケーションや、最もストレスのないお買い物を提供するための、あくまでひとつの手段として存在する位置づけであるはず。なのに、いつの間にか組織的に「分析コンテンツを開発、リリースすること」の目的意識が非常に強くなってしまっていました。
――その「考え方のズレ」に気がついたきっかけは?
私自身が同じ経験をしたからです。新規事業開発グループ所属時に、「cockitail graphy」というパーソナライズスキンケアサービスを提供していました。ご自宅で手軽に肌状態を測定できるデバイスを通じて、一人ひとりのお肌に合わせた美容液と日々のお手入れをサポートする専用アプリを提供するサービスです。日々のスキンケアをどうすればいいか分からない。という方には非常にいいプロダクトだと思う一方、忙しく過ごされている中で、毎日のケアを定期的にアプリで確認する習慣は、お客様にとって負担に感じられる体験でもあります。
「お悩みに合わせて一人ひとりのお客様をサポートする」ことを達成したかったのに、「アプリを定期的に使っていただく」部分が過剰になってしまったのです。手段と目的が逆転してしまっているアラートだったと真摯に受け止め、お客様がオルビスに何を求めているのか、原点に立ち返る良い契機になったと捉えています。
――CX、DXの可能性・危険性を先駆けて体験したからこそ、発揮できる強みがありそうですね。
現在のテクノロジーを使うとあらゆることができますし、我々もお客様の期待に答えようと努力しています。ですが、ブランド側がお客様の期待値を“過剰”に超えようとしているケースは多い。オルビスがいち早くCX、DXに取り組んできたことや、これまでの失敗経験で得た実感は、市場における大きな優位性になると思います。
お客様が求めているのは、もっと当たり前のことです。たとえば、美容室で「前と同じ髪型にしてください」と言えばそうしてもらえるのに、コスメの接客現場では、初回ご来店時と同じようにお悩みを一から伺ってしまうなど、なかなかうまくいかないケースが業界内で見られます。お客様の一般的な期待値に対して、どう“当たり前”に答えていくか。それが仕組みとして実現できれば、もともとある「人」の強みがブラッシュアップされ、さらに強力なブランド体験が提供できると考えています。
既存の「ビューティー」の枠組みを超え、ライフステージに寄り添っていく
――CX部門の面白さややりがいは、どういうところにありますか?
CX部門が現在行っている“チャネル間をシームレスに繋ぐ”という取り組みは、模索しながら正解を見つけていく作業であり、答えのないプロセスも含めて楽しんでいます。
僕がトライアンドエラーに貪欲に取り組めるのは、前の部署で失敗の経験を積ませてもらったことが大きい。挑戦を後押ししてくれる社内風土が背中を押してくれていると感じています。
新しいチャレンジにポジティブに取り組める人にとっては、やりがいと成長を実感できる部署だと思います。
――CX戦略の先に描いている、オルビスの未来の姿とはどのようなものでしょうか。
昨年、初めて「更年期」をテーマにしたオンラインイベントを行いました。すると視聴者からのエンゲージメントが非常に高くて驚いたんです。オープンに相談しにくいお悩みや課題に対して、専門家に匿名で質問でき、自由にコメントもできるのが好評の要因だったようです。この経験から、スキンケアやメイクといった既存のビューティーの枠組みを超え、ライフステージのお悩みにも寄り添うことをオルビスに期待してくださっているお客様も多いのだ、と改めて実感できました。
こうした広がりも視野に入れ、今後はお客様の素肌を軸とした「素肌ウェルネス」に寄り添う活動を展開していきたいというのが、全社的に見据えている未来です。その実現に向けて、最近はCXのポリシーとして「国民的ビューティーアドバイザーになろう」という表現を使っています。オルビスの商品を愛用いただいている・いないに関わらず、美容の悩みを抱えるすべての方に信頼され、頼られる存在になるというのが目指すところです。かかりつけ医のような感覚で、ふらっとオルビスに来て「こういう悩みがあるんですけど」と使っていただけるサービスが提供できる。そんなCXを設計し、実際のサービスとして運用につなげていきたいですね。
取材・文:木内アキ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
オルビスでは現在、一緒に働く仲間を募集しています。少しでも興味をお持ちいただいた方は、ぜひこちらからご連絡ください。
皆様のご応募、お待ちしております!
※本記事内容は、公開日(2024年6月13日)時点の情報に基づきます。
Profile
田村 陽平(Tamura Youhei)
2013年新卒入社。経理、経営企画、マーケティング戦略部を経て、2019年に「2029年プロジェクト」のリーダーに就任。2021年から新規事業開発グループマネジャーを務め、2023年よりCRM・メディア戦略部CX統括担当部長を経て、2024年よりCX統括部部長に就任。